総統が鎮守府に着任しました!   作:ジョニー一等陸佐

72 / 79
72話 新部隊創設~二人の男~

 フィリピン、ルソン島北部の泊地ヴォルフスシャンツェの地下に設けられた総統大本営にてヒトラーは部下から報告を受けていた。それはプログ山およびサンフェルナンド攻略作戦に関する報告であった。

 「総統閣下、先程モーデル元帥より報告がありました。プログ山およびサンフェルナンドの敵部隊の撃滅および占領に成功した模様です。詳細はまだ明らかではありませんんが朗報をお待ちくださいとのことでした」

 「第一航空戦隊及び第二航空戦隊から報告、作戦終了に伴いこれより帰投する、作戦は成功、被害は軽微とのこと。マニラの爆撃に向かった第五航空戦隊からも同様の通信が届いております」

 「うむ、ひとまず最初の作戦は成功に終わったとみていいだろう」

 勝利の報告にヒトラーは満足そうに頷いた。

 「して総統閣下はその勝利をどのように利用するおつもりで?」

 そんなヒトラーに対し南部軍集団総司令官であるエーリッヒ・フォン・マンシュタインが今後の展望を問うた。

 「もちろん決まっている。このまま南部に怒涛の進撃を続けピナツボ火山、マニラそしてフィリピン全土を完全掌握するのだ。今回の勝利を全世界への狼煙にしなければならない」

 「ルソン島北東部の敵残存勢力はどうするのです」

 「そうだな、敵の規模からして龍驤と隼鷹の第四航空戦隊を派遣すれば事足りるであろう。或いは少々癪だが米軍やオーストラリア軍に任せるのもよいかもしれん」

 ヒトラーは自信満々だった。

 第一次世界大戦に独ソ戦。自分は二度も敗北を経験しているのだ。それも一回目はともかく二回目は自分が司令官だったのだ。それも大きな敗北だ。それが身に沁みついている以上今度はうまくやる自信が、失敗しないという自信が或いは失敗するわけにはいかないという意思が彼にはあった。

 今回は勝つ、必ず勝つという自信が彼にはあったがしかし同時に気にかかることもあった。

 「・・・話は変わるがマンシュタインよ、サンフェルナンドの攻撃時、彼の地には大量のソ連軍部隊が配備されていたそうだな」

 「はっ、その通りです閣下。実際、モーデル軍団の負った損害は深海棲艦よりもソ連軍によるもののほうが遥かに大きいものでした」

 「深海棲艦がアカと手を組んでいるのはもはや明白であるが、この分だとスターリンも蘇って連中の指揮をとっているのかもしれん。・・・ハイドリヒ、敵に関する調査をさらに進めてくれ。」

 「了解しました」

 ヒトラーの命令に国家保安本部初代長官、親衛隊大将ラインハルト・ハイドリヒは頷いた。ユダヤ人問題の最終的解決――ホロコーストに深く関わり『金髪の野獣』と恐れられた彼はゲルマニア鎮守府において諜報活動や謀略等を担当していた。

 「で、そのソ連軍のことだが・・・それに関して先日ハイドリヒが非常に有益な情報をもたらしてくれた」

 ヒトラーは資料をテーブルに置いた。

 「ルソン島南部を含むフィリピン南部を無数の軍事用鉄道路線や海上補給線が走っている。それらは皆最終的にマニラに集まっている。それがマニラの攻略を困難にしているが、では逆にそれらの補給線がどこから始まっているかというと・・・皆一様にミンダナオ島から始まりレイテ島やサマールなどの島を経由しマニラに集まっている。つまりそれらの洋上補給線や島内の補給点を潰し敵の兵站を潰さぬ限り勝利は難しい。またもう一つ気になる情報がある」

 ヒトラーはさらに資料を出した。

 「派遣した懲罰部隊『黒騎士中隊』からの報告だが敵の基地を制圧しているといくつかの基地からはウランやそれに関連する施設や機器が見つかったということだ。敵は原爆を保有もしくは保有しようとしていることは明らかだ。これも潰さねばならない。敵に使われる前にな」

 「ではどうするのです。今すぐ部隊を南方に推し進めように時間がかかりますし、敵が核を持っているのかどうかまだ確証はないのでしょう?」

 マンシュタインの質問にヒトラーは答えた。

 「そのことだがな・・・私はそのための特殊部隊を新設しようと思っている。敵の後方地帯に秘密裏に進出し破壊工作を行う部隊をな」

 「特殊部隊」

 ヒトラーは頷いた。

 「そうだ。すぐには部隊を南進できない以上、特殊部隊による奇襲・秘密作戦に賭けるべきだ。すでにスコルツェニー中佐に創設のための指示を出してある。スコルツェニー」

 「はい、こちらに」

 ヒトラーの言葉に『ヨーロッパで最も危険な男』オットー・スコルツェニー中佐が答えた。

 「スコルツェニー、新部隊の創設に関して首尾はどうか?」

 「そのことですが総統閣下・・・人材に関して心当たりがあります」

 「というと?」

 「素晴らしい人材を二人発掘しました」

 そう言ってスコルツェニーはにやりと笑った。

 

 

 

 

 

 日本、防衛省。その執務室で東条英機は緊急の電話を受けていた。

 「こちら統幕長の東条英機だ・・・なに本当か!?あいつが、あいつが戻ってくるのか!?」

 電話の内容に驚愕し思わず叫ぶ東条。

 同じころ、防衛省の門をくぐる一人の自衛官と日本兵の姿があった。

 自衛官のほうは二等陸佐の階級章をつけた太った悪人面の男で門をくぐる際に守衛に敬礼をしたがその敬礼はどこか横柄だった。日本兵のほうが全身ボロボロ傷だらけで眼光だけが異様に鋭かった。

 「・・・あいつは南洋諸島で死んだはずでは・・・生きていたのか・・・まずいぞ・・・船坂のほうはともかく佐藤二等陸佐のほうはまずい、まずすぎる。クーデタを起こしかねん。下手をしたら第三次世界大戦だって・・・」

 東条が汗をかきながら受話器を握る一方でコツコツと二人の足音が執務室に近づく。

 「くそ・・・何とかせねばならん・・・だが単に激戦地に送るだけでは・・・いや、あったな貰い手が一つだけ。もういい、あとはこっちで対処する」

 そういって東条が受話器を置くのと同時に執務室のドアがノックされた。

 「入れ」

 緊張した面持ちで東条は入室を許可した。

 ドアが開き二人の男が入ってくる。

 自衛官と日本兵の二人は見事な陸軍式敬礼を決めながら答礼した。

 「陸上自衛隊二等陸佐佐藤大輔、召喚命令により出頭いたしました」

 「大日本帝国陸軍軍曹船坂弘、同じく召喚命令により出頭いたしました」

 二人の男の鋭い視線をまともにくらい東条は変な冷や汗が噴出した。

 佐藤大輔。陸上自衛隊の二等陸佐であり調査部の人間として無数の戦果を挙げてきたが、人には言えない作戦を行ってきたことや、その好戦的で底知れない狂った人格故にクーデターを起こしかねない危険人物として上層部から総じて危険視された男。

 船坂弘。陸軍軍曹として南方で深海棲艦と死闘を繰り広げたが、擲弾筒片手に百人単位で深海棲艦を虐殺し日本刀と手榴弾だけで深海棲艦部隊を全滅させ、更には左大腿部に裂傷を負い瀕死の重傷を負っても戦闘を続け敵基地に大損害を与え、その鬼神のごとき強さ故に逆に佐藤と同じく危険視された男。

 二人とも上層部に危険視され南方の激戦地区に『左遷』させられたのだが運命の女神あるいは悪魔は何を思ったのか彼らを生還させたのだった。

 階級は二人のほうが下のはずなのに東条はだらだらと汗を流し妙な緊張感に襲われていた。まるで蛇ににらまれた蛙のように・・・執務室の外では拳銃を構えた憲兵が不測の事態に備え待機していた。

 「お、恩賜の煙草でもどうかね佐藤二等陸佐、船坂軍曹」

 「フン!」

 震える手で恩賜の煙草を差し出す東条とその煙草に刻まれた菊の御紋を見て鼻で笑う佐藤。いったい何を笑ったのか。

 「・・・特務の作戦がある。君たちでないと」

 「口頭命令よりは文章でお願いします・・・閣下」

 十数分後、佐藤と船坂の二人は執務室から出て行った。

 東条は受話器を手に取っている。

 「あいつをどうしたかって?特務を押し付けたのだ。南方のナチス・ドイツ軍が特殊部隊の人材をほしがっていてな・・・そこに送ることにした。総統危険な任務だ、あいつらには適任だろう。君は軍刑務所から兵士を調達しろ。あそこにはクズがたくさんいるからな」

 

 

 

 横須賀、軍刑務所――

 憲兵中佐が独房の中にいる正座する一人の男の前に立った。

 その男は坊主頭に丸メガネをかけた男だった。男が憲兵中佐に反応する。

 「中村正徳三等陸曹!」

 「あ、憲兵中佐殿!」

 「横領に痴漢に北方棲鬼からの菱餅とクリスマスプレゼントの強奪・・・貴様はクズだ!・・・もう一度甘い汁を吸いたくないか?」

 「え・・・警務隊に、憲兵隊に戻れるのでありますか?やります、なんでもします!」

 思わぬ娑婆への復帰の誘いにはしゃぐ中村。

 それを見て憲兵中佐はほくそ笑んだ。

 佐藤に船坂に中村・・・ヒトラーの特殊部隊・・・のちに『東亜総統特務隊』と呼ばれる部隊の創設が秘密裏に行われようとしていた。




中村「ついに俺の出番がやってきた・・・小林源文先生の東亜総統特務隊が活躍する時がやってきたであります!どうぞ、我々中村&佐藤コンビの活躍にご期待ください!!」
佐藤「中村ァ!!お前は学も教養もないくせに何一人で偉そうに読者に能書きたれてんだこのボケ!カス!!」
BLAM!
BLAM!
BLAM!
中村「畜生!いつか殺してやる!!」

 つづく 

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。