ゼロの悪夢   作:BroBro

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お ま た せ

こんなにも長く、時間がかかってしまった…(役10ヶ月)
いやホントすみません。ようやく仕事が一段落着いた、訳でもないんですが、今回は難産でした。もっと後に出そうとしていたフラグをこんなにも早期で出してしまうほど難産でした
誤字脱字も多いかもですが、見返す暇が無いんだ…


憂晴

 

宿に宿泊してから、既に一夜が明けた。

 

元は馬の速度から計算して今日ここに到着する予定だったが、グリフォンとダークライの速度のせいで半日で到着してしまったので、船が出る日、つまり明日の午後まではここで待たなければならない。

 

暇な時間を少しでも消費したかったルイズは、ダークライが宿主と交渉、と言うよりは脅して無理矢理とった一人部屋のベッドで気持ちの良さそうな寝息を立てていた。

 

白い寝巻きは寝返りのせいかはだけており、さらに掛け布団は酷い寝相のせいかベッドから落ちていて、当のルイズは大の字で寝ている。姿形はやばい人が見ればとんでもない展開になってしまいそうだが、いま部屋の中にいる人間はルイズのみ。あとは影から徐々に顔を出して来るダークライだけだ。

 

 

「ルイズ」

 

 

一言声をかけるが、ルイズは苦しそうに顔を歪ませているだけで反応はしなかった。ダークライのナイトメアの影響だ。いつもなら直ぐにルイズを起こす所だが、今回はジーッとルイズを見つめるだけで起こそうとはしなかった。

 

どんな夢を見ているのかはダークライにも分からない。だが、うわ言のようにダークライを呼ぶところを見るに、ダークライが関わってくる夢のようだ。

 

 

「ルイズ、起きろ」

 

 

さすがに可哀想に思ったのか、ダークライは少し大きな声でルイズを呼ぶ。それと同時に冷たい手の平でペちペちとルイズの頬を軽く叩く。

 

すると、弾かれたようにルイズが飛び起きた。

 

 

「ダークライ!?」

 

「なんだ」

 

 

まだ夢だと思っているのか、ルイズはベッドの脇で佇むダークライを頭頂部からなかなか見せないスラッとした黒い足先までくまなく見終わり、今まで見ていたものが夢だと自覚すると、安心したように大きく溜息を吐いた。

 

 

「目は覚めたか?」

 

「最悪の目覚めよ。あんた、私が悪夢を見ていたの黙って見てたでしょ」

 

 

ルイズの問いにダークライは黙ってルイズを見ることで応える。それが肯定の意だと理解すると、いつもと違うダークライの雰囲気に恐る恐ると言った感じに疑問を投げかけた。

 

 

「もしかして、怒ってる?」

 

「怒ってない」

 

「いや怒ってるでしょ?今日見た悪夢いつもより辛かったわよ。あんたの感情が悪夢に反映されるのは分かってるんだから」

 

「確かに、私は怒っているのかもしれない。自分で起きると豪語しておきながら、昼を過ぎるまで寝続ける主にな」

 

「昼過ぎ!?」

 

 

恐るべき速度でルイズは自分の後方に位置する壁掛け時計を見た。無駄に豪勢な装飾が施されている時計の短針は、既に12をだいぶ過ぎている。まだ辛うじて1には達していないものの、寝すぎな事には変わりない。

 

こんな時間まで寝ていたのか?優雅たる貴族のこの私が?短針と長針が逆だったりなんて事は…

 

何度も見返すがそんなことある訳がなく、時計の短針は着々と1時に近づいて行っていた。

 

 

「なんでもっと早く起こしてくれなかったのよ!」

 

「朝は自分で起きるから起こすなと言っただろう」

 

「だからって朝が過ぎるまで起こすななんて言ってないじゃない!皆の前で恥かいちゃうでしょ!」

 

「なら次からは自分で起きるんだな」

 

 

そう言いながらダークライは一際大きな荷物の中に入っている着替えを取り出した。

 

 

「その格好で連中の前に行くならやめた方がいい」

 

 

大急ぎで部屋から飛び出そうとするルイズにダークライは声をかける。そう言えば着替えてなかったと我に返ったルイズは己の格好を見た。乱れていた服は一層乱れ、誤差程度のサイズの北半球が顕になっていた。

 

瞬間、顔を真っ赤にしたルイズは浮遊した着替えを取り上げ、キッとダークライを睨みつけた。

 

 

「…見たでしょ」

 

「見た。それがどうした」

 

 

まるで興味のなさそうにダークライはそう言うと、ルイズの顔は湯気が出そうなほど赤くなった。

 

 

「この…変態使い魔!変態真っ黒!変態!」

 

「何を今更。裸体など今まで何度もみて」

 

「うるさい!部屋から出ていきなさいよ変態!着替えくらい自分で出来るわよ!」

 

「物を投げるな」

 

 

左手で胸を隠しながら、花瓶やら本やら手につくあらゆる物をぶん投げるルイズ。飛んでくるものをサイコキネシスで浮かせて破損が無いように静かに床に置きながら、ダークライは部屋を後にした。

 

バタンと乱暴に扉が閉まる。

 

 

「急になんなんだ」

 

 

今まで散々寝ぼけたルイズの寝巻きやら下着やらを脱がせて着替えの服を着せていた。恐らくダークライより遥かに長い付き合いであろうワルドよりもルイズの恥部等は知り尽くしている。にも関わらずいきなり貧乳だと口にした時並に拒絶されてしまった。

 

見せた悪夢が悪かったのか?とも考えたが、ダークライはこのような事象に当てはまる物を一つ、キュルケより教わっていた。

 

 

「…なるほど、これが反抗期か」

 

 

密かにルイズに対する親心が芽生えつつあるダークライであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◇

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はぁ…」

 

 

小さく吐いた溜め息が、私一人しかいなくなった部屋に響いた。なんであんなに取り乱してしまったのか、よく分からない。

 

考えてみれば最近の半月間以外ほぼ毎日、ずっとダークライは私の、その…は、裸を見てた訳で、 今更気にすることも無いはず。それに今回は裸の内にも入らない、胸の一部を見られただけ。それも多分不可抗力で。

 

それなのに、何故かダークライが私の胸を見たとわかった瞬間、こう、胸の奥が熱くなったって言うか、ドキドキしたって言うか…よく分からない感じになった。

 

この感覚は、確か子供の頃ワルドと一緒にいた時にも感じた。

 

だとしたら、まさか…

 

 

「…いや、まさか私が使い魔に、しかも人じゃない者にたいしてそんな…」

 

 

そんな事あるわけ…無いとも言い難いわよね。

 

 

「どうすればいいのよ…」

 

 

相手は人外で、しかも使い魔だ。昔見た童話では美女と野獣の惹かれ合う恋物語なんてのがあったけど、あっちはまだ人型なだけ幾らかマシでしょ。ダークライはシルエットだけ見ても上半身と下半身が切り離された人の上の部分が浮遊していると言う、とってもホラーな生き物。しかも性と言う物を知らない、寧ろそんなものが彼に存在するかも定かじゃないのに、愛するなんて出来るわけない。

 

しかも私は貴族。仮にも本当にダークライを愛すると決めたとしても、それを世が黙認するわけない。いや、でも隠れた恋って言うのもなかなか…

 

 

「って、なに真剣に考えてるのよわたし…」

 

 

ちょっと考えれば元より人以外と付き合うなんてありえない事だ。私が諦める以前に、この想いの行方なんて簡単に想像がつく。それに、これはただの一時の気の迷いで、直ぐに正常に戻る可能性だって充分にあるわけだし、そこまで気にする必要はないはず。

 

だからいつも通りやればいい。いつも通り過ごせば、いつか正常に戻るはず。

 

大丈夫、大丈夫。一先ず着替えを済ませて…

 

 

「まだかルイズ」

 

「うひやぁ!」

 

「大丈夫か?」

 

 

びっくりした…急に影から出てくるのには慣れたつもりだったけど、今更驚いちゃうなんて…。

 

 

「急に出てくるなら一声かけなさいよ!」

 

「かけたが」

 

「かけながら出てくるのとは違うでしょ!」

 

「そうか、気を付ける」

 

 

素っ気ない態度だけど本当に同じ事はしないのよね。クールって言うかなんと言うか、そういう所がかっこいいなって…

 

いや違う違う。今はこの症状を治さなきゃいけないのに、なんでちょっとこいつの良いところ見直してるのよ!治るもんもなおらないわよ!

 

 

「と、とにかく昼食よ昼食!何か食べなきゃ死んじゃうわ。ほら早く行くわよ」

 

「分かった」

 

 

ちょっと自分でも乱暴と思えるくらいの勢いで扉を開けて部屋から出る。

 

後ろから無音で着いてくるダークライを出来るだけ見ないようにして、一先ず早く昼食が食べたいから早歩きで食堂に行こう。あとダークライに追い付かれたくない。少なくとも視線に入れたくない。

 

 

「ルイズ」

 

 

なんでこういう時に呼び止めるのよ!あ、目が合った。まずい、緊張してる。

 

 

「な…何よ。私は早く食堂に行きたいのだけど」

 

「ルイズ。悩みがあれば、私に言え。私がルイズを助けてやる。絶対に」

 

 

…ど、どこでそんな言葉覚えたあぁぁぁ!

 

この妙に青い言い方、キュルケか!あの赤いのの入れ知恵か!なんて事してくれてんのよあの淫乱赤髪ぃ!

 

 

「…言い慣れないな。赤にこう言えば効果的と言われたんだが。やはり私より赤いのかタバサの方が向いているだろう。相談は彼女らにすればいい」

 

 

まずい、治すどころの問題じゃないわ!このままじゃ悪化の一途を辿るだけじゃない!なんとかこの鼓動を抑えなきゃ…いや抑えられない。全然収まる気がしないわ!

 

あーっもう!

 

 

「なんて事してくれんのよこのバカ!全然かっこいいとか思ってないんだから!」

 

「何を言ってるんだ」

 

「うっさい!キュルケどこよ!」

 

「自室だ」

 

 

あの赤いの爆破させなきゃ気が済まないわ!私のダークライに余計な知識を植え付けて、タダじゃおかないわよ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『でんこうせっか』並の勢いでダークライの前から走り去って行ったルイズを追うことなく、ダークライは日が沈むまで女神の杵亭付近の見回りを続けた。

 

くまなく捜索した結果、伏兵らしき人間は見当たらなかった。道中の計画的な襲撃で神経が過敏になったせいで、余計な所まで探索した気もするが、少なくとも怪しい人間の姿はない。

 

勿論これから現れる可能性も充分に有り得る。夜は奇襲に最適の時間である。日が沈んでからの襲撃は盲目になり、全員が一点に集中しているこちらにとって不利である。ルイズや他の者達は警戒心が完璧に無くなっているが、ダークライが気を緩める訳には行かない。

 

出発は明日。それまでは何としてでもこの場を死守しなければならない。

 

改めて、索敵に集中する。

 

その時だった。

 

 

「来たか」

 

 

 

夜の闇の中、東の遠方の岩陰に数名の人影が見えた。薄い月明かりの中、普通ならば見えない距離だろう。しかしダークライは夜に活動するポケモンである。夜はダークライにとって昼も同然であり、夜の暗闇はダークライからは明るくすら見える。

 

静かにだが、少しずつルイズ達の宿へと進んでいた。

 

それを確かに確認したダークライは、女神の杵の屋根に溶けていき、影となって目標に忍び寄る。

 

ダークライの速度でもそれなりにかかる距離だが、邪魔な雑草は早めに刈り取るに限る。数分間の移動の後、ダークライは目標の足元にたどり着いた。

 

敵は見えるだけでも凡そ10人。当たり前だが、ダークライの存在には気づいていない。ゆっくりと後ろにいる人間へと忍び寄り、ゆっくりと影から出る。そして片手で生み出したダークホールを放った。

 

すうっと目標の体に吸い込まれて行ったダークホール。敵の一人は、糸が切れた様に倒れる。

 

このまま残りの相手にも攻撃する。だが、新たに放ったダークホールは目標の敵が身を翻し、全て空を切る形で終わった。

 

 

「散開」

 

 

誰が言ったのか、小さく聞こえた声を合図に、残りの敵が全て高速で動き始めた。

 

 

「なに?」

 

 

空を飛び、はたまた岩を伝い。まるでダークライを混乱させるかのように周囲を飛び回る。

 

 

(魔法使いか)

 

 

相手がなんであろうとダークライには関係ない。いつも通り目標を絞ってダークホールを放つが、当てることが出来ない。しかし相手からの反撃は来ない。

 

ダークライの弱点は相手に先制攻撃される事にある。加え、ダークホールに依存している部分が多いダークライは、ダークホールが命中する事で戦況を圧倒的有利に運ぶ事が出来る。逆に、出来なければ攻撃手段は大きく減ることになる。

 

故に、ダークホールが一切被弾しない今の状況は宜しくない。『あくのはどう』は大きく力を使うせいでルイズに規制されてしまい、現在は安易に撃つことが出来ない。

 

敵の動きは、それを見越しているかのようだ。

 

 

(なぜ反撃してこない。何か企んでいるのか?)

 

 

冷静に打開策を模索しながら思う。この状況、まるで足止めをしているような…

 

そう思った時、女神の杵から黒煙が登っていることに気がついた。

 

 

「…そうか、陽動か」

 

 

やられた。と思った時には既に遅かった。この敵の狙いはダークライはこの場に留めることであり、ルイズ達を狙う訳でも、ダークライを倒す訳でもなかった。ダークライの足止め、それだけが狙いだったのだ。

 

 

(放って戻るか…いや、それでは別方向からこの連中に攻撃される。全滅させてから戻る方が無難…か)

 

 

ダークホールを頭上に掲げ、大量のダークホールを周囲に放つ。一、二人には被弾するものの、他の敵は怯んだ様子はない。

 

その様子を呆れたように見る。そしてだらっと肩の力を抜き、腕を下げる。

 

 

「…貴様らに何秒も付き合っている暇はない。失せろ」

 

 

瞬間、ダークライの姿がブれた。

 

 

「『ゴーストダイブ』」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

何度目かの爆音が女神の杵の中に響く。窓なら扉やらから暴風雨の様に絶え間なく降り注ぐ矢の数々によって、食堂にいたルイズ達は身動きが取れなくなっていた。

 

 

「なんなのよ!?」

 

「恐らく貴族派に雇われた傭兵だろう」

 

 

当たり前とも言えるルイズの言葉にワルドが答える。

 

現在ルイズ達は食堂の机の一つを立たせて壁にして矢から身を守っているが、お陰でこの場から身動きが取れなくなった。

 

 

(こんな時にダークライはどこに行ったのよ…?)

 

 

テーブルに何本もの矢が当たる音が連続して聞こえる。そんな中でも、ルイズはダークライのことを気にかけていた。昼からダークライの姿を見ていないせいで、良からぬ想像もしてしまう。

 

もしかして、既にやられたのでは?

 

いや、そんな訳がないと頭を振る。彼が簡単にはやられてたまるものか。だとしたら一体どこに…

 

考えても答えはなかなか出ないが、キュルケの声驚いた様な声がルイズの思考を遮った。

 

 

「ルイズ、窓の外に見覚えのある足が見えるわよ」

 

 

先程から机に空いた穴から様子を伺っていたキュルケが窓を指さす。そこには大きな土でできた様な足が見えた。

 

 

「あれフーケのゴーレムじゃないの、なんでこんな所にいるのよ!?」

 

「貴族派に脱獄でも手伝ってもらったんじゃない?」

 

「君たちよくそんなに話す余裕あるね…」

 

 

ギーシュが呆れたような感心したような声を出すが、誰もギーシュの言葉に耳を貸す事は無かった。

 

フーケの大型ゴーレムは徐々に壁を破壊していき、矢による攻撃範囲を広げていく。このペースであのまま破壊され続ければ、宿の倒壊にもそう時間はかからない。

 

 

「どうやら、連中は我々を圧死させるつもりのようだ」

 

 

ワルドが状況を冷静に分析する。このままではこの場で全員建物に押し潰されて命を終えるだろう。

 

この場を切り抜けるには、裏口へ回って桟橋へと向かい、船で目的地へ行くしかない。だが、全員で固まって行動すればそれは難しくなる。目的地へと向かうには囮が必要だ。

 

ワルドは作戦として、ルイズ達に伝えようとした。その時、黒い巨大な渦が外の傭兵の一部を吹き飛ばした。

 

傭兵達が混乱する。弓矢での攻撃の手が止んだ。

 

 

「遅くなった」

 

 

 

そしてルイズ達の目の前で、ダークライが影から飛び出した。

 

 

「あんたっ、今までどこ行ってたのよ!」

 

「他の連中に手間取っていた。すまない」

 

 

言葉と同時に、ダークライは傭兵達に向けてダークホールを放ち、順調に傭兵の数を減らしていく。

 

しかし数が多い。何十人もの数を相手にするのは慣れているが、それなりに時間がかかる。

 

 

「ここは私が引き受ける。ルイズは行け」

 

 

その場の全員に聴こえるように言う。ゴーレムが宿を破壊する音や弓矢が物を掠める音の中でありながら、そのいつもの様な静かな声だけは確かに全員が聞き取れた。

 

確かに、今この中でならダークライは一番強いだろう。だが、これほどの数を相手にする所は誰も見たことが無い。ダークライの実力は皆分かっているが、多勢に無勢のこの状況で、ダークライの勝率は低いと思わざるを得なかった。

 

故に、ルイズは声を上げた。

 

 

「ダークライ!」

 

 

この状況で、ダークライは殿には適役だろう。ただ足止めさせるだけでいい、別に全滅させる必要も無いのだ。危険になったら逃げてくればいい。ルイズ達が逃げ切れたらダークライも抜け出すことも出来るだろう。そんな事、ルイズは分かっている。

 

頭では分かっているのに、何故かダークライを引き止めてしまった。明らかな殺意に向けて突撃を敢行しようとしているダークライの背中を呼び止めてしまった。

 

 

なんと言えばいい?私のために頑張ってくれと?自分の使い魔に、軟弱な主の為に命を張れと言うのか?私が共に行くと言っても、彼は間違いなく否定する。だって、彼は『ルイズは行け』と行ったのだ。他の誰でもない、私に行けと。

 

なんて言えばいい。私は、私の為に戦場に飛び込む使い魔に、なんと言えばいいのか

 

 

ゆっくりと振り返るダークライ。そして、静かにゆっくりと俯きながら黙るルイズの前へと近づき、ダークライの右手がルイズの頬を触れた。冷たい体温がルイズの頬に伝わる。

 

突然のダークライの行動にルイズは慌ててダークライを見る。片目しか見えないが、ルイズの目を真っ直ぐに見つめるダークライの氷のように蒼い瞳は、何故か暖かく見えた。

 

頬が蒸気している。そう分かるが、今は隠すすべはない。頭の中で渦巻いていた思いは全て消え、今は今までにないほど至近距離にいるダークライで頭がいっぱいになる。

 

そして、ダークライは小さく頬に触れた右手を撫でるように動かし、呟いた。

 

 

「安心して、私を信じろ」

 

「…ごめん、ダークライ」

 

 

頭に浮かんでいた言葉は全て消え、自然と出てきた言葉。ダークライはその言葉を聞き、ルイズの頬から手を離した。

 

 

「必ず追いつく。行け」

 

 

そして遂に、ダークライは敵へと向かっていった。

 

飛び交う弓矢を掻い潜り、闇夜へと姿をくらます。その姿をルイズは最後まで見送った。

 

 

「ルイズ、行くわよ」

 

「…分かってるわよ」

 

 

 

 

 

 

無理だけはしないで

 

 

 

 

 

 

そう心の中で呟き、ルイズら一行は裏口へと走った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆◆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「果たしてアレで良かったのか」

 

 

弓矢を躱しながら敵を倒し、ダークライは余裕そうに呟いた。

 

ルイズを落ち着かせるため、、昔とある少女に助けてもらった時と同じ行動をしたつもりだったが、もしかしたら逆効果だったかもしれない。右手から伝わったルイズの体温が少し上がった理由は、ダークライはよく分かってなかった。

 

何分、ダークライは他人を安心させる術を知らない。だからダークライは昔アリスと最初に出会った時と同じようにやっただけなのだが、それをルイズが知る時はおそらく来ない。

 

敵の攻撃が全てダークライに向く。敵の注意を逸らすという目的は、一先ず達成したようだ。

 

あとは、ルイズが逃げ切るまで時間を稼ぐか、連中を全員始末するだけ。

 

そう思い、ダークライは今まで以上の速度で大きく横に飛ぶ。瞬間、ダークライがいた所に大きな拳が振り下ろされていた。

 

 

「…久しぶりじゃないかい、使い魔。いや、ダークライ」

 

 

頭上から聞こえる声。その声に聞き覚えがあるダークライは気だるそうに見上げた。

 

 

「執拗い奴だ」

 

「生憎、執拗くないとやってけない職業やってんでね」

 

 

軽口を叩く声の主、土くれのフーケ。フーケは今までしていたフードを外し、ゴーレムの肩から楽しそうにダークライを見下ろす。

 

 

「ここに居るってことは、あの連中を倒したんだろう?貴族の中ではそれなりに強い魔法使いだったんだが、足止めにもならないとは役に立たないねぇ」

 

「貴様らを動かしている奴は誰だ。貴様が黒幕ではないだろう」

 

「さぁて、誰だろうねぇ」

 

 

変わらず軽口を叩くフーケ。終始余裕の表情だが、次の瞬間に驚愕の表情を変えた。

 

ダークライを囲うように地面が黒く暗黒に染まっていく。黒く染った地面からは無数の真っ黒な腕が伸び始め、うぞうぞと蠢き始めた。よく見ると、手の指は3本しか無く、どれも鋭利な爪の様に尖っている。

 

まるで既に悪夢の中にいるかのような光景にフーケは息を飲んだ。周りの傭兵達も突然の風景の変化に悲鳴をあげている。

 

暗黒の世界の中心にいる影の王は、ゆっくりとフーケへと顔を上げる。影の中で唯一の色であったその白や赤や瞳の青色は、まるで溶けるかのように歪み始めていた。

 

 

 

「…自ラ喋ルカ、悪夢ノ中デ呻キ苦シミナガラ喋ルカ。選べ」

 

 

 

冷たく言い放たれた言葉は、その空間の中でこだました。周囲には、既にその声しか聞こえない。まるで地の底から聞こえてくるような声は、何重にも重なって聞こえてきていた。

 

 

 

 

ダークライは、何百年ぶりに腹が立っていた。

 

それは、フーケ達への怒りでは無い。

 

ルイズを二度も哀しませた、自分への怒り。

 

この場はダークライの独擅場。既に彼らに逃げ場は無い。

 

憂さ晴らしには丁度良い。

 

 




もう…もうマイナーポケモン図鑑のネタが無いんダ!

因みに最後のダークライの空間はポッ拳のダークライの技を想像してもらえればいいと思います

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