R指定つくかどうかはちょっと判断突かなかったので、前書きにて注意喚起をさせていただきます。
――――熱い。
吐息がかかった場所が、触れられた箇所が。
じんわり温もりを伴って、体を温める。
―――みく
名前を呼ばれる。
耳から甘い痺れが侵入して、脳を犯す。
―――みく
背筋に電流が走る。
肌が粟立つ。
体が言うことを聞かない。
手足には全く力が入らない。
だというのに、逆らおうとは全く思わなかった。
―――みく
温もりに包まれる。
優しい手のひらに撫でられる。
熱く、甘く、溶けてしまいそうな心地よさ。
何もかも委ねようと、手を伸ばして。
「―――――」
身を起こす。
いつも通りの寮の部屋。
当たり前だが、ちゃんと衣服を着ていた。
束の間、呆然とした未来は。
「・・・・~~~ッ!!!」
次の瞬間。
なんつー夢を見ているんだと、一人悶える。
それもこれも、昨晩『大人のキス』なんてかましやがった恋人のせいだ。
ああそうだとも。
決して『そういうの』を夢見た自分だけが悪くない。
「ひびきの、ばかぁ・・・・!」
熱った顔を必死に抑えながら、搾り出すように呟いた。
もっとも。
一番文句を伝えたい本人は、遠い空の下にいるのだが。
羞恥と恨めしさがない交ぜになる傍らで、どうしているのか気になった。
◆ ◆ ◆
「へっくち!」
「何だ?風邪か?」
「かなぁ?」
爽やかな秋晴れの下、響は盛大にくしゃみ。
怪訝な顔のクリスの隣で、首をかしげた。
ここは山口某所、米軍基地。
米国からの依頼である、サクリストSことソロモンの杖を引き渡すため。
響、クリス両名は、その移送任務に携わっていた。
途中ノイズの群れに遭遇したりしたが、二人の敵ではなかった。
特に響のコンディションは終始絶好調であり、クリスの仕事は半分も無かったほどだ。
当然『何かあったのか?』と問いかけられたが。
意味深ににやついた彼女を見て、クリスは何となく察しがついたのだった。
「これにて移送任務は終了です、お疲れ様でした」
二人が取りとめも無い会話をしている脇で、友里が手続きを済ませる。
アメリカ兵が差し出した電子書類に、同じく電子の判子を押して。
これで、目的は果たされた。
「見せてもらいましたよ、ルナ・アタックの英雄の力を」
ほっとする響達に話しかけてきたのは、今回の任務で同行した学者。
『ジョン・ウェイン・ウェルキンゲトリクス』だ。
自ら『ウェル』と呼んでくれと言ってきたので、遠慮なく『ウェル博士』と呼んでいる次第である。
「え、英雄ですか・・・・」
送られた賛辞に対して、響が浮かべたのは苦笑い。
褒められているのは分かるが、最近その英雄扱いで大変な目にあったばかり。
どうも素直に喜べなかった。
「女の子には、あまりピンとこない表現ですか?」
「えっと、すみません。褒められているというのは十分に伝わっていますが、なろうと思ってなったわけじゃないので、どうにも・・・・」
誤魔化すように、乾いた笑い。
ウェルもウェルで、『急に付いた偉大な称号に戸惑っている』と判断したらしい。
「どうか胸を張ってください、不安定になりつつある世界は今、英雄の存在を必要としているのです」
響を微笑ましそうに見つめながらも、だからこそと拳を握る。
「そう!誰からも羨望される――――」
何か思い入れがあるのか、語りに力が入って。
「――――英雄の存在をッ!!」
伏せていた目を、くわっと見開いて締めくくる。
「は、はあ・・・・」
勢いに押された響は、いまいちピンときていない様子だった。
「ま、厄介な連中に目を付けられやすいってのは、覚えといた方が良いかもな」
助け舟を出してきたクリスに、『あの子のためにも』と囁かれて。
響は表情を引き締めたのだった。
「皆さんから託されたこのソロモンの杖は、ボクがきっと役立てて見せますよ」
『ソロモンの杖』。
72のコマンドで、ノイズを操ることが出来る聖遺物。
アメリカは今後、このソロモンの杖を解析することで、ノイズ対策への光明を見出そうとしているのだった。
「不束なソロモンの杖ですが、よろしくお願いしますッ!」
「頼んだからな」
頭を下げる響に、忠告するように託すクリス。
ウェルは二人に対し、強く頷くことで答えた。
何はともあれ、これで移送任務は終了。
米軍基地を出る頃には、響の足取りが軽くなっていた。
「この分なら行けそうだな」
「うん!夜までに向こうに戻れる!」
何を隠そう、今日は『QUEENofMUSIC』。
兼ねてより翼から招待を受けていた、大規模ライブがある日である。
最も、響にとってそれは喜びの半分。
もう半分はやはり、未来に会えることだろう。
離れていたのはたった半日だけだが。
二人の仲睦まじさを思い知らされているクリスからすれば、予想通りだった。
「二人が頑張ってくれたから、司令が東京までのヘリを手配してくれたわ」
「マジっすか!?」
報告を終えた友里からの、思っても見なかった朗報。
響は身を乗り出し、満面の笑みを浮かべたが。
直後、背後で轟音。
振り向けば、大型が米軍施設を破壊しているのが見える。
「マジっすか・・・・!?」
「マジだ!行くぞ!」
「わーん・・・・」
がっくり肩を落とす響だが、クリスと共に施設へとんぼ返りする。
嘆きこそすれ、やるべきことを見失うほど幼稚ではない。
避難する米兵の流れに逆らい、ノイズの前へ。
聖詠を唱えてギアを纏う。
が、
「っふん!」
出会い頭に放ったのは、ジュエルシードとの戦いでも見せた砲撃。
閃光が、一気に群れを薙ぎ払う。
「お、おい・・・・?」
中々荒っぽいやりかたに、さすがのクリスも顔を引きつらせた。
恐る恐る、響の様子を伺ってみれば。
口元を結び、眉間に皺を寄せ。
先ほどとは打って変わって、明らかに不機嫌な彼女が。
たったそれだけでこの後を察したクリスは、内心で静かに合掌するのだった。
◆ ◆ ◆
『こちらの準備は整いました』
「そう、グズグズしている暇はないということね」
「さあ、世界最後のステージの幕を上げましょう」
ノイズ「来たよー」
響「ようこそいらしゃい、死ね」
ノイズ「」
クリス「南無ー」