私は医療スタッフだ!   作:小狗丸

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 ドシュ!

 

 頼光さんの刀がジャンヌ・オルタの首を斬り落とそうとしたその瞬間、突然地面の下から数本の槍が頼光さんを目掛けて突き出してきた。

 

「っ! くっ!」

 

 下からの奇襲に頼光さんは一つ舌打ちをすると後ろに跳んでそれを回避した。そして地面から突き出てきた数本の槍はよく見ると槍ではなく、毒々しい紫色をした蛸の足のような触手であった。

 

 あれってもしかして……って、ん?

 

「……………、!」

 

 私が地面から突き出た数本の触手をよく見ようとした時、空から声が聞こえてきた。

 

 一体何だろうかと私だけでなく頼光さんもアルジュナも、そして敗北のショックでうなだれていたジャンヌ・オルタも、その場にいる全員が空を見上げた。するとそこには……。

 

 

「ジャッ! ジャアアアンヌゥゥ! 我が! 麗しの聖処女よおおおおおっ!」

 

 

 ワイバーンの背中に乗っ……じゃなくて立って奇声じみた声でジャンヌ・オルタの名前を呼びながらこちらに向かってくるジル・ド・レェの姿があった。

 

 ……そうだった。最初から怒濤の展開が続いてすっかりと忘れていたけど、そういえばアイツもいたんだった。

 

 ジル・ド・レェのことだから、遠くからジャンヌ・オルタのことを見ていたが、頼光さんに殺されそうになったのを知って文字通り飛んできたのだろう。

 

 聖女(今はダークサイドに堕ちてるけど)の危機に颯爽と現れる騎士(今はキャスタークラスだけど)。

 

 ……と、言えばどこかのヒーローのように聞こえるけど、今のジル・ド・レェはとてもヒーローとは言えなかった。何故なら……。

 

「オノレオノレオノレェェッ! ジャンヌにっ! 麗しの聖処女に傷を負わせるとはこの匹夫めがぁっ!」

 

 ワイバーンの上からジャンヌ・オルタをボロボロにした頼光さんに怒声を飛ばすジル・ド・レェの顔は騎士どころか同じ人間とは思えない物凄い形相だったからだ。

 

 ジャンヌ・オルタを傷つけられた怒りのあまり顔色は見事なまでの赤。

 

 額にはあり得ないくらい太い血管が何本も浮かび上がっていて、いつ破裂してもおかしくないくらい激しく脈打っている。

 

 普段から大きく見開かれている両目は眼球が半分くらい飛び出ていて、大量の涙を流しながらも瞬き一つせずにジャンヌ・オルタに向けて強すぎる視線を放つ。……それこそ今にもビームを放ちそうなくらいに。

 

 唾液と血を流しながら大きく開かれた口からはまるでナイフのように尖った牙が太陽の光を反射していた。

 

 ……うん。何と言うかサーヴァントと言うより人型のクリーチャーですな。

 

 というかジル・ド・レェってば、あんな凄い顔芸をして目とか大丈夫なのかな? 私は医療スタッフだ。だからあんな状態を見ると例え相手が敵でもついそう思ってしまうんだよな。

 

「ギャアアッ!」

 

 ジル・ド・レェの怒りに応えたのかワイバーンが咆哮をあげて更に飛ぶスピードをあげてきた。うわっ!? 凄く怖い!

 

「な、何ですかアレは? 鬼、なのでしょうか?」

 

「人? いや、獣か?」

 

「キモッ!」

 

 ワイバーンに乗ってこちらに来るジル・ド・レェの姿に頼光さん、アルジュナ、ジャンヌ・オルタが思わずといった風に呟く。

 

 ……いや、ジャンヌ・オルタさん? 気持ちは分かるけど貴女だけはそんなことを言ってはいけないんじゃない? せっかく助けに来てくれたんだしさ……。

 

 でもまあ、確かにあのジル・ド・レェの顔はやっぱりキツイよな。暗い所で子供が見たらまず間違いなく泣くぞ? 気のせいかさっきから咆哮をあげているワイバーンの鳴き声が「取って取って! お願いだからコレ取って! コレ気持ち悪い!」って言っているように聞こえるよ……。


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