背後に佇む三日月と   作:303

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大規模侵攻❷

来宮は、迫る拳の圧力を感じ、半ば反射的に自らの集中力を引き上げる。

 

灰色の瞳に光が灯る。

加速する知覚と感覚が、止まりそうなほどにまで、流れる時を引き延ばす。

 

回避、反撃。それらでは動作が間に合わない。

防御。シールドなどたやすく割れるだろう。

 

それならば

 

刹那に巡った思考を切り上げ、キィンと澄んだ音を鳴らして、グラスホッパーを起動。無機質の拳と自身の鼻先。その数センチの隙間に光のプレートを割り込ませた。

 

 

ゴォオン

 

 

重い衝撃音が鳴り響く。

 

跳ね返された新手は、自らの一撃に比例した勢いで、背にしたビルへと叩きつけられた。

 

近すぎる距離が開けたことで、来宮の視界に、新手の全容が漸く収まる。

壁に深くめり込んだそれは、白色の人型に近いフォルム。トリオン兵としては小さな体躯は、3メートルに届くかどうかといったところだろうか?

 

「……新型ですか」

 

瞳を元の色に冷ましつつ、淡々と呟きを零せば、そこへ一つ通信が入る。

 

『キノさん、無事!?』

 

焦りの滲む国近の声。

 

「ええ、こちらは無傷です。寸前の警告、助かりました」

 

『よかった〜。間に合わないかと思ったよぉ……』

 

来宮の言葉に、国近はホッと息を吐く。続く彼女の言葉が、普段より少し弱々しい。ギリギリの警告に気が咎めたのだろう。

 

「警戒不足は俺もおあいこですよ。それに、反省会には少々早いかと」

 

落ち着き払った来宮の返答。

後半おどけた彼の声音に、国近の顔から陰りが抜ける。

『ん、そうだね』

表情を綻ばせ、彼女がはっきり頷けば、2人で次の行動に移る。

 

「初撃で強度を見ます。ユウさん、映像からダメージの解析を」

 

『了解だよ』

 

国近の返答の直後。来宮は地を踏み鳴らして、新型へと距離を詰める。瞬く間に磔の敵の眼前まで迫り、彼はそのまま追撃を仕掛ける。

「アステロイド」

 

名称とともに、鞭のように右腕を振り抜けば、同時に新型が両腕を交差。至近距離から叩きつけた散弾は、その硬い装甲に大部分が阻まれた。

 

新型が一連の攻防で外壁から抜け出し、お返しとばかりに剛腕を振るう。対して来宮は加速させた感覚を駆使し、スルスルと襲いくる連打を回避していく。

 

『両腕と頭はガチガチだねぇ。ほかもそれなりに堅いけど、そこ二つと比べればだいぶ柔らかいよ』

 

『頭部の装甲が背部にも連なってますね。そこも攻撃は通らないかと』

 

『だね』

 

通話越しの流れるようなやり取り。そこから続けて来宮が踏み込む。

新型が好きにさせまいと、荒々しい横薙ぎを繰り出すが、来宮は身を沈み込ませて掻い潜った。

 

「……大振りが過ぎます」

 

淡々とした呟きとともに、やや上向きに、アステロイド掌底を打ち込む。

迸るトリオンが白い体躯をカチ上げ、決定的な隙を作る。

 

「……打ち抜くなら腹部です」

 

 

 

 

その言葉に応え、黒い影が躍り出る。

 

 

 

 

強印(ブースト)五重(クインティ)

 

 

 

 

来宮の横をすり抜けた空閑が、強化を重ねた一撃を放つ。

苛烈な蹴りが腹部の装甲を容易く砕き、ゴトリと崩れた新型は、そのまま機能を停止させた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「空閑!来宮さん!」

 

奇襲を退けた空閑と来宮に、三雲が声をかけ駆け寄る。

 

「空閑!ブラックトリガーは……」

 

「出し惜しみしてられん状況だからな。こいつに時間を取られてたら、他のトリオン兵がチカたちの方にいくだろ?」

 

「それは……!」

 

「カードを切らせてしまったのは、俺の警戒が不足していたせいもあります。こちらの落ち度です」

 

『うん。わたしもチョット気を抜きすぎたね』

 

すまなそうにする来宮と国近に、そんなと三雲が首を振る。

 

「ぼくの方こそ、何もできなくて……」

 

目まぐるしい展開を前に、見ていることしかできなかった。

力の無さを感じ気落ちする三雲に、来宮がゆるりとかぶりを振る。

 

「僅かな綻びで傾きかねないのが実戦です。時には攻撃に参加しないことも、選択肢の一つですよ?」

 

構えを見せつつ、明確な隙ができるまで堪え続ける彼の姿は、来宮視界にも入っていた。

 

「そうでしょうか?」

 

疑問を浮かべる三雲に頷く。無理に撃ち込まないのは寧ろ好印象だった。

そんな来宮の様子に、三雲が少し表情を緩め、新型の残骸へと目を向ける。

「……それにしてもこのトリオン兵、手強かったですね」

 

「ええ、同じ戦闘型にしても、モールモッドとは段違いの性能ですね」

 

冷や汗を流す三雲に、来宮が同意する。先ほどの戦闘を鑑みて、A級以上のスペックがあるのは間違いない。雑多な人形兵と言うには度が過ぎた。

 

 

 

 

 

『いや、そのトリオン兵は捕獲型だ』

 

考察する来宮達へ、機械的な響きの、けれども思慮深さの滲む声が届く。

声の出所に目を向ければ、不意に空閑の左腕から、黒い物体が分離する。

 

「レプリカさん……!」

 

『お〜、レプリカ先生、お久しぶりだね〜』

 

『しばらくだな。シズマ、クニチカ』

 

レプリカ。数週間ほど前、空閑が自分のお目付役だと紹介した彼に、来宮が問う。

 

「捕獲型と言うのは本当なのですか?」

 

『ああ、間違いないだろう。かつてアフトクラトルで開発中だった、捕獲用のトリオン兵。ラービットに特徴が合致する』

 

『……あれ?捕獲は大型の役目じゃなかったっけ?』

 

『役目は同じだが、ターゲットが違う』

 

画面の前で国近が首を傾げれば、レプリカがそう返して続ける。

 

『ラービットは、トリガー使いを捕らえるためのトリオン兵だ』

 

その言葉に、来宮が目を見張り、国近と三雲が息を呑んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おいおい……もうラービットが仕留められたぞ」

 

仄暗い空間に驚嘆の声が漏れる。

独特な内装の船内には、有角の男女5人と、落ち着き払った翁が1人。それぞれが、目の前に映し出される戦況を眺める。

 

「いやはやこれは……玄界(ミデン)の進歩も目覚ましいですな」

 

「ハッ、いちいち騒ぐことじゃねえよ。ラービットはまだプレーン体だろが」

 

敵の練度に対し、赤髪が発した驚きに、落ち着き払った翁が頷く。

その左隣から黒髪の男が、大袈裟だと鼻で笑い飛ばすが、赤髪がいやいやと否定する。

 

「分散の手にも掛かる様子がない。今回の敵はなかなかに手強いぞ」

 

そんな3人のやり取りを一瞥し、少年が指示を仰ぐ。

 

「我々も出撃致しますか?ハイレイン隊長」

 

 

 

 

 

 

「いや、慌てることはない」

 

ハイレインと呼ばれた男は、映像を見て冷静に言葉を紡ぐ。

 

「お前たちが出るのは、玄界(ミデン)が底を見せてからだ……」

 

 

 

 

 

語る彼の無感動な瞳。その内には、来宮の姿が映り込んでいた。

 

 

 

 




大変遅くなり申し訳ありません。

最初に書き上げた文章が余りにくどいため書き直し、結果1300字ほど削れました。

うん。読みやすいわけがない(~_~;)

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