背後に佇む三日月と   作:303

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来宮静間④

「やっぱ、久々にするガチのバトルはイイな〜」

 

 

 

グッと伸びをしつつブースから顔を出した太刀川が満足気に一言漏らし、続いて別のブースから出た迅が頭をかきながらモニターを見やる。その先には13-17の表示。

 

「そこそこ勘も取り戻したと思ったんだけどね〜、まだ太刀川さんとやるには早かったかな」

 

自身のブランクを嘆いていれば、彼のライバルが歩み寄り、その言葉に首を振る。

 

「いや、スコーピオンのキレは悪くなかったぞ?」

 

「その割には、ズバズバ切り返してこられたんですけど?」

 

「欲を言えば小技にもうちょいバリエーションがあれば面白くなるな」

 

「いやいや、おれがいつから太刀川さんのアトラクションになったのさ?」

 

トップクラスの実力者。その組み合わせに騒めく周囲をよそに、本人達は気安い会話を続ける。

 

「なるほどねー、ざわついてると思ったら、この組み合わせなら納得だな」

 

ふと聞こえた覚えのある声。それに太刀川が振り向き、同様の方向へ迅も顔を向ければ声の主が歩み寄る。千発百中とプリントされたシャツが目を引く。

 

「「よお、出水」」

 

「どーも迅さん、太刀川さん」

 

「おまえがここに顔出すのもめずらしいねぇ」

 

緩く挨拶を交わす。

間を空けずに迅が出水に問えば、彼は困り顔で溜息を吐く。

 

「いやさー迅さん、唯我の奴と暇潰してたんだけど、あいつゲームまで弱くてさぁ」

 

「うん?うちの作戦室なら国近はどうした?」

 

首を傾げた太刀川に対して迅は納得した仕草を見せる。

 

「ああ、そういえば今日だったな」

 

「なんか見たのか?」

 

「今日も静間と一緒のはずだよ」

 

「来宮と?」

 

その2人の様子に出水が頷いた。

 

「柚宇さんと来宮さんなら、今頃は玉狛支部だよ」

 

 

 

 

 

 

 

ズドォオオオ

 

 

 

トレーニングルームに再現された仮想の街並み。その空間に規格外の咆哮が轟く。

 

「ド派手な狙撃、ではなく砲撃の方がしっくりきますか、これは度肝を抜かれますねぇ」

 

逆さまになり、宙に身を踊らせる来宮は独りごちる。

雨取の放つ理不尽な破壊力に食い潰された足場を眺め、落ち着いた声音とは裏腹に冷や汗を流す。

 

そこで引き伸ばされた聴覚が、背後の変化を鋭敏に察知した。すぐさまグラスホッパーを足裏に展開し、アスファルトに向けて跳躍すれば、直後に空閑のスコーピオンが空を切った。

 

クルリと身を捻り、猫のようにしなやかに着地。そこへ空閑が壁を蹴り追撃を仕掛け、さらにそれを真正面からシールドで受け止める。

 

「アステロイド」

 

瞬間、左のアステロイド掌底が、シールドごと刃を握る右腕を撃ち飛ばす。

 

「お疲れですか?動きが単調ですよ?」

 

言葉とともに、仕留めるための一歩を踏み込む。

 

「!」

 

動作の最中に来宮が息を飲む。直後に砲撃で地が爆ぜた。

 

再度宙に投げ出され、体制が崩れる。

ボッとスラスターが鋭く唸り、来宮は背後へ咄嗟にシールドを展開、硬質な衝突音に肩越しにそこへ視線を送る。

 

透明なブレードが、シールドと数瞬せめぎ合う。それだけだった。振るうはずの使い手の姿がない。

 

「シズマさんこそ疲れてるんじゃないの?」

 

前方からの空閑の声。こちらにもノータイムでシールドを張れば、残る左腕の刺突を止める。

 

 

 

 

「単調な釣りに綺麗に掛かるね」

 

 

 

 

そこへ続けられる淡々とした言葉。

 

しまった。

 

そう思った時には遅かった。

左上から8発の弾丸が迫り、スローの感覚の中でそれを眺める。

 

ほんの一瞬、しかし確かに両の防御にトリガーは割かれ、身体は身動きのとれぬ空中。手段がなかった。

 

高台で残心する三雲と視線が重なる。

 

「…………やられましたね、お見事です」

 

成す術なくその身を射抜かれ、メガネの少年に賞賛を送った。

 

 

 

 

 

 

 

 

3対1の変則模擬戦。その程よい疲労感を感じながら、玉狛第二と来宮の4人が思い思いにソファに座る。

 

「みんなお疲れー、いいとこのどら焼きだよー」

 

宇佐美が労いの言葉をかけてどら焼きの皿をテーブルに置く。

 

「ほいほ〜い、飲み物はこっちね〜」

 

後から続く国近がコップに注がれたサイダーを渡していく。

来客の彼女の思わぬ気遣い。それに三雲と雨取が恐縮を示し、それを横目に宇佐美が口を開く。

 

「それにしても大金星だね、3人とも!」

 

「……いえ、3対1なうえに10戦してようやく1勝ですし」

 

宇佐美の褒めに三雲が冷や汗を流し否定し、隣でその言葉に雨取も頷く。

 

「そんなことないよ〜」

 

ふわりとした緩い声は国近だ。

そうだよね、と来宮に言葉を向ければ、彼が彼女から引き継ぐ。

 

「ええ、3対1とはいえ、遊真さんと千佳さんは訓練用トリガー1本、修さんはB級なもののシューターとして歩み始めて間もないとお聞きしました、A級の俺がフル装備で負け越そうものなら逆に立つ瀬がありませんよ」

 

「………… 一つ質問してもいいでしょうか?」

 

サイダーで口を湿らせながら、苦笑いを零す来宮に、三雲が躊躇いがちに疑問を口にする。

 

「来宮さんは、あれだけの実力がありながら、なぜ太刀川隊をやめてしまったんですか?」

 

「修くん」

 

「構いませんよ」

 

無遠慮なそれを宇佐美が嗜めるが、来宮はそれを手で制す。

 

「聞かれなかったので答えなかった、それだけの話ですから」

 

静かな瞳が三雲を見据える。

 

「そもそも俺が慶さんの部隊に、太刀川隊に身を置いたのは、とあることを知るためでした」

 

「とあること?」

 

「はい、それを知ることが出来たので、俺は今、こちらを守ることに専念しています」

 

「それは、なんなんでしょうか?」

 

それに一つ頷き、来宮は続ける。

 

「ネイバーが警戒区域に現れる異形とは別であると、我々と同じ人であるというのは理解していますね?」

 

「そ、それはもちろん」

 

最早当たり前の事実。それに戸惑いつつ三雲が答える。

 

「では、彼等は何を思ってこちらへ攻め入るのでしょうか?」

 

「人が多いからだと、トリオンとトリオン能力の高い人間が目的だと聞いていますが?」

 

ならば、

 

「ネイバーにとって、俺たちは、こちらの人間はなんなのでしょうか?」

 

その問いに三雲は言葉に詰まり、黙していた国近も、初めて聴かされる話に耳を傾ける。

 

数多の惑星国家が在る。それぞれに考えの差異はあるだろう。ならばその大勢は?いつからそれは続いている?自分が守らねばならぬもの、それを敵はどう捉えているのか……。

 

「俺は、立ち塞がる者の思想を知ることで、護る意思を、戦う覚悟を、より明確にしたかったんです」

 

その雰囲気に、息を呑んだのは誰だったか。

 

 

 

 

 

語る来宮の言葉には、渇いた何かが見え隠れしていた。

 


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