立花響の中の人   作:数多 命

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この辺の流れはもともとできていたので、早速投下ー。


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風鳴弦十郎は考える。

一週間前の攻防について。

響の傷と、翼の心という多大な犠牲を払ったが。

あの完全聖異物から、無辜の人々を守ったのもまた事実。

犠牲に見合った成果を得ることが出来たと、少し冷たい結論を下す。

それに今の彼には、ネフシュタンと同じく気にかかっていることがあった。

 

「―――――あの件はどうなった」

「はい、一ヶ月もあれば、多少のことは」

 

二課のとある一室。

緒川が手元のタブレットを操作し、スクリーンに画像を表示する。

 

「『司(はるか)』さん、現在の年齢は25歳。世界的財閥『月村グループ』の警備会社に勤めている方ですね」

 

戸籍の書類と思われる画像。

黒く長い髪を揺らした女性が、控えめに微笑んでいる。

 

「現在はイギリス支社に出向中、響さんの言とも一致します」

「ふむ・・・・」

 

――――表向きは警備会社所属だが、本当はFBI的な治安維持組織に所属している。

彼らが響に師匠なる人物のことを聞いた際に、返ってきた答えだ。

弦十郎が相槌を打ったのを確認した緒川は、再びタブレットを操作する。

 

「ですが、これは表向きの話・・・・本当は」

 

画像が切り替わる。

正確には、データの内容が切り替わる。

 

「住所不明、無職・・・・だと?」

「巧妙に細工されていましたよ。うちの諜報部でも、重箱の隅をつついてつついてつつきまくらないと分からないような物です」

 

ここ二課は歴史を辿っていくと、旧日本陸軍の諜報部にたどり着く。

そのころに築かれた情報収集のノウハウは、改良を施されつつ今日まで根強く生きている。

そんな日本でも五本の指に入るだろう自分の組織の腕を以ってしても、中々見抜けないだろう戸籍の偽装。

 

「これすらも偽装の可能性を考え、響さんの証言を元に、各国の治安維持組織、ならびに諜報機関のデータを漁ってみましたが・・・・」

「収穫は無かったということか」

「はい、申し訳ありません」

「気にするな、最初から上手くいってるなら、一月もかからんさ」

 

珍しく落ち込む緒川に快活に笑いかけてから、弦十郎は再び思案する。

 

(司遥・・・・響くんにアレだけの武術を仕込んだ師匠とされる人物・・・・)

 

常人が彼女の写真を見たのなら、殆どの人が美人と答えるような整った顔立ち。

しかし、彼には遥のもう一つの顔が見えていた。

彼女の目元。

柔和に笑っていながらも、強い意志と闘志を秘めた、戦士の姿が。

 

(恐らく、只者では無いと考えるべきであろう)

 

写真と睨み合う一方で、響つながりで思い出す出来事があった。

ネフシュタンとの戦いで、響が重傷を負った翌日。

腹に空いていたはずの風穴が、一夜にして塞がるという怪奇現象が発生していたのだ。

流石にダメージまでは直せなかったのか、目覚めるまでには数日を要したが。

それでも、弦十郎達にとっては不可思議なことこの上ない。

加えて、傷の消失に誰もが慌てふためく中、響の枕元から見つかった一枚のメッセージカード。

 

(『Piece of cake』・・・・か)

 

『Piece of cake』。

日本語で言う『朝飯前だよ』という意味を持つ言葉。

そのとおり『気にしないで~』という和訳とともに、コミカルな猫の絵が添えられていた。

一応目覚めた響に聞いてみたものの、心当たりはなさそうだったが。

結局、あの時のネフシュタンの様な、第三者が関わったことに変わりない。

 

「いかがします?司令」

 

緒川の問いに、弦十郎は改めて思案して、

 

「・・・・響くんの師匠に関しての調査は続けてくれ。ただ、ネフシュタンを纏うものが現れた以上、そちらを放置するわけにはいかない・・・・申し訳ないが、司遥の調査の人員を、幾分か回してくれ」

「了解しました、では、そのように調整させていただきます」

 

一礼して、緒川は去っていく。

 

(・・・・司遥・・・・・・・何者なんだ)

 

 

 

 

 

◆   ◆   ◆

 

 

 

 

 

#月¥日

し、下乳!

いや、離れないで、まずはちゃんと話を聞いてほしい。

えっと、ひとまず病院なう。

何か『因縁の相手』的な女の子と戦って、翼さんがやられそうになったんで。

『ひよっこ舐めんなコラー!』と特攻をしかけたのが、一週間前。

目覚めたらまた未来に泣かれたので、びっくりした。

今度はちゃんと覚えていたから、頭を撫でたら落ち着いたけど。

で、何で冒頭の発言に至ったかっていう話だけど。

ちょっと、突っ込ませて欲しい。

古代人何考えてんだ。

鎧ってくらいだから当然全身覆っているだろうし、露出が少ないのも仕方が無い。

もしかしたら男が纏ったら全身ガッチガチの状態になるのかもしれない。

あれは女の子が使っていたからこその露出なんだろうけどね。

下乳て、下乳て。

何でそんなマニアックな部分を晒しちゃったかな。

あれかな『この鎧の性能を引き出すためならば、天下に乳房をさらすこともいとわんッ!!』みたいな感じなのかな。

いらんやろ。

そんなサービスいらんやろ。

娯楽が求められる昨今ならまだしも、もろ戦火が起こっていたであろう古代にそれを求めるのは無粋やろ。

ああ、もしかしてこれって偏見なのかな。

思えば聖遺物を使っているシンフォギアも、起動させたら大分アレな感じだし。

翼さんも腰周りが結構きわどいデザイン。

っていやいやいや、シンフォギア自体は了子さんが開発したんだから、もしかすると了子さんの趣味って可能性も・・・・。

って、それはそれでなんかヤダー!!!

やばい、長くなった上に支離滅裂すぎる。

それもこれもあのおっぱいの所為だ!ちくしょうめッ!

ちょっと、本気でもうこの辺にしよう、そうしよう。

 

P.S.

どうやらアリアさんの手を煩わせてしまったらしい。

致命傷が数日で快復していたし、病室中に『残り香』があったし。

わざと残してあった火傷痕は多分、『反省しなさい』っていう無言のメッセージだろう。

こりゃあ、向こうに帰ったときに反省会だなぁ。

 

 

 

 

#月Λ日

デレたっ!デレたっ!

翼さんがッ!デレたあああああああああああああああッ!!!!

いや、お見舞いが来て、未来かなーって思ったら。

翼さんが珍しくしおらしい雰囲気でひょっこり顔を出した。

辺りをキョロキョロしている辺り、何だか前までのあの人とは180度違う様子にこっちもなんかこそばゆかったよ。

で、ひとまず座らせて、お話しましょうってことになって。

そしたら真っ先に謝られた。

翼さんったら、わたしが寝こけている間に、わたしについてのアレコレを未来から聞かされたらしい。

『自分だけが辛いって思い込んでたのが情けない』って、ものすごい落ち込んでた。

『別にいいっすよーよくある話っすよー』って慰めたら、どうにか持ちこたえてくれたけど。

で、次に質問をされた。

曰く『あの時言った泣かないでってどんな意味?』。

そういえば気絶する直前そんなことをいった記憶がおぼろげにあった。

翼さんとしても、わたしがどういう意図で言ったのかがずっと気になっていたらしい。

ほぼ無意識の行動だったため、どう言ったもんかとちょっと悩んだけど。

心当たりはあったので、わたしの信念を話してみた。

そしたら納得してくれたよ。

『遅くなったけど、期待してるからね』って言われたので、これからも頑張れそうだ。

 

 

 

 

 

◆   ◆   ◆

 

 

 

 

 

失いかけた彼女が、奇跡的に回復してから一週間過ぎた頃。

歌手活動が一段落し、緒川の配慮で見舞いに行く機会が出来た。

今までが今までなだけに、気まずい雰囲気もあったが。

翼自身、ずっと気にかかっていることがあった。

 

―――――泣かないで

 

あの時、彼女が意識を手放すときに言った言葉。

冷たい指で涙を拭いながら、気遣うように告げてくれた言葉。

・・・・彼女自身の来歴については、その親友から少し聞かされた。

自分たちのライブをきっかけとした、周囲からの迫害。

そして、数少ない、しかし絶対的な味方であった家族との死別。

頭を金槌で殴られたような衝撃を受けたのを、覚えている。

じわじわと侵食するように、自省と後悔に苛まれた。

何が防人だ、何が剣だ。

『奏、奏』といつまでも引きずっていた結果が、今回の失態だ。

人類最後の刃として、守るべきものを危険に晒してしまった。

司令を始めとした大人達は、彼女に『奇跡』を起こした第三者を警戒しているようだが。

翼としては、まるで天から与えられたやり直しの機会のように思えた。

 

「あつかましいのは理解している。だが、恥を承知で教えて欲しい・・・・あなたは何故、あの時泣かないでと言ったの?」

 

だから、彼女に疑問をぶつけてみた。

 

「んー、そうですねぇ・・・・」

 

彼女は、少し思案した後。

やがて考えがまとまったのか、小さく頷いた。

 

「憧れた人がいるんです」

 

とつとつ、語りだす。

 

「その人は、わたしの涙も、痛みも、纏めて吹き飛ばしてくれました」

 

語っている人物は、『師匠』のことだろうか。

聞いてみたかったが、話を遮ってはいけない気がしたので、相槌を打つ程度にする。

 

「それで、思ったんです」

 

響の視線が、手のひらに落ちる。

過去を思い出しているのだろうか。

 

「わたしもあの人みたいになりたいって、誰かの涙を、止められたらって」

 

ぎゅ、と握った拳には、強い意志が感じ取られた。

 

「まあ、こうやって病院送りになっている時点で、何様だって話なんですけどねぇ」

「・・・・いいや、よく分かったよ」

 

最後に照れくさそうにはにかんで、締めくくって見せた。

おどけた様子で乾いた笑みを浮かべているが。

その奥に秘めた信念は、しっかり感じ取れた。

 

「――――司」

「はい?」

 

頼もしく思いつつ、だからこそ確かめたかった。

 

「お前はこれからも、戦うのか」

「え?そりゃもちろんですよ、翼さん独りにしておけませんし」

「いや、そうじゃなくてな・・・・」

 

打てば響くような即答に、思わず頭を抱える。

どうにか仕切り直して、改めて問いかけた。

 

「覚悟を決めて戦場に立つということは、人を捨てて戦士になるということだ」

 

最初は首をかしげていた響も、真面目な話だと悟ってくれたらしい。

怪我人なりに背筋を正して、耳を傾ける。

 

「・・・・今回のわたしのような、『大失態』をやらかす可能性だってある」

 

束の間、痛ましげに響の腹を見て。

次の瞬間には表情を引き締める。

 

「今更かもしれないが、今一度問わせて欲しい。あなたに覚悟はある?戦場に立ち、人ではない存在になる覚悟は、あるのかしら」

 

問いかけられた響は、考える。

やがて、ゆっくり口を開いて。

 

「覚悟・・・・っていうほどには、足りないかもしれませんけど」

 

静かに頷く翼。

試すような視線を真っ向から受け止め、見つめ返す。

 

「ここで退くのは、いやだなって思います。未来だけじゃない、翼さんや司令さん達だって、わたしの守りたい『日常』ですから」

 

浮かべた笑みには、おどけた様子は微塵も無い。

心からの、真摯な答えだった。

 

「それに、ご飯食べたり、みんなで笑いあったりするのは、『戦士』であっても出来ます。だから迷いはありません」

「・・・・・・・そう」

 

答えを聞き終えた翼は、一度目を伏せる。

 

「ならば、これ以上は何も言わない・・・・・遅くなってしまったけれど、これからもよろしく頼むよ」

「はい!背中は任せてください!」

 

微笑みかければ、響は歯を見せて笑い、ガッツポーズを作って見せた。




『泣いてる誰かの涙を止めるための拳』が、拙作ビッキーの信念でした。
それから。
ごめんなさい、お師匠はオリキャラさんです(土下座ァ
でも周囲の方々はきちんとクロス先の原作キャラなので、何卒、何卒ご容赦を・・・・ガタブル
前回に続いて今回もだいぶヒントをだしたので、そろそろわかる方が出てくるかも・・・・?

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