私は医療スタッフだ!   作:小狗丸

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 アルトリアとの戦いは終わった。

 

 頼光さんの宝具の直撃を受けたアルトリアは現界する力を失って聖杯を残して消滅した。それによって冬木の聖杯戦争は終結し、冬木の聖杯戦争に呼ばれて現界していたクー・フーリンも「次に会うときはランサーで喚んでくれよ」という言葉を残して消滅していった。

 

 消滅間際にアルトリアが残した「グランドオーダー」という言葉にオルガマリー所長が動揺を見せていたが、それでも他の皆はこれで全て終わって解決すると喜んでいた。

 

 ……喜んでいるところ悪いけどまだなんだよな。

 

 まだ「炎上汚染都市冬木」最後のイベントが、それも思わず頭が痛くなりそうな面倒なイベントが残っているんだよな。

 

 カツン……。

 

 足音が聞こえてきてそちらを見ると、そこには私が予想した通りの人物がそこに立っていた。

 

「いや、まさか君達がここまでやるとはね。計画の想定外にして、私の寛容さの許容外だ」

 

 緑のスリーピースを着て緑のシルクハットを被った紳士風の男性。

 

 レフ・ライノール。

 

 ロマン上司と共に魔道を学んだ魔術師であり、私達が所属する人理保障機関カルデアの顧問。そしてオルガマリー所長が全幅の信頼を寄せる彼女の右腕のような存在。

 

 しかしその実態は人理の滅却を企む魔術王ソロモンの腹心である魔神の一柱で、レイシフト実験時に爆破テロを行った張本人である。

 

 ……それはそれとして、レフのあのスーツ一式ってどこで売っているの? もしかしてオーダーメイド? 前々からレフのファッションセンスって遠坂時臣と同レベルだと思うんだけど皆さんはどう思います?

 

「……レフ? ああ、レフ! 良かった、貴方生きていたのね?」

 

 私がレフの服装を見ながらくだらない事を考えているとオルガマリー所長がレフの元に駆け出そうとしており、その後のオルガマリー所長の未来を知っている私はとっさに彼女の肩を掴んで止めた。

 

「薬研? 一体何を?」

 

 不思議そうな顔をするオルガマリー所長に私がレフは危険だと忠告をすると、彼女はそれを否定するように首を横に振る。

 

「き、危険? 危険って何よ? レフが危険だなんてそんなわけ……」

 

「いいえ、マリー所長! 薬研さんの言う通りです。レフ教授は……彼は危険です」

 

「外見は人ですがその実は妖魔の類い……それも特に邪悪なものと見ました。マスター、オルガマリーさん。早くお下がりください」

 

 オルガマリー所長の言葉を遮ってマシュと頼光さんが警告をして、それを聞いたレフが興味深そうな顔をする。

 

「ふむ……。やはりデミ・サーヴァントとなったマシュとそこのサーヴァントは私が人間等とは根本から『違う』存在であることが分かるようだね。……まあ、それはいい。そこまでは私も予想の範囲内だ。分からないのは貴様だ、薬研征彦」

 

 そう言うとレフは、興味深そうな顔から一転、忌々しそうな顔となって私を睨んできた。いや、そんな殺気のこもった目で見るのは止めてくれません? 凄く恐いんですけど。

 

「薬研征彦。貴様はレイシフトの実験を行う以前から私に疑いの目を向けていたな? それだけでなくマリーやロマニの所に先回りして私の監視のようなこともしてくれたな? ……全く、あれには今思い出しても苛立ちで吐き気がしてくるよ」

 

 私がオルガマリー所長やロマン上司の所に先回りしてレフを監視? ……もしかしてカルデアに来たばかりの頃、二人にレフの事を話そうとしてその度にレフに殺気のこもった視線を向けられた件のこと? あれってレフが私の行動を邪魔していたのじゃなくて、レフがオルガマリー所長とロマン上司に何か悪巧みをしようとした時に私が偶然先にいたってこと?

 

 ………。

 

 もしかしてあの時、私が余計な事をしなければここまでレフに睨まれることはなかった?

 

 もしかして私ってば何かをする度に死亡フラグを立てていたりする?

 

 HAHAHA、そんな馬鹿ナー。

 

 そんな毎日が死と隣り合わせの毎日を過ごすのはどこぞのバトル漫画の主人公ぐらいだ。そして私は医療スタッフだ。間違ってもバトル漫画の主人公ではない。

 

「カルデアの人間はお前を除いて誰一人、私が人間の魔術師であることに疑いを持たなかった。……それなのに貴様は一体いつから、どうして私に疑いを持った? 教えてくれないかな、薬研征彦?」

 

 一体いつから疑いを持ったか、ですか……。そんなの初めからですよ、レフ・ライノール。

 

「何……?」

 

 私の言葉にレフは意外だったのか僅かに目を見開いた後に視線を鋭くしてきた。……て、アレ? 何だかレフの殺気が更に増えてない?

 

 下手に黙っていたり嘘を言ったら殺されそうな感じだったから正直に言ったのに、もしかして逆効果だった?

 

「………」

 

 視線だけで続き、疑いを持った理由を言えと促してくるレフ。疑いを持った理由か……原作知識のことは当然言えないので、ここはもう一つの理由を言ったほうがよさそうだな。

 

 私は初めてカルデアに来て実際にレフを見た時にある違和感を覚えた。

 

 魔術師という生き物は自分の研究や使える魔術等、大なり小なり秘密を抱えて生きている生き物だ。そしてカルデアに所属している魔術師達は「魔術と科学を融合させた技術」という特殊な、ある意味で魔術師の禁忌に触れている技術に関わっているので、自分達の経験や知識を秘密にしようという意識が特に強い。

 

 しかしカルデアの顧問であるレフからは、カルデアの全てを知っていてその秘密を守らなければならない彼からは、秘密を抱いている気配がなかったのだ。

 

 それはソロモンの魔術もしくはレフの魔神の力による完璧な情報の隠ぺいと、もしバレたとしてもどのようにでも処理できるというレフの絶対の自信からくるものであるが、私はそこに確かな違和感を覚えた。

 

「何だと? 秘密を守ろうとする気配がなかった……たったそれだけで私に疑いを持っただと?」

 

 私が答えるとレフは大きく目を見開いて絶句し、その後……。

 

「……ふ。クククッ。アーハハハッ!」

 

 笑った。それも大声で。

 

 な、何? 今の話のどこに笑うポイントがあったの?

 

「ククッ……。まさかそんな小さな違和感から私の秘密に近づくとはね。……やはり貴様はもっと早くに殺しておくべきだったよ薬研征彦ぉ……!」

 

 恐っ! レフが笑ってた顔から一気に憎悪を表に出した顔になってメチャクチャ恐い! 隣にいるオルガマリー所長も小さく「ひっ!?」と声を漏らして後ずさっていた。

 

「マスター候補から医療スタッフにと自ら配属替えを願い出た時は苛立つがとるに足らない羽虫と思い、殺すのは『仕事』が終わった後の余興にしようと考えたのが間違いだった……! まさか貴様がここまで厄介で目障りな男だったとは完全に私の想定外だよ」

 

 憤怒の表情で私を睨み付けながら呪詛を呟くように話すレフ。

 

 というか私を殺すのは仕事が終わった後の余興ってどういうこと? 私をどうするつもりだったの?

 

「……ふん! そんなのは決まっている。この私自らの手でじっくりと時間をかけて貴様を殺してやるという意味だよ。まずはあの地獄と化した世界をその目に見せて絶望させ、それからは腕と足を引きちぎり、全身の皮を剥いでから心臓と肺を除いた肉と内臓を少しずつ切り取って、最後にその憎たらしい頭蓋を握り潰してやるつもりだったのだがね」

 

 あぶねー。

 

 私ってばレイシフトして頼光さんを召喚していなかったら今頃、レフの拷問のフルコースを味わっていたわけか……。

 

 今だけはレイシフトして頼光さんのマスターになれて本当にラッキーだと思った。


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