立花響の中の人   作:数多 命

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またちょっと短いですが、またキリがよかったので。
あ、序盤はブラックコーヒーの準備推奨です。


34ページ目

ふと、目が覚める。

感じるはずの朝日が無いことに戸惑い、顔を上げれば。

呑気な顔で寝ている響が。

どうやら寝ている間にホールドされたらしい。

背後に回った腕はしっかり未来を捕まえており、簡単には抜け出せそうに無い。

だが、未来自身早く起きすぎたと思っていたので、ちょうどいいと思っていた。

響と両思いになったという、夢のような幸せを噛み締めながら顔を埋めると。

 

「むー・・・・・ぁふあ」

 

件の恋人が、唸りを上げながらあくびを一つ。

どうやら起きてしまったらしい。

未来は咄嗟に寝たふりを決行し、目を瞑って黙してしまった。

本当に無意識だったため、始めは何やってんだろとか思っていたが。

いつぞやの『いたずら』を思い出し、響がどうするのかが気になった。

なので響には悪いが、お寝坊さんを演じさせてもらうことにする。

 

「みくー、朝だよー?」

 

温かい手が添えられて、体を揺さぶられる。

もちろん、これくらいで起きてやるつもりは無い。

わざとらしくならないよう心がけながら、唸り声。

 

「みくー?」

 

なお揺さぶられるが、まだ起きない。

朝練や学校には、まだ余裕があるはずだ。

もう少しだけ粘ってみる。

やがて、

 

「・・・・起きてー?ちゅーしちゃうよー?」

 

来た。

耳元で響の声がして、くすぐったさに全身が粟立つ。

起きているのがバレないか、気が気ではない。

が、未来があの時鼻先で妥協してしまった『ちゅー』を、響がどうするのか。

やはり気になってしまうのだ。

早鐘を打つ心臓を必死に抑えながら、目を閉じ続ける。

 

「・・・・」

 

手が握られた。

決行することにしたらしい。

絡まった指にかかる重さから、響が近づいているのが分かる。

未来が思ったよりも早い。

もう、抑えた呼吸を感じるほどの距離。

あと少し、もう少し。

心なしか、握る力が強くなって、

 

「――――!?」

 

触れた唇に驚き目を見開けば、してやったりとほくそ笑む瞳が目の前に。

 

「おはよう、みく」

「・・・・おはよう」

 

・・・・途中からか、それとも最初からか。

起きているのがバレていたようだ。

体を起こす。

顔が熱い、どうなっているか何て確認する必要は無い。

 

「あはは、顔真っ赤」

「言わないで・・・・!」

 

あまり触れたくないのに、響は嬉々としてからかってくる。

付き合うようになってから、こういった『いじわる』が多くなった。

なのに『嫌だ』という気持ちにはならないのだから、性質が悪い。

多分、謝りながら『きれい』だの『かわいい』だの褒め殺してくる響の所為だと思う。

 

「・・・・みーく」

「なに?」

 

名前を呼ばれ、顔を上げれば。

わざとらしく響が近づき、囁く。

 

「みくは、してくれないの?」

「・・・・~~ッ」

 

やっと落ち着いた熱りが、ぶり返った。

せめてもの抵抗にねめつけるが、目の前のおバカさんはニコニコ笑うだけ。

挙句目を閉じてスタンバイするものだから、余計に物怖じしてしまう。

が、既に腰に手を回され、逃げようにも逃げられない。

 

「未来」

 

また名前を呼ばれる。

我に帰って見れば、妖しく揺らぐ響の目。

捕らえられた今、『やめる』という選択肢も消えた。

恐る恐る、目を閉じる。

まだ残る恥ずかしさを抑えるのに4秒。

意を決して動くまでに5秒。

顔を近づけるのに6秒。

聞こえたリップ音にほっとするまで、7秒。

合計22秒。

ただキスするだけにしては、聊か時間をかけすぎた。

 

「えへへー、みくー!」

「わ!?」

 

やりとげたという気持ちで唇を離せば、飛びつかれる。

子犬のように頬をすり合わせた響は、満足げに笑っていた。

 

「みく大好きー!」

「・・・・うん、大好き」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「響がかっこよくて可愛くて、つらい」

「うん、あたし等はコーヒーが飲みたくてつらい」

「でも仲睦まじいエピソード、ナイスです」

「ビッキーもだけど、ヒナも惚気ると大概だよね・・・・」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆   ◆   ◆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

M月F日

むあああああああああああん!

未来可愛いよおおおおおおおお!

出撃するときのおまじないもそうだし、毎朝ご飯作ってくれるのもありがたいし。

ちゅーするたびに顔真っ赤にする初々しさとか、毎回きゅんきゅんしっぱなしだし。

戻ったときの『お帰りなさい』とか、健気過ぎてとんでもない破壊力。

なんだこの子、天使か。

ああ、天使だったわ。

知ってた。

 

P.S.

『みくかわいい』のテンションのまま抱きついたら、料理中だったので怒られた。

ちょっと反省・・・・。

 

 

M月P日

待ちに待った夏休みでっせ!

で、もう済んだ話だけど。

大分経ったし、ちょっとくらいいいかな。

司令さんが、緒川さんといっしょにミッドに行って来て、正式な同盟手続きを済ませてきた。

場所は聖王教会で。

カリムさん立会いの下、書類にサインをしてきたらしい。

これで二課は正式に管理局の身内扱い。

デバイスを始めとした技術的恩恵や、こっちを狙う次元犯罪者の情報をもらえることになる。

代わりに、向こうの応援要請なんかを出来る限り受けることになっているけど。

リンディさんや師匠を始めとしたこわーい人達が睨みを効かせているし、よっぽどな無理難題は滅多に来ないと見ていいと思う。

何はともあれ、新しい二課がスタートだ。

わたしも、支えてくれる未来のために頑張ろう。

 

 

M月B日

早速要請というか、アドバイスに近いかもしれない。

リンディさんに、魔導師ランクの昇格試験を受けないかと誘われた。

たまーに師匠なんかに突っかかってくる『選民思想』の皆さんに舐められないために、少しでも高いランクの方がいいというお話だ。

今のわたしは『B+』だから、次は『A』ランク。

普通より頭一つ飛び出た程度だけど、十分一目置かれるくらいだ。

ティア姉が確かAAA+だったはずだから、合格すれば少し近づくことになる。

師匠が推薦状を書いてくれるそうなので筆記は免除されるし、Aくらいならむしろ持ってて損は無い。

なので、近いうちにミッドに渡ることになりましたー。

リンディさんの計らいで未来も一緒に行けることになったけど、遊びで行くわけじゃないからね。

だからハネムーン言うなし。

 

P.S.

わたしについて『対して強くない』って表現したら、クリスちゃんに『寝言抜かすな殺すぞ』って顔で睨まれた。

いや、苦戦させた覚えあるし、そんな顔しちゃうのも分かるけどさぁ。

これまでの戦いが上手くいってたのって、結局のところ『初見殺し』なんだよなぁ。

翼さんにはもう対応されきっちゃってるし、クリスちゃんにも苦戦し始めたし・・・・。

冗談抜きで何とかしないと、絶対に後悔する。




と、いうわけで。
次回から『おいでませミッドチルダ編』です。

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