立花響の中の人   作:数多 命

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『フィーネ』が所有するエアキャリアの中。

拠点は潰されてしまったが、『虎の子』とその餌は確保できたので最悪の事態だけは回避できた。

しかし、次なる拠点や『虎の子』の餌など、目下の課題は山積みだ。

 

「派手にやられたなぁ」

 

手当てを終え腹を押さえるマリアに向け、からかうようにケラケラ笑う。

対するマリアは気まずそうに顔を伏せていた。

初めての対魔導師戦で敗北したのが堪えているらしい。

 

「まあ、そう落ち込むな。あの嬢ちゃん、お前みたいなタイプに慣れてるみたいだったし、対策もある程度出来てたんだろ」

 

言葉こそ労っているようだったが、言い方と表情は全く違う雰囲気。

 

「それに比べて、お前は俺くらいしか手本がいなかったもんなぁ?圧倒的な経験不足!負けたっテェしょうがねぇや!」

 

指を刺して腹を抱えこみ、声を上げて笑い出す。

完全にバカにしている態度だ。

 

「・・・・~~~ッ!!」

 

流石のマリアも、辛抱溜まらんと立ち上がる。

腹が痛んだが気にしていられない。

感情のままに壁を殴れば、笑い声がやんだ。

 

「負けないわよ!!次も!その次も!!」

 

口元を吊り上げたまま見上げてくる彼に、宣言する。

 

「二度と負けない!それでいいでしょう!?」

「・・・・ああ、上出来だ」

 

息を荒く見下ろす教え子に、彼は満足そうに頷いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

◆   ◆   ◆

 

 

 

 

 

 

 

「――――司(カナタ)?」

 

二課本部。

幸い響達に外傷は無く、その日の午前中にはそろって目覚めることとなった。

それぞれのメディカルチェックを終えてから、早速ミーティング。

ウェルの裏切りや謎のバケモノももちろん気になるところであったが。

弦十郎達が何より気にしたのは、響達装者や熟練の魔導師であるティアナを一撃で昏倒せしめた青年について。

彼については意外にも、被害にあったティアナが知っていた。

 

「っていうか、司って・・・・?」

「お察しのとおり、私の師匠・・・・司隊長の、双子の弟さんに当たります。響も話だけなら聞いていたわよね?」

「うん」

 

ぎょっと目を向けた藤尭に首肯して、響に確認するティアナ。

響もまた、手短に頷いて答える。

 

「元は地上部隊所属の魔導師だったんですが、六年前に退職。その後は音信不通でしたが、隊長のところにはたまに連絡をよこしていたようです」

 

モニターに表示された、肩に大剣を担いだ青年『叶』。

浮かべたニヒルな笑みは、遥にそっくりだった。

 

「あの人の兄弟ってことは、やっぱり強いのか?」

「ええ、最低でも隊長(せんせい)と同格・・・・くらいは考えていた方がいいわ」

「最低で?」

 

大声までいなかくとも、驚きを露にする翼。

響を除いて遥の実力を良く知る人物なのだから、無理も無い反応である。

 

「それに、叶さんも素手から得物持ちに転向してるみたいだし、正直実力は未知数・・・・私一人はもちろん、前線メンバーが束になってかかっても対処できるかどうか・・・・」

 

頭に手をあて唸り始めてしまうティアナを目の当たりにし、新たに現れた敵の底知れなさを実感する。

 

「この剣・・・・というか、チェーンソー?これについて何か情報は?」

「それなら既に、リンディ統括官からデータが送られてきている」

 

どうやらティアナが倒れた際に、彼女のデバイスクロスミラージュが手配したらしい。

緒川に答えた弦十郎の手には、送られてきた書類が握られていた。

 

「あれもまた古代遺産(ロストロギア)の一種だそうだ。名前は『魔剣・カラド=ボルグ』、あらゆるものを切断することが出来る、驚異的な切れ味が特長と言う話だ」

「あー、よりにもよってそれかぁ・・・・隊長のゲイ=ボルグとは兄弟関係にあたる、ベルカの戦乱時代の武器ですね」

 

それなりに名のある古代遺産(ロストロギア)だったようだ。

一旦項垂れてから仕切りなおしたティアナが、補足を入れてくれた。

 

「なるほど、だからあの時司だけではなく、私も斬られたということですか・・・・」

 

刃があたった部分に触れ、納得する翼。

あの時は手加減されていたようだが、もし相手が本気で、非殺傷設定を解除していたならば・・・・。

考えただけで、体が震えた。

 

「語られているとおり、切れ味に定評のあるロストロギアです。その威力は凄まじく、地形すら変えてしまいます」

「うへぇ、そんなに・・・・」

「あんたも見たことあるはずよ」

「へ?」

 

げんなりした響は、次の瞬間ぽかんとした。

 

「ほら、スバルの地元のアルトセイムに、『ボルク・バレー』ってあるじゃない?」

「ああー、ミッド版グランドキャニオン・・・・って、まさか・・・・?」

 

二課の面々には聞いたことが無い地名が出てきたが、響が何となく口にした例えのお陰でイメージは出来た。

そして、程度は違えど同じ想像をして、段々目を見開く。

 

「そのまさか、アレやったの、まさにコレ」

「ウソォ!?」

 

思わず立ち上がる響。

クリスも立ち上がるとまでは行かないが、椅子を激しくずらして驚いている。

聞けば、『敵将に止めを刺した際、余波で七つの丘を斬り裂いた』という伝承が残っているらしい。

地球ならフィクションとわきまえた上で納得する内容だが、生憎ミッドチルダは魔法を始めとした何でもアリな世界。

故にぶっ飛んだ内容の言い伝えでも、確かな説得力と現実味を帯びてくる。

 

「てっきり雨とかで削られたもんだと・・・・!」

「それならもっと蛇行してるでしょうが」

「た、確かに・・・・」

 

言われて納得した響は、ゆっくり座りなおした。

 

「遥さんの弟かぁ、また厄介なのが出てきましたね」

「ですが連中の拠点は潰しましたし、向こうの一人には響がダメージを与えています。すぐに行動を起こせないはずです」

「そう考えるのが妥当でしょうな・・・・」

 

藤尭のぼやきにティアナがフォローを入れ、弦十郎は納得する。

加えて、『フィーネ』に属する装者全員がリンカー頼りであり、今回の負荷がまだ残っていると考えられる。

叶という最高戦力がいるとはいえ、彼らも下手に動き回るような愚か者ではないはずだ。

話し合いはそれからも続いたが、ダメージを受けた装者達を考慮して、あまり時間が経たない内にお開きとなった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆   ◆   ◆

 

 

 

 

 

 

 

響達学生組は、午後から登校した。

学校は二課が誤魔化してくれたようで、教室に入るなり体調を心配された。

純粋に心配してくれるクラスメイトや担任に嘘をつくことに、今更ながら罪悪感。

『大丈夫、これは必要な嘘だ』と言い聞かせながら、席に着く。

 

「大丈夫?」

「ん、へーき」

 

気遣わしげな未来にも笑って誤魔化しを入れて、いそいそと準備。

午後は、ここのところ恒例となっている文化祭の準備だった。

既に響達のクラスは準備を終えており、はっきり言って手持ち無沙汰な状態。

なので、クラスとは別に出し物がある生徒は練習に、それ以外は担任に割り振られて他クラスの応援に向かっている。

響はというと、前者に該当する板場に首根っこを引っつかまれて、未来と一緒に空き教室へ連行された。

 

「――――いっやぁ、助かった!練習にかまけて衣装が全然出来てないことに気づいてさ!」

「もう、バキュラの『任せとけ!』は簡単に信じないほうがよさそうだね」

「なにをー!」

 

賑やかにはしゃいでいるが、針を動かす手は止めない。

友人達の微笑ましい様子に顔をほころばせた未来はふと、隣に目をやった。

先ほどから不自然な細静かな響は、『電光刑事バン』の未完成のヘルメットを持ったまま、ぼうっとしていた。

いや、一応作業はしていたが、その手さばきは余りにも遅い。

 

「響?」

「ふぇあ?あ、何?」

 

名前を呼べば、変な声を上げて反応した。

急いで笑顔を取り繕う彼女に、『重症だな』と確信する。

 

「響、本当に大丈夫なの?さっきからずっとぼんやりしてるじゃない」

「えっと、ゴメン・・・・」

「謝らなくていいけど、ぼーっとしてるのはあたしも気になった」

 

響の変な声に反応したのか、板場が身を乗り出せば、他の二人もしっかり首肯。

『ほらね?』と未来に見つめられた響に、逃げ場はなかった。

 

「そりゃあ、あたしらみたいな小市民には言いづらいかもしれないけどさ。友達がそうやって頭抱えてると気になるじゃん」

「板場さんの言うとおりです、相談は出来なくても気晴らしには付き合えますから」

 

『だから頼っていいんだ』と、友人達は暗に伝えてくる。

対する響はというと、どこか気まずそうに目を逸らし、『あー』だの『うー』だの唸っていたが。

 

「・・・・うん、本当にどうしようもなくなったら、お願い」

 

やがて観念したように、乾いた笑みを浮かべた。

それは肯定ではない、やんわりとした拒絶。

察したからこそ、友人達は一度ため息。

だが、これ以上押したところで折れるとも思えない。

だから、薄く笑うだけに止めた。

 

 

 

 

 

 

 

閑話休題。

 

 

 

 

 

響の『不調』は、帰ってからも続いていた。

課題を終わらせて伸びをすると、ため息。

バラエティ番組でひとしきり笑った後、ため息。

これならどうだと未来が腕を振るったご飯には、幸せそうに顔を綻ばせたが。

結局ため息。

ため息をつくと幸せが逃げるというが、だとしたら一体どれほどの幸運を逃がしているのだろう。

それくらい、今日の響はため息が目立っていた。

 

「あ"あ"あ"ああああぁぁぁ・・・・」

 

今もそうだ。

日課である日記をつけ終えた後、一番深いため息をついていた。

そのまま机にのさばった響は、ぼうっと窓の外を見る。

いや、見ているように見えて、意識は内側に向かっているのが分かった。

やはりどこからどう見ても重症である。

 

「・・・・ッ」

 

昨夜から午前中の『お勤め』で、何かあったのだろうか。

尋常じゃない様子に、未来の胸は締め付けられる。

心に巣食った不安のこともあり、行動は早かった。

 

「響ッ・・・・!」

「未来?」

 

項垂れている背後から、ぎゅーっと抱きしめる。

流石に驚いたらしい響は顔を上げて、振り向く。

さて、一方の未来はどうしようかと悩んでしまった。

何か声をかけるべきだろうが、上手い言葉が見つからない。

『響は悪くない』と言ったところで逆効果だろうし、『頑張ってるね』じゃちょっと薄っぺらい。

かと言って下手に褒めたところで、素直に受け止めてくれるだろうか。

温かい背中に額を押し付け、ぐるぐる考えていると。

 

「・・・・あのね」

 

沈黙を破り、響が呟く。

 

「もし、もしだよ?わたしが死んじゃったら、未来はどうする?」

「ッひび・・・・ッ!?」

 

縁起でもない例えに、思わず顔を上げた。

なんてことを言うんだと責めようとして、気づく。

響の体が、震えていた。

自分でも良くないことを言ったと思ったらしい彼女は、顔を向けたまま小さく震えている。

・・・・今日の響は、いつになく弱気だ。

 

「・・・・そうだなぁ」

 

そんな珍しい姿を見たからこそ、未来も言いたいことが何となく定まった。

緩んだ腕をもう一度抱き寄せて、先ほどより強く額を擦り付ける。

 

「響が死んじゃうなら、わたしも死んじゃおうかな」

「・・・・ッ」

 

強張る体をあやすように、苦しくならないように抱きしめる。

 

「だって、響一人だと寂しいだろうし、わたしも響がいないと寂しいから」

「・・・・一緒?」

「うん、一緒」

 

・・・・少し、重たすぎる気もするが。

今語ったことは、紛れも無い未来の本心だ。

響がいなくなったら、きっと怖いほど冷たくて、ときめきを忘れるほど色を失ってしまうだろう。

当然そんな世界は望まないし、こっちから願い下げだ。

何より、

 

「響が言ってくれたんだよ?『一緒に死のう』って」

 

ルナ・アタックの後の、想いの何もかもをぶちまけたあの日。

響がそういって受け止めてくれて、晴れて結ばれた日。

今でもはっきり思い出せるし、これからも忘れない。

 

「響が一緒にいてくれる分、わたしも寂しい思いなんてさせないから」

 

だから、どうか。

 

「そんな暗い顔しないで、笑ってよ。笑ってる響が、大好きなんだから」

 

それっきり、響は何の反応も示さなくなった。

未来もまた、急かすことなく待つ。

やがて、未来の手に温もりが加わった。

響の手だった。

 

「――――ありがとう、元気でた」

「うん、よかった」

 

手を解いて体ごとこちらを向いた響が、改めて抱きしめてくる。

肩口に顔を埋めた未来は、囁く感謝に呟き返した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

K月M日

そういえば師匠、弟さんいましたね。

敵として会うなんて予想外だったけど。

え、これどうなるの。

わたし勝てるの?未来守れるの?

不安だああぁ・・・・。

 

P.S.

励まされて気づいたんだけど。

未来は何というか、一緒にいると落ち着くというか。

太陽、でもないな・・・・。

陽だまり、うん、陽だまりだ。

あったかくて、いるだけでほっとして、安心できる場所。

落ち込んじゃいられない、怖がっちゃいられない。

未来のためにも、頑張らなきゃ。




※このビッキーは『生きるのを諦めるな』を受け取っていません。

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