総統が鎮守府に着任しました!   作:ジョニー一等陸佐

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71話 夜明けと共に~バルバロッサ作戦開始~

 10月1日深夜、泊地『ヴォルフスシャンツェ』。

 その硬い岩盤をくり抜いて作られた地下大本営にゲルマニア鎮守府の提督にしてドイツ第三帝国総統アドルフ・ヒトラーの姿があった。

 あと数時間で夜明けとともに始まる南方への大反攻作戦『バルバロッサ』の指揮を執るためにヒトラーは前線であるこの大本営に来ていた。

 薄暗い指揮所でテーブルに広げられた巨大な地図を前にするヒトラーに部下が報告する。

 「総統閣下、全ての部隊の展開が完了しました。地上部隊、艦娘部隊ともに順調に進軍中です」

 「偵察部隊より報告、現在敵側に大きな動きはないとのこと」

 「あと3時間で作戦が開始される模様です」

 「よろしい」

 次々と上がってくる報告に頷くヒトラー。少なくとも今のところは順調に事は進んでいる。

 作戦の第一目標はルソン島全域の奪還だ。南方海域を奪還するためにもまずルソンを取り戻し足がかりを築く必要がある。現在フィリピンはルソン島のプログ山を境に深海棲艦側に占領されている。まずはそのルソン島を奪い返す。

 現在、ヴァルター・モーデル元帥率いる装甲軍団がプログ山そしてサンフェルナンドに向かって進撃中だ。赤城率いる第一航空戦隊及び第二航空戦隊もサンフェルナンドに向かっている。さらに翔鶴と瑞鶴の第五航空戦隊もマニラを空爆するために向かっている。サンフェルナンドとプログ山には敵の大規模な拠点がある。

 まず、そのサンフェルナンドとプログ山を落とす。

 その後、ピナツボ火山、そしてマニラに向かって進撃、ルソン島を奪還する。

 それがヒトラー達のプランだった。

 この最初の作戦はうまくいくだろうとは思われていた。

 しかし懸案がないわけではない。

 「総統閣下、例のことですが・・・」

 「分かっておる、敵深海棲艦にソ連軍の存在が確認されていることだろう」

 クレープスの言葉にヒトラーは頷いた。

 1か月前に現地に派遣した懲罰部隊の活動で敵深海棲艦とともに行動するソ連兵やソ連の兵器の存在が幾度も報告された。実際、ソ連兵と艦娘の交戦記録もある。捕虜もいる。

 そしてサンフェルナンドの敵基地の航空写真には大量のT-34戦車や対戦車壕、その他の大量のソ連製兵器の配備が確認された。

 深海棲艦がソ連軍と手を組んでいることは明らかだった。もっとも、其の理由や真相は全くの不明だったが・・・

 「だからこそ、モーデルの装甲軍団に最新鋭の戦車を大量に配備し強化したのだろう。それに我がドイツは陸軍に関しては世界最強、それ以前にソ連軍と戦った経験がある。指揮をするのはあのモーデルだ。今更心配をする必要はないししたところでどうにもなるまい」

 「・・・確かに、そうですな」

 ソ連軍に関する情報はすでに空母機動部隊とモーデルの部隊に伝えてある。

 ソ連軍の配備状況はほぼ完全に掴んでいる。

 部隊も強化してあるしそこまで心配することはなかろうというのがヒトラーの考えだった。

 「・・・さて諸君、作戦開始まであと2時間半はある。少しアニメでも見て休憩しよう」

 リラックスし余裕の表情でヒトラーは部下たちを見た。

 

 

 

 

 

 サンフェルナンド近くのジャングル。

 鬱蒼と茂る木々の中にモーデル率いる装甲軍団が潜んでいた。

 多くのティーガー重戦車やⅣ号戦車、パンター戦車が偽装を施されエンジンを止めて停止し、迷彩服を着た無数のドイツ兵や武装親衛隊員が緊張とともに攻撃の時を待ち、潜んでいる。

 「元帥、あと十数分で夜明けが・・・攻撃が開始されます」

 「うん。確認するまでもないがぬかりはないだろうな?」

 指揮用の装甲ハーフトラックに乗車する装甲軍団の指揮官、ヴァルター・モーデル元帥は部下に確認した。

 「はい。予定では夜明けと共に我が軍は進撃を開始し、サンフェルナンドを制圧に向かいます。同時に第一航空戦隊、第二航空戦隊の爆撃隊がサンフェルナンドの深海棲艦や敵地上部隊を攻撃する手はずですが・・・まだ来る気配はありません」

 「まぁ、とにかくその艦娘とやらを信じるほかあるまい。問題は・・・敵の地上部隊だな」

 モーデルは双眼鏡でサンフェルナンドの街並みを見た。

 廃墟となった家々の間に並ぶ大量のT-34戦車や野砲、たむろするソ連兵。

 夜明けと共に彼らドイツ兵はソ連軍と戦うのだ。

 「・・・まさかこの私がもう一度現世に蘇ってもう一度ソ連軍と戦う羽目になるとは思わなんだ。その上今回の作戦の暗号名はバルバロッサというではないか。総統閣下はリベンジのつもりだろうが、私にはどうも不吉な予兆にしか聞こえん・・・」

 だが、自分は軍人だ。やれと言われた以上はやらねばならぬ。

 モーデルが思索に耽っているとき、ふと、はるか上空から爆音が聞こえてきた。

 この音はもしや・・・

 「指令!近海の第一航空戦隊より入電です、『鷲は舞い降りた』繰り返す『鷲は舞い降りた』!!」

 「ついに来たか!!」

 爆撃部隊の突入、そしてバルバロッサ作戦の開始を意味する暗号電文にモーデルは心が湧いた。とうとう来たのだ、赤城と加賀が出撃させた爆撃部隊が。これから始まるであろう激闘にモーデルは血沸き肉躍る思いだった。

 こちらもうかうかしていられない。

 すでに夜明けを迎え朝日がうっすらと差し始めている。

 深海棲艦やソ連兵は突然の奇襲に驚いていることだろう。

 やるなら今だ。

 モーデルは作戦を開始した。

 「全軍進撃開始!!パンツァーフォー!!」

 モーデルの叫びが軍団中に響き、ドイツ兵たちから鬨の声が上がり、ジャングルを震わす。戦車のエンジンが力強く唸り木々をキャタピラがなぎ倒し、歩兵達が倒木を飛び越えて敵陣地に向かって駆け抜けていく。

 艦娘の九七式艦攻や流星が深海棲艦やソ連兵をなぎ倒し、ティーガーのアハトアハトが敵陣地を吹き飛ばし、屈強なドイツ兵の放つ機銃掃射がソ連兵をなぎ倒していく。

 夜明けと共に行われた奇襲で敵は完全に混乱し主導権はこちらにあった。

 しかし敵も黙ってはいない。

 「「「ウラー!!ウラー」」」

 陣地からソ連兵が次々と飛び出し自軍に突っ込んでくる。

 MG42の機銃掃射が彼らをなぎ倒し、戦車砲の一斉射撃が彼らを空中高く吹き飛ばすがそれでも彼らは雄たけびを上げ、戦友の死体を飛び越えながら突っ込んでくる。

 さらには野砲が火を噴きT-34もこちらに向かって進撃し攻撃を開始した。

 ドイツ兵にも次々と被害が広がっていく。

 だが両者とも譲らない。

 両者は南の島で激突し死闘を繰り広げる。

 バルバロッサ作戦はまだ始まったばかりだった。




 次回、小林源文作品には欠かせない例のデブ佐藤と中村ァ!!コンビが登場。
 処刑されまくるフェーゲと殴られまくる中村をどうぞお楽しみください。

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