立花響の中の人   作:数多 命

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某怪獣王にフィーバーしていたら、執筆が滞ったでござる。
あそこであの曲流すのは卑怯だぜ監督ぅ・・・・!

あ、今回はガールズラブのタグが生きてくる回です。


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#月=日

ぶっ倒れてから二週間。

やっとこ復帰出来ましたー。

ひとまず暗い顔だった未来を構い倒したら、真っ赤なほっぺと共に『バカ』の一言を頂いた。

やだ、かわいい。

お詫びにわたしの手料理を振舞ったら、何だか落ち込まれた。

思ったよりもおいしくて、女の子としての敗北感を感じてしまったらしい。

何か、ゴメン・・・・。

 

 

 

#月★日

翼さん、まさかの『片付けられネーゼ』。

『一緒に鍛錬でもどう?』とお誘いを受けて、お宅にお邪魔したら。

何か部屋に忘れ物をしたとかで、一旦離れた。

で、あんまりにも遅かったから。

失礼だとは思ったけど、家をあちこち探してみたら。

ガサガサ怪しい音立ててるお部屋を発見。

不審者だといけないので、こっそり除いてみたら。

ちらかった部屋の中でおろおろしている翼さんを発見。

様子からしてただごとじゃないと飛び込んで、『敵襲っすか!?』と聞いたら。

ものすごい気まずそうに目を逸らされた。

思わず笑っちまったよ。

いや、本当にサーセンっした、フヒヒwww

 

 

 

 

#月」日

久々にティア姉から連絡があった。

お互いに近況報告しながら、世間話に花を咲かせた。

向こうは相変わらずのようで、今度はヤバイ感染者連中が相手だとか何とか。

詳しくは機密で誤魔化されたけど、その辺はわたしも同じなのでスルー。

ひとまずゲームタイトルにもなっているゾンビ天国を想像していたら、『そっちじゃないからね?』と突っ込まれた。

何にも言ってないのに、相変わらず勘がいい人だ。

とはいえ、姉弟子の顔を見たら何だかほっとした。

ここのところ殺伐としていたからなぁ・・・・。

 

 

 

 

#月Ж日

広木防衛大臣が、暗殺されてしまった。

二課の重要な後ろ盾だっただけに、うちの人達も大分動揺している。

で、次の大臣は繰り上げで副大臣さんになるって話だけど。

この人、国際協力を唱える親米派なため、日本の国防にアメちゃんの要求が通りやすくなるんじゃないかと懸念が出ているみたい。

っていうか、うちがモロ影響受けるとこだから、呑気していられない。

これは、どうなるんだろうか・・・・。

 

 

 

 

 

 

◆   ◆   ◆

 

 

 

 

 

 

広木前防衛大臣が殺されたその日。

彼と面談の予定があった了子は運よく行き違いとなり、用件の一つであった重要データを無事受け取っていた。

そこから決行されることとなった、『サクリストD』こと、完全聖遺物『デュランダル』の移送作戦。

ネフシュタンや、前防衛大臣を暗殺したグループが襲ってこないとも限らない。

故に病み上がりの響も駆りだして総動員する、本気の作戦と相成った。

 

「んー、着替えとかはこんなもんか・・・・」

 

リディアン寮の自室。

スポーツバッグに最低限のお泊りセットを詰め込んだ響は、一人呟く。

 

「・・・・この間、怪我したばかりなのに」

 

いそいそと出かける準備を、出撃の準備を整える背中を見ながら、未来は不満そうにこぼした。

 

「どしたのー?」

「・・・・何でもないよ」

 

内容は分からなかったようだが、声は聞こえてしまったらしい。

チャックを閉めて満足そうに一息ついた響は、きょとんと未来を見た。

素っ気無く返事して、そっぽを向く未来。

 

「ほんとかなー?」

「ほ、本当だって・・・・」

 

しかし、その態度は余計に響を刺激してしまったようだった。

やることが終わったからか、急に意地の悪い笑みを浮かべると。

両手をわきわきさせながらにじり寄る。

 

「へーぇ?そんな素っ気無いこと言っちゃうんだー?」

「な、なんでもないんだから当たり前でしょ!?」

 

身の危険を感じた未来は座ったまま後ずさるが、虚しい抵抗だった。

 

「そーんな素直じゃない悪い子はー・・・・」

 

背中に手ごたえ。

部屋の隅まで下がりきってしまった。

目の前には響の顔。

やばいと思ったときには、もう遅く。

 

「こうだーッ!!」

「きゃー!!やめて止めてやめて止めてにゃあああああああああああああっ!!」

 

勢い良く腰をホールドされたかと思うと、そのままわき腹に素早く指を滑らせる。

いわゆる『こちょこちょ』を、全力で施すのだった。

くんずほぐれつ、時折タンスやベッドの角に体をぶつけながら、二人一緒に床をのた打ち回る。

やがて体力が尽き、響が未来に倒れこむ形で止まった。

 

「ひ、響ぃ・・・・」

「あいた、あはは、ごめんって」

 

疲れきった右手で背中を叩けば、響が乾いた謝罪を返す。

へこたれた顔が可笑しくって、思わず笑みがこぼれた。

つられて響も笑い出し、二人分の笑い声が静かに木霊する。

 

「・・・・未来」

 

やがて、ひとしきり笑い終えた後。

急に大人びた表情になった響が、未来の頬に手を添えた。

 

「――――何か、怖い?」

 

穏やかな、語りかけるような。

しかし、油断すれば内側に入り込まれるような問い。

 

「・・・・な、何も」

 

ある種の射抜くような視線を受けて、無意識のうちに目を逸らす。

そんな未来の態度が気に入らなかったのか。

響は黙したまま、身を寄せた。

 

「未来、何か言いたいことはない?伝えたいことはない?」

 

彼女が上体を起こすのと一緒に、未来もまた起き上がらされる。

 

「わたしはさ、少なくとも未来よりは丈夫だから」

 

目の前には相変わらず、どこか大人びた響。

未来の知らない響。

 

「未来の言いたいこと、伝えたいこと、ちゃーんと受け止めてあげられるよ」

 

―――――ずるい。

再会してからの響は、特にずるい。

こうやってこっちが何を思っているのか察して、泣いている子をあやすように優しくいたわってくれる。

穏やかな手で、頭を撫でられて。

頑なな胸中が、解けていくのが分かって。

 

「・・・・ひびき」

「うん」

 

何となく呼んだ名前にも、確かに返事してくれる。

多分、それだけで良かったんだと思う。

 

「・・・・いかないで」

 

遠慮がちに、しかし縋るように抱きつく。

 

「・・・・離れないで、遠くにいかないで」

 

背中に響の腕が回される。

頭を撫でられているのが分かった途端、目頭が熱くなった。

 

「やだ・・・・もうやだ・・・・怪我しちゃやぁ・・・・!」

 

ぽろぽろ、涙がこぼれた。

握りつぶすように響の背中を握り締め、必死に抱き寄せる。

――――――あの日。

再び生死を彷徨う状態となった響を見て、足元が崩れる感覚を覚えた。

また忘れられてしまったらどうしよう、いや、今度こそ失ってしまったらどうしよう。

土気色の肌を見て、必死に祈ったのは記憶に新しい。

だから、未来のことを覚えたまま起き上がったときは涙したものだ。

しかし。

今また響は、未来から離れようとしている。

あんな大怪我を追いかねない、戦場(せんじょう)に自ら進んで赴こうとしている。

 

「ひび、きぃ・・・・!」

 

ダメだというのは分かっている。

響だけではなく、翼だって同じ状況で。

そしてどちらも欠けてはならない、ノイズに対する希望であることも重々承知している。

だけど、だけど。

怖い。

怖くて怖くて、たまらない。

涙が止まらない、震えも止まらない。

記憶を失くした、思い出を失くした『響』に残った。

命が無くなるのが怖い。

 

「・・・・未来」

 

そんな子どもっぽいわがままを、響は宣言どおり受け止める。

拒絶なんてせず、静かに背中を叩いてあやしてくれる。

・・・・一通り涙をこぼしたら、何だか落ち着いた。

温もりを感じながら身を寄せれば、響が穏やかに口を開いた。

 

「・・・・約束しよっか」

「やくそく?」

「うん、約束」

 

少し離れて、顔を合わせる。

泣きはらした目元に優しく触れながら、響は笑う。

 

「わたしはもう、あんな大怪我しない。何が相手でも、ちゃんと元気に帰ってくるから」

 

頼もしいことこの上ない言葉だ。

だが、未来の心は今ひとつ晴れない。

 

「・・・・出来るの?」

 

不安だった。

自分のために、無茶な制限をつけてはいないか。

そんな心配を、響は軽く笑い飛ばした。

 

「やるよ、絶対に」

 

いっそ清々しいほどの宣言。

言っていることはとても無茶苦茶なのに、何故か本当に叶いそうな気がした。

 

「少し寂しい思いさせちゃうけど、どうか待ってて。未来のいる場所が、わたしの帰る場所だから」

 

額同士を合わせて。

ひたすら穏やかに、未来をあやし続けた。

 

「・・・・ごめん」

 

随分と長い間抱きついていたお陰で、未来も少し落ち着いてきた。

いくらか冷静になった頭で子どもっぽい行動を反省しながら、顔を俯かせる。

 

「いいよ、いつも心配させてるのはこっちだしね」

「・・・・ん」

 

ふと、壁の時計を見た響は、我に返ったように立ち上がった。

 

「やば、もういかなきゃ!」

「ご、ごめん!引き止めちゃった!!」

「いーのいーの!」

 

少しもたつきながらスポーツバッグを担ぎ上げて、ドアまでダッシュ。

しようとして、一旦Uターンして、人懐っこい笑みを浮かべる。

 

「戻るの明日の昼頃だから!ご飯作って待ってるよ!」

「・・・・うん、いってらっしゃい」

 

無邪気な響に手を振りかえして、駆けていく背中を見送った。

・・・・正直、まだ不安がある。

前もそうやって笑顔で別れて、大怪我をこさえてきたのだ。

今回もまた、寝込むような怪我をしてしまうのではないか。

響の左わき腹、はっきり残ったやけど痕を思い出し、身震いする。

 

(だけど・・・・)

 

自らを抱きしめながら、未来は頭を振る。

そうだ、響は約束してくれた。

もう心配させないと、きっと元気に帰ってくると。

だから、静かに目を伏せる。

 

(お願いかみさま・・・・響をつれていかないで・・・・!)

 

必死に体の震えを抑えながら、未来はいるかも分からない神に向けて、懇願するのだった。




本家ではよく愛が重いとされている未来さんですが、実は重さで言えばビッキーもたいがい←
なので、(表向き)記憶を無くしているうちの子は・・・・あ、これ以上はよしておきましょう(笑

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