「きをつけ!頭ぁ、右!休め!」
フィリピン北部、ヴォルフスシャンツェ泊地の演習場に号令が響いた。そこには臨時編成されたヒトラー直属の特殊部隊「東亜総統特務隊」の面々が整然と整列していた。
懲罰部隊から引き抜かれたもの、過去に何かしらの失敗や犯罪をやらかしたもの・・・そのメンバーの出自は様々であったが孰れにせよ碌な者はいない。
親衛隊中将フェーゲラインもそのうちの一人だ。艦娘二人と不祥事を犯し(本人は全くの誤解と主張)階級と役職を一時剥奪の上で懲罰部隊に編入された後、今度はこの特殊部隊に編入された。
フェーゲラインは隣に立つ重巡艦娘の青葉に囁いた。
「・・・俺たちこれからどうなっちまうんだ?なんか突然整列させられたが・・・」
「・・・多分、また前線送りですよお。それも碌でもない任務なんかで・・・青葉、そんなことより取材がしたいのに・・・」
「兎に角、早いとこ手柄を挙げて抜け出したいもんだな・・・」
そんな風にフェーゲラインと青葉が愚痴を言い合っていたが、この東亜総統特務部隊の指揮官である佐藤大輔二等陸佐と、武装親衛隊中佐オットー・スコルツェニーが歩いてくるのを見て直ぐに会話を止め姿勢を正す。
敬礼し、しばらく居並ぶ隊員達を見渡していた佐藤だったがやがて口を開いた。
「貴様らは本日をもって戦死だ!」
「・・・へ?」「はい?」
思わずフェーゲラインと青葉は阿呆みたいな呆けた返事をしてしまった。
指揮官の口から出た突然の死亡宣告。なぜそんなことを言われねばならぬのか、戸惑わぬほうがおかしいだろう。
他の隊員達からもどよめきが上がる。
「エッ!どういうこと?」
「聞いてないよな、戦死だって」
突然の死亡宣告の真意を測りかねる隊員達に佐藤は続けた。
「なに、まだ戦死公報は出していない。あくまで便宜上のもの、一時的なものだ。本日をもって貴様らは本来の軍籍を一時的に外され特務に就く。作戦が成功し、戦争が終われば貴様らはすぐに復職できる」
その言葉を聞いてフェーゲラインをはじめとする一部の隊員は天を仰ぎたい気分に駆られた。
本来の軍籍を外されるだって?それはすなわち、今までの地位や役職を失うということだ。所属していた組織による庇護も失うことになる。もちろん、作戦が成功すればまた復職とできるとは言った。だが、わざわざ一時的に軍籍を外すのだ。それだけ特殊で、過酷な任務ということなのだろう。例えば敵に決して悟られてはならないような・・・これ来るであろう過酷な任務に耐えられるのだろうか?
そんな隊員達を余所に、佐藤は続ける。
「早速だが出撃だ。我々はマニラに存在する敵主力の補給路・兵站を断つため、敵の一大中継基地であるタネイトに潜入、その補給基地と補給路を攪乱、破壊する。既に装備や必要な移動手段は揃えてある。後は貴様ら次第だ」
そう言って佐藤はスコルツェニーに向き直った。
「中佐、東亜総統特務隊、出動準備完了しました」
「Gut.早速、出動してくれ。軍事顧問をつけよう」
そう言ってスコルツェニーは一人の迷彩服姿の武装SS隊員を連れてきた。装着しているヘルメットは一般のドイツ軍のヘルメットより縁が削られているのが特徴の降下猟兵のそれだ。精悍な外見から、しっかりと鍛え上げられた精鋭であることが伺え、何より特徴的だったのは彼の瞳は常人のそれに比べて血のように赤かった。
その瞳を見て佐藤はピンときた。
「スコルツェニー中佐、もしやその男は例の・・・」
「うむ、吸血鬼だ。例の『少佐』が率いる『最後の大隊』のな。私の副官、マイヤー軍曹だ。SS第500パラシュート大隊から例の少佐率いる吸血鬼戦闘団に志願し、吸血鬼となった。ドクの研究により太陽光をある程度克服できるようになっている。ノルウェー上陸作戦やクレタ島作戦をはじめ多くの激戦に参加したベテランだ。きっと・・・いや、間違いなく役に立ってくれるだろう。なお私は別の任務があり参加できない。申し訳ない・・・その代わりできる支援はさせてもらうつもりだ」
「承知しました。蒋介石のほうは?」
「いつでも出発できる。後は、君達しだいだ」
佐藤はにやりと笑った。獰猛な笑みだ。
「では、さっそく出撃すると致しましょう」
こうして東亜総統特務隊は敵の補給線や物資が集中する一大拠点タネイトに向けて進撃を開始した。
彼らの進撃する道の先に何が待ち構えているかは、まだ誰にも分らない・・・