思わず二度見してしまいました。登録していただき重ねて感謝申し上げます。
真昼の市街地をトリオン特有の薄緑の銃弾が駆ける。
それらは二度、三度と砲撃型トリオン兵、バンダーの目に被弾し、細身の巨体は倒れ伏した。
「はっはっはっは、ついつい本気を出してしまったようだね、このA級1位のボクの本気を」
その上に乗り、尊大に胸を張るのは唯我尊。気障ったらしく撫でつけた髪を払い、なおも己の戦果を誇示しようとした時だった。
『唯我く〜ん、後ろ後ろ〜』
通信越しに緩い声が届く。
「へ?」
直後に足下が爆散する。背後からの砲撃、もう一体のバンダーのそれに吹き飛ばされ、彼はゴロゴロとアスファルトを転がった。
「国近先輩!注意が遅くないですか!?」
『いやいやぁ、ネイバーの前で後ろ向いてドヤ顔なんてするから、釣りかな〜と思っちゃうわけだよ〜』
勢いよく起き上がった唯我は、指示のタイミングを指摘するが割と正論で返され、ぐっと詰まる。
『あっ、もう一発』
「なっ!え!?」
そんな隙をバンダーが逃すはずもなく、再度砲撃が放たれる。
「落ち着いてください、尊さん」
銃を両手にただ慌てる唯我の前へ、落ち着きはらった声とともに来宮が降り立つ。
かざした右手から円形のシールドを展開、ズシリと鈍い音を鳴らして受け止められた閃光は、余波で彼のコートをはためかせるにとどまった。
「来宮サン!」
涙目かつ嬉し気な表情で名前を呼ばれ、苦笑いでそれに応えつつ、シールドを消して一歩踏み出す。
足下にグラスホッパーを一枚展開、矢のように彼が飛び出せば、バンダーが目を向けてチャージの挙動を見せるがすでに遅い。
「アステロイド」
風に掻き消される小さな呟き。それと同時に振るわれた右の掌底が、交差の瞬間敵の頭部を撃ち抜いた。
崩れ落ちる残骸を背に、音もなく着地した来宮が通信を入れる。
「ユウさん、残りの標的数はいくつでしょうか?」
『ほいほ〜い、バムスター2、モールモッド1、バドが2体残ってるけどもう終わるよ〜』
告げられるのとタイミングを同じくして、無数の閃光が空を駆ける。複雑怪奇に折れ曲がるそれは、変化弾、バイパー特有のものだ。
「流石ですね、公平さんは」
表示したレーダーから反応の消失を確認し、後輩へ称賛を送る。
『柚宇さん、来宮さん、こっちは終わったよー』
さっそく本人の声が届く。
「出水先輩、ボクもいますよ!」
『出水くんお疲れ様〜、こっちも無事終了だよ〜、ね、キノさん』
「国近先輩まで!?」
「はい、ちょうど片付いたところですよ…………あと尊さん、流れですから諦めましょう」
「最後の最後にストレートすぎる!?」
仰け反り涙をダダ流しする唯我。
『石狩鍋用意するから、早くもどってね〜』
『マジで!、バカ弄りもこのへんにして戻りましょうよ、来宮さん』
「了解です、行きましょうか」
やはり容赦はなかった。
*
「では、いただきま〜す」
太刀川隊作戦室。カセットコンロ上でグツグツと煮えた鍋を国近、来宮、出水、唯我の4人が囲む。
「久しぶりに来宮さんの戦闘見たけど、相変わらずの変態ぶりっすねー」
「公平さん、開口一番それは、地味に傷つくんですが」
鮭の身を口にしながらの出水の言葉へツッコミ、当の出水はそれにいやいやと手を振る。
「褒めてるんすよ?モールモッドのブレード搔い潜ったり、ノールックで背後に散弾浴びせて牽制しつつ、目の前の敵をぶち抜いたり」
同じシューターとしてあれはできない。というよりノーガードで敵の間合いでやってられるのは、この人を含め一部のサイドエフェクト持ちだけだろう。
「そうだね〜、キノさんやさしい顔してけっこうアグレッシブだよね〜」
「やはり、複雑ですね」
隣に座る国近から素直な感想。来宮は苦笑いを浮かべて箸を進めつつ、ですがと続ける。
「一度折れた身としては、公平さんの正統派の立ち回りに憧れますかね」
「おれにですか?なんかむず痒いなー、今日だって唯我が足引っぱらなきゃもっと稼げたでしょ?」
「出水先輩、ボクは足を引っぱるなどけして、ちゃんと3体倒しているじゃないですか」
芝居がかった仕草で髪を払い、唯我が訂正を求める。
「その度隙晒して、フォローされてたのはどこのバカだ」
「な!?」
「ふむ、模擬戦のノルマ、3000代の方々から10勝に上げますかね」
「待ってください、いきなり500ポイント上げは厳しすぎます!?」
C級でもそこそこに有望な数値、B級にさえ見劣りする彼にはなかなかきついものがあった。必死な唯我の姿に来宮はクスリと笑う。
「冗談ですよ、安心してください、ただ日々の練磨は怠らないでくださいね」
「はい!肝に銘じます」
実行されては堪らないと、殊勝に答える唯我。
その様子に少し呆れていると、ハフハフと咀嚼していた具をコクリと呑み込み、国近が口を開く。
「それにしても、今日はキノさん来てくれて助かったよ〜」
その一言にそういえばと思い出す。
「慶さんはなんでまた不在だったんですか?この時期ですから遠征関連とは思いますが」
ここにいない人物、その理由を推測して切り出せば、他3名は乾いた笑いを零した。
「当たってるっちゃ当たってるんですけどねー」
出水の言葉、 既視感のある光景、この隊に所属していた間よく目にした表情に来宮はため息を漏らす。
「またですか」
つられるように3人もそれに倣う。
「またっすね」
「またなんだよね〜」
「またなんです、やはり来宮サンもご存知で?」
唯我の確認に頷き、恐る恐る質問する。
「遠征、一週間後でしたよね?」
「そだよ〜」
緩く答えた国近に、冷や汗を浮かべた笑みで出水が続く。
「で、ここにきてレポート溜め込んでたのが本部長にばれちゃったんですよねー」
「どの位です?」
「一月分と聞いています」
「…………あの餅バカ隊長は」
唯我のカミングアウトに、来宮は頭を抱えた。
この大事な時期に、あの人は何をしているのだろうか?元上司のあんまりな欠席理由にもう一度ため息を吐いた。
*
結局太刀川に関しては自業自得との意見で纏まり、その後はゆったりと鍋を味わい、そのままお開きとなった。
「これから遠征へ向けた訓練でしたね、がんばってくださいね、ユウさん、公平さん」
「うん、がんばるね〜」
「もち、やるからには勝ち拾わなきゃですんで」
ブラックトリガー、風刃を相手取っての訓練、2人に気負いはないようだ。
「来宮サン、ボクは」
何かないのかと言う唯我を遮る。
「日々是鍛錬、まずそこからですよ、尊さん」
「……はい」
お調子者の弟子を嗜めればそれぞれ目的地へ歩き出した。
*
「よう静間、ぼんち揚食う?」
ブルーのアウターを纏い、独特の形状のサングラスを首にかけた青年が、手にした揚げ煎を差し出す。
飄々とした相手に対して、モッズコートを纏う青年は、落ちつきはらった瞳を黒髪の隙間から覗かせる。
その日の夜、閑散とした街並みの中、迅悠一と来宮静間は相対した。