立花響の中の人   作:数多 命

43 / 55
今回序盤、ちと色っぽいです。
R指定つくかどうかはちょっと判断突かなかったので、前書きにて注意喚起をさせていただきます。


42ページ目

――――熱い。

吐息がかかった場所が、触れられた箇所が。

じんわり温もりを伴って、体を温める。

 

―――みく

 

名前を呼ばれる。

耳から甘い痺れが侵入して、脳を犯す。

 

―――みく

 

背筋に電流が走る。

肌が粟立つ。

体が言うことを聞かない。

手足には全く力が入らない。

だというのに、逆らおうとは全く思わなかった。

 

―――みく

 

温もりに包まれる。

優しい手のひらに撫でられる。

熱く、甘く、溶けてしまいそうな心地よさ。

何もかも委ねようと、手を伸ばして。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「―――――」

 

身を起こす。

いつも通りの寮の部屋。

当たり前だが、ちゃんと衣服を着ていた。

束の間、呆然とした未来は。

 

「・・・・~~~ッ!!!」

 

次の瞬間。

なんつー夢を見ているんだと、一人悶える。

それもこれも、昨晩『大人のキス』なんてかましやがった恋人のせいだ。

ああそうだとも。

決して『そういうの』を夢見た自分だけが悪くない。

 

「ひびきの、ばかぁ・・・・!」

 

熱った顔を必死に抑えながら、搾り出すように呟いた。

もっとも。

一番文句を伝えたい本人は、遠い空の下にいるのだが。

羞恥と恨めしさがない交ぜになる傍らで、どうしているのか気になった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆   ◆   ◆

 

 

 

 

 

 

 

 

「へっくち!」

「何だ?風邪か?」

「かなぁ?」

 

爽やかな秋晴れの下、響は盛大にくしゃみ。

怪訝な顔のクリスの隣で、首をかしげた。

ここは山口某所、米軍基地。

米国からの依頼である、サクリストSことソロモンの杖を引き渡すため。

響、クリス両名は、その移送任務に携わっていた。

途中ノイズの群れに遭遇したりしたが、二人の敵ではなかった。

特に響のコンディションは終始絶好調であり、クリスの仕事は半分も無かったほどだ。

当然『何かあったのか?』と問いかけられたが。

意味深ににやついた彼女を見て、クリスは何となく察しがついたのだった。

 

「これにて移送任務は終了です、お疲れ様でした」

 

二人が取りとめも無い会話をしている脇で、友里が手続きを済ませる。

アメリカ兵が差し出した電子書類に、同じく電子の判子を押して。

これで、目的は果たされた。

 

「見せてもらいましたよ、ルナ・アタックの英雄の力を」

 

ほっとする響達に話しかけてきたのは、今回の任務で同行した学者。

『ジョン・ウェイン・ウェルキンゲトリクス』だ。

自ら『ウェル』と呼んでくれと言ってきたので、遠慮なく『ウェル博士』と呼んでいる次第である。

 

「え、英雄ですか・・・・」

 

送られた賛辞に対して、響が浮かべたのは苦笑い。

褒められているのは分かるが、最近その英雄扱いで大変な目にあったばかり。

どうも素直に喜べなかった。

 

「女の子には、あまりピンとこない表現ですか?」

「えっと、すみません。褒められているというのは十分に伝わっていますが、なろうと思ってなったわけじゃないので、どうにも・・・・」

 

誤魔化すように、乾いた笑い。

ウェルもウェルで、『急に付いた偉大な称号に戸惑っている』と判断したらしい。

 

「どうか胸を張ってください、不安定になりつつある世界は今、英雄の存在を必要としているのです」

 

響を微笑ましそうに見つめながらも、だからこそと拳を握る。

 

「そう!誰からも羨望される――――」

 

何か思い入れがあるのか、語りに力が入って。

 

「――――英雄の存在をッ!!」

 

伏せていた目を、くわっと見開いて締めくくる。

 

「は、はあ・・・・」

 

勢いに押された響は、いまいちピンときていない様子だった。

 

「ま、厄介な連中に目を付けられやすいってのは、覚えといた方が良いかもな」

 

助け舟を出してきたクリスに、『あの子のためにも』と囁かれて。

響は表情を引き締めたのだった。

 

「皆さんから託されたこのソロモンの杖は、ボクがきっと役立てて見せますよ」

 

『ソロモンの杖』。

72のコマンドで、ノイズを操ることが出来る聖遺物。

アメリカは今後、このソロモンの杖を解析することで、ノイズ対策への光明を見出そうとしているのだった。

 

「不束なソロモンの杖ですが、よろしくお願いしますッ!」

「頼んだからな」

 

頭を下げる響に、忠告するように託すクリス。

ウェルは二人に対し、強く頷くことで答えた。

何はともあれ、これで移送任務は終了。

米軍基地を出る頃には、響の足取りが軽くなっていた。

 

「この分なら行けそうだな」

「うん!夜までに向こうに戻れる!」

 

何を隠そう、今日は『QUEENofMUSIC』。

兼ねてより翼から招待を受けていた、大規模ライブがある日である。

最も、響にとってそれは喜びの半分。

もう半分はやはり、未来に会えることだろう。

離れていたのはたった半日だけだが。

二人の仲睦まじさを思い知らされているクリスからすれば、予想通りだった。

 

「二人が頑張ってくれたから、司令が東京までのヘリを手配してくれたわ」

「マジっすか!?」

 

報告を終えた友里からの、思っても見なかった朗報。

響は身を乗り出し、満面の笑みを浮かべたが。

直後、背後で轟音。

振り向けば、大型が米軍施設を破壊しているのが見える。

 

「マジっすか・・・・!?」

「マジだ!行くぞ!」

「わーん・・・・」

 

がっくり肩を落とす響だが、クリスと共に施設へとんぼ返りする。

嘆きこそすれ、やるべきことを見失うほど幼稚ではない。

避難する米兵の流れに逆らい、ノイズの前へ。

聖詠を唱えてギアを纏う。

が、

 

「っふん!」

 

出会い頭に放ったのは、ジュエルシードとの戦いでも見せた砲撃。

閃光が、一気に群れを薙ぎ払う。

 

「お、おい・・・・?」

 

中々荒っぽいやりかたに、さすがのクリスも顔を引きつらせた。

恐る恐る、響の様子を伺ってみれば。

口元を結び、眉間に皺を寄せ。

先ほどとは打って変わって、明らかに不機嫌な彼女が。

たったそれだけでこの後を察したクリスは、内心で静かに合掌するのだった。

 

 

 

 

 

 

 

◆   ◆   ◆

 

 

 

 

 

 

『こちらの準備は整いました』

 

「そう、グズグズしている暇はないということね」

 

「さあ、世界最後のステージの幕を上げましょう」




ノイズ「来たよー」
響「ようこそいらしゃい、死ね」
ノイズ「」
クリス「南無ー」

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。