立花響の中の人   作:数多 命

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どうしようもないやつですネ!←


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まず行動を起こしたのは翼。

立ちふさがるノイズを次々切り捨てながら、怒涛の勢いでステージに舞い戻る。

勢いを殺さぬまま足を踏みしめ、マリアへ突撃。

刃を打ち付ける。

マリアは咄嗟に剣型マイクで受け止めるが、一秒と持たずに切断されてしまった。

先ほどとは真逆の結果に苦い顔をしながら、バックステップで距離を取る。

 

「っは!」

 

そして徐にマントを翻したと思えば。

単なる布のはずのそれが、意思を持ったように飛び掛ってきた。

アームドギアを使ってくるとばかり思っていた翼も一瞬驚いたが、すぐに切り換えて応戦する。

弾き飛ばせば、明らかに布ではない手応え。

重く、硬い連撃が次々繰り出される。

もちろん攻撃の手数はマントだけではない。

 

「はぁッ!やあぁーッ!!」

 

時折蹴り技も加える猛攻は、確実に翼と渡り合っていた。

 

「・・・・ッ!」

 

一方の翼は、マリアの攻撃をしっかり捌きながら考える。

先ほどからちらついて敵わない『コート』と『マフラー』。

その幻は、マリアが格闘技を使い始めてから頻繁に見えるようになってきた。

何度も見ているお陰で、『彼女達』が何者か分かってくる。

そして、何故見えるようになったのかも。

 

(もう、惚けられない・・・・!)

 

歯を食いしばった翼は、強く一閃してマリアを弾き飛ばす。

二刀の柄同士を連結させ、一つの刃に。

手中で回転させれば、刀身に炎が迸る。

足元を滑るように移動し、崩れた体勢を立て直す標的との距離を一気に詰めて。

一閃。

 

「~~~ッ!」

 

斬撃と灼熱が、マリアを襲った。

『風輪火斬』。

ルナ・アタックの際顕現した炎の属性をきっかけとし、シグナムとの鍛錬でヒントを掴んで編み出した技。

弛まぬ鍛錬の成果は、十分に出ていた。

 

「――――ッ」

 

追撃を与えて終わらせようと、振り返ったところで。

上空に、気配を察知する。

 

「やああああーーーーッ!」

「デェーッス!!!」

 

咄嗟に飛びのけば、遅い来る二つの『凶器』。

桃色の丸鋸と翡翠の鎌が、翼がいた地点に突き刺さっていた。

 

「イガリマとシュルシャガナ・・・・」

「到着デース!」

「伏兵か・・・・!」

 

新手の登場に、眉をひそめる。

『イガリマ』に『シュルシャガナ』。

恐らく彼女達が纏った聖遺物の名前だろう。

マリアのガングニールと同じ黒い装いの二人は、響よりも幾分年下に見えた。

 

「――――私一人でもよかったのだけれどね、これでこちらの勝利は確実になったというもの」

 

切られた箇所を押さえていたマリアが立ち上がる。

手が退けられ、翼は驚愕に目を見開いた。

傷がないのだ。

いや、かすかに焦げたような跡はあるが、それだけだった。

確かに捕らえたと思った刃も、炎も、彼女には効いていない。

どういったカラクリがあるのか、翼には予想がつかなかった。

 

「さあ、何して遊びましょうか?」

 

そう、愉しそうに浮かんだ笑みに、翼は今度こそ確信する。

マリアは、そして合流してきた少女達も十中八九・・・・!

 

「フォトンランサーッ!ジェノサイドシフトッ!!」

「土砂降りのッ!十億連発ッ!!!」

 

刹那、稲妻と鉛玉が降り注ぐ。

翼を庇うように地面を両断する攻撃。

 

「待たせたな!」

「助けに来ました!」

 

放った本人である響とクリスが、翼の傍に降り立った。

これで三対三。

数のは同じになったが、目の前の彼女等が翼の思っているとおりなら。

 

「だああああああ!」

「はああああああ!」

 

黒煙の向こうから、先ほどの新手たちが飛び出してくる。

鎌の少女はクリスに、丸鋸の少女は響に斬りかかる。

 

「わたし達は大丈夫ですッ!」

「だな!あんたもヘマすんなよッ!」

 

思わず振り向いた翼に各々呼びかけながら、一対一の戦闘に入り込んだ。

 

 

 

 

◆   ◆   ◆

 

 

 

 

「―――――いよっと!」

 

翼から少しはなれた場所。

身を翻した響は、足元を揺らしながら着地。

追ってきた丸鋸の少女と対峙する。

ヘッドギアからツインテールのように伸びた格納庫に、見た目にそぐわぬ狂暴な得物を持っている彼女。

第一印象は『細い』だった。

同じ女の子として、少し心配になるくらいの痩せ型。

 

「・・・・ちゃんと食べてる?」

 

遥や弦十郎のような、子どもによく構う大人に囲まれていたからだろう。

口から自然と、そんな言葉が漏れていた。

 

「この場でする会話じゃないし、あなたに答える義理も無い」

「だよねぇ」

 

場違いな発言であることを自覚していたからこそ、響は苦笑い。

 

「けど、今回の騒ぎはちょっとやりすぎなんじゃないかな?アメリカンジョークにしちゃ度が過ぎてる」

「目的のためには必要なこと、冗談でこんなことはやらない」

 

ふと、丸鋸の少女は不快そうに顔を歪める。

 

「そもそもこの会話に意味はあるの?私にとってあなたは敵、目的の邪魔をする障害」

「んー、色々聞くのはわたしの流儀というか、趣味というか」

 

戦場に似つかわしくない呑気な声で、響は続ける。

 

「ほら、色んな人が、色んな理由で戦うからさ?対峙する相手への、せめてもの礼儀みたいなものだよ」

 

響にとって目の前に居る少女は、ノイズのような無機物ではない。

同じように怒って泣いて、笑うことが出来る人間だ。

そんな彼らの心を踏みにじらないようにする、響なりの気遣いだったが。

 

「そんなの、ただの偽善じゃない・・・・!」

「あはは、手厳しいなぁ」

 

丸鋸の少女は、一層顔をしかめた。

 

「誰かの痛みに、触れて欲しくない場所に土足で踏み入って・・・・!」

 

どうやら響の態度が癪に障ったようだ。

少女の全身から、敵意があふれ出す。

 

「きれいごとばかり言う人が、私達のことなんて分かるはずがないッ!!!」

「そうつれないこと言わないの」

 

乱れ撃たれる小さな丸鋸の群れ。

構えた響はステップで回避。

続く第二波を弾き飛ばしつつ前進し、一気に少女へ詰め寄る。

 

「せっかく誰かの為に戦えるんだからさ。理由があるなら、助けになりたいんだよ?」

 

攻撃はしない。

ダメだぞと言いたげに額を小突いて、微笑む。

やろうと思えば即座に無力化出来るが、それは響のポリシーが許さなかった。

 

「ッそれこそが偽善!!」

 

しかし、今の少女にとっては逆鱗に触れる内容だったようだ。

巨大な丸鋸で薙ぎ払い、響と距離を取る。

 

「痛みも何も知らないくせにッ、『誰かの為に』なんて言って欲しくないッ!!!」

「――――」

 

今度は、響が顔をしかめる番だった。

少女の猛攻をため息交じりに回避すると、再び懐へ。

防御の為にというか、本能的に手が突き出される。

思ったとおり、ここまで近づかれるのには慣れていないらしい。

手を払いのけて引っつかみ、足を軽く蹴る。

そうすれば少女は成す術もなくひっくり返った。

 

「っあ・・・・!」

「なーんでそんなこと言うかなぁ?そういう決め付けはダメだよって、習わなかった?」

 

片腕を掴んだまま地に伏した背中を押さえつけ、動きを封じる。

 

「ッそんなこと教えてくれる親なんて、居なかった!!」

 

拘束技に苦しみながらも、少女はなお威勢よく叫ぶ。

だが上を見上げた瞬間、目を見開いた。

 

「――――奇遇だね」

 

だって、今まで気味悪いくらい笑みを浮かべていた顔が。

 

「わたしもいないの」

 

泣き出しそうなくらい、悲痛になっていたから。

人畜無害そうな能天気が一転し、どこか物悲しげなしかめっ面。

呆けた少女ももちろんだが、響もどこか気を抜いてしまったのだろう。

 

「離れろデェーッス!!!」

「ッ・・・・!」

 

襲い来る翡翠の一閃を、紙一重で回避する。

飛びのいた響が前を見れば、鎌の少女が味方を守るように立っていた。

 

「悪い!突破された!」

「いいよ、気にしないで」

 

少し遅れてクリスが合流する。

ミッドチルダへ行って以来、接近戦も練習し始めた彼女だが。

やはりまだ苦手意識があるようだった。

とはいえ、クリスという心強い後衛が来てくれたのはありがたい。

響は改めて、二人と向き合おうとして。

 

「・・・・!?」

 

視界の隅で、閃光。

弾かれるように見上げれば、天を突かんばかりに巨大なノイズがいた。

 

「増殖分裂タイプ・・・・」

「こんなの使うって聞いてないデスよ!」

 

どうやらこれの出現は、少女達にとっても予想外だったようだ。

同じように見上げた二人は、各々驚きを隠せないようだった。

 

「司ッ!雪音ッ!」

「な、うっわ!?」

 

翼の鋭い警告。

再び煌く閃光を見た響は、咄嗟にクリスを抱えて離脱する。

直後、砲撃魔法に負けないような規模のレーザーが通り過ぎた。

呼び出したはずのノイズを攻撃し、響達と少女達を隔てる。

 

「おいおい、自分らで呼び出したノイズだろ!?」

 

クリスは驚愕と呆れが入った声を上げたが、行動の答えはすぐに分かった。

ボコボコと、まるでマグマが湧き出るように。

ノイズの体が増殖していったのである。

マリア達の姿は見えない。

隙をついて撤退してしまったようだ。

 

「っは!」

 

まずは牽制と翼が斬撃を放てば、ダメージは通るもののすぐに再生していく。

ついでに体積も増えていく。

 

「なるほど、増殖分裂とはよく言ったものだ」

『皆さん!会場の外には、まだ大勢の人が居ます!』

 

緒川からの通信。

声は切羽詰っている。

 

『そのままノイズが溢れてしまえば・・・・!』

「みんなが・・・・未来が!!」

「けど下手にちょっかい出しても増えるだけだぞ!どうする!?」

 

言っている間にも、ノイズの体は膨らみ続けている。

猶予は無い。

 

「――――絶唱」

 

口を開いたのは、響。

 

「絶唱を使いましょう!あのコンビネーションなら、纏めて吹き飛ばせますッ!」

「おいおい正気か!?だいたいアレは、お前への負担だって・・・・!」

 

響、クリス、そして翼の脳裏には、同じ戦法が浮かんでいた。

つい先頃完成させた、装者三人による必殺技。

しかしそれは、要である響を蝕みかねない危険な技だった。

 

「未来が死ぬ方が、もっとやだ」

「予想通り過ぎて安心したぜコンチクショウッ!!」

 

クリスが案じて詰め寄れば、響は真顔のままやや早口で宣言。

こうして話している間に、ノイズは先ほどの倍に増えていた。

 

「議論の猶予は無い、やるしかあるまい」

「ったぁく・・・・わーった!」

 

三人は頷きあい、手を繋ぐ。

示し合わせることなく、同時に息を吸い込んで。

喉を、振るわせた。

 

「 Gatrandis babel ziggurat edenal 」

 

音色が響く。

 

「 Emustolonzen fine el baral zizzl 」

 

魂をくべて、命を燃やす旋律。

 

「 Gatrandis babel ziggurat edenal 」

 

己の得物に込めるわけでも、解き放つわけでもなく。

 

「 Emustolonzen fine el zizzl... 」

 

手を繋いだ先へ、集束する。

 

「スバーブソングッ!」

「コンビネーションアーツッ!」

「セット!ハーモニクスッ!」

 

瞬間。

迸る光、風、力。

その中心で歯を食いしばって耐えるのは、響。

『S2CA』。

装者三名による絶唱のコンビネーション技。

シンフォギアの決戦機能の一つである絶唱を、響の『束ねて繋げる力』で集束し。

一気に打ち出す大技。

しかし、装者三人分の負担が響一人に襲い掛かる、諸刃の剣でもある。

 

「耐えろ司!」

「持ってかれんな!しっかりしろッ!」

 

エネルギーを送り込む二人は、脇から檄を飛ばす。

その声が、何度も暗転しそうになる響の意識を繋ぎとめていた。

体を黒く明滅させながら、獣のような唸り声を上げながら。

一歩間違えば身を滅ぼす力を、一点に集束する。

 

「――――ッ!!」

 

束ねきったタイミングで、手甲を合体。

 

「フォニックゲインをォ・・・・!」

 

見た目も威力も倍増した拳を構えて、飛び出す。

 

「力に変えてええええエエエェェェェ―――――――ッッッッ!!!!!」

 

ありったけの雄叫びと共に、突撃。

ノイズの巨体に、重く重く拳を打ち込む。

迸る七色の光が吹き荒れ、ノイズの体も、本体も。

纏めて巻き込み、蹂躙し、消し飛ばす。

そして跡に残ったのは、哀れにも葬られた黒い残骸。

響は束の間滞空してから、着地した。

 

「お、おい!」

 

降り立つと同時に膝をついた響に、クリスが駆け寄る。

 

「どうした?まさかバックファイアを中和できなかったとか・・・・!?」

「あー、違う違う」

 

珍しくおろおろする彼女に、響は苦笑い。

 

「ちょっと降りるのに失敗しただけ、へーきだよ」

「そ、そっか・・・・?」

 

完全に納得したかと言えばそうでもないが、ここは退いてくれるようだ。

クリスにありがとうを込めて笑いかけた響は、ふと自分の手のひらを見つめる。

 

(偽善、かぁ)

 

目を細めれば、赤い汚れを幻視した。

春先から続いた激動の日々で、危うく忘れるところだった『罪過』。

実のところ、丸鋸の少女に言われた『偽善者』の言葉は間違っていなかった。

 

(結局図星を突かれて逆ギレしちゃっただけだしなぁ、かっこ悪いなぁ・・・・)

 

弱々しく握り締めて、小さくため息を漏らす。




本来なら
調「偽善者クソァ!」
響「上等だゴルァ!」
みたいになる予定でしたが、出来上がってみると結構おとなし目に。

次回もどうぞよろしくお願いします。

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