立花響の中の人   作:数多 命

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拝啓、冬の足音が聞こえてくるころ。
皆さまいかがお過ごしでしょうか。
わたしは感想欄の連日の阿鼻叫喚に、にやけが抑えられない日々を過ごしておりますww←
そんな20話、どうぞ。


20ページ目

『それ』が落ちてきたとき、何が欲しいかを聞かれた。

 

日の光じゃなくて、自分で光っている宝石が、少し不思議だったけれど。

 

その青い輝きを見ていると、何だか心が落ち着いた。

 

だから答えた、『力が欲しい』と。

 

響を怪我させないために、響を手放さないために。

 

あの子を守るため、二度と失わないため。

 

わたしは今、光を掴む。

 

 

 

 

 

 

 

◆   ◆   ◆

 

 

 

 

 

 

「小日向?その姿は一体・・・・!?」

 

着物のようなアームカバーに、体に張り付いたスーツ。

足には物々しい装甲と、一見すればシンフォギアに見えなくもないが。

理性を感じられない目と、未だ胸元で脈打つ青い宝石が、その認識は間違っていると雄弁に語っていた。

 

「・・・・みく、なんで」

「響がいなくなった後にね、この石が落ちてきたの」

 

心ここにあらずといった響が、呆然と問いかける。

親友の動揺を知ってか知らずか、未来は微笑を絶やさない。

 

「この子が『叶えてあげる』って言うから、遠慮なくお願いしたんだ・・・・『力をください』って」

「――――――ッ」

 

異物が埋まり、血管の浮き出た胸元を愛おしそうに抱きしめる未来。

響の喉が、笛のような音を立てた。

 

「ねえ、響?これでわたしも戦えるよ?響のこと、守ってあげられるよ?」

 

身を乗り出し、一歩一歩近づいてくる。

 

「怪我だってさせないし、ノイズだって、響をいじめる人達だって、全部全部全部わたしがやっつけてあげる」

「・・・・小日向」

 

ここまで来れば、嫌でも分かる。

今の未来は、まともじゃない。

焦点の合わない瞳、どこか威圧のある言動。

魔導師の仕事に関しては門外漢な翼だったが、胸元の邪悪な輝きが根源であることくらい察することが出来た。

 

「だから、響―――――」

「―――――未来!」

 

未来の言葉を遮る。

まだかすかに震えている響は、一歩前に出る。

 

「未来の気持ちは、すっごく嬉しい!わたしのこと、大切にしてくれてるんだって思う!」

「うん、だから・・・・」

「だから、それを捨てるべきだ!」

 

彼女にしては、少し厳しい言葉。

未来は目を見開き、翼も隣を見やる。

 

「未来、それは確かにお願いを叶えてくれるものだよ。願えば力だって手に入る、だけど・・・・」

 

ぐ、と握られる拳。

指の間からは、赤い滴が落ちた。

 

「だけど!それだけは・・・・『ジュエルシード』だけは、絶対にダメだ!」

 

―――――眩暈がする。

脳裏に赤い記憶がちらついて、鈍い痛みが自己主張を始める。

 

「今の未来は、そいつに騙されているんだよ!体に滾っている力だって、まやかしだ!」

 

蘇る、かつて向けられた悪意が。

歪んだ正義によって下された制裁の数々が。

 

(―――――うるさい、黙れ!)

 

かぶりを振って、暗い記憶を追い出す。

 

「ッ目を覚ますんだ未来、それは頼っていいものじゃない!」

 

もう一歩踏み出した響は、懇願を叫んだ。

見守っていた翼は、親友のためにあえて心を鬼にしたのだと判断。

共に聞き入れてくれることを願いながら、未来に目を向けた。

 

「―――――――何で?」

 

向けた後で、それは間違いだったと思い知らされる。

 

「何でそんなこと言うの?どうして捨てろなんて言うの?」

 

こてん、と。

未来は首をかしげた。

 

「せっかく強くなったのに、せっかく力を手に入れたのに、何で?何で?ねえ?響?」

「未来ッ・・・・!」

 

未来に呼応しているのだろう。

胸元の青が鮮やかさを増す。

 

「響?どうして?なんで?捨てろ?やだよ?響?なんで?どうして?ひびき?響?ひびき?なんで?なんで?なんで?どうして?ねえ?なんで?どうして?どうして?どうして?」

 

瞳が、ますます『蒼』に飲まれる。

壊れた機械のような早口でまくし立てる。

 

「ひびき、だって、いやだ、どうして、はなれないで、ひびき、やだ、やだ、やだ、ひびき、ひびき、ひびき、ひびき、ひびき、ひび――――――」

 

不意に、口が止まった。

糸が切れたように俯いた未来は、わなわなと震え始める。

 

「・・・・ふ・・・・・ふ、ふふ・・・・・」

 

聞こえた声は、嗚咽でも、怒号でもなく。

 

「・・・・あはは・・・・はははははははっ・・・・・・・」

 

笑い声。

 

「あはははははははははは!はっはははははははは!ふふふふふふふっ・・・・・・!」

「未来・・・・?」

 

頭を抱え、腹を抱え。

困惑する響と翼の前で、ひとしきり笑った未来は。

ゆらりと、にやりと、顔を上げた。

 

「・・・・そっか、響は信じられないんだね?わたしが急に強くなったから、驚いたんだね?」

 

まだ笑いを抑えられないのか、未だ小刻みに震える未来。

浮かべた笑みは、気味悪い以外の何者でもない。

 

「そうだよね、びっくりしちゃったんだよね」

 

それじゃあ。

体が傾く、踏み込む。

気づけば未来は、目の前に。

 

「わたしの強さが分かれば、きっと分かってくれるよね?」

 

息が、耳にかかる。

甘い声が、鼓膜から全身を侵す。

痺れた指先を動かそうとして、叶わなくて。

目の前の瞳に移りこんだ、自分の間抜け面を凝視した響は。

 

「―――――許せ、小日向ッ!!」

 

次の瞬間、翼に庇われた。

二人の間に上手いこと刀を滑りこませた翼は、峰で未来を突き飛ばす。

流れるように響を抱き寄せ、切っ先を突きつけた。

 

「しっかりしろ、司」

「ご、めんなさ・・・・」

 

意識は幾分か戻ってきたようだが、相変わらず心ここにあらずといった状態だ。

帰ってきた声に、覇気はない。

響を気遣い、後ろに下がらせた翼。

目を伏せて呼吸を整えると、刀を構える。

 

「・・・・邪魔するんですか?翼さん」

「白状すれば心苦しくはある、だが、今のお前を司と戦わせるわけにはいかん」

 

顔にもはっきり『不本意』と書かれている。

だが、未来を放置できないのも事実。

故に、こうして戦闘体勢をとっているのだろう。

 

「・・・・そうですね、翼さんほどの人を倒しちゃえば、響だって認めざるを得ませんよね」

 

手元に、光。

粒子は集まり凝結し、一振りの細剣を生み出す。

 

「みく、つばささん・・・・!」

「安心しろ、殺しはせん」

「すぐに終わらせるからね、響」

 

ちりちりと、闘気が肌を蝕む。

翼は未来から放たれるプレッシャーを読み取り、改めてその異常性を確信する。

 

「どこの聖遺物か知らないが・・・・小日向を誑かす不埒者め、痛い目にあってもらうぞ!!」

 

両者、同時に踏み込む。

翼の突きを危なげなく避けた未来は、お返しに一閃。

続けて袈裟切りを放つ。

翼はこれを足運びで難なく避け、下からの切り上げを繰り出した。

体勢が傾いたところに、容赦ない一閃を浴びせようとして。

 

「―――――ッ」

 

間に入る、人影。

味方であると辛うじて判別したからこそ、翼は慌てて動きを止めた。

 

「司ッ!?」

「・・・・ぁ、ぅ」

 

飛びのいた目に映ったのは、刃があたった響。

首元をわずかに赤くしながら、何度も首を横に振る。

震える唇は何かを訴えようとして、しかし上手く言葉を紡げないようだった。

未来を庇うように両手を広げた姿は、どこか痛ましい。

・・・・無理からぬことではある。

響にとって、未来がどれだけ大切な存在か。

常日頃から話を聞いている身として、十分理解しているつもりだ。

 

「ッ司、何をしている!?早く離れろ!!」

 

それでも、明らかに異常である未来に近づいては危険だ。

構えなおした翼が声を荒げたときには、もう遅く。

 

「ひびき、つかまえたっ」

 

後ろから腕が回り、響を拘束する。

甘えるように擦り寄り、わざとらしく耳元に口を近づける。

 

「これでもう、一緒だね・・・・ずっと、ずーっと」

「・・・・っぁ」

 

瞳から、光が失せる。

焦点を見失った虚ろな目を、眠るまいと必死に抵抗して開けていたが。

 

「司!?しっかりしろッ!!司!!」

 

翼の呼び声も虚しく。

やがて響は、静かに意識を手放す。

倒れこむ彼女と一緒に座った未来は、足元に渦のような円を展開。

剣を生み出したものと同じ粒子が、急速に二人を包み込んで。

周囲に霧をばら撒いた。

 

「くっ・・・・!」

 

一気に視界を奪われ、思わず後ずさりする翼。

 

「ッ小日向!考え直せ!誘惑に負けるんじゃない!!」

 

払っても払っても纏わりつく霧と格闘しながら、まだ近くにいるはずの未来に向けて叫ぶ。

 

「司ァ!どこだ!?返事をしろッ!!お前が倒れたら、誰が小日向を止めるんだ!?」

 

響も探し回りながら、周囲を何度も見渡して。

 

「―――――――一歩、遅かったようね」

 

霧の奥から、覚えのある声。

 

「司女史・・・・!」

「一旦ここを離れましょう・・・・この霧、魔法的な効果もあるみたい。さっきからジャミングが酷くて、周囲を探れないのよ」

 

盛大にため息をつきながら、乱暴に頭をかく遥。

言葉と一緒に、顔にも『参ったな』という気持ちがにじみ出ていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

閑話休題。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

未来が発生させた霧はすでに背後まで迫っている。

導かれてやってきたのは、捨てられて久しいマンションだった。

壁や配水管を伝って駆け上がり、とある一室に入る。

中には弦十郎や緒川の他に、いるだろうなと思っていた遥の部下らしき猫耳達。

そして、

 

「雪音・・・・?」

「んだよ、いちゃ悪いか」

「ああ、いや・・・・驚いただけだ」

 

翼が名前を呼ぶと、不機嫌そうに睨んできたクリス。

その後慌てて首を横に振れば、小さくため息をついた。

 

「アリア、状況は?」

「正直芳しくないわね」

 

空中に浮かぶウィンドウを忙しなく操作しながら、猫耳の片割れ、アリアは苦い顔をする。

 

「あの霧が出たタイミングで、預かった結界の主導権を乗っ取られた。周辺のスキャンはもちろん、サーチャーも機能しない」

「まあ、この子らを送る前でよかったけどね。途中で横入りされたら目も当てられない」

 

奥からやってきたもう一人の猫耳、ロッテが肩をすくめながら、顎で元いた方をさす。

遥がそちらを見ると、板場、寺島、安藤の三人は体を強張らせた。

 

「・・・・で、ブツの見当はついてる?」

 

少なからず怯えさせたことに罪悪感を感じながら、遥は意識を部下に戻す。

 

「ついてる、十中八九『ジュエルシード』でしょう」

「魔法はもちろんのこと、戦闘経験だってない子だってね?よっぽど強く切実に願ったんでしょうね」

「ジュエル・・・・それって司が言っていた・・・・!?」

 

会話の中からつい先ほど聞いた単語が聞こえ、翼が反応を示した。

瞬間、三人はぎょっとなり同時に凝視する。

 

「・・・・って、そっか、さっきまで一緒にいたんだっけか」

 

が、遥だけは納得のいったように肩の力を抜いた。

 

「一応聞かせてくれる?あんたらのとこで、何があったのか」

「・・・・はい」

 

正直、置いてけぼりにされている感が否定できないが。

現状を一番理解しているのは彼女等だ。

目の前で響を連れ去られた雪辱を晴らすためにも、翼は出来る限りのことを話すことにする。




わたしにはこれが限界でした。
誰か、ヤンデレの上手な書き方を教えてください・・・・。

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