総統が鎮守府に着任しました!   作:ジョニー一等陸佐

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69話 番外編9~平凡な男と親衛隊の面汚し~

 ゲルマニア鎮守府や硫黄島の泊地には秘密の研究施設がある。

 大本営や艦娘にさえも知られていない、ヒトラーやその関係者しか知らないその施設では毎日のように捕えられた深海棲艦や捕虜がおぞましい人体実験の材料として消費されていた。

 そして当然のことながらその人体実験の材料を確保するための部隊と部署もまた極秘裏に存在している。

 

 

 

 「中佐、例の資源と兵員の移送に関する書類のことですが・・・」

 「ああ、もう出来ている」

 ゲルマニア鎮守府の事務室の一角で一人の平凡そうなメガネの中年男と軽巡洋艦娘の大淀が何時ものように事務処理について話をしていた。

 書類の催促をされた男がどさりと大淀の前に分厚い紙の束を置く。

 男はこの分厚い書類の仕事を一晩で片付けたのだ。

 「・・・もう終わっていたんですか。2、3日はかかると思っていましたが」

 「なに、こういう仕事は慣れているんでね」

 「そろそろお休みなってはいかがですか?アイヒマン中佐」

 アドルフ・アイヒマン。それが男の名前だった。

 かつて親衛隊中佐としてユダヤ人のアウシュビッツ収容所への移送の指揮的役割を担った男。ユダヤ人に関する「最終的解決」の中心人物の一人。そして虐殺に関わりながらなんら後悔を感じず仕事として上官の命令を実行し続けた恐るべき平凡。

 そんな男が今はゲルマニア鎮守府の事務方の元締めの地位を拝命していた。

 大淀はアイヒマンを見る。優秀で、忠実で、緻密で、そして平凡だ。実に平凡だ。

 それ故に彼女は彼が少し苦手だった。

 余りにも平凡すぎて逆に彼が怖いのだ。

 彼は優秀な男だ。どんな命令も着実に忠実にこなしていく。何の疑いもなくそれこそ組織の完璧な歯車として。

 どんな命令も、そう例えば虐殺の命令を出されてもそれが上官の命令であり仕事なら平気な顔をして実行に移しそうで、それで彼女は彼が怖いのだった。

 彼女はアイヒマンの顔を見て沈黙した。

 「・・・どうかしたかね、大淀」

 「いえ、何でもありません・・・ところで先ほどから時計を気にされているようですが・・・」

 「ああ、そろそろ例の『荷物』が届く時間だからね。とても重要で繊細な荷物でな、どうしても気になってしまうのだ・・・」

 アイヒマンが腕時計をちらりと見たとき、事務室のドアが開き事務員が入ってきた。

 「アイヒマン中佐、例の『荷物』が届きました。受け取りの事務処理に来てほしいとのことです」

 「分かった、すぐ行く」 

 アイヒマンは席を立ち部屋を出て行った。

 

 

 

 

 

 ゲルマニア鎮守府から少し遠く離れた港。

 そこに停泊している鎮守府所属の輸送船『ダッハウ号』の甲板にその『荷物』が並べられていた。

 ボロボロに大破した深海棲艦、ソ連兵といった捕虜たち・・・彼ら彼女らにはこれから極秘研究施設の人体実験の材料としての、科学者たちのオモチャとして運命が待っているのだ。

 並べられた捕虜たちを前に一人の親衛隊員が立っていた。

 「数時間前・・・このダッハウ号から脱走を試みた捕虜がいる」

 男はワルサーPPKをいじくりながら言った。

 「残念だ。実に残念だ。・・・いったい何が不満だというのかね?君たちにはこれから第三帝国の復活の材料という非常に名誉な運命が待っているというのに・・・」

 男の名はオスカール・ディルレヴァンガー。

 犯罪者を集めて編成した第36SS武装擲弾兵師団を率いた上級大佐である。

 そして第36SS武装擲弾兵師団はその戦火よりも戦争犯罪で有名である。

 非戦闘員の殺害、戦闘そっちのけの暴行、略奪といった犯罪行為・・・

 その数々の蛮行から国防軍のみならず親衛隊内でも「武装親衛隊の面汚し」と忌み嫌われた部隊であり、その部隊を率いたのがこの男、ディルレヴァンガー親衛隊大佐である。

 彼もまた彼が率いてきた部隊と共に現代に蘇った

 そして現在、彼と彼が率いる部隊『ディルレヴァンガー戦闘団』はゲルマニア鎮守府の直属部隊として、深海棲艦や捕虜の確保の任務にあたっていた。

 彼はいま、数時間前に起こった捕虜の脱走未遂を受けて捕虜たちを集めて集会を開いていた。

 「しかもその上、全員が黙秘ときた。一人が名乗り出れば、その一人だけが責任を負うだけで済むというのにな。実に愚かだ。よって諸君には連帯責任を取ってもらう」

 ディルレヴァンガーは捕虜を5人ずつムカデのように繋げるよう指示した。

 次々と捕虜がつながれていく。

 「組織というものは連帯責任というものが普通でな。一人ミスしただけで全員が責任を取らねばならない。実に理不尽だ。皆に本当にすまないと思うだろう?」

 ディルレヴァンガーが一つの捕虜の列の後ろに立つ。

 「今から、背後からお前たちを撃つ。運が良ければ死ぬのは一人だけで済むじゃろう。だが、運が悪ければ弾は貫通して全員を殺すじゃろう。皆に申し訳ないと思うのなら全力で盾になれ。気合で止めろ」

 ディルレヴァンガーがPPKを構える。

 「ディルレ・・・」

 銃口を深海棲艦の首の後ろに当てる。

 「ヴァルヴォーッ!!」

 引き金を引いた。パンパンパン!!と、乾いた銃声が響いた。

 

 

 数分後。

 「ふむ・・・やっぱ3人が限界か」

 甲板にはムカデのように結ばれた捕虜たちの列が血だまりの中に沈んでいる。

 運悪く弾が体を貫き絶命したものは傷口からその血潮をどくどくと噴出し、後ろの捕虜が盾になり難を逃れた捕虜はヒュッヒュッと緊張状態から解放されたためか過呼吸の状態に陥っていた。

 「次はライフルで試してみるか・・・うん?」

 ディルレヴァンガーが誰かの気配を感じ後ろを振り向くとそこには親衛隊大尉ヨーゼフ・メンゲレとモンティナ・マックス少佐の姿があった。

 「これはこれは・・・死の天使と戦争狂のお二人のお出ましときたか。例の『荷物』この通りきちんと持ってきたぞ。皆現地で取れたての活きのいい奴らばかりじゃ。これでお宅らの研究も幾分かはかどるじゃろ。反抗的な奴がいたんでちとお仕置きをしてやったがな」

 「ディルレヴァルヴォー、というのはどういう意味かね大佐?」

 少佐が問う。

 「儂の名前ディルレヴァンガーにブラヴォーをかけてみたんじゃ。犯罪者を集めて編成した儂らディルレヴァンガー戦闘団にはぴったりの掛け声じゃろ。敬礼はこうだ」

 そういってディルレヴァンガーは両手を45度の角度に挙げた。

 「右手は総統に。左手は儂らに。ぴったりの敬礼じゃろ?」

 「相変わらず下品だな大佐」

 「褒め言葉と受け取っておこう・・・おっと、受取人のアイヒマン中佐も来たようじゃな、急いで作業に取り掛かろう」

 ディルレヴァンガーが部下の兵士たちに遺体の処理と捕虜の受け渡し準備を進めるように指示し、アイヒマンたちが甲板で受け取り作業や事務作業をおこなっていく。

 こうして今日も研究者たちのもとにモルモットが送られるのだ。

 平凡な男と親衛隊の面汚しの仕事はしばらく終わりそうにない・・・


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