追記:最後のあたりを大幅書き直しました。
『黒炭事件』。
フッケバインによるテロが治まって間もなく発生した、連続殺人事件。
一番の特徴は、名前にあるとおり遺体が炭化して発見されることだろう。
時間帯は決まって深夜や早朝などの、人通りが少ない頃。
一人、あるいは五人以下など、少数で歩いているところを狙われている。
「―――――これは」
現場検証を行っていたティアナは、報告書と照らし合わせながら確信めいた様子で目を見開く。
火で焼かれたわけでも、電気で燻されたわけでもない。
そもそも証言に寄れば、悲鳴を聞いて駆けつけると新しい遺体が転がっていたという。
その際、焼いた熱気どころか、臭いすら感じなかったらしい。
他の捜査官や警邏隊員達は、すわ新たなロストロギアかと警戒しているようだったが・・・・。
「ティアナさん、やっぱりこれって・・・・」
「ええ、多分同じこと考えてる」
歩み寄って来たのは、ティアナに通信を繋げた張本人『セレナ・グラシア』。
同じく資料を片手に傍らに立ち、目を向ける。
ティアナもまた後輩に目を向け、同じ考えであることを伝える。
「ランスター執務官、グラシア執務官。何か心当たりが・・・・?」
そんな二人の様子に気づいた捜査官が、不安半分、期待半分の顔で問いかけてきた。
顔を見合わせた彼女等は、それぞれ頷いて。
代表して、ティアナが口を開く。
「本当に心当たりなので、確信ではないのですが・・・・」
◆ ◆ ◆
ミッドチルダ南部。
都市部から離れた、どこかのんびりとした雰囲気の地域。
「―――――よし!それじゃあ、今日はここまで!」
「押忍ッ!」
海が望めるその場所で、元気いっぱいな声が響いた。
浜辺にはたくさんの子ども達に、その前に立っている見た目幼い少女と犬の耳と尻尾を生やした屈強な男性。
そして、二人と並んで立つ翼とクリスの姿が。
「臨時講師のねーちゃんらにも、ちゃんと挨拶な」
「はいッ!」
「ありがとーございました!つばさせんせー!クリスせんせー!」
「ああ」
「ぉ、おう・・・・」
ここは『八神道場』。
時空管理局特別捜査官『八神はやて』の家族が経営する、小さな子ども向けの格闘教室。
今日は『八神家』で、剣術を中心に教授を受ける予定だったのだが。
翼とクリスが子ども達に気に入られてしまい、途中から体術を教えていたのだ。
「悪いな、お前等も勉強のために来たろうに」
「いえ、良い経験でした」
「それに、あたしは途中から口だけだったしな・・・・」
見た目幼い少女『ヴィータ』が労いの言葉を口にすれば、翼は微笑を見せ、クリスは気まずそうに目を逸らす。
「そう言うが、アドバイスは適格だった。そう悲観することでもあるまい」
「べ、別に・・・・バカの動き見慣れてたし・・・・」
そんなクリスを、屈強な男性『ザフィーラ』がフォローした。
褒められたのが照れくさいのか、いよいよもって明後日の方向を向いてしまうクリス。
反抗的な態度だったが、彼女のそれはむしろ微笑ましさが感じられた。
「二人ともお疲れ様、ヴィータさんとザフィーラさんもどうぞ」
終わったのを見計らったのか、未来が四人にスポーツドリンクを差し出す。
それぞれありがとうを口にしながら、喉の渇きを潤おしていく。
「で、これからはどうするんだ?」
実年齢に驚かされたヴィータに問いかけられ、三人は顔を見合わせる。
「予定では午後から休みなので、どこか観光でも、と」
「ティアナさんやなのはさんに、休んだ方がいいってアドバイスもらっているので」
翼と未来が答え、クリスも小さく頷く。
「――――その件だが」
そんな彼女等に歩み寄ってくる女性。
ヴィータやザフィーラと同じく、八神家の一員。
『シグナム』だ。
「もう少し付き合ってもらえないだろうか?」
桃色のポニーテールを揺らした彼女は、翼に木刀を差し出す。
「わたしも不完全燃焼でな、若き防人の真髄を見てみたい」
「は、はい!喜んでッ!!」
尊敬すべき強者からの誘いが嬉しかったのだろう。
翼はいつにない生き生きとした表情で、木刀を受け取ろうとして。
はっと我に帰り、未来とクリスに目をやる。
「大丈夫ですよ、翼さん」
「そこまで喜んでるんなら、むしろ止めらんねっての」
「す、すまない。ありがとう」
是非とも剣を学びたいという翼の意思を汲み、未来とクリスは別行動を取ることになった。
「道とかは分かるのか?」
「はい、この後ヴィヴィオちゃん達と待ち合わせているんです」
それなら心配は不要だと、ヴィータもザフィーラも納得する。
「雪音、すまないが、小日向のことは頼んだぞ」
「ああ」
まだまだ平和な環境に慣れていないクリスとて、未来が守るべき一般人であることは十分承知している。
だから翼の言葉にも、しっかり頷いて答えた。
「では、話も纏まったようだし、早速始めるとするか」
「はい!よろしくお願いします!」
一礼して構えあった翼とシグナムを横目に。
ヴィータやザフィーラに挨拶した未来とクリスは、首都クラナガンに戻る。
閑話休題。
『響が通っていた学校を、見てみたい』。
ヴィヴィオ達にどこを見たいかと聞かれたとき、未来はこう答えた。
どこか観光地の名前が出てくると思っていた彼女たちは、少し驚いたようだったが。
自らの母校であることもあり、快く了承してもらえた。
『せっかくなので、制服で待ち合わせましょう!』の提案の下。
念の為に持ってきていた制服に着替えた未来とクリスは、待ち合わせ場所に足を運ぶ。
「あ、こっちですよー!」
到着してみれば、すでにヴィヴィオ達はそろっていた。
季節に合わせた半袖姿で、元気いっぱいに手を振る。
「こんにちはー!一昨日ぶりですね!」
「こんにちは、お待たせしました」
「なんのー」
未来も手を振り返しながら、ヴィヴィオ達と合流。
「あ、ティオ!」
「にゃー!」
「わ、っと・・・・はは」
隣でアインハルトのデバイス『アスティオン(愛称ティオ)』が、早速クリスの肩に飛び乗っていた。
クリスも始めこそ驚いていたが、からかってくる響が居ないこともあってか、素直に受け入れる。
「すみません、クリスさん」
「いいよ・・・・いやってわけじゃないし」
指先で撫でられたアスティオンは、嬉しそうに頬ずりしていた。
そんな微笑ましい光景もそこそこに、一行は移動を開始。
ご飯がおいしいお店や、センスある雑貨のお店など。
所々街を案内されながら進むこと、十分。
見えてきたのは、荘厳な建物。
「ここが?」
「そうです!」
「St.ヒルデ魔法学院!」
「初等科から高等科までの最大十二年間、がっつり魔法について勉強できるとこなんですよー!」
建物を見上げた未来に、ステップを踏んだヴィヴィオが前に出る。
続けてリオとコロナが両手を広げて、簡単な概要を説明してくれた。
「響さんが通っていたのはほんの一年だけでしたが、とても慕われていました」
「『コールブランドとタチバナ』と言えば、わたし達の世代では知らない人はいないくらいなんですよ」
「立花?」
校門をくぐりつつ、アインハルトとユミナが解説を入れてくれるが。
もう聞くことがないと思っていた名前に、未来は目を見開いた。
「え?」
「ああ、ユミナさんは知りませんでしたね。響さん、あちらでは『司』の名字を名乗っているんです」
同じく驚いたユミナに、リオが説明してくれる。
「『厄介ごと対策だ』って、響は言ってたの。色々と巻き込まれた所為で、変な意味で有名だから・・・・」
「なるほど・・・・」
未来がそう付け加えると、納得したようだった。
「しっかし、あたしも驚いてる。てっきりこっちでも同じ名字だと思ってた」
「―――――それは、遥さんが『ストライカーオブストライカー』ですからね。先輩以上に知らぬ者はいない有名人ですから」
クリスが話を切り出すと、誰かが話しかけてくる。
一同がそちらを見れば、淡く桃色掛かったショートヘアの少女が歩み寄ってきていた。
アインハルトやユミナと同じ制服を着ていることから、ここの生徒らしい。
肩には、アインハルトのアスティオンや、ヴィヴィオのセイクリッドハートとも違う。
小動物型のデバイスが乗っていた。
「マシュさん!ちょうどいいところに!」
「ごきげんよう皆さん、そちらのお二人も初めまして」
『マシュ』と呼ばれた彼女は柔和に笑いかけてきた。
「あなたは?」
「マシュ・K・コールブランドと申します。こちらは私のデバイスのキャスパリーグ、普段は鳴き声から取って、『フォウさん』と呼んでいます」
「フォーウ!」
紹介された『キャスパリーグ』こと『フォウ』は、よろしくと言いたげに一鳴き。
マシュの肩から飛び立つと、未来の肩に乗り移った。
未来が撫でてやると、嬉しそうに身を寄せる。
「というか、コールブランドって・・・・?」
小動物特有の可愛さに癒されながらも、疑問を口にする未来。
その名は今しがた聞いた、響と関係のある名前だったのだから。
問いかけられたマシュは、首を横に振る。
「それは姉のことです。立花先輩が在学中は、姉妹そろってお世話になっていたんですよ」
「あー、あいつ大分お節介焼きだからな」
普段から構われているため、がっつり覚えがあったクリスは、言いながらげんなり。
「小日向未来さんと、雪音クリスさんですよね?お二人のことは、先輩から教えてもらいました」
名前を呼ばれた二人が何故を問う前に、マシュが一枚の写真を見せてくれる。
それは確か、一日目に『友達に送るから』と撮らされた集合写真だった。
「特に未来さんのことは、在学時から良くお話してくださっていたので、個人的に初対面な気がしないです」
「そうなんだ」
・・・・自惚れでないのなら。
別離している間にも、響は未来のことを想ってくれていたのだろう。
そこにまだ恋愛感情が無かったにしても、何となく嬉しさを覚えてならない。
「んで、さっき言ってたすとらいかーなんてらってのは何だよ?」
顔をほころばせる未来に『ごちそーさん』と内心で送りながら、クリスがもう一度切り出す。
するとマシュは、ちょうど近くにあった掲示板に目をやった。
生徒会からの報せや学校便りが張られている中に、魔法学校らしく管理局の募集ポスターが貼られている。
「高町なのは一等空尉の『エースオブエース』に並ぶ、優秀な魔導師に送られる称号です」
「現役の古代ベルカ式魔導師の中で、最高峰の実力持ちですもんね」
『ベルカ式』に関しては響から少し聞いていたので、未来やクリスも何となく分かった。
この世界の戦乱の時代に広く使用された、戦闘特化の『魔法の流派』。
個々の資質に強く依存するため、一時はかなり衰退していたという話だが。
優れた術者には『騎士』の称号が送られ、『一対一なら負けは無い』と言わしめるほどの実力を秘めていたらしい。
他にも細かく『近代』だの『古代』だのに分かれたりするらしいが、ややこしくなるからとその時は省略されてしまった。
今では資質に頼らず扱いやすい『ミッドチルダ式』に並ぶ、主流な術式の一つらしい。
「お前のかーちゃんすげーな」
「えへへ、自慢のママでーす!」
『高町一家』に関しては、ある程度の事情は聞いている。
ヴィヴィオが、なのはが引き取った孤児であることも。
なので、どうみても日本人ななのはの子どもが、金髪に虹彩異色でもさほど疑問に思わなくなっていた。
「さあ、校内へどうぞ。ここは暑いですから」
言葉通り自慢げなヴィヴィオを微笑ましく見ていると、マシュに促される。
確かに地球より幾分か過ごしやすいとは言え、季節は夏。
熱中症で倒れでもしたら話にならない。
導かれるがまま、マシュを加えた一行は校舎へ入っていく。
翼さんにシグナムさん要素つけたくて、蛇腹剣使わせたいとか野望を持っていたんですが。
すでにマリアさんが使っていて若干うろたえてますガタガタ
はばばばば、ろくすっぽプロットを練らなかったツケががががが。