立花響の中の人   作:数多 命

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いわゆる新章突入ってやつです。


喪失、融合症例第一号
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T月U日

油断すると暑い日が来るけど、大分涼しくなってきたように思う。

通学路にあるもみじとか、若干赤みがかってきたし。

秋の足跡が聞こえるみたい、なんてね。

秋と言えば『食欲の秋』だよ。

特に鮭が楽しみかなぁ。

オーソドックスに塩焼きやムニエルも良いけど、グラタンとかフライとか。

皮もパリッパリに焼き上げればおいしいし。

いつだったっけ、師匠がもらってきた鮭で作った『皮せんべい』。

あれむっちゃおいしかったなぁー。

いや、皮だけじゃなくて、他もおいしかったけど!

ハラスとか、三平汁とか。

あ、ダメだ、おなかすいてきた。

自分で自分に飯テロをかましちゃったので、今日はここまで。

 

 

T月P日

モルドから連絡があったんだけど、ミッドでは未だにわたし達のことが話題に上がるらしい。

もう二つ名までついちゃってるとかで、頼んでないのに丁寧に教えてくれた。

まずわたしが『雷光の歌姫(ライトニング・ディーヴァ)』。

翼さんが『剣戟の歌姫(ブレイド・ディーヴァ)』。

クリスちゃんが『銃撃の歌姫(バレット・ディーヴァ)』。

と、それぞれ呼ばれているらしい。

最後にわたし達三人を纏めて『トライ・ディーヴァ』と・・・・。

ちくしょう他人事だと思いやがって。

ニヤニヤすんな。

わたしあれ以来マスコミがもっとトラウマになったからね!?

いいもん、未来がいるからいいもん。

ぎゅっぎゅして癒されてくるもん。

 

 

T月J日

今度ある文化祭の出し物について話し合われた。

といっても、たこ焼きとかの模擬店をやれるのは二年生からで。

一年生は展示物が中心になるらしいけど。

投票の結果、うちのクラスはモザイクアートになるようだ。

うちの校舎とか、翼さんとかを表現するっていう話だ。

実はわたし、ちまちま地味ーにやる作業が好きだったり。

あの、何にも考えずにずずいっと入り込める感じがいいんだよねぇ。

 

 

T月O日

翼さんから、またライブのお誘いを頂いた。

日本やアメリカを始めとした各国が主催する、『QUEENofMUSIC』に出演するということで。

なんと、VIP席のチケットを貰っちゃった!

翼さん、海外の歌姫とコラボするって話だし、期待も高まるってもんですよ!

名前はなんだったかな。

マリア・・・・かでんなんてらさん。

ごめんなさい、長くて一発で覚えられなかったっす。

後でググらないと。

残念ながら当日は野暮用も重なっているけど。

山口から東京までなら、半日くらいで移動できるよね。

うん、だったら多分大丈夫。

・・・・魔法の使用は禁止?

バレなきゃいいんだよ、バレなきゃ。

何はともあれ、楽しみだ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆   ◆   ◆

 

 

 

 

 

 

 

 

目が覚める。

見慣れたベッドルームが、薄く明るい。

あくびを噛み殺しながら体を起こし、伸びを一つ。

窓に近寄りカーテンを開ければ、朝の街並みが見えた。

眩しい朝日に一度目を庇うものの、頭はすっかり冴え渡る。

今日も今日とて、概ね好調な目覚めだった。

 

「・・・・よし」

 

しっかり朝日を浴びた後は、手早く着替えを済ませてキッチンへ。

『家族』が起きてくるまでに、朝食を準備しなければならない。

自分の職業を知っている者達からすれば、『意外だ』なんて言われてしまいそうだが。

『おいしい』と顔をほころばせるのを見るのが好きなので、基本的に自ら進んで鍋を振るう。

特に妹分達の食べっぷりは、見ていて楽しい。

こういった『女の子らしいこと』に、もはや縁がないものと諦めていたこともあって。

今ではすっかり料理好きになった。

 

「・・・・ん?」

 

マイエプロンを身につけつつ、トマトが残っていたからスープでも作ろうかしら。

なんて考えながら、ドアを開けると。

耳が、低く轟くような音を拾った。

うるさいというわけではないが、人によっては不快だと感じる音。

それがいびきだと分かったからこそ、ある程度の検討をつけてため息。

足音をそっと忍ばせて、音源のソファを覗き込めば。

 

「やっぱり・・・・」

 

いた。

『家族』というか、『居候』が。

大口を開けて、だらしなく眠っている。

昨日は自分たちが眠るまで帰ってこなかったところを見るに、よっぽど遅かったのだろう。

 

「起きて」

 

もう一度ため息をついて、体を揺さぶる。

眠るのは一向に構わないが、せめてベッドに移動して欲しい。

こんな大きな体を担げる自信は無いので、彼自身に移動してもらわなければ。

 

「ねえ、起きなさい」

「・・・・んが?」

 

奮闘すること一分弱。

ようやく目蓋がうっすら開いた。

焦点の合わない瞳が、こちらを捉えたのが分かる。

 

「寝るならせめてベッドに行って頂戴、風邪引くわよ」

 

眠気に追い討ちをかけるべく、強い口調で語りかける。

彼はなおぼんやりした後。

小さく呟いた。

 

「―――――アリーシャ?」

 

飛び出てきたのは、全く知らない名前。

響きからして、恐らく女性だろう。

この野郎、完全に寝ぼけてやがる。

あと、違う女の名前出すなんていい度胸じゃない。

 

「・・・・ふんッ!」

「おっぶ!?いっでぇ!?」

 

苛立ちを隠すことなく、顔面に張り手。

当然避けられなかった相手は、直撃をくらう。

よっぽど驚いたのか、そのままソファーから転げ落ちてしまった。

 

「起きた?」

 

鼻っ柱を抑えて震える彼に問いかける。

返事は、ひとしきり悶えた後に帰ってきた。

 

「・・・・おう、気前のいい目覚ましサンキューな」

「どういたしまして」

 

得意げににっこり笑いかければ、こちらの勝ちは確定した。

 

「どうする?まだ寝る?」

「いや、流石に起きたよ・・・・」

 

コーヒーを要求してくる彼に、自分でやれと返しながら朝食の準備に取り掛かる。

 

「ああ、そうそう」

「あ?」

 

コーヒーメーカーに豆をセットする彼に、食材を切る手を止めずに話しかける。

 

「おはよう、師匠(Master)

「・・・・おう、おはよう」

 

間もなくして、他の家族達も起きてくる。

ある者は同じくコーヒーを飲み、ある者はまだ艪を漕いでいる。

血の繋がりは無いが、同じ屋根の下で暮らす大事な『家族』。

こうして今日も、彼女は残り少ない平和を噛み締めるのだった。




みんな大好きG編の始まりですよー。
バトルマシマシ、フラグマシマシ。
出血大サービスでお届け(予定)しますww

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