立花響の中の人   作:数多 命

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誤字報告機能で、丁寧に修正を指摘してくださった方がいらっしゃいました。
やり方が分からなかったので、この場を借りてお礼を述べさせていただきます。
大変ありがとうございました。


16ページ目

『―――――てなところだ、理解できてるか?お嬢ちゃん』

「おう、やっとこブローチがしゃべってる事態になれてきたとこだ」

「まあ、それが普通の反応だよねぇ」

 

あの後、元の部屋に戻ったクリスを尋ねてきたのは。

キッチンで料理をしていた女性(『エイミィ』と名乗っていた)と、ものを言う奇怪なブローチ(こちらも『セタンタ』と名乗った)だった。

運ばれてきたベーコンエッグや野菜スープに舌鼓を打ちながら聞かされた説明に、クリスはげんなりとした顔でパンにかぶりつく。

 

「で、あたしはこれからどうなるんだよ?どっかにつれてかれて、拷問でもされるのか」

「しない!しないって!」

『おめー、うちのマスターを何だと思ってんだ』

 

ヤケ気味に問いかければ、エイミィは慌てて否定し、セタンタはため息混じりに呆れる。

 

「――――少なくとも、あなたが出会ってきた大人みたいなことはしないわよ」

 

ノックとともに、別の声がかかる。

部屋の入り口を見ると、自分を連れ去った女性(確か『ハルカ』と呼ばれていた)が立っていた。

改めて観察すれば、綺麗な人だと思う。

すらっと引き締まった体、腰に届く長い黒髪。

鋭いようでいて、どこか優しい瞳。

 

「・・・・大丈夫か?」

「本気で心配しないで、そっちの方がダメージくるわ」

 

・・・・涙目だったり、小刻みに震えていなければ、もっと良かったと思う。

正座のダメージを押し殺しながら歩み寄ったハルカは、しゃがんで視線を合わせてきた。

 

「分かっていると思うけど、あなたは『飼い主』に捨てられた。で、あたしの性分が許さないから持って帰ってきた」

 

『オーケィ?』と確認され、ひとまず頷くクリス。

 

「これからしばらくは、ここがあなたの拠点よ。傷が癒えるまで、好きに過ごしてもらっていいから」

「・・・・本当に何もしなくていいのかよ?お前等にとっても、あたしは重要人物のはずだろ」

 

クリスの呟きを、ハルカは笑い飛ばす。

 

「もう大抵は調べがついてるから、どうだっていいのよ」

 

飛び出た『どうでもいい』に、今度は面食らった。

顔が面白かったのか、小さく笑いながら、ハルカは頭を撫でてくる。

 

「言ったでしょ?あんたみたいなのをほっとくのは、あたしの性分が許さないの」

 

何だそれは、と思った。

犬猫拾う感覚で、自分を匿ったのか。

情報を引き出す必要もないのに?

 

「・・・・変なヤツ」

「よく言われる」

 

吐き捨てたクリスに、ハルカは苦笑いして答えた。

 

 

 

 

 

 

◆   ◆   ◆

 

 

 

 

 

「しかし、とんでもない連中が絡んできましたね」

 

響が色々と打ち明けた翌日。

残った大人達は、一昨日の戦闘データを整理していた。

その中で、表示された画像を見た藤尭がぼやく。

 

「魔法使い・・・・彼らは『魔導師』と自称しているのだったかしら」

「我々以外にも、聖遺物を扱う組織があったなんて」

「世界は広いですね・・・・」

 

呟きを拾った了子に、緒川と友里が感心したように同意。

 

「この槍も、確か聖遺物なのでしょう?」

「そう考えるのが妥当でしょう。響ちゃんは言葉を濁していたので、実際は違うやもしれませんが」

 

遥が扱う真紅の槍、『ゲイ=ボルグ』。

シンフォギアに携わっていることもあり、その名は誰もが知っていた。

一突きすれば心臓に必中し、投擲すれば30の楔となって降り注ぐ。

他にも色々能力はあるようだったが、『内通者』を引き合いに出されては、聞き出すのは憚られた。

 

「で、そんなとんでもの教えを受けている響ちゃんは、さしずめ『魔法使いの弟子』と言ったところですかね」

「お、上手いね、友里さん」

「茶化さないで」

 

口にした後で、気取った表現が恥ずかしくなったのか。

友里は藤尭の茶々に、気恥ずかしそうに俯いた。

 

「幸いなのは、あちらに敵対の意思がないことですね」

「全くだわ、響ちゃんの情報が間違っていないのなら、軍隊引っ張ってきても対処できなかったでしょうし」

 

『鼻歌交じりに地形を変えるくらい』。

遥の強さを問われ、響はそう表現していた。

 

「地形を変えるって、神代の英雄じゃあるまいし・・・・」

「けど、それを成し得てもおかしくないとされるのが彼女よ」

 

モニターの遥は、依然楽しそうに翼とじゃれている。

 

(魔導師、司遥・・・・厄介な奴が横入りしてきた)

 

彼女は、小さく舌打ちした。

 

「そういえば、こんな時一緒に頭抱えてるはずの弦十郎くんは?」

「さあ?そういえばさっきから見当たりませんねぇ」

 

仕切りなおした了子が問いかけても、スタッフ達は首を傾げるばかり。

―――――彼らが上司のデスクで、ビデオ返却で外出する旨のメモを見つけるのは、その少し後だった。

 

 

 

 

 

◆   ◆   ◆

 

 

 

 

雨が降っている。

曇天の下。

傘を差した弦十郎は、ビデオレンタルチェーンの袋を手に帰路に着いている。

・・・・と見せかけて、ある場所を目指していた。

大通りから少し離れる。

喧騒が遠ざかり、静かな住宅地に入る。

見えてきたのは、一件のマンション。

そこそこ立地の良い建物を見上げた彼は、さらに歩みを進めようとして。

 

「―――――あら、奇遇ですね」

 

目の前に、女性が立ちはだかる。

傘の陰で、不敵な笑みが浮かんでいる。

 

「お久しぶりです、風鳴司令?」

 

遥が、この先は通さないといわんばかりに佇んでいた。

弦十郎もまた目を細め、相手を睨みつける。

一触即発の空気。

最強クラス同士の、ぶつかり合いが始まる。

 

 

 

 

 

 

かと思えば、そうでもなく。

 

 

 

 

 

「や、どうもすみませんね。あの子になるべく大人を近づけたくないもんで」

「いえ、こちらも配慮が足らず」

 

手近な喫茶店に移動した二人。

それぞれコーヒーと紅茶を注文した。

遥が席に座りつつ、乾いた笑みを浮かべれば。

弦十郎もまた、クリスの来歴を知っているが故に、了承の意を唱える。

 

「・・・・あれから、響はどうですか?」

「響くんですか?少し落ち込んでいたようですが、今はすっかり元気に」

 

包み隠さず答えれば、遥は心底安堵したため息を吐く。

 

「よかった・・・・やらかしておいて何なのですが、糾弾されていないか、気になっていたもので」

「何、響くんにも伝えましたが、アレだけ頼もしいお嬢さんを育てた方ですから」

「・・・・ありがとうございます」

 

信頼がこそばゆかったのだろう。

照れくさそうにはにかみながら、遥はお礼を述べていた。

 

「今更ですが、あの子には言いふらさないように言い聞かせていたものですから・・・・今後もあまり追及しないでいただけると」

「分かりました。こちらとて、せっかく生まれた信頼を壊したくありません」

 

大らかに笑う弦十郎に安心を覚えたのか、遥はもう一度はにかんだ。

 

「では、そろそろ」

 

ひとしきり笑いあったところで、笑みに獰猛さが加わった。

 

「お仕事の話、しましょうか?」

「・・・・ッ」

 

敵意があるわけではないが。

朗らかな雰囲気ではないことを察し、弦十郎もまた気を引き締める。

 

「っと、そのまえに・・・・セタンタ」

『はいよ』

 

小声で胸元に話しかけると、ブローチが点滅。

刹那。

何かの『力』が広がったことを、弦十郎は察知する。

 

「今のは・・・・?」

「結界の一種です、これで盗聴される心配はなくなりました」

「それはまた・・・・便利ですな」

 

感心した弦十郎が呟くと、

 

「他に比べて器用なだけですよ。仕事柄、単独行動が多いものですから」

 

遥は苦笑いしながら答える。

 

「では改めて・・・・そちらは、どこまでご存知なので?」

 

弦十郎が問いかければ、遥は少し考えて。

 

「二課がノイズへの対抗手段を持っていること、クリスを飼っていた黒幕と戦っていること・・・・主だった事柄はこの二つですね」

 

指を立て示してから、お冷を一口。

口を湿らせてから、『そちらは?』と聞き返す。

 

「あなた方が所謂『魔法使い』であること、あなたの仕事は我々と同じく、聖遺物の確保であること・・・・こちらも二つ。響くんが教えてくれて、把握した事柄です」

 

響は、『確信』を上手くはぐらかしたらしい。

遥は安堵しつつも、せっかく出来た信頼できる人々に、隠し事を続けさせる罪悪感が募る。

 

「司令達は、黒幕について何か掴んでいますか?」

「・・・・目星をつけている人物はいますが、確信には至っておらず」

 

眉をひそめた彼に、遥は思い当たることがあった。

 

「それはもしや――――」

 

少し意地悪かと思いつつ、ある名前を口にする。

それを聞いた弦十郎は、目を見開いた後。

うなだれながら、『やっぱり』とこぼした。

 

「まあこちらも確信には至っておりません、彼女が傀儡となっている可能性も否定できませんので」

 

運ばれてきた紅茶を口にした遥は、肩をすくめた。

弦十郎も、苦い顔でコーヒーを飲む。

 

「で、今後はどうなさる算段で?」

「・・・・ノイズを討伐しつつ、奴等のアジトを探り当てることですかね」

「まあ、妥当でしょう。クリスを飼っていたことから、組織立っているのは明白。根城を潰さないことには何も始まりませんから」

 

ここで、遥は何かを取り出し、弦十郎に手渡す。

それは、USBメモリだった。

 

「・・・・これは?」

「関係あるかどうかは不明ですが・・・・ここ数ヶ月の『アメちゃん』の行動記録です」

「・・・・!?」

 

『アメちゃん』なんて可愛い表現で誤魔化しているが、それがどこの国なのかはさすがに分かった。

手にしたUSBと遥を何度も見比べる顔は、大分困惑している。

 

「防衛大臣の暗殺容疑に、正社員にカモフラージュした工作員の、数回に渡る来日・・・・疑うなって方がおかしいんですよ」

「・・・・何故、ここまで?」

 

彼の問いかけに、遥は苦笑いをこぼす。

 

「いっやぁ、こないだそちらにちょっかいかけた件で、お上からお目玉くらっちゃいまして」

 

勤めて明るく答え、ことの重大さをどうにか和らげようとしている。

 

「だから、表立って動きにくくなっちゃったんです」

「・・・・故に、我々の支援は躊躇わないと?」

 

『そーいうことです』と笑い、遥はもう一度紅茶を口にした。

 

「ま、だからってあの子を連れ出したことに後悔はありません。言ったでしょう?私、バッドエンドは嫌いなんです」

「・・・・ええ、俺も、大いに同意しますとも」

 

わざとあくどい声を出す彼女に、弦十郎は笑って首肯する。




前話に感想がどっと来て、ちょっとビビりました。
みなさん大好きなんですね、ケルト勢ww

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