深夜、某所。
『夜分遅くの出動を強いてしまい、申し訳ありません』
『やっと掴んだ尻尾だ!ここで終わらせるつもりでいくぞッ!』
『明日も学校だし、ぱぱっと片付けちゃいましょう』
夜風に潮の香りを感じながら、装者三人は物陰に待機している。
時計を見れば、作戦開始時刻。
ギアを纏い、頷き合って飛び込む。
廃病院内を駆け抜けて間もなく、出迎える
「っは!盛大なお出迎えだなッ!!」
クリスのやる気たっぷりな声を背後に聞きながら、響はノイズに突っ込む。
頭を引っつかんで握りつぶし、壁に叩きつけて潰す。
屋内と言うことも合ってか、得物を持っているとどうしても動きに制限がかかってしまう。
故に翼もクリスも、無手の響を援護するような戦い方になっていた。
『Master』
もはや恒例となった
『Chemische reakitonen in der atmosphare schlieben.(大気中に薬品の反応があります)』
「本当?」
暗がりに目がなれたからだろう。
言われて、気づく。
――――赤い。
いつの間にか自分たちの周囲を、赤い霧が取り囲んでいる・・・・!
『Warnung. Compliance-rate.(警告、適合率低下)』
「くっそ!どうなってやがる!?」
変化は、警告と同時に起こった。
拳を打ち付けても、ノイズが倒れない。
銃弾で打ち抜いても、刃で両断しても。
傷ついた箇所から再生し、再び向かってくる。
「ノイズが倒せない・・・・!?」
頼みの綱であるシンフォギアの不調。
背筋が寒くなるが、動かないわけには行かない。
アンチノイズプロテクターがいつ切れるかとひやひやしながら、近寄ってくる個体を突き放す。
『新たな動体反応を検知!気をつけて!何か来るッ!!』
「――――ッ」
事態は動く。
友里の警告と同時に響が振り向けば、飛び掛ってくる巨体が見えて。
「GUOOOOOOOOOOOOOッ!!!」
「っぐ・・・・!」
腕が叩きつけられる。
目の前の闇に目を凝らせば、こちらに噛みつかんとする異形の姿。
既存のどんな生物にも当てはまらないが、有名なホラー映画のクリーチャーに良く似ていた。
「あ、っぐ・・・・!?」
爪を食い込ませ押し込んでくるバケモノは、獣らしく唸り声を上げて響に牙を突き立てる。
遠慮なく抉りこむ牙は、肉を削ぎとろうとしていた。
(うっそでしょ、食われる!?)
生き物としての恐怖が走った響は何とか抵抗を試みるが、バケモノは離してくれそうに無い。
新たに血が噴き出し、牙が更に深く食い込む。
「――――頭下げなッ!響!!」
焦る響を諌めたのは、鋭い警告。
咄嗟にかがめば、橙の光がバケモノにぶち当たった。
すぐにヤーレングレイブルが治癒を促進する術式を起動し、傷を止血する。
腕の調子を確かめた響が振り向くと、銃口を向けるティアナの姿が。
「ティア姉!っていうか何時の間に!?」
「『かくれんぼ』が得意なの、知ってるでしょ?」
ノイズには抵抗できないからと本人も言っていたため、てっきり留守番していると思っていたのだが。
どうやら得意の幻術で着いてきていたようだ。
「それに、隠れているのはあたしだけじゃないわよ」
「えっ?」
「いい加減出てきたら?バレてんのよ」
響の傷を癒しながら、暗がりに話しかける。
が、ティアナが望む返事が来る前に、あのバケモノが再び牙を向いてきた。
「あーもう、邪魔」
ため息混じりに銃口を向ければ、展開した魔法陣が鎖を吐き出す。
それらはバケモノを縛り上げ、足元にひれ伏させた。
「――――いやぁ、随分乱暴なレディだなぁ」
遅めのテンポで拍手が響く。
暗闇の中から、出てきたのは。
「ウェル博士・・・・!?」
「やぁ、お久しぶりですね」
一週間前。
米軍基地の襲撃にて行方不明となっていた、ウェル博士その人。
その手には、奪われたソロモンの杖が。
「いつからっていうより、最初からグルだったってことかしら」
「ご明察、貴女は随分頭が回るようだ」
「そんな・・・・!」
てっきり味方だと思っていた人物の裏切り。
響はショックを隠せない。
「そいつを、ソロモンの杖を・・・・!」
だが、声を張り上げる者がいた。
「世界のために役立ててくれるんじゃなかったのか!?」
クリスだった。
歯を食いしばった彼女は、鋭くウェルを睨みつける。
『裏切られた』と一番傷ついているのは、クリスなのだろう。
「もちろん役に立てますとも」
悲痛な声に対し、涼しい様子で答えるウェル。
「ただ、こちら側でないと本懐を成しえないのでねぇ」
「くそ・・・・!」
全く悪びれた様子のない彼に、クリスは隠さず舌打ちした。
「しかし、良いのですか?あなたはノイズに対抗できないのでしょう?」
「やり方はいくらでもある、舐めないことね」
「なるほど、僕くらい簡単に仕留められると・・・・」
目を向けられたティアナは、鼻で笑いつつ銃口を向ける。
隣の響も慌てて構えて前に出る。
「さすがに厄介ですね、この状況は」
言う割には、そこまで焦っていないようだ。
理由はすぐに分かった。
重々しい金属音。
吹いてきた不自然な風に目をやれば、飛行型のノイズが、バケモノが入ったゲージを抱えて飛び去っていくところだった。
「っ・・・・!」
即座に翼が飛び出し、後を追う。
目標はすばしっこく、すでに海上に。
もちろん翼も大きく跳躍して追いかけるが、いかんせん飛距離が足りない。
苦い顔で、歯を食いしばった時。
『翼ァッ!そのまま突っ切れェッ!!!』
弦十郎から、咆哮ともとれる通信。
一瞬戸惑うも、信じた翼は更に飛ぶ。
瞬間、海面を盛り上げて飛び出してくる巨体。
潜水艦丸々を基地にした、新しい二課本部だ。
翼は遠慮なく船体を踏みつけて跳躍。
「っはあああああああああ――――ッッ!!!!」
飛距離は稼げた、標的は目の前。
情け無用の一太刀を、浴びせようとして。
「っはぁ!!!」
横合いから、一閃。
防御こそしたものの衝撃を殺しきれず、翼は海に叩き落される。
「翼さん!?」
ウェルを捕縛しつつ、屋内に飛び出した響達。
翼の安否も当然気になるが、感情をどうにかなだめて乱入者に意識を向ける。
朝日が昇る中、海面に突き立てた得物に着地したのは。
「お待ちしておりましたよ、マリア・・・・いいえ」
拘束されているというのに、ウェルはなおも余裕を持って話しかける。
まるでこちらを挑発するように、淡々と続けた。
「―――――フィーネ」
思わず振り返る。
息を呑む。
今この男は、何と言った・・・・!?
「ハッタリ・・・・なわけが無いか」
「ええ、そのとおりです」
威嚇のために銃口を向けていたティアナとクリスだったが。
ティアナの方は落ち着き払ったウェルの様子から詭弁でないと判断し、構えを解く。
――――響達が相対した古代の巫女『フィーネ』は。
『あの御方』に想いを告げるために暗躍してきた存在。
自らが宿った子孫がアウフヴァッヘン波形を浴びれば、即座に復活する『リインカーネーションシステム』を用いて、数千年もの長い間生きながらえてきている。
『前の器』である櫻井了子の肉体は既に崩壊した。
ということは、マリアは次の器ということになる。
「マストッ!ダァーイッ!!!」
「やあああああッ!!!」
「――――ッ!?」
「ちきしょ、次から次へと!!」
ショックを覚える前に、新手。
ライブの時に出会った鎌の少女と丸鋸の少女が、響とクリスに襲い掛かる。
「ウェル博士は私が見張ってる!遠慮せず対処しな!!」
ティアナの頼もしい言葉を聞きながら、巻き込まないようにその場を離れる。
撃ち出される丸鋸を避けつつ着地したのは二課本部。
すでにマリアと翼が、剣戟激しく撃ち合っているところだった。
「君は知っているの?マリアさんが・・・・」
「フィーネだっていうことは知っている」
「っだったらなおのこと止めるべきなんじゃないの?」
「まだそんなことを・・・・!」
「敵だけじゃない、自分まで傷つけて・・・・君たちは、何がしたいのさ!?」
まだ人格を乗っ取られていない、いや、既に乗っ取られているかもしれないマリア。
赤の他人の自分たちはいい、だが、傍にいるこの子達はどうなる?
一週間前と同じく不機嫌そうに顔をしかめる少女に、響は食って掛かる。
「~~~~ッ!!」
問いに対し、激情した少女は牙をむくように口を開く。
「―――――月の落下、ですって・・・・!?」
奇しくも同じ問いを投げたティアナは、ウェルの返答に驚愕する。
「ええ、三ヶ月前の『ルナ・アタック』で欠けた月は、現在も徐々に公転を狂わせています。このままでは年が開ける前に、地表に落下してくるでしょうね」
「そんな大事、騒ぎにならないはずがない!それこそ、米国の宇宙開発機構なんかが見逃すはずが・・・・!」
ティアナの言うとおり。
宇宙開発の分野はまだまだ発展途上だが、西暦2000年代に比べればその発展振りは飛躍的だ。
特に先頭を走る米国が、そんな重要事項を見落とすとは考えにくい。
「もちろん見逃していませんよ、ただ黙っているだけで」
肩をすくめたウェルの返答を聞き、ティアナは最悪の答えにたどり着く。
「まさか、自分達だけが助かろうとしている連中がいる?」
「またまたご明察です」
なんてこったと、頭を抱えそうになる。
ルナ・アタックから三ヶ月、世界は未だに不安定だ。
人々に巣食った不安で、何かしらの不和が生まれると思っていたが。
まさかここまで悪い形で出てくるとは・・・・。
「一番頼るべき組織が信用なら無い、ならば、自ら行動するしかないじゃないですか」
最もな意見に、ティアナは口を噤んでしまった。
「――――自分勝手な人の所為で、弱い人達が見捨てられる・・・・だからわたし達が、その弱い人達を守るんだ!」
「ぐ・・・・!」
巨大な刃を、手甲で受け止める。
本来人に向けるべきでないものが目の前で火花を散らす様を見て、心穏やかでいられない。
だが、響は反撃に転じなかった。
攻撃できなかった。
――――一緒なのだ。
三ヶ月前のあの頃、自分に牙を向いてきたクリスと。
一撃一撃に、何かを込めて、訴えて。
目の前の響にぶつけてきている。
クリスにも事情があった。
ならば、似た思いを響かせるこの子もきっと・・・・!
「ぁ、ぐ・・・・!」
不意に、攻撃がやんだ。
我に帰った響が観察すると、少女が纏っているギアの節々が、プラズマを散らしてショートしていた。
「時限式は、ここまでなの・・・・!?」
「それってまさか!?」
『時限式』。
その表現はよく知っていた。
見れば、翼と対峙していたマリアも膝をついている。
纏ったガングニールは、同じくプラズマを散らしていた。
あれは適合係数が低下したときに見られる現象だと、翼が話してくれたのを思い出す。
先ほどの響達も、もう少し下がればああなっていた。
「・・・・ッ!」
かつての相棒と同じ苦しみを味わう目の前の女性に、翼は一瞬怯んだが。
すぐに心を鬼に変え、刀を構える。
殺しはしないが、加減はしない。
理由がどうあれ、彼女達が誰かを傷つけるやり方を選んでいるのは間違いないのだから。
「話はベッドで聞かせてもらうッ!!!」
苦い顔のマリアに接近。
峰を向け、昏倒狙いの一閃を叩き込もうとして、
「――――ホルスッ!!!」
『Yes, Ma'am.』
『Standbay Ready, set up.』
マリアの声に呼応して、炎が翻る。
えーっとですね。
私はいわゆる『強い女性』というやつが好きでして。
だから私が女性キャラを書くと結構頼もしい感じになってしまうんです。
はい!以上ッ!
誰にするでもない言い訳おしまいッ!!←
ちなみにデバイスの名前にちょっと仕掛けをしていたり。
多分すぐにバレると思いますが(