メドゥーサに呪腕のハサン、それに武蔵坊弁慶の三体のシャドウサーヴァントと戦い、キャスターのクー・フーリンと出会ってから数時間後。私達は町外れにある廃ビルの中で休息をとっていた。
久世君にマシュとフォウ、オルガマリー所長は部屋の片隅で眠っていて、眠りはかなり深くすぐには起きそうになかった。
「あらあら。ぐっすりと眠って……よっぽど疲れていたのですね」
「まあ、それはそうだろ。ここに来るまでずいぶんと無茶苦茶したからな。しばらく寝かせといてやれや」
眠っている久世君達を見て頼光さんが微笑みながら言って、青いローブを羽織ったキャスターのクー・フーリンが彼女の言葉に同意する。
……その意見には私も同意だけど、クー・フーリンさん? 貴方が言った「無茶苦茶」には貴方自身も含まれているんだからな?
数時間前にクー・フーリンと出会ってから今に至るまでに起こった出来事は、私の知る「Fate/Grand Order」の話の流れと全くの一緒であった。
クー・フーリンは自分がこの冬木で行われた聖杯戦争に招かれたサーヴァントだと名乗ると、次にここで起こった異常について教えてくれた。
聖杯戦争の最中に突然異常が起こってサーヴァント以外の存在が冬木からいなくなったこと。
サーヴァントの中で異常の影響を最も強く受けたセイバーの手によってクー・フーリン以外の全てのサーヴァントが倒され、シャドウサーヴァントになったこと。
今現在セイバーは聖杯戦争の中核である「大聖杯」の前に陣取っていてその大聖杯こそがこの異常の原因……つまりは私達の目標である特異点であること。
以上の説明をした後でクー・フーリンは一緒に行動をしてセイバーを倒すことを提案してオルガマリー所長がこれを承諾。私達はクー・フーリンを仲間に加えてこの時代の特異点、大聖杯の元に向かうことにしたのだが、その途中でクー・フーリンがここから先の戦闘を久世君とマシュに任せることを提案したのだ。
これはデミ・サーヴァントになったばかりで、頼光さんやクー・フーリンと比べて実戦経験が圧倒的に足りないマシュを少しでも強くするための措置で、危なくなればすぐに頼光さんとクー・フーリンが援護をするということで本人達もオルガマリー所長もこれに賛成した。
そしてここに来るまでに久世君とマシュは三度、あの骸骨の敵達と戦って辛くもであるが勝利して、その直後にクー・フーリンにほとんど強制的に模擬戦をさせられたのだ。
そう、「Fate/Grand Order」にもあったマシュの宝具開放イベントである。
前世でゲームをプレイしていた為、クー・フーリンが久世君とマシュを本気で倒すつもりがないのは分かっていたが、実際に見てみると模擬戦とはとても思えない真剣勝負そのものであった。オルガマリー所長もクー・フーリンの炎に襲われている久世君とマシュを見て顔を青くしていて、頼光さんがなだめてくれなかったらパニックを起こしていたのは間違いないだろう。
とりあえずマシュは模擬戦中に不完全ではあるが宝具を開放してクー・フーリンの宝具、あの火に包まれた巨大な藁人形「ウィッカーマン」を防ぎ、模擬戦は無事に終了。そして今に至るというわけだ。
……この休憩が終われば大聖杯はもうすぐそこ。いよいよ正念場である。
だからこそ今のうちに魔術薬の準備も入念にしないといけない。それに「アレ」も完成させないといけないからな。幸い「アレ」は八割方完成しているし、材料に不可欠であった聖晶石も手に入ったので、それほど時間をかけずに完成できるはずだ。
「ほぅ……。中々手慣れているじゃねぇか」
魔術薬の調合に集中していたら、いつの間にかクー・フーリンが私の手元を感心したように見ていた。どうやらキャスターのクラスで現界した彼はこういうのに興味があるようだ。
「薬を調合する手順も、肝心の薬の効能もかなりのもんだ。正直、下手なドルイドよりも腕がいいんじゃねぇか?」
神秘が色濃い時代の英霊にそう言われると照れますね。
でもまあ、薬研家は代々魔術薬の研究に特化した魔術師の家系ですからね。だからこれぐらいは、ね。
それに私は医療スタッフですからね。久世君のようなマスターではなく、その後ろで彼を治療したりサポートしたりするポジションですからこれぐらいはできませんと。
「医療スタッフ? そう言えば初めて会った時もそんなことを言っていたな」
首を傾げるクー・フーリンに私は頷く。
ええ、そうです。私は医療スタッフだ。
「医療スタッフって、簡単に言えば癒し手ってことだろ? そりゃあいいや。癒しの術を得意とするマスターってのは俺達サーヴァントにすれば何よりも心強いもんだ。これからも頼りにしてるぜ」
ゴフッ!?
クー・フーリンの言葉のゲイ・ボルクに心臓を貫かれ、私は内心で吐血した。
そんな馬鹿な!? 「医療スタッフである」という戦闘を避けるための大義名分が、実はまさかの地獄の最前線に行く優先権だっただと!?
……嘘だと言ってよキャスニキ。