大変長らくお待たせいたしました・・・・!
「――――ふぅ」
時空管理局、転送ポート。
別件の後始末をやっと終えたセレナは、待合室で一息。
行き先は本数の少ない辺境、いわゆる『ローカル路線』だ。
『管理局の任務』という大義名分があるため、順番は早めに回ってくるが。
それでも手持ち無沙汰な時間が出来てしまうのは仕方の無いこと。
なので回ってくるまでの間を利用して、手元にある現地の情報を確認しようとウィンドウを開く。
暗唱できそうなくらい記憶し始めている文面を流し見ていると、ある画像で手が止まった。
「・・・・ッ」
翼と火花を散らしてぶつかるマリアの姿。
覚えしかないその姿形に、顔が目に見えて曇る。
・・・・思いやりが強くて、海や大地のような優しさを称えている彼女のことだ。
こんな茨の道に飛び込んだ理由は、きっと・・・・。
「どーん!」
「わ!?」
不意に後ろから肩を叩かれ、思わず声が出る。
大声を出したことを恥らいながら振り向けば、
「た、隊長?」
「やっほ」
気さくに笑う遥が。
わざわざ見送りに来たのかと思ったが、手に持ったボストンバッグを見つけて違うと判断する。
そこで、疑問が浮かんだ。
「まさか隊長も来るんですか?確かまだ調査が残っているんじゃ・・・・?」
「そのつもりだったけど、事情が変わったのよ」
参ったなと頭に手をやり、隣にどっかり座り込む。
「『連中』、どうもあっちに人を送ってコソコソしてるみたい。一番ホットな騒動が起こっている今、用心するのは当然でしょう?」
「そう、ですけど・・・・」
『一番ホットな騒動』の所で、ウィンドウを指差す遥。
気になっている画像の所で止めていたため、セレナの返事は歯切れが悪い。
「それに愚弟も何だかやらかしてるっぽいし、ティアナにはちょっと手に余るから。根回しを少々」
「そっか、『グレアムの
隣に居る上司とその兄弟は、その並々ならぬ荒っぽさで有名だ。
『チームジェノサイド』を率いている今の方が、随分大人しくなったと評されるくらいには。
不敬だろうかと思いつつ納得している彼女に、遥は片目をつむって振り向く。
「ついでに、あんたも用がある奴がいるでしょう?」
「ぃ、いえ、まさか!天涯孤独でしたから、会いに行くような家族なんて・・・・」
「『家族』だなんて、一言もいってないんだけどなー?」
慌ててウィンドウを閉じるセレナだったが、遥の言葉に喉を詰まらせた。
部下の可愛らしい一面にくすくす笑いながら、遥は伸びを一つ。
「・・・・ま、お互い向きあうものがある同士、頑張りましょ」
「はい・・・・」
会話が一段落した所で、係員に呼ばれる。
いいタイミングだと思いながら、二人は同時に立ち上がった。
「さて、と・・・・いくよ、グラシア執務官」
「はい、司隊長」
お仕事モードに切り換えて、一歩を踏み出す。
◆ ◆ ◆
響達装者が、敵の装者『暁切歌』と『月読調』から決闘の申し込みを受けた。
動きがあったのは、それから一週間後のこと。
二課本部にアラートが鳴り渡り、装者と魔導師が召集された。
「カ=ディンギル跡地に、ノイズの反応・・・・明らかに誘ってるわね」
モニターに写るウェルと、それを取り巻くノイズ達を睨みながら、ティアナはそう判断する。
「言いだしっぺの二人がいないのは気になるけど、なんにせよ油断は禁物よ」
言われるまでも無いが、それがまだまだ子どもである自分達を思っての発言であるのは分かっていたため。
響達はこっくり頷いた。
欠けた月が照らす中を、音と息を殺しながら駆け抜ける。
そうして見えてきたカ=ディンギル跡地。
現場にたどり着けば案の定、どこか得意げなウェルが待ち構えていた。
「・・・・調ちゃんと切歌ちゃんは?わたし達が約束したのは、二人なんですけど」
やや圧を含めながら響が問いかけると、ウェルはからかうように肩をすくめる。
「皆さんを呼び出したのは良いのですが、過程が褒められたものではなかったのでね。お留守番ですよ」
圧をものともせず涼しげにかわしたウェルは、ふと、目を細めた。
「ところで、我々の虎の子である完全聖遺物、名を『ネフィリム』というのですが」
「・・・・重要情報じゃないんですか、それ。バラして大丈夫です?」
「まあ、そう急かないで下さい。話はここからです」
一瞬目を見開いて驚愕した響は、やや矢継ぎ早に問い詰めた。
「このネフィリム、非情に荒くれ者でしてね。唯一宥める手段が餌しかないのですが・・・・」
なお余裕を崩さないウェルは、嫌な笑み。
「その餌というのが、聖遺物の欠片なんですよ」
瞬間、重々しい足音。
ウェルの背後から、ノイズを蹴散らしながら現れたそいつは。
瓦礫を撒き散らしながら、響の目の前に降り立って。
「ああ、そういえば」
浮かべた笑みを悦に満たして、ウェルは見下す。
「――――そこに一人、聖遺物との融合体がいましたねぇ?」
「――――ッ」
待ちきれないと言わんばかりに上がった咆哮。
その意味を理解した響は、一気に闘気を尖らせる。
「バカを腹の足しにしようってか!?」
「そんなこと――――!!」
当然、翼とクリスの二人が黙ってみているわけがない。
だが、翼が言い切る前に、斬撃。
クリスの方にも炎が襲い掛かり、後退を余儀なくされる。
「マリア・・・・!」
「・・・・」
静かにカトラスを構えるマリアの背後、遮るようにノイズが出現する。
もとよりソロモンの杖を操るウェルは、マリアサイドの人間。
二課勢と違い、魔導師の姿であっても問題ないということだろう。
何より彼女自身もまた、強大な戦士である。
特に制限時間を気にしなくて良い魔導師の方が、戦いやすいのだろう。
「グオオオオオオオッ!!!」
「こ、の・・・・!」
牙を剥き、爪を構え。
響を捕らえんと襲い掛かってくるネフィリム。
もちろん捕まればどうなるかなんて、火を見るより明らかなので。
響も全力で逃げ回る。
「ッ仮に喰わせたとして!!」
ネフィリムの腕を足場に飛び上がり、横っ面を蹴り飛ばして距離を取る。
身を翻しながら雷の短槍を数本展開、着地と同時に発射。
ほぼ全てが命中したネフィリムは、込められた雷で身動きが取れなくなった。
「人間っていう不純物が混じりまくってんだけど、その辺はいいのかな!?」
ネフィリムが動けなくなったのを確認して、響はウェルを見上げる。
「その程度想定済みです、問題ありませんよ」
「いやな断言だね・・・・!」
「ネフィリムを強化できる、敵戦力を削れる。一石二鳥じゃありませんか」
「『獲らぬ狸の皮算用』って言葉が日本にはあるんですけど、っとぉ・・・・!」
雄叫びを上げて、麻痺から復帰したネフィリムが突っ込んできた。
爪先が引っかかり、響の右腕にかすり傷が出来る。
響は巨体の下を滑り込んで潜り抜け、背後を取った。
「ッだいたい!!」
魔法陣を足場に飛び込み、背中へ蹴りを突き刺す。
ちょうど背骨にあたる部分にクリーンヒットし、もがくネフィリム。
「『世界を救う』だなんて大層な目標掲げておきながら、やってることは力押しの暴力塗れ!『英雄御一行』がやるようなこととは、到底思えないんだけど!?」
再び真っ直ぐウェルを睨みつけて、問いただした。
QUEENofMUSIC会場の占拠に始まり、つい先日ティアナから報告があった、無人倉庫における傷害事件。
『月の落下を阻止する』という目標があることはわかっていたものの、やり方が暴力的にも程があると思ったのだ。
しかしウェルは笑みを崩さないまま、響をなお見下して。
「――――あなたこそ、そんな血に汚れた手で何を守れると?」
その言葉は、響の心を大きく揺さぶった。
「な、にを・・・・!?」
「知らないとでも思いましたか?残念、敵の弱みくらい調べますよ」
毅然とした表情が、一気に崩れたのが面白いのだろう。
くつくつ震える腹を抱えながら、ウェルは続ける。
「二年前の同級生に限らず!フィーネを下し!月の欠けたをも破砕したッ!!」
痛みから再び戻ったネフィリムが、響に喰らいつく。
その様は、好物を目の前にした獣畜生のようで。
事実涎をたらしながら、執拗に噛み付こうとしてくる。
「ぶっ壊し続けてきた拳で!お前はまた傷つけるんだよッ!誰かの希望を!誰かの未来をッ!!」
「ち、ちが・・・・!!」
ウェルの言葉に、どうにか反抗しようとする響。
その揺らぎが、動きを鈍らせた。
突き出した拳は、大きく開いた口の前。
気付いたときにはもう遅く、ただ閉じられる牙を見ているしか出来なくて。
「――――ぁ」
激しい痛み、軽くなった左腕。
次の瞬間には、切り株から鮮血が噴き出して。
「ッああああああああああああああああああああああああああああああ―――――――!!!!!!!!!」
ぼちぼち更新できればと思うので・・・・。
何卒・・・・何卒・・・・!