ゼロの悪夢   作:BroBro

14 / 18
流石に1ヶ月に一話ペースはマズイので、次はもう少し早く出します。



遅れてすみませんでした


厄日

 

トリステイン。その城下町にあるチェルノボール監獄。そこはトリステインの中でも一番警備が厳重な監獄である。囚人と外を隔てる鉄格子には強力な魔法の障壁が張り巡らされており、監獄の中もベッドと机しか備わっていない。

 

ここまで警備を厳重にする理由は勿論、凶悪な犯罪者を収容する為だ。どれほど強力な魔法使いであろうと、誰も抜け出せないようにする為の監獄。

 

例えあらゆる物を錬金し、土へと変える『土くれのフーケ』も、この監獄には手も足も出なかった。寧ろ、出そうともしていなかった。

 

 

「全く、か弱い女一人閉じ込めるのにこの物々しさはどうなのかしらね?」

 

 

ベッドに寝転がったまま呟く。帰ってくるのはフーケの声の反響だけだ。隣にも部屋があるが、何の反応もない。反応されたら逆に困ったりするのだが。

 

今まで散々貴族の顔に泥を塗ってきたフーケだが、牢生活は長くはない。早くて2週間もすればこの何も無い牢から出られるだろう。この世からも別れを告げることになるのだが。

 

まず間違いなく死刑。無くても島流しだ。少なくともこの土地を2度と踏むことは出来なくなる。どちらに転んでもフーケにとっていい事は一つもない。しかし考えた所で脱獄は叶わないし、媚を売るつもりもない。今のフーケには、ただ暇な時間をベッドの上で転がりながら待つしか無かった。

 

 

「ダークライ……力が上手く出せないって聞いてたけど、デマだったのかね?」

 

 

フッと湧いてきた疑問。誰もこの疑問に答えてくれないと分かっていても、ついつい口に出してしまうあの使い魔。何度目かも分からない疑問は、未だにフーケの中に残っている。

 

オールド・オスマンの話を盗み聞きして得た情報では、ダークライは全力を出すことが出来ない様だった。決闘の全貌をこっそり見ていたフーケにとって、仕事をダークライに邪魔されるのが一番危惧しなければならない問題だと感じた。だからこそ、わざわざ危険を犯してまで会話を盗み聞きしたのだ。

 

それによって得た情報を用いて作戦を立てた。ゴーレムで自分を庇いながら扉を破壊し、用が済んだらゴーレムを崩して視界を悪くして逃げる。その為にゴーレムの腕を硬くした。

 

にも関わらず、ゴーレムの腕は破壊された。最終的に破壊したのはルイズだったが、フーケには腕が破壊された理由が分かっていた。

 

ルイズが攻撃を開始する前、ダークライがフーケに向かって多数のダークホールを放った時、既にゴーレムの腕には大きな亀裂が入っていた。あのままダークライが攻撃を続けていたら、早々に敗北していただろう。

 

何故攻撃の手を止め、ルイズにトドメの一撃を任せたのかがフーケには分からない。あれ程の技量があるならば、ゴーレムの耐久値も見抜いてただろう。少しでも体力を温存したかったのか、それとも主の為に止めたのか。だとしたら、その理由は何なのか。なかなか答えが導き出せない。

 

 

「ま、今考えても仕方ないか」

 

 

今この現状ではどれだけ考えても仕方がない。考えた所で何も出来ない。それが分かっているからこそ、フーケは静かに目を閉じた。

 

のだが、檻の外から誰かの歩く音が聞こえ、また目を開けた。明らかに看守の足音ではない。もっと上品な、貴族の様な足音だ。その音は真っ直ぐフーケのいる牢へと向かって来ている。

 

そして案の定、足音の正体はフーケの牢の前で止まった。その者は黒いマントを身にまとい、顔は白い仮面で確認することが出来ない。マントの隙間からこれみよがしに杖を突き出している。メイジと見て間違いないだろう。

 

 

「おや、こんな夜更けにお客さん何て珍しいわね。おあいにく、ここは客人をもてなすような気の利いたものはございませんの。でもまあ、茶飲み話をしに来たって顔じゃありませんわね」

 

 

顔なんて分かりはしないが、適当に言っておく。この者は自分を殺しに来たものだとフーケは思っているため、少しでも余裕でいたいと思ったからだろう。

 

それに、フーケだって無抵抗で殺られる気は無い。檻が邪魔で魔法は使えないが、なんとか油断させて檻の中に引き込もうとしていた。

 

しかし、身構えるフーケとは裏腹に、マントの者は落ち着いた声で言った。

 

 

「『土くれ』だな?」

 

 

男の声。それも若い声だ。そして男は「話をしに来た」と繋げ、手を広げる。敵意が無いことを示している様だ。

 

 

「弁解でもしてくれるってのかい?」

 

「何なら弁解してやっても構わんが。マチルダ・オブ・サウスゴータ」

 

 

瞬間、フーケの顔が蒼白になった。マチルダと言う名は、フーケにとって切り捨てた筈の名であり、誰も知っている者がいない筈の名だからだ。

 

 

「アンタ、何者?」

 

 

平静を装ってはいるが、声の震えは隠しきれなかった。それだけ、マチルダという名はフーケの中に深く根付いている名前だった。

 

男はフーケの問には答えず、静かに笑い、言った。

 

 

「再びアルビオンに仕える気はないかね?マチルダ」

 

 

その夜、土くれのフーケはチャルノボール監獄から消えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆◇

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

何も起きなかった舞踏会から数週間。いつもと変わらない朝が始まった。

 

ダークライはいつもの様に倉庫から出て、いつもの様に洗濯物を干し、いつもの様にルイズを起こす。

 

ほんの数週間前から始まったこの生活だが、ダークライは既にこの生活に慣れていた。

 

朝食を食べるルイズを待ち、ルイズと共に授業に出る。魔法を扱う事は出来ないが、暇潰しに聞くには丁度よかった。数十分間の授業で、ダークライはルイズの隣で一言も発さずに授業を聞く。ダークライは知らないが、教師は無言で見つめてくるダークライの威圧感に耐えかねている様で、度々体調を悪くする教師が出ていた。

 

何時もの授業。ダークライは毎度その様子を見て、適当に時間を潰す。毎日の様に繰り返されていて、今回もただ終わると思っていた。

 

だが、今日は違った。

 

ガラッと勢い良く開かれる扉。居眠りしていた者も、真面目に授業を聞いていた者も、教師も、一斉に扉に注目した。

 

扉の向こうから現れたのは、コルベールであった。頭に巨大なロールした金髪のカツラを乗せ、ローブの胸にはあらゆる飾りが施されている。その容姿を見た瞬間、教室内の人間の反応は二つに別れた。吹き出すのを必死に堪える者と、あまりの頭部の変わり様に唖然とする者だ。

 

そんな教室の反応なんて気にもせず、コルベールは緊張した顔で呼びかけた。

 

 

「授業中失礼しますぞ!今日の授業は全て中止であります!」

 

 

瞬間、教室中から歓声が上がった。

 

 

(何か面倒事が来た予感がする)

 

 

その歓声の中で、ただダークライだけが面倒くさそうに溜息を吐いた。

 

 

 

授業中止の知らせから暫くして、ダークライはルイズの自室から図書館に向かっていた。

 

ルイズは同行していない。理由は、授業中止の理由と密接に関係している。

 

何でもこのトリステインがあるハルケギニアの姫であるアンリエッタと言う少女が、この魔法学院に行幸すると言うのだ。その為に歓迎式典の準備を行い、生徒は皆正装に着替え、門へと整列。それらの準備の為に今日の授業は全面中止となった。

 

ただ今ルイズは着替え中である。ダークライも正装を見るのは初めてであり、余計な手を出すよりルイズ一人に任せた方がいいと判断していた。その為、現在ダークライは暇を持て余している。生徒や先生の声によりダークライは門に立つ必要も無くなった為、余計に暇な時間が多い。

 

暇つぶしに図書館に来てみても、ダークライの気を引く本は見付からない。そして本格的にやることが無いと思い始めた時、図書館の一角で見知った顔を見つけた。

 

薄青色の髪の少女、タバサだ。分厚い本を読んでいる彼女は、ダークライの存在に気づき、チョイチョイと手招きした。

 

別に行かない理由も無いので、ダークライはタバサの元へと近づいた。ダークライが机の向こうで止まった所でタバサは本を閉じ机に置き、何の脈絡も無くダークライに言った。

 

 

「今の内にハッキリさせておきたい。あなたは幽霊?」

 

「……なに?」

 

 

いきなりよく分からない質問をされて、ダークライは戸惑った。

 

そんなダークライにタバサはもう1度ハッキリと言った。

 

 

「あなたは幽霊かと聞いている。実体が無いものを幽霊だと私は認識しているけれど、あなたの容姿は幽霊を彷彿とさせるし、なにより浮き方が幽霊っぽい」

 

「…私はダークライだが」

 

 

いつも言葉足らずなタバサが、どういう訳が口数が多い。いつもと違うルイズの友の姿にペースを奪われるが、ダークライは幽霊と言う言葉をまず知らないため、自分が認識している自分を言った。

 

 

「幽霊ではないということ?」

 

「私は私だと言った。実体もある」

 

「…それなら安心」

 

 

そう言って胸を撫で下ろした。この少女が目に見えて自分の感情を表す所を見るのは、アンノーンの特定の形を10連続で見つけるよりも難しい。それだけ、タバサは幽霊が苦手なのだ。

 

何に安心する所があったのか分からないダークライは、幽霊とは何かを質問しようとした。

 

しかしそれよりも早く、タバサが声を上げた。

 

 

「幽霊じゃないなら、余計に分からない」

 

「…何がだ?」

 

「あなたの正体。どれだけ調べても出てこない」

 

 

そう言って手に持っている本をダークライに見せる。どうやら今まで発見されたモンスターや動物の図鑑の様だった。

 

よく見ると、タバサの机の端には本が小さく積み上がっている。それらをタバサは一瞥し、改めてダークライに向き直った。

 

 

「あなたについて、よく教えて欲しい」

 

 

真っ直ぐにダークライの目を見る。昔の馴染みとルイズ以外、今までの人間はダークライと目を合わせようともしなかったため、ダークライにとっては妙に懐かしかった。

 

他者の事をさほど気に止めないタバサだが、正体不明のものに対しては興味が湧く。ダークライは、今まで全く目撃例が無く、喋ることのできる生き物だ。今のタバサを支配しているのは、王妃の姿を見ることではなく、真実への渇望だけだ。

 

だから、ダークライの言葉を素直に待った。急かすこともなく、ただ逃がさない様にダークライの蒼い瞳だけを見つめる。

 

互いを見つめ合う事数10秒。ダークライが動いた。

 

 

「…いいだろう。だが、後悔する事になるかもしれんぞ」

 

 

その言葉にタバサは無表情なれど、心の中で喜んだ。

 

 

「百も承知。寧ろあなたの前に立つ度に私は今まで覚悟を決めてきた」

 

「ならいい」

 

 

ダークライがタバサと机を挟んで向かい合う形で滞空する。そして話し始めようとタバサの目を見る。

 

 

「なぁにやってるのよあんたわぁぁぁ!!」

 

 

その瞬間、図書館内で響いてはならない怒号が響いた。その怒号の正体は息を切らせて現れる。

 

 

「ルイズ、どうした?」

 

「どうしたじゃないわよ!なに私を差し置いてタバサと楽しく話してるのよ!タバサも!私の使い魔を取らないでくれる!?」

 

「私はあなたの使い魔の正体を知りたかっただけで楽しくはない。あなたのせいで緊張感が台無し」

 

「緊張感ってなんだ?」

 

「緊張感とは、気持ちが張り詰めている事を言う」

 

「ふむ、理解した」

 

「あーもう!やっぱり楽しそうじゃないの!」

 

 

どこからか「うるせぇー!」と言う声が幾つも聞こえて来るが、今の彼女等には関係なかった。加え、ルイズはここが図書館だと言うことを忘れている様で、終始大声で叫んでいた。

 

勿論、3人がつまみ出されるのにそう時間はかからなかった。

 

 

「私はうるさくなかった」

 

「私もだ」

 

 

ある意味とばっちりを受けた2人が、喚き散らしながら廊下を進んでいくルイズの後ろで静かに呟いた。

 

 

「私の話しは明日だ。門に行くがいい。そろそろ時間だ」

 

「…分かった」

 

 

タバサにそう告げて、ダークライは2人と別れる。結局暇だ…と1人で呟き、ダークライは学園の中を宛もなく徘徊し始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

なんとか時間を潰し、夜中まで持ち込めたダークライは、少しぐったりしながら主と共にルイズの部屋にいた。何もしないと言う事が、こんなにも辛い事だとは思わなかったからだ。

 

庭に住んでいた頃は勝負を仕掛けてきた仲間のポケモンとバトルしたり、池で溺れたり高い所から落ちた子供を助けたりしていて、結構動いていた。暇つぶしに他の使い魔とバトルしようとしても逃げてしまうし、学園の中から人が誰もいなくなってしまって、本当に何もする事が無かった。

 

 

「身体が鈍る……」

 

 

タダでさえルイズの使い魔になってから数える程しか動いていないのに、こんなに体を動かさない事があっていいのだろうか。日頃体を動かさねば、もしもの時に支障をきたす。そう分かっているが、外に出れば人間に騒がれるし、少しルイズの元を離れると怒られる。体を動かす手段が無かった。

 

 

「襲撃でもされれば動けるのだがな」

 

 

とてつもなく縁起の悪い事を言うが、ルイズは何の反応も示さない。ベッドに寝転がったと思ったら立ったり、今度はベッドに座ったりと、忙しなく動いていた。

 

 

「どうした?」

 

 

ダークライが問いかけるが、返事は帰って来ない。ただただぼうっとあらぬ方向を見ている。

 

そろそろ寝床である離れの倉庫に帰ろうと思っていたが、これでは帰るに帰れない。ルイズに何かあるのだとしたら、離れるわけにもいかない。

 

ダークライが具合でも悪いのかと聞こうとした時、ルイズの部屋にノックの音が響いた。瞬間、ルイズは今までの動きが嘘のようなスピードで立ち上がり、大急ぎでドアへと向かった。

 

 

(客か)

 

 

こんな時間に珍しいものだと思いつつ、パニックを避けるためにダークライは影に入り、ルイズの影と同化した。

 

それと同時に、ルイズが扉を開ける。ノックをしたと思われる者は、頭部に黒い頭巾を被っており、体にも同様にマントを羽織っていた。しかし身長と体格、そしてルイズの部屋に入ってくる動きで少女である事が分かった。

 

部屋に入って来た少女はマントの隙間から杖を取り出す。というそして小さく詠唱し杖を振るうと、光の粉が宙を舞った。

 

 

「ディティクトマジック?」

 

「どこに耳が、目が光っているかわかりませんからね」

 

 

2人が話している間、ダークライはただ黙って2人の様子を見守っていた。

 

ディティクトマジックは他者からの監視を探知できる魔法だ。壁に空いた小さな覗き穴や、盗み聞きに特化した魔法などがこの部屋に隠されているかを知る事が出来る。光の粉はルイズの影にも落ちたが、マントの少女はダークライに気付くことは無かった。別に魔法に欠陥という訳ではなく、ダークライは完全にルイズの影と一体化しているから分からないだけだ。

 

ひとしきり調べ終え、何処にも監視の痕跡が無いことが分かると、少女は頭巾を取った。

 

 

「姫殿下!」

 

 

その顔を見た瞬間ルイズが驚きの声をあげ、急いで膝をついた。

 

 

「お久しぶりね、ルイズ・フランソワーズ」

 

(……誰だ?)

 

 

影から見ていたダークライは全く知らないが、その少女こそダークライを今日一日暇にさせた張本人の、アンリエッタ姫であった。

 

影の中で一人、ダークライはアンリエッタの顔を思い出そうと思案する。その間に、アンリエッタはルイズに抱きついていた。

 

 

「ああ、ルイズ!わたくしのおともだち、ルイズ・フランソワーズ!なんて懐かしいのかしら!!」

 

「いけません、姫殿下。このような場所にお1人でいらっしゃるなんて…」

 

 

終始頭を下げ、畏まった言葉を使うルイズにアンリエッタは頭を振る。

 

 

「止めてちょうだい!枢機卿も母上も、あのお友達面で寄ってくる欲の皮の突っ張った宮廷貴族もいないのですよ!あなたにまでそんなよそよそしい態度を取られてしまっては、わたくし死んでしまうわ」

 

「姫殿下…」

 

 

顔を上げる。それを見て、アンリエッタは満足そうに笑い、思い出話を話し始めた。

 

2人が昔話に花を咲かせている頃、ダークライはアンリエッタについて思い出していた。

 

 

(姫殿下…確か、アンリエッタ姫と言ったか。本で見たな)

 

 

暇な時が出来たら図書館に行くことが多いダークライは、流し読みしていた本でアンリエッタの絵を見たのを思い出す。こうやって本人を見ると、あの絵はかなり似ている。お陰で思い出すことが出来た。

 

ダークライにとって、自身に指示できる者はルイズである。ルイズの上の人間なんて知らなければ、興味がある訳でもない。ダークライにとってはただの人間であり、学園の生徒とさほど変わらない。

 

アンリエッタの正体を思い出したダークライは、つまらなそうに目を瞑る。アンリエッタがいた所で、自分になんの影響もない。ルイズの様子を見るに、ルイズの仲間の様だから心配する必要も無いだろう。

 

一先ず疲れた体を癒そうと、ダークライはルイズの影から抜け出し倉庫に向かおうとする。

 

しかし影から出ようとした時、ルイズから声がかかった。

 

 

「ダークライ、姫殿下に挨拶なさい」

 

(……)

 

 

心底うんざりした様にダークライは動きを止め、ゆっくりとルイズの影から現れる。

 

 

「……」

 

 

無言。結構疲れているので、ダークライは余計な動きをしたくなかった。適当にルイズが紹介してくれると思っていたから、喋る必要も無いと思っていた。

 

しかし、影から現れたダークライを見てアンリエッタは心底驚いた様に目を白黒させる。ルイズは黙ったまま、ダークライに目で何か合図を送っていた。

 

 

(自分でやれと言うのか…)

 

 

小さく溜息を吐く。仕方ないと呟き、ダークライは改めてアンリエッタと向き合った。

 

 

「…私がルイズの使い魔、ダークライだ」

 

「ちょ、ちょっとダークライ!言葉遣いに気を付けなさいよ!」

 

「私はやれと言われたからやっただけだ。それに私は言葉遣いの変更は出来ない。これ以外知らない」

 

「それっぽくぐらい出来るでしょ!アレだけ図書館に言ってるんだから覚えなさいよ」

 

「必要ないと判断した」

 

「必要あるわ!」

 

 

ギャーギャーと捲し立てるルイズに、終始無表情で冷静なダークライ。その2人を見て、固まっていたアンリエッタの頬が緩んだ。

 

 

「すごい、本当に喋れるのね。それに思っていたよりもずっと黒いわ!こんな生き物見た事がないわよ!」

 

 

まさかの反応に2人は驚く。特にルイズなんて失礼な言葉遣いに怒られるかと思っていたので、余計に驚いた。

 

興奮した様子でダークライに近づくアンリエッタ。まるでマッドサイエンティストの様な顔で近付いてくるアンリエッタにダークライは妙な悪寒を感じ、後退りする。

 

しかし、ルイズが背後に回り込み、ダークライの後退を阻止した。主を弾き飛ばして逃げるわけにもいかず、怒られたくないからアンリエッタを吹っ飛ばして逃げる訳にもいかないダークライは、今日最大の溜め息を吐いた。

 

 

(厄日だ……)

 

 

諦めた様にダークライは肩を落とす。それをいい事にアンリエッタはダークライをぐるりと見回し、肩や胸、東部の白い部分などをぺたぺたと触る。感じたことの無い感覚でもあったのか、度々驚いた様な声が聞こえた。

 

それに便乗してルイズも加わる。1週間ほどダークライと共にいたが、ダークライに無意味に触る事なんて無かったため、チャンスと見てアンリエッタと共にダークライを触り始めた。

 

 

「ルイズ!ここ触ってみなさい、スベスベしてるわ!」

 

「これ、髪の毛だと思ってたけど何か違うわね…一体何なのかしら?」

 

「ここなんてふわふわしてるわよ!この肌触りの境界はどこかしら?」

 

「姫さま、ここのスカートの様な部分もなかなか気持ちいいです!」

 

 

ただ黙ってうんざりした様に目を瞑る。ルイズは色々な場所を触りながらダークライについて自慢げに語りだし、アンリエッタも触りながらダークライの技や力を真剣に聞く。

 

 

(勘弁してくれ…)

 

 

心の底からそう思う。暇な時間を漸く消して、無駄に疲れているのにこんなにベタベタ触られてと、ダークライにとって今日はいい事が一つもない。

 

本当に勘弁してくれと思うが、既に喋る事すらも面倒になった彼はその言葉をルイズ達に言うことは無かった。

 

数分後、一通り触って喋って満足したのか、アンリエッタはダークライを解放し、笑顔でダークライの隣に立っているルイズを見た。

 

 

「本当に珍しい使い魔ね。あなたが羨ましいわ」

 

 

それに対してルイズは照れ臭そうにもじもじと体をくねらせる。

 

それをうんざりした目で見ていたダークライは、バレない様に静かに影に入った。

 

 

「付き合いきれん…」

 

 

そう静かに呟いて、ダークライはルイズの部屋から出る。窓の隙間から無音で退室したダークライは、ふらふらと自分の倉庫に帰っていった。

 

 

しかし翌日、ダークライはもう少し部屋に留まっておけば良かったと後悔する事になった。

 

 

 

 

 

 

 




後書きポケモン図鑑(マイナーポケモン編)

『ラブカス』ランデブーポケモン
タイプ:みず
高さ:0.6m
重さ:8.7kg
とくせい:すいすい

『図鑑説明』
見た目でもう既に可愛く、女性から人気があるポケモン。しかしこのポケモンの種族値は素早さ以外あのアンノーンより低い。火力もなく、持ち前のそれなりにあるスピードを使ってサポート役に回る事が多いが、サポート技が皆無と言っても過言ではない。サポート役にするならば、天使のキッスを乱射するしかサポート出来ない様なもの。
その技のレパートリー、そして全くと言っていいほど使い物にならない火力から、種族値合計200のヒンバスにすら見劣りする(ヒンバスは睡眠系や怪しい光、光の壁など優秀な補助技を覚えてくれる)。
現在ではボロの釣り竿でも釣れる様になってしまい、ハートのウロコの乱獲が捗る様になっている。しかしサン・ムーンではラブカスを捕まえなくてもハートのウロコが楽に手に入る様になってしまい、ウロコ要因にもならなくなってしまった。
今後の進化に期待せざるを得ないポケモンである。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。