私は医療スタッフだ!   作:小狗丸

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 特異点の冬木からカルデアに生還してから三日が経った。

 

 カルデアに帰ってきたその日は戦いの連続で疲れ果てていたのですぐに休み、次の日に私達はロマン上司に世界の現状、つまり今この世界はカルデア以外の全ての生物が滅亡していて世界を救うには七つの特異点を修復する必要があると説明された。そしてロマン上司の説明を受けてからは今日まで戦闘訓練や特異点の調査等、特異点を修復する為の準備に時間を費やしていた。

 

 ここまでは原作を知る私にとって予定通りなのだが、気になる点が三つほどある。

 

 一つ目は何故か私と頼光さんまで久世君とマシュと一緒になって戦闘訓練をしていること。

 

 二つ目は通路でカルデアの所員達にすれ違うと、所員達が私のことをさん付けして頭を下げてくること。

 

 三つ目はオルガマリー所長の新しい身体を造っているダ・ヴィンチちゃんを手伝おうと彼女の実験室に行くと、実験室に大量のヒーロー系アクション映画(〇ッドマン、〇パイダーマン、キャプテン・〇メリカ、〇イアンマン、〇ントマン、etc.etc.……)のDVDが山積みに置かれていること。

 

 一つ目と二つ目は私が特異点に行くフラグ発生しそうで、三つ目はオルガマリー所長の新しい身体が魔改造されそうで非常に不安である……。

 

 まあ、それはともかく。今日私と頼光さん、そして久世君とマシュとフォウは、ロマン上司にある部屋に呼ばれていた。その部屋はドーム状の空間で、壁や天井にはプラネタリウムみたいな無数の星と電気回路ような映像が映されているのだが……あれ? ここってどこかで見たような気がするんだけど、どこで見たんだっけ?

 

「あの……Dr.ロマン? この部屋は何ですか? 何だか、少し懐かしい気がするのですが……」

 

 マシュが部屋の中を見回して訊ねるとロマン上司が一つ頷いて答える。

 

「うん。この部屋は英霊召喚システムを使って英霊を召喚するための場所なんだ。マシュがここを懐かしいと思うのは、マシュと融合した英霊はここで召喚されたからその記憶がマシュに流れ込んだからだろうね」

 

 なるほど。どこかで見たような気がすると思ったら、この部屋の光景は「Fate/Grand Order」のガチャの画面と同じだったのか。

 

「ようやくこの部屋の機能を回復させることができてね。これで新たな戦力となるサーヴァントを召喚できるよ。召喚できる人数は冬木で回収できた聖杯から得られた霊子で二人、そして薬研クンと頼光さんが手に入れた四つの聖晶石のうち三つを使って一人といったところかな?」

 

 ロマン上司が今言った四つの聖晶石というのは冬木で戦って勝った武蔵坊弁慶、呪腕のハサン、エミヤ、アルトリアが残していったものだ。前世では血眼になって聖晶石を集めました私が聖晶石を見逃すはずがないでしょう?

 

 それで聖杯からの霊子で召喚というのは章をクリアした報酬で、聖晶石での召喚は普通の聖晶石を使ったガチャといったところか。……でも何でクリア報酬で召喚できるサーヴァントが二人なんだ? 一人じゃないのか?

 

「それで早速召喚といきたいんだけど……この召喚システムはまず契約するマスターを決めてからサーヴァントを召喚するんだ。

 そしてサーヴァントは自分の活動範囲の中心にマスターを置くから、誰をマスターにするかでそのサーヴァントの活動内容は大きく変わる。そして現在カルデアのマスターは薬研クンと久世クンの二人だけで新しく召喚できるサーヴァントは三人。

 つまり戦力を平等に強化するためには薬研クンと久世クンのどちらが新しい二人の、あるいは一人のサーヴァントと契約するかを話し合って決める必要が……」

 

 話し合う必要はありませんよ。新しい三人のサーヴァント、全員久世君に契約させるべきだ。

 

 ロマン上司の言葉を遮って私はそう提案した。

 

 私の提案にその場にいる全員が「何を言っているんだ?」と言わんばかりの顔をするが、それは私の台詞だからな?

 

 全く何を言っているんだ、ロマン上司は? 何、普通に私をマスターとして数えているんだ?

 

 私は医療スタッフだ。断じてマスターではない。

 

 前回の冬木は特別中の特別。やむにやまれぬ事情によりマスターの真似事をしただけであって、私は二度と特異点に行くつもりはない。それなのにここで新しいサーヴァントと契約なんてしたら、また冬木の時のような妙な期待がされて最前線(特異点)送りになるのは確定的になるだろう。

 

 マスター薬研さんは序章限定のお助けキャラなんです。

 

 とにかく私は三人のサーヴァントを久世君に契約させるべく色々理由をつけて皆を説得しようとした。

 

 一緒に戦ってくれるサーヴァントが増えた方が久世君を守りながら戦うマシュの負担が減る、とか。

 

 サーヴァントの契約をできるだけ一人のマスター、というか久世君に集中させといた方が観測の効率が上がってロマン上司の負担が減る、とか。

 

 久世君は元々一般枠から選ばれたマスターで戦闘や魔術の訓練も受けていないのに、冬木ではマシュと抜群の連係を見せて特異点の修復に貢献してくれた。これは久世君にサーヴァントを率いる才能があるということで、やはり久世君には三人のサーヴァントと契約してもらったほうがいい、とか。

 

 私は今まで見てきた久世君の活躍と前世のゲーム知識を元にした理論武装。それを聞いた皆は感動した目をしたが、それでも私も新しいサーヴァントと契約した方がいいという意見を撤回しなかった。

 

 何故だ!? 私の理論武装に感動してくれたなら意見を撤回してくれてもいいはずだろう!?

 

 私が内心で叫んでいると、今度はロマン上司が真剣な表情となって私を説得しにきた。

 

 うわっ。ロマン上司の真剣な表情なんて初めて見たよ、私。真面目な表情をしているとかなりカッコいいのに、普段の言動のせいで三枚目キャラに見られているとはつくづく残念な人だよな……。

 

 真剣な表情となったロマン上司……いや、Dr.ロマニ・アーキマンは誠意と熱意を感じさせる声で要約すると「私には引き続き久世君のサポートをしてほしい。しかし私も大切な自分の部下だから死んでほしくはない。だから一人でもいいから新しいサーヴァントと契約して戦力を増やしてほしい」と私に言う。

 

 初めて見る上司の本気と、その後ろにある頼光さんと久世君とマシュとフォウの期待するような視線に逆らえず、私は最終的に首を縦に振ることとなった。

 

 そして結局サーヴァントの召喚は、久世君が二人のサーヴァントと、私が一人のサーヴァントと契約することに決まった。決まってしまったのだ……。


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