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ノイズが発生した米軍基地にて、案の定無双を成し遂げた響とクリス。
現在は、弦十郎が手配したヘリの中で、東京に向けて帰還中だった。
「いつまで拗ねてんだよ」
「あたっ」
難しいような、不服そうな顔で黙る響。
ノイズを殲滅し、山口を発ってからずっとこの調子だった。
大方、帰れるのを邪魔されて怒っているのだと見当をつけ、遠慮なくど突くクリス。
「もう、とっくに拗ねてないよぉ」
「じゃあ何だってんだよ、柄にもなくだんまり決め込みやがって」
「うん、ちょっと・・・・」
響は半分生返事を返して、再び考え込んでしまった。
今回も速やかにノイズを討伐し、犠牲者を僅かにでも減らせた。
それは大変結構なのだが。
引っかかっているのは、誰が、何の狙いでやったのか。
夜通しの移送中に出くわしたノイズの群れは、何者かの指示を受けて動いている節があったし。
実際弦十郎を始めとした二課スタッフ達も、それを確認していた。
さらに、杖の受け渡しが完了した直後の、ノイズ襲撃。
昨夜のことも踏まえ、偶然にしては出来すぎている気がしたのだ。
特に米軍基地への襲撃なんて、(私怨を抜きにして)タイミングがいいなんてものじゃない。
しまいには騒ぎのドサクサに紛れて、ソロモンの杖を奪われるという始末。
二課本部の見解に寄れば。
何者かがノイズを操り、ソロモンの杖強奪を決行したということだ。
杖以外の手段と考えて思い出すのは、ミッドチルダでの出来事。
彼ら自体はあの一件でほぼほぼ御用となったらしいが、残党が居ないとも言い切れない。
そうでなくても、魔法の効かないノイズを『優秀な戦力』と見る
その場合、ノイズに対抗できる力を持った響達に、少なからず接触があると考えるべきだろう。
計画遂行の邪魔な存在として、あるいは抑止力のために引き入れたい戦力として。
「ふんッ!」
「あたッ!?」
思いっきり頭をひっぱたかれ、意識が現実に戻った。
「く、くりすちゃぁん?」
「似合わねーんだよ、ばーか」
隣を見れば、呆れ顔のクリスが手をひらひらさせている。
「そういう小難しいことは、おっさん達に任せりゃいいだろ。お前はお前でいつもどおり、現場を引っかきまわしゃいいんだ」
言いつつそっぽを向く顔は、何となく赤く見えた。
・・・・何時のことだったか。
修行時代、似たような励まし方をしてくれた人がいた。
今でも姉貴分として慕っているその人は、目標の一つだ。
「・・・・ありがと、クリスちゃん」
「ちょっせぇ、調子にのんな」
照れ隠しに飛んできた二撃目は、思ったよりも痛くなかった。
「響ちゃん、クリスちゃん」
友人の優しさにほっこりしていると、友里がモニターを見るように促した。
暗い画面が灯り、煌びやかな光景が映し出される。
そこにいたのは、
「翼さん?」
と、翼とコラボすることになった海外の歌姫。
『マリア・カデンツァヴナ・イヴ』その人。
「おいおいいーのかよ、テレビ中継なんざ受信しちまって」
「本当はダメなんだけど、今回だけね。二人とも頑張ってくれたし、これくらいしなきゃバチがあたっちゃう」
口元に人差し指を当て、ウィンクする友里。
ヘリパイロットも笑ってくれているのが、ガラス越しに分かった。
「ほら、始まるわよ」
再び促された二人は、改めて画面に目をやる。
◆ ◆ ◆
座席数が余裕で五桁に至る会場は満員。
人と言う人がごった返しているそのど真ん中で、二人の歌姫が高らかに歌い上げる。
人間に定めなど無く、過去を引き千切って飛び立てる力があると。
強く、勇ましく。
時折相手の力量を測るように、力強く。
己のうちにある『歌』の全てを、響かせる。
やがて、高く、細く響くビブラートで、締めくくった。
東西それぞれが誇る歌姫のパフォーマンスに、観客が沸かないわけが無い。
曲が終わってもなお鳴り止まぬ歓声は、二人の歌のすばらしさを物語っていた。
「みんな!ありがとう!」
歓声が一段落したころを見計らい、翼が口を開く。
「私はいつも、みんなに勇気をもらっている!だから今日は少しでも、私の勇気をみんなに分けられたらと思っている!」
世界に羽ばたくと、自分も加えた全ての人に歌を届けるのだと宣言したのが、効いているのだろう。
翼ファン達は歓声と共にサイリウムを振り回す。
「私の歌を、世界中に全部くれてあげる!」
続くはマリア。
衣装をなびかせ、手を払う。
「振り返らない、全力疾走だ!」
不敵に笑いながら告げるのは、強気な台詞。
「ついてこれる奴だけ、ついてこいッ!!!!」
次の瞬間、翼に負けないくらいの歓声が巻き起こる。
この日本にも、それだけファンがいるということだろう。
「そして、あなたにも。日本のトップアーティストに出会えたことに、感謝を」
「私も、すばらしいアーティストに出会えたことに、感謝する」
差し出された手を、翼は躊躇うことなく握り返した。
二人が握手を交わしたことで、納まりかけていた会場は再び沸きあがる。
「私達で伝えていかなきゃね、歌には世界を変える力があるということを」
「ああ、人と人とが繋がるための力だ」
マイクから離れて、そんな希望に満ちた会話を交わす。
出会ってまだ数時間の相手だが。
翼はマリアと親しくなれそうな、そんな予感を抱いていた。
マリアもマリアで、先ほどまでの凛々しいものとは違う、穏やかな笑みを浮かべている。
握った手が、とても頼もしく感じた。
頼もしく思うのも束の間。
手が離れて、背を向けられる。
・・・・どうしてか。
一瞬決別されたように錯覚してしまい、翼は呆けた。
「―――――そして」
予感は当たる。
マリアが徐に衣装を翻せば、会場に溢れる翡翠の光。
観客の悲鳴で我に帰り、見てみれば。
通路と言う通路に所狭しと並ぶ、日頃から顔を合わせている仇敵達が。
「な、何を・・・・!?」
目を見開く翼へ、あるいは怯える観客達に。
檄を飛ばすように、マリアは声を張り上げる。
「――――うろたえるなッ!!!!」
「・・・・ッ」
肩が跳ね上がったが、お陰で思考を切り替えられた。
・・・・大変残念なことだが、目の前にいる彼女は敵だ。
呼び出されたノイズが微動だにしていないことから、マリア本人、あるいはどこかにいるであろう仲間が操っているのだろう。
普通なら、ソロモンの杖を思い浮かべるが。
ミッドチルダでの経験から、そうとは限らないと苦い顔をする。
「あーら怖い、可愛い顔が台無しよ?」
「そういえば鞘走るのを躊躇うとでも思ったか・・・・!?」
念のために首もとの装飾を外し、いつでもギアを纏えるように構えれば。
目ざとく見つけたマリアが、挑発的に笑いかけてくる。
目的は未だ不明だが、一般人のすぐ傍にノイズがいるという非常事態。
戦うことに躊躇いはない。
『待ってください!翼さん!』
歌おうとしたところで。
耳元の通信機から、緒川から制止の声が聞こえた。
『今は会場に人がいる上、ここの様子は全世界に生中継されています!』
「・・・・くっ」
熱った頭が冷える。
シンフォギアとは基本秘匿される存在だ。
さらに最近は『魔法』だの『異世界』だのに関わりを持ったこともあって、ますます公表しにくくなっている。
加えて本番前に緒川から、『傷ついた人々を癒すのも、風鳴翼の役目だ』と諭された。
今ここで剣に変じてしまえば、その役目も全うできなくなる。
「・・・・何故、こんなことを」
ならばせめて、と。
搾り出すような問いを投げかける。
言葉で答える代わりに、マリアは息を吸い込んで。
「Granzizel bilfen gungnir zizzl ....」
紡がれたのは、同じなようで違う旋律。
呆気にとられる翼の前で、マリアが閃光に包まれる。
「――――ライブ会場にて、アウフヴァッヘン波形を感知!」
「波形パターンを照合します!」
放たれているのは、アウフヴァッヘン波形。
当然、二課でも観測されていた。
スタッフ達が忙しなくキーボードを叩き、マリアが見せたギアの解析を進める。
エリートたる彼らの仕事は早く、一分と立たぬうちに結果が示された。
「・・・・ッ!?」
モニターに大きく表示された結果に、弦十郎はデスクを叩きつつ立ち上がる。
「ガングニールだとォッ!?」
響や奏のものと違い、全体的に黒い装い。
色以外の目に見える違いと言えば、彼女が漂わす強者のオーラを象徴するマントだろう。
「――――私は、私達は『フィーネ』」
会場中の、世界中の畏怖の視線を集めながら。
マリアは高らかに宣言する。
「終わりの名を持つ者だッ!!!」
このマリアさんは『精神安定剤』がない代わりに、『起爆剤』がいます。
ビッキー達、火傷で済むといいですねww←