そして今回主人公はようやく現実を少しだけですが直視します。
頼光さんに説得……と言うか泣き落しをされた私は彼女とアルジュナと一緒に訓練室に行くと、そこで訓練をしていた久世君達に模擬戦を申し込んだ。すると久世君達は急な申し出にも関わらず私達との模擬戦を受けてくれると言ってくれた。
……正直な話、私は久世君達が模擬戦を断ってくれた方が楽で良かったのだが。
というか私が久世君の立場だったら模擬戦なんて断固断る。数でこそ勝っていても、星四のサーヴァント一人と星三のサーヴァント二人のチームで星五のサーヴァント二人(しかもスキルも宝具もガチの戦闘特化)のチームと戦うなんて「それなんて罰ゲーム?」といった感じである。
それで模擬戦は時間制限アリの宝具使用ナシのルールで行われることに。まあ、妥当なところだろう。頼光さんとアルジュナの宝具は使うと最悪、この訓練室どころかカルデア全体が消滅してしまうかもしれないし。
「薬研さん。よろしくお願いします」
模擬戦が始まる直前に久世君が私に挨拶をしてくれた。この時の彼の瞳には戦いを前にした緊張感……そして認めたくはないが私に対する敬意の光が見えた。
……久世君、そんな目で私を見るのは止めてくれないだろうか?
私は医療スタッフだ。そう単なる医療スタッフ。言うなれば物語の裏方だ。……決して君のようなこの物語の主人公に尊敬の目で見られるポジションではない。
いや、それ以前に私そのものが決して他人から尊敬されるような人間ではないのだ。
私は、前世の原作知識と頼光さんを召喚できた幸運によってたまたま特異点の冬木で活躍できただけの人間だ。
そして自分が助かるためだけにカルデアの外の人類を、レフの爆破テロによって死亡したり重傷を負ったカルデアのスタッフやマスターを、そしてオルガマリー所長を見捨ててしまった最低の人間だ。
その私にとって君のその瞳は眩しすぎるよ、久世君。
そんなことを考えていたらいきなり模擬戦が始まってしまい、突然のことに私はパッと思い付いた即興の作戦を頼光さんとアルジュナに伝えるだけで精一杯だった。
くっ、しまったな。
確かに頼光さんもアルジュナも上位のサーヴァントで戦闘能力はかなりのものだが、戦いというのは身体のスペックだけで勝てるような甘いものではない。これはもしかしたら危ないかもしれないな……。
と、思っていた時期もありました。
模擬戦の結果は私達の圧勝。しかも戦闘にかかった時間は一分を切って四十一秒。
私がとっさに考えて頼光さんとアルジュナに伝えた作戦はシンプルなものだ。
まず最初に頼光さんのバスターアタックの一段目でクー・フーリンと他の二人を分断。
次にアルジュナが弓矢でマシュとセイバー・リリィを足止めしている間に頼光さんがクー・フーリンを倒す。
そして最後に頼光さんにも弓矢を持たせてマシュとセイバー・リリィの攻撃が届かない遠距離から削り倒すというもの。
頼光さんもアルジュナも遠距離攻撃ができるからその利点を活かせば強いんじゃないか? という浅はかな考えだったのだけど結果は見ての通り大成功。
でも……え? 何この結果? いくら頼光さんとアルジュナが高位のサーヴァントだとしても決着早すぎない? もしかして久世君達って、あんまり強くない?
考えてみれば先の特異点の冬木では頼光さんがほとんどの敵(ボスクラスも含む)を倒していたし……もしかして私達ってば久世君達が成長する機会を奪っちゃってた?
………。
……………。
…………………。
アレ? これってもしかしなくてもヤバすぎない?
今のままの実力だと久世君達は特異点での戦いで命を落とす可能性が非常に高い。そうなるとカルデアのマスターは私一人という事になり、私の未来は絶望しかないだろう。
………ど、どうしよう。