立花響の中の人   作:数多 命

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もっと短くなってしまったorz
でもキリがよかったんや・・・・。


8ページ目

「ふぃー・・・・」

 

ギリギリというわけではないが、それでも時間すれすれに何とか間に合った。

二課の休憩スペースにて、一息つく響。

作戦は早朝。

仮眠のための眠気を誘発させるため、温かいココアを飲みながらまったりしていた。

ふと、人の気配に気づいて、そちらに視線を滑らせる。

同じく飲み物を求めてきたらしい翼と、目があった。

 

「司か」

「お疲れ様です、翼さん」

 

意外と泣き虫だったり、片づけが苦手だったりと。

最近様々な一面を見せ始めている彼女だが。

一世一代の作戦を前に、凛とした余裕を崩さない様は、正直普通に尊敬できる。

 

(まあ、師匠と重ねちゃってる部分もあるんだろうなぁ・・・・)

 

『流れる長い髪』『凛とした雰囲気』『にじみ出る強者のオーラ』など。

見れば見るほど恩師によく似ている翼を、まじまじと見つめた。

言わずもがな、実力は恩師の方が圧倒的に上なのだが。

 

「・・・・どうした?」

「ああ、いえ、何でも・・・・」

 

無意識のうちに、凝視してしまったらしい。

翼が首を傾げたので、響は慌てて目をそらした。

どうにか誤魔化そうと、手近な新聞をテーブルからひったくって。

 

「うっわ!?」

「・・・・何してるのよ」

 

前面に表れたお色気ページに、ぎょっとなる。

危うくココアをこぼしそうになり、あたふたしながらも何とか持ちこたえた。

そんな響の様子を見て、翼は呆れながらため息をつく。

 

「あ、はは・・・・」

 

なんともいたたまれない気持ちを苦笑いで誤魔化しながら、もう一度新聞を見る。

先ほどとは違うページを意識しながら開けば、『風鳴翼、電撃休業』の文字が。

 

「ん?・・・・ああ、それか」

 

何事かあったのだろうかと本人の方に視線を向ければ、事情を察してくれたようだった。

翼は少し考えてから、

 

「・・・・なんというか、けじめのようなものだ」

「けじめ、ですか」

「ええ」

 

響のオウム返しに頷いて、翼は口を開く。

 

「先ごろの戦闘を経て、よく理解できた・・・・わたしは、わたしが思っていた以上に弱かった」

「いや、さすがにそれは自虐が過ぎるんじゃ・・・・」

 

紙コップの紅茶を見下ろして、眉をひそめる翼。

思い出しているのは、ネフシュタンとの初戦だろう。

確かに大怪我を追ったのは事実だが、翼は特に悪いわけではない。

そう考えた響は、手を立てて『ナイナイ』と振るのだが。

翼は、首を横に振って否定する。

 

「弱いんだよ・・・・剣としても欠かせない『()』が、どうしても」

 

胸元を握り締め、搾り出すように呟いた。

 

「その所為で、あなたに大変な大怪我をさせてしまったのだから・・・・」

 

・・・・前言撤回。

響が思っている以上に、翼は思い悩んでいるようだ。

強くあらねばと背負っていた分、奏にその心をほぐされた分。

響を疎ましく思っていた彼女。

それ故に、倒れかけた響を目の当たりにした翼の心には、大きな恐怖が植えつけられたに違いない。

生粋の生真面目であるが故の負い目というものだろう。

すっかり落ち込んでしまった翼に、響は少し困った顔をしてから。

 

「・・・・別にいいんじゃないですか?」

「・・・・そうなのか?」

「はい、だって、アレは間が悪かっただけですから」

 

首をかしげる翼。

響は一旦コップを置いて、身振り手振りで続ける。

 

「翼さんは奏さんのこと気にしまくっていましたし、わたしだって自分や未来が危なかったからガングニールを起動させましたし、あのネフシュタンもたまたまわたしがレアな存在だったから攫っていく必要があった」

 

指折り数えていく『間の悪い事柄』。

響の個人的な基準だが、他者が聞いても一応納得できるラインナップでもある。

 

「全部全部、タイミングが重なっちゃった不運な事故なんです。だったら、いつまでも引きずったってしょうがないじゃないですか」

 

折った指をぱっと広げ、もう片手とあわせて広げて笑う。

 

「・・・・強いのね」

「無頓着なだけですよぉ!今を含めて二年くらいしか記憶ありませんし、その分冷たく割り切れるんです」

 

翼が感慨深く呟けば、響は頭に手をやっておどけて見せた。

 

「まあ、何がいいたいかと言えばですね」

 

手を打ち合わせ、話の切り替えを表現する。

 

「わたしの大怪我に関して、翼さん一人が責任を負う必要はないってことです」

「―――――」

 

そうして次に見せた笑顔は、どこか優しい雰囲気だった。

例えるなら、あの日緊張でガチガチだった翼の心を溶かしてくれた、奏の様な。

 

(・・・・かなで)

 

例えを思い浮かべたところで、翼は気づく。

響がネフシュタンと対峙していたあの時、あっという間に翼を安心させた瞳の炎。

あれは、奏のそれと寸分違わず同じ目だということに。

 

(・・・・なるほど)

 

ならば、あの時の安堵にも納得がいく。

翼は、小さく笑みを漏らした。

 

「あ、あの、翼さん・・・・?」

「いや、なんでもないよ」

 

笑い声が聞こえたのだろうか、響がどこか不安げにうろたえている。

打って変わって頼りないような仕草を、首を横に振って否定して。

 

「やはり、君は強い。少なくとも、ガングニールが似合う程度には」

「えっと、ありがとうございます?」

 

どこか納得できてはいないようだが、褒められているのは分かったらしい。

疑問系だったが、感謝を述べた響に。

翼は笑みをこぼしたのだった。

 

「さて、そろそろ眠ろう。これ以上は明日に支障が出てしまう」

「本当だ、もうこんな時間」

 

一緒に時計を見やれば、深夜とまではいかずとも、明日を考えれば十分遅い時間。

すっかり温くなった飲み物を一気に飲み干し、それぞれゴミ箱に投げ入れる。

 

「ではまた明日、背中は任せたぞ」

「はい!おやすみなさい!」

 

翼は不適に笑い、響は親指を立てて。

宛がわれた仮眠室に向かうのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

◆   ◆   ◆

 

 

 

 

 

 

「―――――輸送計画、ねぇ。こりゃまた大規模な」

 

タブレットの画面を流し見して、女性は感心したように呟く。

 

「我々はいかがします?」

 

情報を持ってきた猫耳の問いかけに、束の間思案。

監視をつけるのは当然だ。

吟味するのは、動くか否か。

長くもなく、短くもない間、思考にふけって。

やがて納得するように頷く。

 

「今回は私も出よう、ただ、実働は二人に任せる」

「はいはい、必要なところで突っつけってことですね」

 

猫耳の片割れが、心得ているといわんばかりに遊び半分の敬礼。

普通なら無礼極まりない行為だが、この場にいるのは気心知れた者ばかりなので、女性も相方の猫耳も笑って流すのみに留める。

 

「ですが、あの子の件で我々の存在を警戒している節があります。私達はともかく、マスターはくれぐれも見つかりませんよう心がけてください」

「分かってるって」

 

従者の忠言を、快活に笑って受け入れる女性。

 

「愛弟子と愉快な仲間達のお手並み拝見ってことで、気軽に見物させてもらいましょ」

 

茶目っ気を混ぜた瞳は、鋭く光っていた。




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