総統が鎮守府に着任しました!   作:ジョニー一等陸佐

75 / 79
 


  


75話 番外編10 総統と山城と倒福のまじない

 「総統閣下こちらの書類にサインを・・・」

 「分かっている、その前にこの書類を読ませてくれ、正確な判断が必要だ」

 「総統閣下、装甲部隊に対する燃料弾薬の補給についてですが・・・」

 ゲルマニア鎮守府、総統執務室で総統アドルフ・ヒトラーは執務に邁進していた。

 ここ最近は特に忙しい。現在南方海域奪還のための一大反抗作戦『バルバロッサ』の真っ最中であり、将兵や艦娘達が激戦に身を投じる中、その指揮にあたるヒトラーも司令官として多忙を極めるのは当然の帰結であった。

 一連の書類仕事を終え、将校達が執務室を去り、部屋にはヒトラー一人だけとなる。

 ヒトラーは本棚近くの上質なソファに座り一息ついた。

 仕事はまだまだ大量に残っているが、だからこそ休息は大事だ。僅かな、そして貴重な休息の時をぼぉっとして過ごす。

 「ふぅ・・・覚悟はしていたがいきなりたくさんの量の仕事が来るとさすがに疲れるな・・・」

 一人呟いていると執務室のドアが開く音がした。

 ドアを見ると軽空母艦娘、鳳翔の姿があった。

 「失礼します総統・・・お茶とお菓子をお持ちしました」

 「ん・・・ありがとう」

 鳳翔はテーブルにお茶と羊羹を置く。

 ヒトラーは熱い茶をすすり羊羹を口にした。

 羊羹の甘みが口に広がり疲れた脳に糖分が染みる感覚がする。熱くて渋い茶が体の疲れを取り心をリラックスさせる。

 「美味いな・・・私は普段紅茶を飲むが日本の茶と菓子もいいものだな」

 「喜んでいただけたようで何よりです。私はあまり戦闘向けではないので食事とか補給とか遠征とかそういう面でのサポートが主になるのですがお役に立てているのであれば何よりです」

 「いやいや、君には感謝してもしきれん。君の作る料理は大変栄養満点で兵士や艦娘達の士気や健康の維持に大いに貢献している。そしてそれらは戦闘力の上がり下がりに大きくかかわることだ。様々な職種の艦娘や兵士がおり様々な任務を負っているが一つ一つが重要なものだ。人にはその人の戦い方がある。これからも頑張ってくれ」

 鳳翔をねぎらうヒトラー。

 軽空母で搭載機数が少なく、またほかの艦娘に比べ旧式である彼女は遠征や補給そして食事の管理といった後方支援が主な任務となり縁の下の力持ちとして作戦を支えていた。彼女の作る料理は栄養満点であるばかりでなくいわゆる「おかんの味」で日々激闘に身を投じる兵士や艦娘たちの心身を癒すもので彼ら彼女らの密かな心の支え、楽しみとなっていた。(付け加えると給糧艦間宮の作る羊羹をはじめとするスイーツも同様であった)

 「ありがとうございます、総統・・・それで、実はその士気の事についてご相談があるのですが・・・」

 「なんだね?言ってみなさい」

 「一人気になる艦娘がいて・・・少々落ち込んでいるようなのでなんとか元気をつける方法はないかと」

 「気になる艦娘?誰のことだ?」

 「はい、そのことでちょっと一人連れの方を連れてきたのですが・・・中に入れてよろしいですか?関係者から話してもらったほうが分かりやすいかと」

 「いいとも」

 鳳翔の申し入れを承諾するヒトラー。

 鳳翔が入っていいですよ、と促すと再びドアが開きまた一人艦娘が入室してきた。

 「ん、君は・・・」

 「扶桑です、入ります・・・」

 腰までありそうな長い髪に巫女のような服を着た少女。

 鳳翔が連れてきた人物とは戦艦扶桑だった。

 「鳳翔、彼女が君のいう落ち込んでいる例の艦娘だと?」

 「いえ、ご相談に乗ってほしいのは私ではありません・・・」

 ヒトラーの問いに答えたのは扶桑だった。

 「実は妹の山城のことで相談が・・・お時間をいただいてもよろしいですか?」

 「少しなら、大丈夫だ」

 「ああ、ありがとうございます、実は・・・」

 扶桑は山城の最近の様子について話した。

 

 

 

 

 ある日のこと・・・

 作戦が終わり帰還した艦隊が次々と補給や入渠をすべく工廠に入っていく。

 その中に山城の姿があった。

 かなり被弾したようで他の艦娘に比べて傷が多く衣服や装備の損傷も激しかった。

 が、何よりも気になるのは山城の不幸そうな表情だ。

 薄幸に見えるのはいつものことだが、虚ろな目に暗い顔、うつむく頭、とぼとぼと小さく歩く様子と今日はいつにも増して不幸そうだ。泊地の人間には彼女が此処最近さらに暗くなっているような気がした。

 「大丈夫、山城?」

 そんな山城に姉である扶桑は声をかけた。心配そうな扶桑の声かけに山城は生返事をしてため息をついた。

 「あぁ・・・姉さま」

 「此処最近、調子悪くない?いつもより暗そうに見えるわよ」

 「すみません、姉様・・・心配かけてしまって。でも、此処最近いつにも増して本当に不幸なのよ・・・」

 はぁ、とため息をつく山城。工廠に向かう足取りは重く、歩くたびに体や装備が壁やどこかにぶつかる。

 「作戦はどんどん厳しくなるし、どういうわけか私だけどんどん被弾するし・・・補給もろくに出来ない事が多いのよ。この前の作戦なんか重い弾薬ばっかり持たされて、燃料もろくにないのに遠出させられたのよ。しかもいつの間にか私が被害担当艦になっていて轟沈寸前までいくし・・・この前なんか偵察任務でひとりになっていたら、野戦憲兵のやつらが私を逃亡兵だとか敗北主義者だとか何とか言ってZbvに配属しようとしたのよ!あのろくでなしの懲罰部隊に!他の子や上官がとりなしてくれたから助かったけど・・・此処最近もう散々よ・・・」

 そう言って山城はいったい何度目になるのかも分からないため息を再びついた。

 そんな山城を見て扶桑は何とか励まそうと肩に手を置く。

 「・・・あんまり気にしすぎているとそのうち本当にもたなくなるわよ。たまには休暇を申請したり、甘味処にでも行ったりしてリラックスしたら?それに一番大事なのはくよくよせずに自信を持つことよ、この前総統から聞いたわ、山城あなたそろそろ改修工事の予定があるそうね、改二に・・・この泊地でも有数の実力を持っている証よ、もっと自信を持っても・・・」

 「改二になったらなったらでまたさらに激務に巻き込まれるのだわ・・・そしてまた不幸な目に・・・ほんとに不幸だわ・・・」

 「山城・・・」

 ため息をつきながら入渠施設へ向かう山城。

 扶桑はその重い足取りをただじっと見ることしかできなかった。

 

 

 

 

 「・・・と、いうわけなんです。ここ最近山城の様子が暗くて・・・ここ最近、ますます被弾の回数が多くなっていて、このままじゃ戦闘にさらに悪影響が・・・」

 「なるほど、艦娘の士気が落ちているということだな?確かにそれは無視できん問題だ。一人の兵士の士気が落ちれば周りにも波及して全体に影響しかねん。何より今は攻勢作戦の途中だ」

 「何とかできないでしょうか・・・?」

 扶桑が懇願の思いを込めた目でヒトラーを見た。

 頷くヒトラー。兵士の士気の低下は指揮官であるヒトラーも決して無視できないものだった。

 「分かった、何とか彼女を励ましてみよう、何とか仕事の合間を見つけて・・・」

 「ありがとうございます、総統・・・」

 礼をして、そのまま扶桑と鳳翔は総統執務室から出て行った。

 「さて・・・どうしたものかな」

 ソファに深く腰掛けながらヒトラーは山城の士気をどう回復させるか考えた。

 

 

 

 

 

 数日後・・・

 山城は泊地の工廠内を歩いていた。

 「とうとう私も改二かぁ・・・」

 彼女は数時間前に改修工事を施され改二になっていた。

 優秀な戦績を積み重ね一定のレベルに到達したと認められた歴戦の艦娘のみに認められるそれは艦娘の装備や能力を飛躍的に高めるものであり、特に二回目の改修、改二は艦娘たちにとっては特別な意味合いを持つものだった。

 手を握り、開き、新しい装備品を触る。それらは力強く、新しい力がみなぎってくるようだった。

 だが、体とは対照的に山城の心はあまり晴れていない。

 「また、激戦地帯に投入されるのね。そしてまた被弾して・・・何もかわりゃしないわ・・・」

 今までの重なる不運を思い、先が思いやられた。どうせこれからもろくな目に合わないのだろう、自分は不幸なのだから・・・

 ため息をつく山城のもとに一人の男が近づいた。その正体に気付くと山城はすぐに姿勢を正した。

 「あ、あの・・・」

 「そう緊張せんでいい、楽にして」

 総統アドルフ・ヒトラーが微笑をたたえながら山城のもとにやってきた。

 ヒトラーは改二になり、力強い41cm連装砲を装備し、新しくカスタマイズされた巫女のような服装を見ながら満足そうに頷いた。

 「うむ、無事に改二が施されたか・・・Gut Gut(よろしいよろしい)・・・改二おめでとう、これからも健闘を祈る山城」

 「ありがとうございます・・・」

 「だがその割にはあまり嬉しそうではないな?どうせこの先も不運に見舞われると思っているのではないかね?」

 「え?」

 ヒトラーの言葉に思わず顔を上げる山城。ヒトラーのその瞳は澄んでおり、人の心を、山城の心を何もかも見透かし、捉えるようだった。

 「ついてきなさい」

 ヒトラーは言った。

 「休みがてらに散歩でもしようか。見せたいものがある・・・」

 歩き出すヒトラーに、山城はついて行った。

 ついていくと、二人は鎮守府の休憩室の中に入った。普段はヒトラーや将校、客人の休憩室、接待の場として使われている場所だ。

 広い室内の中央には10メートルはあろうかという都市の模型があった。

 「これは・・・」

 「ゲルマニアだ」

 ヒトラーは言った。

 ゲルマニア。かつてヒトラーがベルリンを世界の首都に、と計画し、敗戦とともに消え去った幻の、想像の都市。ヒトラーが夢見た第三帝国の面影がそこにあった。

 ひときわ大きなフォルクス・ハレの丸い屋根に触れながらヒトラーが懐かしそうに語る。

 「私の夢だった。いつか必ずすべてに勝利し、新しいドイツを、新しい世界を、新しい歴史をここで始める・・・それが私の夢だった。私が総統になり最初の内はこの夢が叶いそうだった。だが戦況が悪くなってからはだんだんこの夢が遠ざかっていった。ドイツが敗北し、今では誰もが私の夢は終わったと思っている。だが私は夢を捨てたわけではない」

 「・・・」

 「ひとつ、昔話をしよう。むかしドイツにある一人の男がいた。その男は画家を志していたが周囲の悪意によってその夢を断たれた。やがてドイツは戦争に巻き込まれ、男は祖国のために奮闘した。だが一人の人間にできることなどたかが知れている、祖国は敗北した。天文学的な額の多額の賠償金をかけられ、領土を奪われ、誇りを踏みにじられた。民は困窮し絶望の只中にいた。だが男だけは違った。祖国の、ドイツの復興を訴え続けた。国民の先頭に立ち国家を民族を再興させることを誓い、戦おうとした。誰もが彼を夢想家だといった。あるものはその男を攻撃しようとした。だがそれでも、男はあきらめなかった。新たに祖国を再興するという夢を持ったその夢想家の男はその夢を信じ続けた。そしてついにその男は国家元首にまで上り詰め総統となった。祖国は、ドイツは領土を取り戻し再び大国となった。国民は豊かになり民族の誇りは復活した。夢想家と呼ばれた男だったがその夢想家がいなければどうなっていたか。そしてその夢想家とは・・・私のことだ」

 ヒトラーは振り返り山城を見た。山城はただじっとヒトラーの話を聞いている。

 「私が何を言いたいかわかるかね?信じよ、ということだ。その夢想家は、私はドイツの再興という夢を信じていたが、信じに信じ続け、国民にも信じさせついには現実のものにさせた。信じ続ければ現実になるのだ。施行は必ず現実のものになるのだ。信じて、国家が変えられるのだ、己を信じて己が変わらぬわけがない」

 ヒトラーは山城の肩に手を置いた。

 「私が君に言いたいのは、自分を信じろ、ということ。それだけだ。信じ続ければいつか本当になる。ほかならぬ私がそうなのだから。今でも私は夢を持ち信じ続けている。ドイツの再興という夢を信じている。信じればいつか実現するからだ」

 「自分を、信じる・・・」

 山城が呟いた。ヒトラーの雄弁な様子にも影響されて彼女からは暗そうな弱気な様子が消えかかって見えた。

 「そうだ信じれば必ず事実になる。嘘も信じればいつか事実となる。それも大きければ大きい嘘であるほど、繰り返して言えば事実となる・・・」

 「え?」

 「・・・いや、今のは忘れてくれ。とにかくだ。大切なのは自分を信じることだ。自信を持つことだ。そうすれば、君は変われるだろう。それはいつか必ず現実のものになるのだから」

 「・・・はい!」

 返事をする山城は少し元気そうだった。

 さっきまでの暗そうな様子はほとんど全く見られない。

 どうやらもう大丈夫そうだ。

 「分かったのならよろしい。そんな君に少しおまじないをかけてあげよう」

 安心したヒトラーはおもむろにポケットから紙を取り出した。

 その紙には大きく『福』と書かれている。

 ヒトラーはそれを逆さにするとそのまま山城の41cm連装砲に張り付けた。

 「あの・・・それは?」

 「『倒福』、だ。幸運のおまじないだよ。見ての通り逆さにした『福』の漢字を張り付ける。だから『倒福』だ。中国語で『到福』と『倒福』の発音が同じことから縁起がいいとされ幸運のおまじないに使われているのだ。この前戦車部隊を閲兵していたら、このマークを施したティーガー戦車を見つけてな。確かハンス・ゾーレッツと川島正徳とかいったかな・・・彼らに教えてもらったのだ」

 ぽんぽんとたたきながらヒトラーは言った。

 「これはただのおまじないだ。もちろん気休めに過ぎない。だが信じれば自信がつくぞ」

 「・・・はい」

 そう言ってヒトラーは笑った。山城も笑った。

 その顔にもう暗さはない。

 「それで改めて・・・改二おめでとう、山城。これからの更なる活躍と健闘を祈る」

 「ありがとうございます、総統・・・それから・・・姉様の改二のほうも・・・お願いします、ね?」

 お礼とお願いを言いながらおまじないを触る山城。

 41cm連装砲の倒福のマークが山城には少し頼もしく思えた。  

 

 




 倒福とは・・・中国式の福を招くおまじない。漢字の『福』の字を逆さに倒して張り付ける。『到福』と『倒福』の発音が同じことから、福に到るように、という意味で倒して張られる。
 そしてこの倒福だが・・・この中国式のまじないがなんと遠く離れたドイツの地でティーガーⅠ戦車の車体に施されている写真があるのだ(ハッピータイガーとググれば出てくるはず)。中国に何かしらの縁があった乗員によるパーソナルマーキングだとされているが・・・
 そしてこの写真といくつかの実話・噂をもとに描かれた漫画が、戦争劇画の巨匠小林源文先生の「ハッピータイガー」である。今回出てきた『倒福』のそもそもの元ネタはこの作品です。
 はたしてこの『倒福』のまじないは山城に幸運をもたらしてくれるのか?
 もちろん気休めに過ぎない。だが信じれば自信がつくぞ!!
 まじないとはそういうものだ。






 今後の予定
 最近源文作品にはまってしまったので源文ネタをどんどん出す予定。もちろんジョジョネタやHELLSINGネタも忘れないよ!総統が怒るのも、フェーゲの処刑もね!!
 Zbvに配属されたでち公とかやってみたい。

 卯月「ち、違うぴょん、うーちゃんはちょっとそーとーと遊んでただけぴょん、それで遅れただけぴょん、逃亡じゃないぴょん、本当だぴょん!」
 憲兵「よくある話ですな。Zbv行きだ」

 でち公「提督・・・もうオリョクルは嫌でち、ゴーヤ達には休養が必要でち・・・」
 シュタイナー「死んでから休めばいい、君は自分の魚雷を取ってこい、遠征に行け」

 レーム「おまえか 可愛い男 俺 好き」
 中村「ヒィ!!」(掘られた)
 集積地棲姫「オマエカ カワイイカンムス ワタシ スキ」
 巻雲「ヒィ!!」(掘られた)

 瑞鶴「七面鳥ですって!?冗談じゃないわ!!魔女の婆さんに喰われちまえ!!」

 戦艦棲姫「オオオ!!」
 佐藤「いやあ、普通の女より鬼娘のほうがいいぞ」
 中村「佐藤二佐、自分も慰安をしたいであります」
 佐藤「ボケ!!」
 BLAM!
 佐藤「情報収集だ、任務だぞ!学が無いやつはこれだよ!!」
 中村「ちくしょう!!いつか殺してやる!!」
 
 ベリヤ「北方棲姫最高!!駆逐棲姫最高!!ロリの艦娘と深海棲艦最高!!ペロペロしたい、prprしたい!!」
 ジューコフ「などと言っております同志スターリン」
 スターリン「なるほど、シベリア送りだ」

 
 
 お楽しみに

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。