ただ・・・・。
なんでそんなに未来ちゃんを怖がるんです?←
早朝と呼ぶにはまだ早いが、深夜と言うには無理がある時間帯。
白んだ空の下、湖畔に佇んだ少女は物思いにふける。
思い出すのは、先ごろのこと。
『敵』が所持する完全聖異物、デュランダルを奪わんとしたときのこと。
あと一歩届かなかったばかりか、起動したデュランダルに不覚を取る始末。
自分もまた、完全聖異物を纏っていたにも関わらずである。
相性もあったのかもしれないが、どちらにせよ二度目の敗北を規したのは間違いない。
「・・・・ッ」
手元に視線を落として、小さく歯軋り。
ノイズを操るタネ『サクリストS』こと、完全聖異物『ソロモンの杖』。
『彼女』に拾われた少女の、最初の役目がこれの起動だった。
歌のエネルギーを蓄積させ、ねぼすけな『眠り姫』を起こす。
かかった時間は、そこそこ高いフォニックゲインを誇る少女を以ってして、半年。
しかし『敵』は、二人係とは言え、あのごく短い時間でそれを成し遂げて見せた。
剣を扱う
一番の原因は、どう考えてもあの融合症例の『呑気なバカ』だろう。
『適合係数』という、装者にとって一番の問題をとっぱらった存在。
聖遺物と一体化した彼女の歌が、旋律そのものに力を宿しているのだとしたら。
直後の暴走も、強すぎるが故の反動であると推測が出来る。
「・・・・だけど」
だから、なんだ。
目的のためには、あいつを掻っ攫うのが必要不可欠。
何より、命じられた仕事の中でこなせていないというのも大きい。
・・・・『雇い主』に逆らえないのは事実だ。
だが、ただで使い潰されるつもりは無かった。
背後に気配、振り返る。
黒いワンピースに、幅広い帽子をかぶった女性がたたずんでいる。
「・・・・せかさなくたって、自分のやることは理解している」
言うなり、手元の杖を投げ渡す。
「そいつを使わなくたって、あいつを連れてきてやるさ!」
拳を握って宣言する少女に、やる気があると判断したのか。
女性は静かに微笑んだ。
◆ ◆ ◆
%月т日
ハルちゃんから連絡が来た。
どうやらこっちにきているらしい。
向こうにいるはずなのに珍しいなと思っていたら。
ティア姉の言っていた感染者連中が、大変なことになっているようだ。
かいつまんでポロっとこぼしてくれた情報によると、トーマも何だか難儀しているようだし。
そんな状況だとそろそろ師匠にもお呼びがかかるんだろうな。
あの人近接最強だし、晩年人手不足な組織にとっては『エースオブエース』と並んで頼りになる人だし。
・・・・いや、本人も気をつけているとは言え、フレンドリファイアが怖い人だけど。
指揮している部隊ですら『チームジェノサイド』とか言われてるし・・・・。
あれかなぁ、いわゆる『類友』って奴なのかな。
隊のみんながみんな血の気が多い人たちだし。
いや、でもティア姉とセレナさんは理性的な方だよね、うん。
時折一緒になって突撃思考になるのが玉に瑕だけど。
あれ、結局ジェノサイドしてる・・・・?
いやいや、そんなことより。
今日のうちに、色んなところに連絡して。
アリサさんとこの別荘でお世話になっている、チームの練習に参加させてもらうことになった。
ハルちゃんに頼み込んで、覇王流を触りだけ教えてもらえることに。
知っている中でも指折りのパワーファイターで、わたしとスタイルが似ているもんね。
習わない手はないよッ!
明日から三連休をフルに使って、ガッツリ特訓するぞー!
おーっ!
%月☆日
未来に見送ってもらいつつ、ハルちゃん達と無事合流。
先生も元気そうでよかった。
ヴィヴィちゃんがちょっと元気なさそうなのが気になったけど・・・・。
お母さんがまさに戦っているんだし、そりゃ心配にもなるか。
でもほっとくのもなんだったので、ちょっとした余興で、瓦割りならぬ魔法陣割りを見せたら笑ってくれたよ。
先生の『水斬り』と同じく、師匠がお遊びで考案した練習の一つだったけど、上手くいってよかった。
障壁破りもそうだけど、強度調整の練習になるし、本当に便利なんだよなぁ。
で、ハルちゃんにアレコレ教わって、実践。
師匠の型とはまた違うから、久々に汗だくになった気がする。
でも、思ったとおりスタイルが似ているからか、思ったよりも上達は出来たようだ。
何年もかけて研鑽してきたハルちゃんに比べたら、底辺の底辺の底辺もいいところなんだろうけど。
真正面からのドツきあいが得意同士、明日も頑張ろうと思う。
%月”日
まさかの奥義開眼。
いやぁ、自分でもびっくり。
ハルちゃんと先生曰く、『未熟な《断空》が、わたしのセンスとかみ合った結果だろう』ということだった。
『撃槍・螺旋槌』というかっこいい名前も頂いたので、明日はこれの仕上げにかかることになる。
付け焼刃でも、初見殺しにはなりえるからね。
しっかりきっちり使い物にしないといけない。
師匠も言っていたもん、『可能性が少しでもあるのなら、それを信じて諦めないことが大事』って。
何でもないことだけど。
当たり前なその思想が、実際に常勝無敗とされる『女帝』を生み出したのだから。
それを抜きにしても、人間やめてる感は否定できないんだけどさ・・・・。
%月㍊日
午前中は昨日の奥義の仕上げ。
午後は三日間の総仕上げとして、わたし含めたメンバーで総当たり戦を行うことに。
みんな年下だけど、格闘技では先輩というだけあって、やっぱり手強かった。
特にコロナちゃんなんか、得意技を使えないっていうハンデがあったにも関わらず、一番苦戦させられたからねぇ。
本当に・・・・あのサイズの腕が誘導弾っていうのは・・・・もう・・・・。
あの人とはまた違った怖さがあったよ、アレは。
それから、ヴィヴィちゃんにも大分手こずった。
タイミングミスって盛大なカウンターくらったときは、一瞬意識が飛んだからね。
いや、冗談抜きで。
逆にリオちゃん辺りは、わたしが雷効きにくいから自然と攻め手を限定できたし。
ハルちゃんも一緒に練習していただけあって、ある程度の『癖』は読めていたから。
でもやっぱり引き分けたのは悔しかったなぁ。
螺旋槌を出すタイミングがちょっと早かったから、向こうの断空拳と競り合う形になっちゃった。
で、結局お互いに相殺し切れなくて、相打ち。
ああ、でもすっごく楽しかったなぁ。
みんな強くなっていたし、わたしも強くなれたし。
実に充実した特訓だったよ、うん!
今は今日の出来事を忘れないように、電車の中で日記を書いている。
あー、早く未来に会いたいなー。
◆ ◆ ◆
「―――――雪音、クリス」
あるマンションの一室。
ソファにふんぞり返った女性は、タブレットの画面を睨む。
書かれているのは、調査の中で判明した少女について。
「反吐が出るわねぇ・・・・」
履歴を読み込んだ彼女は、やや乱暴にタブレットを置きながら吐き捨てる。
『仕事』柄、そういった子ども達を見ることはままあった。
中には凄惨な仕打ちや実験の末に、『死こそが救い』と成り果てる子もいる。
「本ッ当・・・・気に入らない」
そんな地獄を何度も目にしてきたからこそ、強くあることを誓い、
青い正義感であるが、正しいか間違っているかを聞かれれば、答えは言うまでも無い。
「・・・・ははっ」
だからこそ。
苛立ちにゆがめていた口元に、弧を画く。
「・・・・ちょっとくらいなら、いいわよね?」
浮かべた笑顔は、いたずらを企む子どものようだった。
お師匠がアップを始めました←
もういい加減クロス先がバレているようなので、そろそろネタばらしの準備をば・・・・。