私は医療スタッフだ!   作:小狗丸

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「ここにもいませんでしたか……」

 

「ええ……。どうやらここでも一歩遅かったようですね」

 

 レイシフト直後にジャンヌ・オルタ達と戦闘をすることになったあの悪夢のような日から十日後。建物のほとんどが半壊して住民が一人もいなくなった街で頼光さんが呟き、それにアルジュナが同意する。

 

 破壊された街は、全ての建物が炎で焼かれている上に、至る所に巨大な獣の爪痕が刻まれており、人間の手によって破壊されたのではないのは明らかだった。

 

 そう。この街を破壊したのは人間の盗賊ではなくワイバーンの群れ。

 

 そして街の破壊をワイバーンの群れに命じたのは十日前に私達と戦ったこの時代の特異点、「竜の魔女」のジャンヌ・オルタである。

 

 結論から言うと私達は十日前、ジャンヌ・オルタを倒すことが出来ず、彼女を助けに来たジル・ド・レェ共々逃がしてしまったのだ。

 

 これは私達の恥をさらすので嫌なのだが、それでもジャンヌ・オルタ達を逃がしてしまった理由を簡潔に説明すると次のようになる。

 

①ワイバーンに乗ったジル・ド・レェがとてつもない顔芸を披露しながら私達とジャンヌ・オルタの所まで向かってくる。

 しかしその途中でジル・ド・レェの気持ち悪さに耐えきれなくなったワイバーンが、人間とは思えない顔で奇声を上げているジル・ド・レェを私達とジャンヌ・オルタの中間くらいの場所に投げ捨てる。(ちなみにこの時、「メギャバキドコゴキベキグシャァ……!」という明らかにヤバい音が聞こえてきた)

 

②落下の衝撃によって顔中から血が流れて首と左腕と右足が変な方向に曲がったり新たな関節を発生していても元気に立ち上がったジル・ド・レェが、身ぶり手振りを加えながら……というか身体中を壊れた玩具の人形のように痙攣させながら私達に呪いの言葉を投げ掛けてくる。

 しかも呪いの言葉を投げ掛けている内にジル・ド・レェのテンションがおかしな具合に上がり、ただでさえ化物のような顔を更にクリーチャー風にトランスフォームさせていく。

 

③そんなある意味で人知を越えてクトゥルフ神話の域に突入していくジル・ド・レェのお姿に、私も頼光さんもアルジュナもドン引き。ジャンヌ・オルタももちろんドン引き。(ちなみにこの時、ジャンヌ・オルタから「おうわぁ……!?」という淑女の口からは聞こえてはいけない呻き声が聞こえてきたが、彼女の名誉のために聞こえないことにした)

 そして私達がドン引きしている隙をついてジル・ド・レェは宝具を使って大量の海魔を召喚し、それらを目眩まし兼の壁にしてジャンヌ・オルタと共に撤退。

 

 ……いや、本当に何をしているのだろうね私達は?

 

 いくらジル・ド・レェのインパクトが強かったといってもチェックメイト寸前の敵のキングを取り逃がすなんて普通はないだろう? あと、あの時のジル・ド・レェの姿を映像にしてお見せできなくて本当に残念だよ。

 

 この様な理由から逃したジャンヌ・オルタ達を私達は今日まで追っているのだが、いつもあと一歩のところで逃げられてしまっていた。本音を言えばもうあんな危険な存在に近づきたくなかったが、それでも仲間のほとんどを倒せた今が特異点を修復するチャンスだし、また別のサーヴァントを召喚されたら厄介なのでこれは仕方がないだろう。

 

 しかも話はそれだけではない。

 

 私達、と言うか頼光さんから逃れて破壊活動を再開したジャンヌ・オルタであったが、サーヴァントとの戦いで殺されかけた事がよっぽどのトラウマだったらしい。そしてジャンヌ・オルタのクラスはルーラーで、ルーラーには遠くにいるサーヴァントの気配も察知できるクラス特性があり、ワイバーンの群れを率いて街を襲っていてもルーラーのクラス特性で頼光さんとアルジュナが近づいて来たと分かるとすぐさま退散するのだ。

 

 そして今私達がいるこの街も少し前までジャンヌ・オルタが暴れていたのだが、すでに逃げられた後のようだ。

 

 私達とジャンヌ・オルタが周囲にこれ以上ない迷惑を撒き散らす鬼ごっこを始めてからすでに十日。ジャンヌ・オルタが私達の気配に気づいてすぐに退散するため私の知る原作に比べて被害は少ないのだが、それでもそろそろジャンヌ・オルタを捕まえる手を考えないとな……て、ん?

 

『……! 薬研クン! 良かった。ようやく通信が繋がったよ』

 

 私が考え事をしているとそこに現れたのはカルデアにいるロマン上司の立体映像だった。

 

 十日ぶりですねロマン上司。

 

『え? ああ、十日ぶりだね。……今まで連絡が取れなくて心配していたんだけど、何だか余裕そうだね?』

 

 いえ、そんな事はないですよ? 何しろレイシフト直後に敵のサーヴァント数人と戦闘する事になりましたしね。

 

『レイシフト直後にサーヴァントと戦闘!? 一体どういうことなんだい!?』

 

 私が少しの嫌味を込めて言うとロマン上司が驚いて聞いてきたので、レイシフト直後の戦闘から今日までの出来事を説明した。

 

『ええ!? 敵のジャンヌ・ダルクとその部下であるサーヴァント数人と戦って、その部下をほとんど倒した? しかも今は逃走中のジャンヌ・ダルクを追っている? ……前の特異点の時もそうだったけど薬研クンの行動はスケールが大きすぎて予測不能だよ』

 

 私の話を聞いて呆気にとられた表情で言うロマン上司。その口ぶりだとどうやら久世君とはすでに連絡が取れていて、久世君は白い方のジャンヌ・ダルクと出会っているようだな。……でも。

 

 予測不能だったのはこちらの方ですよ。レイシフト先が敵陣のど真ん中とか一体どういうことですか? 頼光さんとアルジュナがいなかったら今頃死んでましたよ。

 

「そうですね。先日の『れいしふと』については私も詳しく聞きたいです……」

 

『ひぃっ!?』

 

 満面の笑みを浮かべて言う頼光さん。しかし彼女の目は全く笑っておらず、しかも背後には鬼ののど笛を噛みちぎる母虎のスタンドが現れており、ロマン上司が青い顔となって悲鳴を上げる。

 

 うん。やっぱり頼光さんもあのわざとじゃなくても悪意すら感じるレイシフトには腹を立てていたか。でもそれは仕方がないよな。

 

「……いえ、頼光殿が怒っているのはマスターの身に危険が及んだことでしょう」

 

 気づいたら口に出ていた私の呟きにアルジュナが訂正を入れてくる。

 

『そ、その話は後でするとして! 薬研クンが今いるポイントの近くに久世クン達がいるんだ。だからここは早く久世クン達と合流してこれからの事を考えようじゃないか。ね? ね?』

 

 迫力のある笑顔を浮かべる頼光さんから逃れるために久世君達との合流を必死に勧めてくるロマン上司。……そうだな。ここはロマン上司が言う通り久世君達と合流した方が良さそうだな。

 

 そう考えた私は、頼光さんとアルジュナと一緒にロマン上司から教えてもらった久世君達がいるポイントに向かうことにした。


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