総統が鎮守府に着任しました!   作:ジョニー一等陸佐

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70話 攻勢前夜~南の泊地で~

 「鎮守府からはるばるフィリピンまで・・・長かったですね、加賀さん」

 「そうかしら?意外と早かったと私は思うけれど」

 輸送船『リリーマルレーン』のタラップを降りながら一航戦の赤城と加賀はフィリピンの港に降り立った。

 その後ろからさらに続々と艦娘やドイツ軍将兵や自衛隊員が降りてくる。

 「あ~やっと着いた!早く夜戦したいなぁ~」

 「あ~やっと着いたぜ、ここがフィリピンか。ニューギニアにはよく行ったけどフィリピンは初めてだったかなぁ~。早く出撃してぇな龍田」

 「その前にしっかり休んでおかないとね、天龍ちゃん」

 彼女達が降り立ったのはフィリピン、ルソン島北部に建設された泊地ヴォルフスシャンツェ(狼の砦)。非常に大規模な基地であり、これから行われる南方海域への大攻勢の拠点となる場所だ。

 とはいえ、彼女たちはまだ正式には一大攻勢作戦のことをまったく知らされていない。もちろん、これだけの大規模な兵力の移動や拠点の構築が行われているため、これから南方への進出作戦があるらしいといった噂はされてきたが、本当にあるのかどうかはまだ彼女達や将兵達は知らないのだ。

 「はるばるフィリピンまで・・・これまで何度も南の海域には行ってきましたが、今日からここが私たちの新しい拠点になるんですね」

 「てっきりトラック諸島ではないかと思っていましたが」

 赤城と加賀はフィリピンの大地に立ちながら感慨深い気持ちになり、これからここで始まる生活や戦いに思いを馳せた。

 「フィリピンと言えばマンゴーにパパイヤにそれからそれからバナナにシシグにハロハロに・・・」

 「赤城さん、よだれ垂れているわ。これから戦いが始まるかもしれないから気を引き締めて」 

 フィリピンのグルメに思いを馳せよだれを垂らす平常運転の赤城に注意する加賀。もっとも、そういう加賀もよだれをダラダラ流して手にはフィリピン料理のパンフレットが握られていたが。

 気を取り直した加賀は基地に置かれた施設の数々を見る。港に工廠、入渠施設、レーダーサイト、燃料や弾薬庫、ずらりと並ぶ戦車や航空機、兵員でごった返す大地・・・その規模はゲルマニア鎮守府のそれに勝るとも劣らないものであった。

 そしてそれは声から激しい戦いが起こることを暗示するのには十分なものだった。

 「・・・わざわざこんなところに一大拠点を造りこれだけ大規模な兵力を送るということは、やはりこれから一大攻勢作戦があるのでしょうね」

 「そうなったら、一航戦の誇りにかけて全力で戦うまでです。あの戦争での惨禍を繰り返さないために・・・私達のために、未来のために」

 赤城と加賀は空を見上げる。どこまで青空が広がっている。この平和な空はいつまで続くのだろう。

 「そうね。五航戦の子達にも負けていられないわ・・・それに慢心もダメ、ゼッタイ・・・ね」

 「加賀さん、それ私の台詞ですよ」

 これから起こるかもしれない激しい戦いに覚悟を新たにする二人。

 その時、一人の将校がメガホンで上陸した艦娘や兵士達に叫んだ。

 「整列!全ての将兵は直ちに整列せよ!これより基地司令官による訓示が行われる!」

 しばらくして、基地の滑走路には全ての将兵や艦娘達が整列していた。

 多くの将兵達がじっと立ちつくすなか、やがて一人の男が朝礼台の上に立った。

 男は武装親衛隊の制服に身を包み正装していた。肩や襟の階級章から男が親衛隊上級大将であることがうかがえた。何より特徴的なのは右目に黒い眼帯をしていることで、歴戦の猛者、猛将という印象を人々に与えた。

 「全ての将兵諸君、私は泊地ヴォルフスシャンツェ司令官に任じられたパウル・ハウサーである。ゲルマニア鎮守府から遠く離れたこの異国の地で慣れないこともあろうがどうか、ドイツ軍人、日本軍人としての誇りを持って義務に務めてもらいたい。・・・さて、この泊地は非常に大規模な施設だ。そしてゲルマニア鎮守府に所属する艦娘の大半や2個装甲師団や自衛隊部隊やその他多くの戦力が配備されている。故に諸君たちの中にはこのように噂しているものも多いことだろう。・・・これから、一大攻勢作戦が、激しい死闘が始まるのではないかと」

 ハウサーは一旦言葉を止め、将兵を見る。

 皆一様に黙っていた。

 「・・・今ここで明言しよう。諸君たちの推察は正しい。近く、一大作戦がここヴォルフスシャンツェを拠点に開始される」

 噂が正しかったことが司令官によって直接明言されたため将兵や艦娘の間にどよめきが走る。

 「・・・これより総統閣下からの命令の訓示を行う。心して聞くように」

 ハウサーはつい先ほど鎮守府から電信されてきたばかりの命令書を開く。

 「・・・南部戦線に配属された全ての将兵及び艦娘、軍役に従事する者へ。私、総統アドルフ・ヒトラーはこれより行われる作戦の責任者として全ての兵士達に以下の命令を与える。」

 南部戦線?これから行われる作戦?ではついに、ついに始まるのだな!

 兵士たちのどよめきは確信に変わっていった。

 「・・・ヴォルフスシャンツェ及びその他の拠点に配属された兵力を南部軍集団と名付ける。そして10月1日の夜明けを持って南部軍集団はフィリピン南部のマニラ及びミンダナオに向けて進撃、11月末までにフィリピンを完全制圧せよ。南部軍集団の別動隊はインドネシアスマトラ島から進撃し本隊の進撃を支援すべし。その後、ジャワ海、パンダ海を制圧し、ニューギニア島及び付近の海域と諸島を制圧、深海棲艦の拠点を叩き南方海域における制海権制空権を完全なものとせよ・・・詳細な説明は追って伝える。なお、本作戦は『バルバロッサ』と命名する。マニラ及びミンダナオでの勝利は全世界への狼煙たるべし・・・以上である」

 ハウサーはここで一旦言葉を止め将兵達を見た。

 先ほどまでのどよめきは一切消えそこにいたのは覚悟を決めた兵士たちの姿があった。

 「本作戦の意義は非常に大きなものだ。南方海域を制圧することで深海棲艦から我々の海を奪還するのだ。そして人類の未来を奪還するのだ。このような作戦に参加できることは我々武人にとって非常な名誉である。まして我々ドイツ軍人がその先陣を切れることは至高の喜びである!深海棲艦に、そして世界に我々の力を見せてみようではないか!!我々ドイツ軍人の誇りにかけて!!ジークハイル(勝利万歳)!!」

 「「「「ジークハイル!!!」」」」

 基地中に叫び声が響いた。

 士気が上がる。

 最後にハウサーが演説を結ぶ。

 「・・・なお私も常に諸君らの先頭に立って戦うことを誓う。余は常に諸子の先頭にあり。共に勝利をつかもう」

 こうして兵士たちに正式に命令が下され、反攻作戦が行われることは明らかとなった。

 ついに一大攻勢作戦『バルバロッサ』が始まるのだ。

 そしてこの戦いが艦娘達に、将兵達にヒトラー達に何をもたらすのかまだ誰も知らなかった・・・


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