背後に佇む三日月と   作:303

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半年振りの戦闘描写です(ー ー;)


アフトクラトル❷

銃声が響き、()()の閃光が空を疾る。

 

ビルの隙間を縫う精密な狙撃は、過たず敵の首筋へと吸い込まれ、白煙を生む。

被弾の衝撃に、ランバネインの体が僅かに揺れた。

 

『嵐山さん見ました?おれの必殺ツインスナイプ!』

 

得意げにはしゃぐ佐鳥の通信。

 

『……賢、今すぐそこから退避するんだ!』

 

しかし嵐山の返答は、労いではなく退避の言葉。

 

流れる風が敵の首筋から煙を払い、二つ並んだシールドが露わになった。

 

「玄界の狙撃手か」

 

ランバネインはニッと笑みを添え、呟きを零す。同時に両肩の後部が歪に隆起し、幾筋もの閃光が放たれる。

 

 

 

「やっば!?」

 

言葉そのまま佐鳥は焦り、一足でビルから飛び降りる。

直後にビルの一角が爆煙とともに崩された。

 

「うっわ! 変化弾、しかもあの威力が届くとか……反則でしょ〜」

 

『佐鳥先輩、真面目にやってください』

 

敵のスペックの高さに軽くひきながらも、着地後すぐに立ち上がり駆ける。そんな彼の軽い口調に対して、木虎からキツ目の言葉が飛んできた。

 

「いやいや! あんなの見せられたら愚痴んなきゃやってらんないって……っ!」

 

後輩に堪らないとばかりに言い返す。そんなやり取りを相手が気にする筈もなく、更なる追撃の射撃を見舞う。

 

半規則的に折れ曲り追い縋る弾丸は、佐鳥の駆けた直後のアスファルトに着弾。アステロイドと遜色ない威力を見せつけ、路面を次々に爆ぜさせていく。

 

 

『充、合わせられるか?』

 

『ええ、いけます』

 

嵐山と時枝。瓦礫の影から隙を窺っていた2人が、味方を生かすべく動く。

 

「……!」

 

物陰から躍り出た時枝に視線が向く。その瞬間、ランバネインの死角に突如嵐山が姿を現わした。

 

テレポーターからの十字砲火。得意のコンビネーションにも、焦ることなくシールドを張られる。

 

 

狙撃手に仕留めた手応えがない、回避能力もそこそこあるか……。フォローも退避からの反応が早い……。

 

防御の最中にもランバネインの思考は続く。

佐鳥の見せた狙撃の精度、それに生存能力を加味し、他の3人の連携も評価を下す。

 

「……これはなかなか、楽しめそうだ……!」

 

倒し甲斐のある敵兵の出現。ランバネインは笑みを崩さず、自らの心を躍らせた。

 

 

 

 

ヒュースの意思に従い、小さな生き物の群れのように、黒の欠片が宙を舞う。

 

 

エスクードの影からの木崎と烏丸の射撃。弾丸を撃ち出すだけの単純なそれを、鼻を鳴らして淡々と防ぐ。

 

パチリ

 

そんな様子を見て取り、烏丸は愛銃のスイッチを弾く。

通常弾から変化弾へ。素直な弾筋は途端にトリッキーに軌道を変え、あらゆる方向からヒュースへ迫る。

 

唐突な変化に僅かに息を呑み、慣れない攻撃に舌うちをした。

その綻びに小南が踏み込む。

 

間合いを保ち、静観していた翁が、劣勢の予感に一歩踏み出す瞬間だった。

 

 

低く重い風切り音。

 

 

 

ヴィザが勘づき身を屈めれば、その背中をラービットが掠めて、そのまま家屋の壁に叩きつけられる。

 

ヴィザは経験に従い、振り向き利き手の杖をかざす。

視界に映るのは、低く踏み込み、右の掌底を放とうとする来宮の姿。

 

 

ズガァッ

 

 

けたたましい炸裂音。掌底と杖の隙間でトリオンが弾けた。

 

来宮とヴィザが反動で後退し、その空白の間に、玉狛第1がヒュースを崩しにかかる。

 

大斧の乱舞に、曲がる弾丸。淀みない連撃を受け、ヒュースは焦りと苛立ちを滲ませていた。

 

荷が勝ちすぎている。しかし……

 

ヴィザは内心で呟き、目の前の青年に目をやる。

 

「やれやれ、まずはあなたを退けねばならないようだ」

 

「……」

 

柔和な声音に来宮は応えず、静かに老兵を見据える。

 

「通してはいただけませんかな?」

 

「……愚問ですね 」

 

灰色の目を僅かに細め、再度踏み込む。

 

先程も見せた、地を掠めんばかりの低く鋭い突進。

 

 

獣のようだ

 

 

そんな感想もそこそこに、ヴィザは繰り出される掌底を今度は受けずに杖で払う。そのまま得物をクルリと回転させ、がら空きの胴へと一撃を振るう。

 

背筋の凍るような速度の一閃。

来宮はそれを倒れ込むように回避、両手を地面につけ、全身をバネに蹴りを放った。ヴィザは左腕で受けると同時に後方へ飛び、体勢を崩さず間合いの外へ。

逃すまいと来宮がノーモーションでキューブを形成、散弾で追撃を仕掛けるも、ひらりとあっさり躱された。

 

すぐさま来宮も立ち上がり、立ち位置を変えて視線を合わせた。

 

 

「品のいい顔に似合わず、なかなか苛烈な戦い方をなさる。老骨には少々響きますな……」

 

「あの杖の一振り、回避の余裕……とてもそうは思えませんが?」

 

「それはあなたの買い被りでしょう。拳士殿」

 

「…………一応は射手を名乗っているんですがねぇ」

 

半身の構えはそのままに、ヴィザの言葉に苦笑いを返す。

 

戦場に似つかわしくない静かなやり取り。それとは裏腹に、来宮の胸中は穏やかではない……。

 

 

 

迅の予知により想定された実力者。それが目の前にいる。

 

感覚としては忍田本部長と対峙した時に近いだろう。しかし、目にした実力の一端は、おそらくノーマルトリガー最強を物差しにしてもまだ足りない、そう確信させるだけのものがあった。

 

「……流石は大国、といったところでしょうかね」

 

ひとりごちた来宮は、その表情を引き締める。

体の影にした左手にグラスホッパーの球体を作り出し、次の攻め手を脳裏に描く。

 

 

この難敵をどれだけ抑えられるか

 

 

この戦争での一つの鍵。そうなるであろう役割を果たすべく、彼の集中は増していく。

 

 

 


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