立花響の中の人   作:数多 命

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所詮説明回です。


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陽光に照らされて、クリスは意識が浮上するのを感じた。

どうやら寝込んでしまったらしい。

 

(確か・・・・あのバカに負けて・・・・それで・・・・)

 

身を起こしながら、想起する。

響と戦ったこと、負けたこと、そして。

 

 

 

―――――あなた、もういらないわ

 

 

 

「――――――ッ!!」

 

走った寒気に、身を抱き寄せる。

脳裏に浮かぶのは、自分の『飼い主』。

いや、解雇宣言をされたので、『元』がつくが。

深い地獄から浅い地獄まで連れ出したあの女。

甘いだけではない、苦く、痛い言動で、『相互理解』への刷り込みを行った女。

人は痛みでしか理解できないと、血塗れた方法でしか夢は叶わないのだと。

散々教えて、刻み付けておいて。

その結果がコレだ。

 

(なんだよ、なんだよ・・・・!)

 

指に力を込める。

胸の中を、感情が暴れて回る。

歯を食いしばれば、ぎり、と嫌な音がした。

 

「・・・・っ」

 

と、同時に。

腹の辺りから、低い音。

一気に感情はなりを潜め、頭も冴える。

・・・・まずは腹を満たさないことには、何も始まらない。

改めて周囲を見渡すと、見覚えのない部屋だ。

『仕事』のときや、女が持っている本で時折見かけた。

『マンション』の一室が、確かこんな感じだった気がする。

着せられているのは、Tシャツ一枚。

下着もきちんとあるし、体の痛みもない。

いわゆる『乱暴』をされたわけではないようだ。

幸い出口はすぐそこにある。

だるい体を起こして、ドアを開けた。

向こうは廊下で、他にもいくつか部屋があるらしい。

その一角から、話し声が聞こえる。

あそこに行けば誰かがいるだろうと確信し、クリスは恐る恐るドアを開く。

覗いた先に、いたのは。

 

「・・・・えーっと」

「・・・・ぁぅ」

「・・・・~~ッ」

 

にっこり笑っている女性と、その前に正座している三人の女性。

その奥にはまた別の女性が、鼻歌交じりに料理をしているようだった。

いや、それよりも。

 

「・・・・」

 

三人の前で微笑を称えている女性。

見た限り、クリスを飼っていた女と同じ年に見えるが。

何故だろうか、笑っているはずなのに、威圧感を感じて仕方がない。

よくよく見れば、正座している三人組も、哀れみを覚えるくらい縮み上がっている。

 

(・・・・もう一眠りすっか)

 

あの女性を邪魔してはいけない。

本能的に感じ取ったクリスは、そっとドアを閉じた。

 

 

 

 

 

 

 

◆   ◆   ◆

 

 

 

 

 

 

二課本部、ミーティングスペース。

何ともいたたまれない空気が流れている。

いつも盛り上げるはずの響が、ずっと俯いているのが大きい。

肩の怪我は幸い大事に至らなかったが、むしろ師の襲撃の方が堪えているようだった。

許可を得てこの場にいる未来が、ずっと手を握ってどうにか落ち着かせようとしているが、あまり効果は見受けられない。

見かねた弦十郎が、了子や緒川と視線を交わしてから、立ち上がる。

 

「響くん」

「・・・・っ」

 

声をかければ、肩を跳ね上げる響。

弦十郎はしゃがみ込むと、怯えた瞳を目を合わせながら、頭に手を遣る。

 

「誤解しないでほしいんだが、ここにいる奴等は、誰も君を敵視していないさ」

「・・・・そうなんですか?」

「おうとも!もちろん、君の師匠についてもだ」

 

不安げな問いかけに、快活に笑って即答する。

師匠も疑っていないという言葉に、響は少し驚いた顔を見せていた。

 

「こんなに頼もしいお嬢さんを鍛え上げたんだ。悪人じゃないことは、よーく分かっている!なぁ?」

 

信頼の根拠を語りつつ、後ろを振り返って同意を求める弦十郎。

藤尭や緒川、了子に翼、果ては被害にあった友里まで。

上司だからという義務ではない、心からの肯定を示した。

 

「だからこそ知りたい。何故君の師匠は、あの子を、雪音クリスくんを連れ去ったのか」

 

響に視線を戻せば、彼女は目を見開いたままぼろぼろ涙をこぼしていた。

頭を撫でてやれば、湧き上がった泣き声を必死に押し殺し始める。

弦十郎が思っていたよりも、よっぽど気を張っていたのだろう。

 

「教えてくれるかな?響くん」

「・・・・っあ"ぃ!」

 

しゃくりあげて涙を拭う彼女は、声を詰まらせながら答えたのだった。

 

 

 

 

 

閑話休題。

 

 

 

 

「お、お待たせしました・・・・」

「構わんよ」

 

少し経って。

やっとのことで泣き止んだ響は、半ば乱暴に涙を拭い去って仕切りなおす。

 

「では早速教えてもらえないか?君の師匠は一体何者なんだ?」

「えーっと・・・・」

 

身を乗り出して質問した弦十郎に、響は早速困り顔で思案する。

 

「あのですね、話すといっといてなんなのですが、内容が内容だけに、全部というわけにはいかなくて・・・・」

「話せる範囲で大丈夫よ、私としても、あなたやあの人の技術には興味があるもの」

 

興味津々な了子が一瞥した先。

モニターには、クリスと戦っている響や、翼と『遊んでいる』遥の様子が映し出されている。

響は黄色の強い夕焼け色、遥は夜明けのような紫と、色の違いはあるものの。

二人とも同じ、『頂点部分が円になり、中心に剣が画かれている三角陣』を展開していた。

 

「えっと、端的に言ってしまうのなら、わたしと師匠は所謂『魔法使い』って奴です。師匠達みんなは、『魔導師』って名乗ってるんですけど」

「魔法使い?」

「また、初っ端からとんでもない単語が飛び出したな・・・・」

 

未来がよく聞く、しかし信じがたい表現に首をかしげ、藤尭が苦笑いして腕を組む。

 

「それで、その魔導師とやらはどんな活動を?」

「主な活動は、聖遺物の封印・回収と、それを悪用する犯罪者の取り締まりですね」

「ちょっと二課に似ていますね」

「そういえばそうですねぇ」

 

翼の質問に答えた響は、緒川の呟きに呑気に返した。

 

「じゃあ、響ちゃんや遥さんが使っているのは、魔法ってことになるわけね?」

「はい、わたしのは、シンフォギアと組み合わせた、変り種になっちゃってますけど」

 

友里に答えた響は、徐に左手を掲げた。

腕には、シンプルなデザインの腕輪が光っている。

 

「普通発動には、この『デバイス』っていう発動媒体を使います。一応無しでも出来るんですけど、あるのとないのとでは発動するスピードが違うんです」

「へぇ、そんなアクセサリーみたいな感じなんだ」

「うん!ペンダントとかイヤリング、メタルカードタイプまで。結構バリエーションがあるから、見てるだけでも楽しいよ!」

 

未来の問いに、響は首肯する。

 

「で、デバイスにも色々種類がありまして、わたしの持っているこれは『ストレージタイプ』。詠唱が必要ですけど、代わりに処理能力が高いので、発動までのタイムラグがないのが特徴です」

「そういえば、詠唱の省略も出来るって、あの子・・・・クリスにも話してたわね。そういうタイプもあったりするの?」

「それは『インテリジェントタイプ』ですね。処理能力はストレージに負けちゃうんですけど、術者の代わりに詠唱してくれるんです」

 

了子に答えた響のの補足に寄れば。

『一般的な魔導師』は、大体このインテリジェントタイプを使っているらしい。

理由としてはやはり、面倒な詠唱を省けるというのが大きいとのこと。

それに最近のインテリジェントタイプは、響の持つストレージに負けないくらいのスペックを誇っているため。

ストレージを持っているから、インテリジェントだから強いというのは理由にならないらしい。

 

「結局は使い手次第ということだな」

「そういうことですねぇ」

 

感心した様子の弦十郎に、響は大いに頷いていた。

 

「じゃあ、あなたの師匠・・・・司遥さんは、インテリジェントタイプを使っているということかしら?」

 

ここまでの情報を統合した友里は、そんな結論をぼやく。

友里に化けたことや、右腕から槍を召喚したこと。

さらに恐らくワープを使用したことから、魔法を使ったのは間違いない。

詠唱を肩代わりするというわりには、それらしい音声は聞き取れなかったと聞く。

だが、別に音声を出す必要が無いとするなら、それもまた十分に考えられる要因だった。

 

「はい、左胸にブローチがついてたと思うんですけど、それが師匠のデバイス『セタンタ』さんです」

 

気を利かせた了子が、翼と戦っている遥の画像を拡大する。

見てみれば確かに、左胸にアメジストらしき宝石をあしらった、ブローチが輝いていた。

 

「お仕事中だったとはいえ、珍しくしゃべらなかったけど・・・・」

「話したことがあるの?」

「うん、いわゆるAIってやつなんですけど、本当に人間みたいで。頼れる兄貴分なんです」

 

聞くところによれば、オーダーメイドで作られたものは、一つ一つ性格が違うとのこと。

主であり、相棒たる魔導師を叱咤激励することもあるらしく、中々高度なAIを持っていることが伺える。

そして、それらを作り出せる魔導師の技術力にも。

二課の面々は驚きを隠せない。

 

「そろそろ、本題を聞きたい・・・・司女史は何故、雪音を連れ去ったと思う?」

 

まだまだ聞きたいことはあるが、長引かせるのも考え物だ。

話が一段落したのを見計らい、翼は本題を切り出した。

再び黙して思案する響は、やがてゆっくり口を開く。

 

「・・・・多分、あの子を、クリスちゃんを助けようとしたんだと思います」

「助ける?」

「はい」

 

元から気にかけていた少女の話題と言うこともあり、身を乗り出した弦十郎。

響は頷いて、考察を語りだす。

 

「師匠はヒントをくれました、『内通者』と『バッドエンドが嫌い』」

 

響が見渡して確認すると、全員が頷く。

 

「クリスちゃんはここのところ、わたし達にやられてばかり、つまり失敗ばかりでした。加えて、上司らしい人物からの『いらない宣言』、ここに『内通者』も入れ込むと・・・・」

「なるほど、あのまま二課(ここ)につれて来ていたら、内通者を通じて始末される可能性があった。彼女はそれを危惧したのか」

「情報を流されても困るし、生かしておく理由はないものね」

 

友里、藤尭のオペレーターコンビが閃くと、今度は響が頷いた。

 

「そもそも師匠のお仕事は、刑事さんみたいなものでして。悪さする犯罪者を捕まえるのが、役割なんです」

「警察で言う捜査一課みたいな役職なのかしら?」

「そんなところですね、上位に入る人気の就職先ですよ」

 

『ただ・・・・』と、一度区切って、

 

「そういう悪い人たちに巻き込まれた子ども達と、現場でよく遭遇するらしくて・・・・大抵、モルモットだったり、魔力タンク扱いだったり・・・・」

 

それっきり、響は口をつぐんでしまったが、その先は言われなくても容易に想像できた。

つまり、そういった胸糞悪い状況に何度も遭遇してきたということだろう。

 

「だから師匠、そういう子どもはできる限り助けようとするんです」

「なるほど、弦十郎くんの同類ってわけね」

「むっ」

 

了子に横目で指摘された弦十郎は、きょとんと目を見開いた。

確かに、『子どもを守り、良き手本であること』を信条にしている彼と、子どもを積極的に助けようとする遥には、共通点があるといっていいだろう。

 

「はい!特に師匠なんか、『鬼子母神』なんてあだ名で呼ばれてて!」

「仏教における、子どもの守り神だったか、なるほど、言いえて妙だな」

 

元は、人間の子どもをさらっては食べていた鬼女。

見かねたお釈迦様に、可愛がっていたわが子を隠されたことで、己の罪深さを認識し。

子どもを守る女神へと変じたという。

遥の荒々しいまでの強さを目の当たりにしたり、子どもを助けるという信条を聞いた今では。

その名前が実によく似合うと頷ける。

 

「本当に鬼のような強さでしたね、翼さんが終始遊ばれていましたし・・・・」

「補足するなら、師匠は本当に遊んでいましたよ?アレは子どもとじゃれてるときのノリでしたし」

 

言われてみれば確かに、翼と打ち合っている間はずっと笑っていた気がする。

そして上手い反撃が返ってくれば、まるで自分のことのように喜んでいたものだ。

 

「でも、ちょっと安心したかも」

「ふぇ?」

 

区切りがついたところで、未来が切り出した。

響が間抜けな声で振り向くと、言葉通りの笑顔を見せながら、

 

「だって『寝不足の勢いで、一人でマフィアを二つも壊滅させた』なんて、大げさにもほどがあるもの」

「ああ、その話か。確かに魔法ありきだと考えるなら納得がいくな」

 

未来も、そして翼も。

響が以前ぽろっとこぼした、『狂暴女帝(バーサクエンプレス)』の話を思い出したらしい。

彼女等の言うとおり。

普通に考えるのなら、女性一人で、さらに寝不足という不安定な状態で犯罪組織を壊滅なんて。

弦十郎ほどのスペックがない限り、とてもとても・・・・。

 

「ああ、いや。それ魔法とかを隠してた以外は全部本当だよ?」

「―――――はっ?」

「えっ」

 

大人達が何の話だと首をかしげる中。

響のカミングアウトにぎょっと目を見開く未来と翼。

 

「ついでに言うなら、槍なんて上品なものを使い始めたのはわりと最近、師匠の本領は素手による格闘戦だよ?」

「・・・・つまり?」

 

頭を抱える翼に、響は苦笑いしながらとどめを差した。

 

「敵も味方も、まさにちぎっては投げ、ちぎっては投げ」

「お、おう・・・・」

 

うなだれた翼を見て。

話についていけなかった大人達も、どういった内容の話がなされたのかを何となく察したのだった。

 

「とにかく、司遥は、基本敵対しないということでいいんだな?」

「あ、はい、それは間違いありません」

 

仕切りなおした弦十郎の問いに、即答に近い形で答える響。

 

「もし敵意があったなら、あの場で全滅してましたから」

 

乾いた笑いながらも、自信たっぷりにさらっとなされた物騒な発言に。

大人達は、再び苦笑いをこぼすしかなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

◆   ◆   ◆

 

 

 

 

 

 

%月◇日

怖かった。

また居場所がなくなるんじゃないかって。

それ以上に、大好きになれた人たちに、嫌われるんじゃないかって。

だけど大丈夫だった、みんな変わらないままで優しくしてくれた。

わたしを、信じてくれた。

今はただただ、それだけが。

すごく、嬉しいんだ。




ネタばらし(全部ばらすとは言っていない)。
全部となると、長くなっちゃうもんね。
しょうがないね(涙
冒頭のあたりに出てきた二人は、緑茶に砂糖をぶちこむ人と、その義理の娘さんだったり・・・・。
ひとまず、お師匠が本格的に出てきたので、設定投げておきますね。




司 遥
年齢:25
性別:女
身長:170
体重:知らないほうが身のため
デバイス:セタンタ
詳細:響の師匠にして、恩人。
軽率な態度が目立つが、結構面倒見のいい性格。
今でこそ槍という上品な戦い方をしているが、かつてはあらゆる犯罪者を拳一つで打ち砕いてきた格闘家。
その苛烈極まる戦いぶりから、『狂暴女帝(バーサク・エンプレス)』のあだ名がついている。
また、積極的に子どもを守り、救い上げる様から『鬼子母神』とも。
扱っている『赤い槍』は、実は聖遺物(?)らしい。
意外と一途。

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