立花響の中の人   作:数多 命

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こちらもぼちぼち更新していきますよー。


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「――――次元漂流者っつーのがある」

 

エアキャリア内。

重い空気を払拭するように、叶が口を開く。

 

「高エネルギーに巻き込まれるなり、次元の裂け目に落ちるなりして、全く別の異世界に漂流しちまった奴のこと。ま、端的に言っちまえば『次元規模の迷子』だな」

「じゃあセレナは、六年前のアレで、あっち側に・・・・?」

「大方そうだろうよ、そもそもミッドチルダがある場所がちょいと特殊でな」

 

調の問いに、叶は首肯する。

 

「次元の狭間って奴には、海みてーに流れがある。仮に、その流れを『海流』って呼ぶが・・・・」

 

そこから語るには。

第一管理世界『ミッドチルダ』が存在する地点は、その『海流』が合流する地点に存在しているのだそうだ。

それを裏付けるように、ミッドチルダに流れ着く次元漂流者は、他の世界に比べて倍以上の数が確認されているらしい。

 

「俺も現役の間何人かあったことあるし、地球の出身だって奴もちらほらいた。何より、死んだと思っていた知り合いが別世界に流れて生きてたって言うのは、魔導師の間じゃよくある美談なんだよ」

 

叶は語る傍ら、ちらとマリアの様子を伺ってみた。

俯いているように見えて、話はしっかり聞いているらしい。

沈黙を保った彼女は、呟くように問いかけた。

 

「・・・・あなたのお姉さん、セレナの上司のようだったけど、どんな人なの?」

 

姉の人となり。

兄弟なだけあって、何度も聞かれた質問だ。

だから叶も、間を置かずに答える。

 

「基本的にゃ俺と同じだよ。姉貴なりの考えで、お役所に留まっちゃいるがね」

「・・・・わたしと関係があるから、というのは」

「ない」

 

マリアの危惧するところを察して、今度は瞬時に言い切った。

 

「もっというと、とっ捕まっても悪いようにゃならねェよ。まあ、俺やらお前さんやらは拘束されるだろうが、こいつらはそうしなくていいように動くのが姉貴だ」

「わ・・・・!」

「デース!?」

 

言いながら、調と切歌の頭を撫でまわす。

 

「・・・・そう」

 

安堵を零したその顔には、迷いなど無かった。

 

「そういや、ドクターはどこに行ったんだ?」

 

立ち直った弟子に満足しながら、切り替えがてら話題を変える叶。

あそこまで邪魔をされたウェルが、大人しくしているとは思えなかった。

 

「さあ?」

「そういえば、見かけてない・・・・」

 

首をかしげる二人を見て、何となく嫌な予感がした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆   ◆   ◆

 

 

 

 

 

 

 

 

$月@日

また暴走やらかしちゃったり、セレナさんとマリアさんがご姉妹だったり。

色んなことがあったけど、一応生きてます・・・・。

それよりも、師匠が教えてくれたことがちょっと、っていうか、大分気がかりだ。

何でも、夏休みに出会ったパシフィスタの連中が、こっちに人を送ってコソコソしているらしい。

まだこっちに関わるかどうかは不明だけど、気をつけてと言って。

師匠は別行動になってしまった。

なんだろう、何もなきゃいいけど・・・・。

 

 

$月I日

戦力外通告、されちった。

いや、別にわたしが悪いとかそう言うんじゃないけれど。

こないだの暴走が原因で、ガングニールの侵食が楽観視できないとこまで来たらしい。

見せてもらったレントゲンでは、胸の辺りが真っ赤に染まっていた。

魔法を使う分には何とかオーケーをもらえたので。

今後はティア姉やセレナさんと一緒に、バックアップを担当することになった。

翼さんやクリスちゃんが謝ってきたけど、二人が悪いってわけじゃないからいいよって伝えておいた。

 

 

$月O日

ノイズと戦えなくなって。

自分でも気がつかないくらいに、よっぽど落ち込んでしまっていたのか。

セレナさんが気分転換にと、模擬戦をしてくれた。

オラオラいく師匠達を支えているだけあって、やっぱり強い人だったなぁ。

技巧派っていうのかな、油断してるところを何度も拘束されたし。

逃げられないようにしてからの砲弾雨あられはえげつないっすよ・・・・。

何より『氷』の魔力変換のお陰か、戦闘中のどこをとっても綺麗なんだよね。

こう、キラキラしてて、でも気取ってるわけでもなくて。

でも信じられるか?こんなに素敵な人が、怒らせたらいっちゃんやべーやつなんだぜ・・・・。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆   ◆   ◆

 

 

 

 

 

 

 

 

白日の下。

幽鬼のように、ふらふらと歩く。

瓦礫に躓き、砂に塗れながら。

『探し物』を求めて彷徨う。

 

「――――あぁっ」

 

体が傾く。

目下には陥没した地面。

 

「ひぃえええぇぇぇえええええぇぇぇええええええあああああああああああああ!!」

 

ざりざりと、抵抗する間もなく滑り落ちていく。

情けない悲鳴を上げることしかできず、惨めな思いと、どうしようもない怒りが込み上げたが。

 

「あああああああ・・・・・ぐうぅ・・・・・・ああ?」

 

やっと止まった底の方。

砂に埋もれたものを見つけて。

縋り寄る、掘り起こす。

掻き分けて、掻き分けて、掻き分けて。

 

「・・・・くひっ、ひゃ、ははははははははは!」

 

手中。

確かな鼓動に、笑いが止まらなかった。




博士のトチ狂いっぷりが書けてるとよいのですが・・・(」

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