立花響の中の人   作:数多 命

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今年最後といったな、あれは嘘だ
(訳:なんか書きあがっちゃったので、投稿しちゃいますねー)


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「ふむ・・・・」

 

手の中で『それ』を遊ばせる。

足元には青二才達の屍。

身に纏う鎧や、手にした『これ』で仕留めた。

元より連中とは、切りのいいところで手を切る予定だったのだ。

相手が同じことを考えているのも見抜いていた。

今回は相手がことを急いて、自分が返り討ちにしただけ。

ただそれだけ。

そんなことより、彼女には重大なことがあった。

『それ』を掲げる。

陽光を浴びて、象牙質の刃が淡く煌いている。

ドルイドによって柄の部分まで刻まれた祈りの言葉が陰を作り、手触りと見た目に良いアクセントを加えていた。

―――――彼女が疑問を抱いたのは、つい最近現れた『これ』が記憶と余りにもかけ離れていたからだ。

刃から柄、石突にかけて、鮮血で染め上げたような赤。

そんな強烈過ぎて忘れようにも忘れられない見た目で、()()()()()()()()()()()

青二才達の親玉も含めた伝手を頼り、どうにか発見できた『これ』。

彼女の記憶どおりの、淡い白の刃と墨染めの柄。

地下に埋蔵され、保存状態が良好だったが故に『完全聖遺物』として手元にきた『これ』を目の当たりにして。

兼ねてより懸念していた仮説が、現実味を帯びてきた。

 

「異世界、か・・・・なるほど、私の見識もまだまだということだな」

 

言葉こそ自嘲気味な文体だったが。

浮かべた笑みはそれと裏腹に、新しい愉しみを見つけた喜びに溢れていた。

 

 

 

 

 

 

 

◆   ◆   ◆

 

 

 

 

 

 

「・・・・はい・・・・はい・・・・!」

 

鳴り響き渡る、ノイズ警報。

帰路に着いていた響も、険しい顔でどこかにいるノイズを睨みながら、通信を受け取っていた。

時折漏れてくる会話内容から察するに、スカイタワー付近に飛行タイプの大型が出現したようだ。

 

「分かりました、直ちに出撃します!」

 

静かな強い口調で返事をし、通信が終わった。

 

「未来」

「うん?」

 

そのまま現場に向かうかと思いきや、踵を返して未来を見る。

緊張をほぐすように、微笑みながら返事をする未来。

 

「司令さんが言っていたんだけど、万が一の場合は学校のシェルターを開放して、一般人を避難させるんだって」

 

そんな気遣いが効いたのか、響は少し柔らかい表情になっている。

 

「未来には、避難誘導の手伝いをして欲しいんだ。もちろん、危ないと思ったら遠慮なく逃げてもいいから・・・・」

「分かった、だけど危ないのはお互い様でしょう?」

「そりゃぁ、そうだけどさ・・・・」

 

指摘され、言いよどむ響。

未来は『心配』の二文字が消えない彼女の手を取り、頬に寄せた。

 

「わたしは、響を信じてる。だから、響もわたしを信じて?」

「・・・・うん」

 

控えめに手を握られる、いつも通りのおまじない。

力強く頷いた響は、今度こそ戦場に向かった。

市街地に飛び込み、人目の少ない路地裏に。

脚に強化をかけて、壁を蹴りながら一気に屋根に上る。

 

「我が身は雷光、颯より駆ける一条の光ッ・・・・!」

――――ソニックムーブッ!

 

短く詠唱。

体が帯電したのを確認し、クラウチングで構えて飛び出す。

人目が無いことをいいことにした、ショートカットだ。

屋根を踏み、屋上を蹴り上げ、風を切る。

五分としないうちに、大型がゆっくり旋回する現場が見えてきた。

ぐ、と奥歯を食いしばって、更に加速。

 

「Balwisyall Nescell Gungnir tron...!!」

 

努めて冷静にギアを纏って拳を叩きつければ、着地点周辺の群れが消し飛ぶ。

仲間の成れの果てが飛んできたことにより、やっと敵の襲来を認識したノイズ達。

 

「・・・・今日のわたしは、紳士的だ」

 

響は不敵に笑いかけながら、拳を引き絞って構える。

 

「痛みも無いまま、蹂躙してあげる」

 

鋭い目元、プラズマが走った。

『何を小癪な』といわんばかりに向かってきた一体を、まずは正拳突き。

脇から覆いかぶさろうとしてきたものには裏拳をお見舞いして怯ませ、反対側から来た三体を殴り飛ばす。

そのまま振り向き様に踵を振り上げ、先ほど怯ませた一体にとどめを刺した。

 

「・・・・ッ」

 

飛びのく。

頭上から飛行型が飛び掛ってくる。

地面に突き刺さった奴等にラリアットを叩き込んで刈り取り、まだ滞空しているものは稲妻を発射して仕留めた。

 

「司!」

「待たせたなッ!!」

 

ここで翼とクリスが合流。

響だけでも苛烈だった攻撃に、斬撃と鉛玉が加わり。

ノイズ達に対して哀れみすら覚える状況となる。

しかし、いかんせん数だけはそろえているノイズ。

殴っても、斬っても、撃ち抜いても。

一向に数が減る気配がない。

理由は分かっていた。

 

「アレをどうにかしないことには、いたちごっこを繰り返すだけか・・・・!」

 

翼が苦々しく見上げる先。

悠々と空を飛ぶ大型が、次々ノイズを吐き出していた。

 

「司、お前の魔法でアレを仕留められるか?」

「結論からいうなら出来ます、だけど、広範囲への攻撃は調整が難しくて・・・・」

 

背中合わせで響に問いかければ、自信なさげな返事がきた。

 

「最悪ここら一帯の電子機器、全部ダメになっちゃいます」

「・・・・なるほど、それは困るな」

 

主に、事後処理に回る二課スタッフが。

ところ構わずあちこちを破壊しているイメージがある装者達だが、考えるところはきちんと考えているのである。

 

「なら、あたし様の出番だな!」

 

頭を悩ませようとした二人の下に、同じく背中を預けに来たクリスが自慢げに話しかけてきた。

 

「何か策があるのか?」

「まさか絶唱・・・・!?」

「んなわけねーだろ、バァーカ!」

 

クリスは特攻を心配する響を笑い飛ばし、正面の群れを片付ける。

 

「ギアの出力を上げて、臨界点まで引き上げる。ギリギリまで溜まったエネルギーを解き放てば、地面のもお空のも、一気に片付けられる!」

「だがチャージ中は無防備になる、妨害は避けられんぞ・・・・!」

 

なおも案ずる翼にも、くどいとばかりに鼻で笑った。

 

「こちとらお前等や『あの人』に、でっけぇ借りが出来てんだよ!借りっぱなしは柄じゃねぇ、(タマ)ァ張らせろや・・・・!」

「・・・・ぃよっし!」

 

いっそ獰猛なまでの笑み。

戸惑う翼の代わりに答えたのは、響だった。

 

「こうなったらもうしょうがないですよ翼さん!クリスちゃんの案に乗りましょう!あれですよ!『女は度胸』ですッ!」

「・・・・ははは、そうだな。この際力押しも悪くないッ!!」

 

響の後押しが聞いたようだ。

戸惑いを消し去り笑みを浮かべた翼は、言うなり刀を大剣に変形させる。

 

「そこまで言うのなら決めて見せろ、雪音ッ!」

「言われるまでもねぇ、そっちこそ驚きすぎて呆けるんじゃねぇぞォ!?」

 

荒っぽいようで頼りがいのある会話を聞きながら、響もまた前に飛び出す。

クリスの晴れ舞台となるこの状況だ。

こちらも派手な技を使ってやろうではないか。

そうと決まれば、と、ステップで人型に急接近した響。

 

「―――――秘拳」

 

背後から首に肘を叩きつけ、

 

「―――――燕返しッ!!!!」

 

続け様にサマーソルトを叩き込んだ。

何のことはない。

かの有名な『佐々木小次郎』の技を、遥が従手正拳版にアレンジした技である。

人に向けて使えば、確実に首を圧し折っていく危険な技。

ノイズ相手だからこそ、遠慮なく使えるのだ。

 

「―――――抜剣・天破の型」

 

まだまだといわんばかりに、全身に魔力を迸らせる。

想起するのは、親友の一人の動き。

足技が綺麗なあの子の、とっておき・・・・!

 

「『天衝星煌刃』ッッッ!!!!」

 

駆け出し、目の前の人型に。

深く、深く、蹴りを突き刺す。

沈黙した次の瞬間。

突き抜けた衝撃波が大地を揺らしながら、群れを一掃していった。

やられるばかりではないと、ノイズ達が響を取り囲んだ。

が、群がった傍から雨あられと降り注ぐ刃に貫かれる。

 

「行け、司ッ!」

「はいッ!!」

 

出来た道の向こうには、鬼に見えなくも無い大型。

響は足元で闘気を練り上げ、突き進む。

道中の妨害も、翼の援護により難なく突破。

 

「撃ッ!槍ッ!!」

 

あっという間に駆けつけた響は、練り上げた力を拳に伝えて、

 

「ゥ(ルァ)旋ッ槌ッッ!!!!!」

 

強力なアッパーカットを叩き込んだ。

威力はまさに『衝撃的』。

頭どころか胸の辺りまで吹き飛ばされた大型は、やがてどう、と倒れこんだ。

 

「 魂をオォォォォ・・・・! 」

 

響と翼が暴れている間に、クリスの準備が整った。

淡い光を纏った彼女は、腕を交差させて一旦溜めると。

 

「 ぶっぱなせええええええええええッッッッ!!!!! 」

 

もはや咆哮となった歌声を響かせながら。

ミサイルを放ち、グレネードを放ち、ガトリングを放ち。

炎と硝煙と鉛玉を盛大に撒き散らかす。

響と翼に気をとられていたからだろう。

ノイズ達はまともに避けること叶わず、上空の大型達もミサイルの直撃を受けてしまう。

悲鳴のような音の中、炭のシャワーが降り注いだ。

響も翼もクリスも、神経を研ぎ澄ませて周囲を探る。

やがて敵の全滅を判断し、それぞれ息を吐いたり目を伏せたりしながら、気を抜いた。

 

「お疲れクリスちゃーん!ナイス殲滅ゥー!」

「おい!この、抱きつくなッ!!」

 

両手を広げるなり、クリスを抱きしめる響。

クリスは抵抗を試みるが、悲しいかな。

鍛えられた腕から逃げるのはほぼ不可能だった。

歩み寄ってきた翼は、そんな二人を微笑ましそうに見守っている。

もちろん響がやりすぎるなら止めるつもりだが、今のところ二人を邪魔するつもりは無かった。

 

「おめーはよ・・・・!」

「あははは!・・・・お?」

 

やっと解放されたクリスが悪態をついていると、響に通信が入る。

一言断って一歩下がり、答える響。

 

『―――――響!!』

「未来?」

 

聞こえてきたのはオペレーターの声ではなく、未来の声。

しかも切羽詰った様子から、ただ事ではないようだ。

 

『学校が、リディアンがノイズに―――――!!!』

 

言い終える前に、ブツンと音を立てて。

未来の声は途切れてしまった。

無情に鳴り響く、通信切断の音。

 

「――――――」

 

目に見えて、響の顔から血の気が引く。




そういえばゲイボルグって動物の骨でできてるらしいですね(

で。
今度こそ、今年最後の投稿です。
来年も、皆様に良いことがありますように。
それでは。

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