しかも前後編と別れてしまう事実……書いている間に本編もどうにかかんがえます。
虚無の曜日から数日が経った。ダークライはいつもの様に洗濯物を抱え、洗い場へと向かっていた。
殆どの貴族が寝ているこの時間は、使い魔やメイド達が朝の仕事をこなす時間である。洗い場でも廊下でも、すれ違う使い魔の数は多く、慌ただしく飛んだり走ったりしている。
その中でもダークライはゆっくりと浮遊し、洗い場に到着した。何時もならば、毎日ダークライに洗濯の仕方を教える為にシエスタが待機している。
しかし、今日は洗い場にメイドの姿は一つも無かった。
忙しいのだろうとダークライは思った。舞踏会の日が近いと聞く。舞踏会では数多くの料理が振る舞われるし、大きな舞踏会である為に準備期間も必要だろう。そこにシエスタも駆り出されてると考えれば、今この場に居ないのも納得がいく。
ダークライの手伝いをしているのは、飽くまでシエスタの私情である。学園側の仕事が入れば、そちらを優先するのは当たり前だ。シエスタが来れないのは、仕方ないと言える。
そこまで考えて、ダークライは呆然とした。
(参ったな……)
殆どシエスタ頼りっきりだったため、ダークライはまだ洗濯に関する基礎的な知識も身につけていない。どうやらダークライは細かい作業が出来ない様で、なかなか洗濯の仕事が身につかなかった。シエスタは「少しづつ覚えていけば大丈夫」と言っていたが、覚えられる気がしなかった。
別にシエスタの教え方が悪いと言っている訳では無い。寧ろとてもわかりやすく説明してくれる。しかし、人にもポケモンにも適材適所と言うものがある。局地戦が苦手なポケモンも居るように、洗濯が苦手なポケモンもいるという事だ。3本の指が人より太いと言う事も原因になっているのだろう。
どうしたってこの状況では洗濯なんて出来やしない。少し前、試しに洗ってみたら何故か「着た人間を悪夢に誘う服」と言う魔具が出来上がり、ルイズにこっ酷く怒られた事がある。その事件がダークライの洗濯に関する向上心を妨げていた。
(……無理だ)
そう結論を出したダークライは、静かにルイズの部屋へと戻り、ルイズを起こして事の顛末を説明した。話を聞いたルイズは心底驚いた様に目を点にさせた。
「あんた未だに洗濯出来なかったの!?」
そのルイズの第一声がこれである。まあ当然の反応だろう。洗濯物が毎日妙に綺麗に洗ってあって、最近関心していたのにダークライ本人が洗っていなかったのだから。
別にダークライは隠そうとしていた訳では無く、説明する必要はないと考えていただけだ。
「昨日の服は我慢してくれ、明日にはどうにかする。何故シエスタがいなかったのか分からないか?」
そう言いながら、ダークライはクローゼットから二つ目の制服を取り出した。質問は受け付けないとでも言いたそうな態度でルイズは少し腹が立ったが、時間的に今更どうしようもないので、ダークライの質問に答える事にした。
「……フリッグの舞踏会まであと数日。確かに舞踏会は大掛かりだけど、ここの人数を考えるとこんなに早期に準備はしない筈よ。だからと言って、この忙しい時期に解雇は無いわ。どちらにしても、シエスタの主な仕事は給仕だから、食堂に行けば会える筈よ」
「そうか」
浮いた服を着終え、ルイズとダークライは足早に食堂へと向かった。
◇◆
食堂へと付いたダークライは、何時もとは違う違和感を覚えた。
いつもより落ち着きがない。なかなか気付かないが、座っている生徒に対して使用人の数が足りない気がするのだ。
数分間、ルイズの席の隣で食堂を見続けると、その違和感の正体が分かった。それは普通だったら食堂で料理を運んでいる筈の人物。
「ルイズ、シエスタがいない」
「……おかしいわね」
シエスタは、朝食時の食堂には必ずいる。そして必ず一番にルイズの元にやってくる。それが、今日に限って別のメイドが運んで来ていた。人数が足りない分を埋めるためか、ルイズへの料理を運んだ後はそそくさと礼をし、別の生徒へと料理を運んで行った。
シエスタは、昨日の夕食の時はルイズに食事を運んでいる。少なくとも、シエスタが食堂に来れなくなった何らかの理由が、この数時間の内に起きた事になる。シエスタの分の補充員が居ないのは、突然の事で対応出来なかったと推測できた。
今日と昨日の間になにかあったのか。昨日の夜か、今日の朝か。どちらにしても、調べない訳にはいかない。
ダークライにとって、シエスタが居ないと言うのは死活問題だからだ。残念ながらこれ以上、他の誰かに生活の基礎を聞く気は無い。ダークライに対した良からぬ噂が広がったら、ルイズの印象に関わるからだ。
「調べてくる」
そう言って、ダークライはルイズの元から離れようとする。向かう先はメイド達が出入りする扉の向こう、キッチンルームだ。そこの人間ならば、シエスタの行方を知っている可能性があると見たからだ。
しかしダークライの腕をルイズが掴み、ダークライは歩みを止めた。
「今行っても無駄よ。どうせ時間が無いとかで追い返されるのがオチだわ。行くなら、朝食の最中に行きなさい。それなら話くらいは聞いてくれると思うわ」
(逃げ出さなければだけど)とダークライに聞こえない様に静かに呟く。ダークライは少し悩むような仕草をした後、黙って首を縦に振った。
それから数分後に朝食の時間になり、厨房に行く時間が生まれた。
ルイズには「行ってくる」とだけ告げて、その場から離れる。ルイズは一旦ナイフとフォークを置き、小さく手だけ振って答え、直ぐに食事を再開した。
食堂は無駄に広い。教師と生徒が全員入るくらい空間がありながら、まだまだ10人程入りそうなスペースが残っている。それだけの広さがあるため、ルイズの席から厨房までそれなりに距離があった。
机に向かい合って座る生徒達の間をふわふわと進む。何人から驚いた様に振り返り、何人かは見て見ぬ振りをする。今のダークライの立ち位置を分かりやすく示していた。
そんな生徒達を全く気にせずに厨房へとたどり着き、扉を開けた。
厨房内は、予想以上に静かだった。空気自体が重く沈んでいるようにも感じる。どうやら、ダークライが入って来たせいで空気が重くなった訳では無い様だ。
使用人の中にはダークライを見て驚く者もいるが、殆どの者がダークライの存在に気づいていないようだ。
勿論、その中にシエスタの姿は見受けられない。
こう言う状況にダークライは慣れていない。暫くダークライは次の行動について悩んでいると、料理人らしき服装の男が、ダークライの存在に気が付いた。
「おお、アンタは確か……ダークライだったかな?」
「お前は……」
「ああ、名乗るのが遅れちまったな。俺はマルトー。ここのコック長だ」
「マルトー。私を知っているのか?」
「ああ、知っているとも。貴族を圧倒した使い魔としても、シエスタの友人としてもな。アンタのこと、よく嬉しそうに話していたよ」
シエスタが自分の事を話していた事に少し驚いたが、ダークライはただ話をしに来た訳では無い。
「シエスタはどうした?」
「シエスタか……実は、もういないんだ……」
「この厨房にか?」
「いや、この学園にって事さ」
「……」
恐れていた事態が起きてしまった。学園にいない、となると手の付けようが無いかもしれない。最悪、明日からは独学で洗濯をする事になる。そうなれば悪夢の魔法具シリーズの量産は決定したも同然だ。
できることならそれは避けたい。ルイズに怒られるのは殆ど時間の無駄と言っても過言では無いからだ。また「聞いているのか分からない様な曖昧な返事だ」と言って同じ言葉を繰り返す事になる。生まれつきだから仕方ないと言っても聞かないからタチが悪い。
可能であれば、シエスタを連れ戻したい。せめて、洗濯の基本的な技術が身に付くまで。
「シエスタはどこに行ったんだ?」
「少し前、王宮から勅使で来ていたモット伯って貴族に見初めれて仕える事になってな。今朝早く迎の馬車で行っちまったんだ」
そう苦々しく話すマルトー。その仕草にダークライは疑問が湧いた。この世界に来て付けた知識だと、貴族に仕えると言う事は平民にとっては悪くない事の様だ。シエスタは貴族から呼ばれた。と言う事は、それなりに名誉の事なのだろう。それなのに、何故この厨房の連中は皆一様に沈んでいるのだろうか?
疑問は解消しなければやってられないポケモンである。浮かんだ疑問は、素直に聞く。
「何故喜ばない?」
「喜べるか。元々あのモット伯って貴族は、いい噂を聞かないんだ。そうやって気に入った若い娘を次々と召抱えているらしい」
「シエスタは喜んだのか?」
「……嫌々ながら、と言った感じだったよ。もっとお前さんに教えなきゃいけない事があるって言ってな。だが、所詮平民は貴族の言いなり。逆らえないのさ……」
そう言って、マルトーはポケットを探り、一つの手帳の断片の様な物をダークライに渡した。
そこには、洗濯物の洗い方や正しい干し方。部屋の掃除の仕方等が事細かに書かれていた。
「シエスタがあんたに渡してくれだと。中身は読んでないから安心してくれ。それが、シエスタがあんたに残した最後のものだ」
小さい紙に何行も説明が書いてある。中には小さいながらも絵が描いてあり、とても分かりやすかった。
それをダークライはじっと見つめる。そして、小さく呟いた。
「こんな物で、理解できる訳がない」
同時に、朝食の終わりを告げるチャイムが鳴った。厨房にある時計を一瞥し、ダークライは「世話になった」と一言だけ残して厨房を去った。
(モット……挨拶でもしに行くか)
騒がしくなり始めた食堂の一角で、ダークライの青い瞳が怪しく煌めきを増した。
◆◇
朝食を終えて食堂を出たルイズとダークライは、授業を受けるために教室へと向かっていた。その道中で、ダークライは事の全てを説明する。
その説明の最中ずっと、ルイズは不機嫌そうに眉間にシワを寄せていた。
全ての説明を終えた時、気が付けば2人は教室への歩みを止めていた。
「ダークライ、妙な事を考えるのは止めなさい」
見透かした様にルイズは言った。
「妙な事とは?」
「アンタが考えている事よ。確かに、そのモット伯の事は納得行かないわ。同じ貴族としても、シエスタの友人としてもね。でも、ここでは平民は貴族に逆らえない。私達が何を言おうと、意味の無い事よ」
「何故私が何かを言いに行かねばならない?」
その言葉にルイズは一瞬キョトンとするが、直ぐに意味が分かった。
「……ア、アンタ、本気で言ってる?」
クイッと意味が分からないとでも言いたげに首を捻るダークライ。どうやら、ダークライの中でやる事は既に決まっている様だ。
「アンタ本気なの!?貴族を殺しでもしたらタダじゃ済まないわよ!」
「証拠は残さない。それ位はできる。それに殺さない。現実と夢の区別がつかなくなるくらい長い間眠ってもらうだけだ」
「死んでるのと何の違いがあるのよ!」
「息はする。ただ永い眠りにつくだけだ。いつかは起きる。その時は、夢か現実かは分かっていないだろうがな」
「でも……」
「寝るだけだと言った」
何かを言おうと口をパクパクさせるルイズだが、諦めた様に深い溜め息を吐いた。こうなってしまえば、ダークライは止められない。
それに、ルイズもモット伯に関しては快く思っていなかった。ルイズが求め、成りたいと願っている貴族とは、明らかに違う。平民をただの奴隷や道具として扱う者を、貴族とは呼びたくない。だからと言ってダークライの愚行を許すと言う訳にもいかない。
ルイズはダークライの行動を止める気でいる。それが、ダークライの為でもあると思っているからだ。相手は貴族。行けば少なくとも無傷では帰って来れないだろう。
だから、ルイズはダークライの行動を許しはしない。
「例え眠らすだけでも、絶対にダメよ。貴族に手を出した時点で、私達の負けなの。そう言う存在なのよ、貴族は……」
ダークライに向かって言った言葉だが、途中から自分に言い聞かせる様に言っていた。
自分もモットと同じ貴族。そう思うと、ダークライも自分をモットと同じ様に見ているのかと考えてしまう。貴族とは何かを常に考えているルイズだが、未だその明確な答えが見出せていない。平民を大切に思う者が本当の遺族だと思っていても、周りの貴族はそうではない。
ルイズは貴族と言う大きなくくりの中の1人に過ぎない。周りから見たら、ルイズはそういう意味での貴族だ。
例え、モットの行いが『悪魔』と侮辱されても、今のルイズでは反論は出来ない。もし、ダークライにそんな事を言われたらと思うと恐ろしくてたまらない。
「ねぇ、ダークライ」
でも、ルイズはダークライに聞きたかった。
「ダークライは貴族の事、どう思っているの?」
聞かれたダークライは黙り込む。それほど難しい質問だったのかと余計なことを思ってしまう。鼓動が早くなるのを感じた。
「すまないが、私にはよく分からない」
帰ってきたのは、何とも呆気ない答えだった。
「モットが貴族なのは知っている。しかし私にはシエスタが必要で、シエスタはここに残ろうと思っていた。なら私は貴族だろうが神だろうが相手にする。そしてここに連れて帰ってくる。そして、洗濯だ」
そう言ってどこに持っていたのか、ルイズの昨日着ていたリボンを取り出した。ダークライの一番嫌いな洗い物である。細いから洗えないらしい。
「シエスタの説明は、とても分かりやすい」
理由は、それだけだ。
呑気な使い魔だと可笑しくなるが、同時に羨ましくなった。
己の信念を貫いて、誰が相手だろうが臆せずに立ち向かう。それが出来る人間は、一体どれほどの数なのだろうか。ただ自分のエゴを押し通しているだけど思えば簡単だろうが、貴族相手にそれを出来る人間も少ないだろう。
この使い魔には、学ぶことが多いと改めて感じた。
「……そう、分かったわ。どちらにしても、モット伯に手を出すのは良くないわ」
「………」
「分かったら、行くわよ。授業に遅れるわ」
そう言ってルイズは歩き出す。ずっと黙っていたダークライも、ルイズの3歩ほど後ろから進み出した。
しかし、何かを思い出したかのように歩みを止め、ダークライの方を振り返らずに喋り出した。
「……そう言えば、今日の午後の授業は使い魔の参加はしなくていいらしいわ。午前だけで充分だって」
「そうか」
「だから、ダークライ。貴方は午後の授業中は自由行動よ。どこに行こうと、私はアンタの向かう場所は分からないし、知らないわ」
「……」
「でも、貴族の家へは入っちゃダメよ。最近はフーケの噂に乗っかって、盗賊も多くなっているらしいわ。催眠魔法とか色々な魔法を使う盗賊も居るようだから、気を付けるのよ!」
「……」
上ずった声で、そして妙に声量のボリュームを高くして言う。
「と、とにかく!伝える事は伝えたわ!とっとと授業に行くわよ!」
「ルイ--」
言うや否や、ダークライの言葉を遮ってルイズはズンズンと歩き出した。
(……我ながら、素直になれないわね)
そう歩きながら思うルイズ。そして、「これって貴族がやっていい事じゃなくない?」と言う考えが頭にチラつくが、友のためだと、自分を誤魔化した。
そして、足早に進んでいくルイズを見ながら、ダークライは思った。
(真意が分からん)
全く伝わっていなかった。
後の授業中にタバサに聞いてみて、ようやく意味が分かったダークライだった。
後書きポケモン図鑑(マイナーポケモン編)
『エネコロロ』おすましポケモン
タイプ:ノーマル
高さ:1.1m
重さ:32.6kg
とくせい:メロメロボディ/ノーマルスキン
『図鑑説明』
数多くいる猫型ポケモンの中の1匹。紫を基調とした体毛が愛らしく、可愛いと評判。
しかし、戦闘面では恐ろしい。
まず恐ろしい点一つ目。種族値がワースト1と言う事。リザードやワカシャモはおろか、序盤で手に入るレディアンやアゲハントをも下回る380と言う驚異的なポイント。尖った部分もなく、素早いイメージが強い猫型のポケモンであるのに素早さが70しかない。進化の石を使って進化するポケモンが、ここまでの不遇な扱いを受けることなかなか無い。
しかし覚える技は素晴らしい。ハイパーボイスも覚えれば、捨て身タックルも覚える。しかしお陰で、ノーマルスキンの特性を生かせない。他の技を敢えてノーマルに変換したとしても、ゴースト、岩、鋼タイプへの有効打が無くなると言う本末転倒な自体に陥る。不意打ちならば高威力先制攻撃として使えるが、神速持ちを使わないメリットって何?となってしまう。
メロメロボディを使おうにも耐久値が低く、異性に限定される。ダメージを受けた瞬間に蒸発なんて事は多い。恐ろしい点二つ目は、こうした特性をどうやったって生かせない点である。
特性に有効な使い方が殆ど無く、更に種族値が低いと言うどこをどうしたら良いのか分からなくなるポケモン。それがエネコロロである。最近では上方修正されたが、特攻の種族値にも変化が無く、結局尖らなかったため、結局オンライン対戦ではある意味「幻のポケモン」となってしまっている。
しかし可愛い。漫画などではテクニカルな攻撃をするなど、見どころもある、はず。