立花響の中の人   作:数多 命

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先日の事です。

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「」



ありがとうごぜぇます・・・・ありがとうごぜぇます・・・・!



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「あーあ、引き分けちゃったかー」

「言ってくれるぜ、こっちを圧し折る勢いでぶん殴ってきたくせに」

 

魔導師試験場。

やっと解放された響は、ぐーっと伸びを一つ。

呑気な顔で残念そうにする響に、モルドはため息を一つこぼした。

――――午後に執り行われた一対一の試合は。

響対モルドという、知っている者からすれば夢のような対戦カードとなった。

片や『狂暴女帝』の弟子、片や将来を期待されている若い魔導師。

そんな彼女等の試合は、予想通り接戦となった。

拳が唸り、斬撃が咆える。

一進一退の攻防は、タイムオーバーによる引き分けという結果に終わった。

 

「だーって、モルド相手に手ぇ抜くとか有得ないし?」

「だな、したらぶっ殺す」

 

くるりとステップを踏んだ響。

仕草こそ軽快だが、向けた瞳はぎらついている。

久しぶりに見た懐かしい一面に、モルドの顔も自然とあくどくなった。

 

「まあ、何はともあれ、二人とも合格だ」

「枕を高くして寝れるねー」

 

なんて、次の瞬間にはのんびりと会話を交わす。

そんな時だった。

試験場の外が、何やら騒がしい。

何事かと顔を見合わせた二人は、外へと駆け出して―――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

時間を、少し遡る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

手近な喫茶店に連行された未来は、ええいままよと語った。

自分の知っている響が、いかに頼れて、素敵で、かっこいいかを。

そりゃあもうノリッノリで。

結果、ヴィヴィオ達がどうなったかは推して計るべし。

 

「お前思い切るとすげぇよな」

「はんせいしています・・・・!」

 

呆れたクリスが指摘すれば、耳まで真っ赤にした未来は両手で顔を覆った。

 

「でも、嫌われるよりはずっといいと思います。先輩が向こうでもお元気そうでよかった」

「マシュちゃん・・・・!」

 

慰めるように未来の肩を叩きつつ、一緒にいたマシュはフォローを入れる。

短い時間ながら、もはや友達とも言うべき関係になった彼女を。

未来は感慨深く親しげに呼んだ。

現在時刻は夕方。

ヴィヴィオ達とは既に別れており。

姉が同じく試験だったらしいマシュと一緒に、お迎えに行っているところだった。

夏に日が長くなるのは、ミッドチルダでも変わらないようで。

思ったよりも日の光が残っている街を、三人で歩いている。

 

「あ、ここ?」

「ですね」

 

やがて、開けた場所に出る。

試験場や共用のグラウンドらしき建物に囲まれたスペースは、憩いの広場になっているようだ。

日が傾いた今でも、キャッチボールしたり、魔導師らしく魔法の練習に励む子ども達の声で賑わっている。

空や大地が違っても、人々の営みは変わらない。

上手く出来た魔力光を親に褒められ、嬉しそうに笑う子どもの顔は。

地球で見かける笑顔と、なんら変わりなかった。

 

「・・・・ん?」

 

ふと、耳が音を拾う。

甲高い音が近づいたと思い振り向くと、巨大なトラックが突っ込んできているところだった。

突然のことに呆ける未来達のギリギリ手前でドリフトし、広場の中央に飛び込む。

進行方向には、逃げ遅れた子ども。

 

「ッキャスパリーグ!!」

「フォーウッ!!」

 

口を押さえる未来の隣から、マシュが飛び出す。

呼び声に応えたキャスパリーグが一鳴きし、光となって体に入り込む。

一拍置いて現れたのは、藍色のライトアーマーを纏ったマシュ。

魔法で加速して子どもの前に立つと、巨大な盾を突き立てる。

展開されるのは、響も防御に良く使う魔法陣。

火花を散らしながらトラックをいなしたマシュは、見事子どもを守りきった。

 

「ッ大丈夫か!?」

「怖かったね、怪我は無い?」

 

すぐさま再起動した未来とクリスが駆け寄り、同じく走ってきた親に子どもを引き渡す。

親は何度もお礼を言いながら、子どもと一緒に泣きじゃくっていた。

親子を慰める未来を庇うように、マシュと並んでトラックを睨むクリス。

ちょうど通りかかったらしい魔導師部隊が、横転した車体を取り囲んだ。

杖を向けられた運転席から、黒い装いの男達が這い出てくる。

彼らは魔導師だけではなく、怯える巻き込まれた者や、何事かと集まってきた野次馬にすら敵意を向けて。

 

「我等は『パシフィスタ』ッ!!管理局の支配から世界を解放する、執行者なり!!」

 

一人が宣言している間に、残りが荷台に飛び込む。

すると、暗がりの中から重々しく、鉄の塊が現れた。

いや。

よくよく見ると、何かの機械であることがうかがい知れる。

横たえたそれを複数人係で立ち上げれば、街路樹と同じくらいの大きさになった。

宣言している男の下に、何かが届けられる。

 

「力に溺れ、支配者を名乗る管理局(しんりゃくしゃ)よ!」

 

スイッチだった。

 

「―――――裁きの時間だッ!!!」

 

拳を叩きつけるように、ボタンが押される。

装置が稼動を始め、周辺に揺らぎが生まれたと思ったら。

未来とクリスにとっては、いやというほど見慣れた。

鮮やかな脅威達。

認識した僅かな間に、奴等は四方八方に飛び出して。

 

「っこっの――――」

「魔法が――――」

「ダメだ!逃げ――――」

「本部に――――」

 

まずは一番近くに居た魔導師達が。

 

「何だあいつ――――」

「やばい!早く――――」

「く、くるな!うわぁ――――」

「助けてぇ!誰――――」

 

続けて、逃げ遅れた野次馬達が。

成す術もないままあっというまに蹂躙され、炭の山が増えていく。

頼みの魔導師達すら敵わないクリーチャーの群れ。

発せられる無機質な殺意に、恐怖が伝播しようとして、

 

「Killiter Ichaival tron...!」

「Balwisyall Nescell Gungnir tron...!」

 

負の連鎖を断ち切る、二つの音色。

銃口が火を噴き、雷光が駆け抜ける。

ミッドチルダでは嗅ぎなれない、火薬のにおいが混じった煙。

砂埃を振り払って現れたのは、辛抱溜まらんと飛び出していったクリスと。

 

「響!」

「立花先輩!?」

 

未来を、マシュを。

そして人々を守る用に立ちふさがる響。

向けられた背中と靡くマフラーが、これ以上は許さないという気迫を滲ませている。

ふと、首だけでこちらを向いた響は、大丈夫だと薄く笑った。

次の瞬間には前に向き直り、クリスと共にノイズに突っ込んでいく。

 

「無事か、マシュ!」

「モルド姉さん!」

 

響の見慣れない姿に戸惑っているマシュの下に、大太刀を背負った和服の少女が駆け寄ってきた。

彼女が話にちょくちょく出ていた姉なのだと、未来はこっそり納得する。

 

「話は後だ!連中は響が引き受ける、オレ達は市民の避難を!」

「ッはい!」

「わたしも手伝う、どこに誘導すればいいの!?」

 

すぐ我に返り、協力を名乗り出た。

 

「あんた、確か・・・・」

「ええ、立花先輩の彼女さんです」

 

きっと響がノリノリで語ったのだろう。

マシュの言葉に、『やっぱり』といいたげに目を開く。

 

「協力は助かる、ぶっちゃけオレも詳しくは把握してねぇけど、響がやってくれてるなら大丈夫だろ」

 

モルドが目を向けた先。

拳を叩き込み、稲妻を迸らせてノイズを蹂躙する響の姿が。

心なしか、『悪い顔』がはっきり刻まれているように見えた。

 

「全員逃げてください!とにかくここから離れて!」

「バケモンはあいつらが食い止める!慌てず、迅速に!」

 

響やクリスの出現に困惑していた人々も、脅威たるノイズと戦う姿に安堵を覚えたのだろう。

モルドやマシュ、未来による誘導で、安全地帯に向け足を速める。

怪我人に手を貸している中、響達が気になった未来は目を向けた。

次々現れるノイズ達を、次々仕留めていく二人。

ミッドチルダに来る前。

拳銃やミサイルなどの『質量兵器』は、あまり良い印象をもたれていないと聞いていたが。

勇敢に立ち向かっている今は、誰も気にしていないようだ。

友人が糾弾されないことにほっとしながら、未来もまた足早に離脱していた。

 

「埒があかん!出力を上げろ!」

「はいッ!」

 

ノイズを呼び出した彼らにとって、響達の出現は予想外だったらしい。

苦い顔をした男から指示を受け、仲間は装置のコントローラーをいじった。

大きくなる駆動音、強くなる光。

空間の滲みもはっきり濃くなり、量も質も高まる。

溢れた小型は続々合体し、大型へと変貌を遂げていく。

巨体の間には、あぶれた小型がちょろちょろと動き回り。

邪魔者である響とクリスへ向かっていく。

 

「・・・・ッ」

「くっそ、群れ雀が・・・・!」

 

流石の二人も、この物量には苦い顔をする。

歯を食いしばり、足を踏ん張って必死に耐えているが。

半歩、一歩と、じわじわ後ずさっていく。

戦いを見守っていたモルドやマシュ。

そして途中から加わった魔導師の増援達は、その様子を苦い顔で見ていた。

この場にいるものは、それぞれ響達から聞いたり、仲間の命がけの通信を受け取るなどして。

ノイズに魔法が効かない事を十分に知っている。

しかし、人を守ることを生業としている身からすれば。

何も出来ないこの状況は、歯痒い以外の何者でもなかった。

 

「あの子達の手助けすら、許されないというのか」

「奴等まさか、ここまで計算して・・・・!」

 

増援の隊長が目を向ける先、苦戦する響達を見て悦に浸っている男達。

小娘二人など、所詮はこの程度と思っているのだろう。

 

「ッおおおおおおおおお!」

 

その見下す視線が癪に障ったのか、響は雄叫びと共に放電。

攻撃範囲を少しでも広げ、一匹でも多く葬らんと奮闘する。

逆境だろうが関係ない。

味方が少なかろうと関係ない。

踏ん張る理由なんて、戦う理由なんて。

 

「響・・・・!」

 

後ろに守りたいものがあるだけで、十分だ・・・・!!

 

「ッくそ!!」

 

だが、気合だけで何とかなるほど、世の中は甘くない。

ノイズの物量と、まだ一般人が近くに居るという焦燥が、ほんの僅かな隙を生み出してしまった。

合間を縫うように、一匹のノイズが防衛ラインを突破する。

悪態をついたクリスが振り向いた隙に、更に数匹が飛び出していく。

 

「未来ッ、逃げ――――!」

 

未だ避難を手伝う未来に警告を飛ばすが。

脇からノイズ達にのしかかられ、邪魔される。

シンフォギアを纏っている今、触れてもなんら問題はないのだが。

鬱陶しいことこの上なかった。

 

「がああああ!!!!」

 

放電で消し飛ばし、獣のように咆えながら踵を返す。

ノイズは、未来の目の前。

魔導師の一人が咄嗟に飛び出しているが、複数匹相手では無駄死にして終わりだろう。

 

「未来ッ!!!!!」

 

間に合わないと分かっていても、手を伸ばして。

 

「Imyuteus Amenohabakiri tron...」

 

ずどん、と。

振ってきた巨大なものに、未来と魔導師は守られた。

理解が追いつかない二人は、哀れにも潰されたノイズを見下ろしている。

 

「盾・・・・?」

 

未来を速やかに保護しつつ、モルドは呆然と呟いた。

 

「―――――(ツルギ)だッ!」

 

否定の声があがったのは、上から。

見上げれば、巨大な剣の上に佇んでいる人影が見える。

 

「翼さん!」

「おっせーよ!」

「二人ともすまない」

「リインもいるですよー!」

 

物理的に無理がある縮小をした剣を手に取り、響、クリスと並ぶ翼。

その肩に、小さな人間のようなものが乗っかっていた。

 

「ってか、あんた午前中一緒にいた・・・・」

「ああ、八神女史のパートナー『リインフォース(ツヴァイ)』殿だ」

「はいです!それに、来たのはリインだけじゃないですよ!」

 

ちっちゃな妖精リインが自信満々に胸を張れば、

 

「セタンタ」

「レイジングハート・エクセリオン!」

「バルディッシュ・アサルト!」

「シュベルトクロイツ!」

 

応える様に、頼もしい声。

 

―――――Stand byReady

―――――Set Up !!

 

閃光。

響達の前、ノイズに立ちはだかるように。

四つの人影が舞い降りる。

 

「高町一尉!ハラオウン執務官!」

「八神捜査官に司執務隊長まで!」

 

全て女性だったが、知っている顔だからこそ、人々は分かりやすく反応した。

ある者は頼もしい守護者として、またある者は畏怖の対象として。

 

「――――小便は済ませたか?」

 

畏怖の代名詞である遥が、一歩前に出る。

 

「神様にお祈りは?隅っこでガタガタ震えながらみっともなく命乞いする準備はオーケィ?」

 

目に見えて怒気を孕ませながら、口元をぱっくり割って笑みを浮かべる。

こんなに早く駆けつけると思っていなかったのだろう。

男達の顔は、目に見えて恐怖に歪む。

 

「遥ちゃん、出来るだけ穏便にね?」

「そうだよ、お子さんもいるんだし、教育に悪いよ」

「分かってるって、ノリよ、ノリ」

 

一昨日も出会ったなのはと、写真で何度か見せてもらった女性『フェイト・T・ハラオウン』にたしなめられながら。

ゲイ=ボルグを肩に担いだ遥は、徐に振り払う。

ただそれだけで、一番前に居た群れが消し飛んだ。

 

「翼ちゃん、響ちゃんにクリスちゃんも、もう一頑張りいけるか?」

「はやてさん!」

 

一歩下がり、気さくに話しかけるはやて。

 

「なぁに、こっから盛り返すとこだったんだ!」

「防人の切れ味、とくとご覧にいれましょう・・・・!」

 

やる気たっぷりに返事をする子ども達を、頼もしそうに見て頷いていた。

一方で響は後ろが気になり、ちらっと目を向ける。

未来は魔導師達に連れられ、後方に避難しているところだった。

モルドやマシュも付き添っているので、よっぽどのことが無い限り安心していいだろう。

息を一つ。

頭を切り換えて前に出る。

 

「ついておいで響、一気に決めるよ!」

「はいッ!!」

 

師弟そろって、飛び出した。




ノイズ終了のお知らせ。

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