背後に佇む三日月と   作:303

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アフトクラトル❶

敵兵を狩らんとするラービット。直後、巨大な砲弾に半身を撃ち砕かれ、その個体からの情報が途切れた。

 

 

ブラックトリガーに比肩する大火力は、しかし、雛鳥の放った物であるらしい。

 

幼い

 

映像から砲撃の主を目にした印象は、その一言に尽きた。

 

若輩なりに幾人もの兵を目にしてきた。

見た目よりも歳を重ねている可能性もなくはないのだろうが、仮にそうだとしても、自分が蝶の盾を賜った時よりも下ではないだろうか?

 

 

そこまで思考を巡らせれば、隊長から作戦の変更が言い渡される。

僅かな間目を閉じ、そしてまた開く。

 

考えたところで無意味なことだ。

 

アレがどんな人間であれ、莫大なトリオンを有していることは間違いない。ならば、それを祖国の礎に変えるのが、使命を課せられた我々の必然だ。

 

「戦闘、開始です」

 

ミラの言葉を耳に、師の後に続きゲートを潜る。

金の雛鳥を捕らえるため、ヒュースは戦場へと踏み込んだ。

 

 

 

 

 

黒いゲートの消えた後には、無骨なトリオン兵ではなく、2人の人間が静かに降り立つ。

 

「いやはや…………やはり子供を攫うというのは、少々気が重くなりますな」

 

「これが我々の任務です。ヴィザ翁」

 

柔和な表情をした白髪の老人と、冷淡な眼をした有角の少年。2人は言葉を交わしつつ、視線を雨取へと向ける。

 

少年、ヒュースのマントから覗く左手が、黒い竜の鱗の様な装甲を纏う。それに続き、鎖の様に摩擦音を鳴らし、黒の欠片がその背から溢れる。

 

「……新型に次は、角つきですか」

 

彼らの姿を目に来宮が呟き、三雲の傍にレプリカの子機が顔を出す。

 

『もはや疑問の余地はないな。敵はアフトクラトルで間違いない』

 

角に酷似した受容体。トリオンの量を増加させ、その質にまで変化を及ぼすそれは、対象の戦闘能力を飛躍的に引き上げると聞かされた。

 

「気をつけてください! あいつらの角は……」

 

「角でトリオンを強化した怪人なんでしょ?支部長(ボス)たちから聞いてるわ」

 

焦り口に出す三雲を遮り、小南がいつもの調子で答える。

 

「無傷の新型が1体残ってる。あれが絡むと面倒だ……来宮」

 

木崎の呼びかけに顔を向ける。

 

「1分やる。片付けられるな?」

 

彼の指示に来宮は頷く。

 

「ええ、もとより俺の取り残しですから」

 

「C級のカバーは俺と京介がやる。気にせずいけ」

 

「了解です」

 

言うが早いか、来宮は一足跳びに標的へ向かう。その背中を見送り、木崎がさらに指示を出す。

 

「後方の守りも踏まえて、まず銃の間合いで様子を見る。来宮が戻り次第、あいつの撹乱に合わせて崩すぞ……片割れの杖持ちにも注意しろ」

 

「了解」

 

「了解」

 

彼の言葉に、小南と烏丸が同時に答える。

 

 

 

それに呼応する様に、ヒュースの繰る黒片の群れが、玉狛第一へと放たれた。

 

「エスクード」

 

烏丸が地に掌をつければ、飾り気のない防壁が迫り出す。

壁に打ち負けた鋭利な欠片は、バチバチと砕け散っていく。

射撃が止み、烏丸と木崎がエスクードの影から身を踊らせる。双方抱えた銃で撃ち返す。

 

対して、ヒュースは流動させた欠片を集合させ、多角形の盾を作り出す。

角度によって受け流された弾丸は、宙に散る欠片で器用に跳弾を繰り返し、そのまま3人へ反射される。壁を躱した三方からの反撃。焦らず飛び退いた3人は、一つ一つを分析していく。

 

「かなり細かく動きますね。撃って壊れる感じもないすし、弾はやめときますか?」

 

「いや、カケラの射程が思ったより短い。接近戦を誘っている可能性もある」

 

「狙撃が手っ取り早いけど、この距離じゃあそれも無理よ?」

 

「この距離でもやりようはある。小南、おまえの一撃に繋げるぞ」

 

木崎の言葉に小南が頷く。

 

「わかったわ」

 

答えると同時に、彼女は大きく敵陣へ踏み込む。

 

 

 

 

 

 

 

警戒区域南部。そこでもまた、戦局に新たな動きが出る。

 

周囲の新型の掃討にあたっていた嵐山隊。順調に目的を遂行する彼等の前にゲートが現れ、そこから大柄の男が地に降り立つ。

ズシリと重い着地音、周囲見渡す好戦的な眼。

その男、ランバネインの瞳が、嵐山、時枝、木虎を捕らえる。

 

「なんだ、たったの3人か?」

 

言葉だけを掬い取るなら、そこに浮かぶのは侮りと落胆。

 

けれども嵐山は、より一層彼への警戒度を高くする。部下2人もそれは変わらない。

 

『充、木虎』

 

内部通話。隊長からの呼びかけに2人は頷く。

 

「……いや、油断は良くないな」

 

呟く敵の戦意は、欠片も萎えを見せない。むしろ3人の隙を見せまいとするの様子に、口角を吊り上げ野生的な笑みまで見せる。

 

「ラービットを狩る手際もなかなか……ここは1人ずつ、丁寧に仕留めていくとしよう……!」

 

言葉とともに、マントの下から両手が露わになる。一瞬スパークを発したそこが、機械的な様相に変化した。

掌の発射口と思しき箇所に、トリオンの光が集約される。

 

 

直後、二条の閃光が撃ちだされた。

 

 

「……っ!?」

 

紙一重で回避した射撃。その威力に息を呑んだのはだれだったか……。

 

背にした建物を粉砕し、3人の視界を爆煙が包み込む。

 

『2人とも無事か……!』

 

嵐山の声に焦りが滲む。

 

『わたしは無事です』

 

『……左腕がやられましたが、それだけです。おれもまだやれます』

 

木虎と時枝が順に応え、ホッと一つ息を漏らした。

 

これほどの威力を誇る射撃なら、次弾を放つにはある程度のインターバルがあるはずだ。

 

 

 

思考する嵐山の耳に、放電に似た異音が届く。

 

まさかとそちらに視線を向ける。

煙の隙間から覗く様に彼の瞳へ映り込んだのは、左腕を長い砲身へと変じた相手の姿。

 

 

連射ができるのか……!

 

 

明らかな追撃の姿勢。予想と異なる事実に驚愕が浮かぶ。

 

銃口が向けられ、その砲身の横から、数珠繋ぎに光球が連なる。

 

 

 

 

 

 

 

わずかな膠着を突き破り、鋭い銃声が廃墟に響いた。

 

 

 


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