ゲルマニア鎮守府の総統執務室でアドルフ・ヒトラーは部下たちを集めて秘密の会議を行っていた。
議題は近く行われる南方の深海棲艦の大規模拠点への一大攻勢作戦の準備についてだ。艦娘のみならず武装親衛隊や陸上自衛隊などの地上部隊など今回の作戦で動員される兵力の多くがゲルマニア鎮守府に集められ出撃の時を待っていた。
ボルマンが資料を広げながら説明する。
「・・・大本営により攻勢作戦は10月1日の夜明けとともに開始されることが決定しました。すでに我が鎮守府は作戦に必要な資源、兵力はほぼ全てそろえ、何時でも作戦を実行できる体制にあります。部隊および艦隊の編成表に関してはまた別に説明致します」
ヒトラーがボルマンに聞いた。
「今回の作戦は地上への侵攻も大規模なものになる。艦娘に関しては準備はぬかりなく行っていることをデーニッツから聞いているが、陸上部隊に関してはどうか?戦車や歩兵はそろっているのか?」
「陸上部隊に関してもグデーリアン上級大将の指揮のもと戦力の充実化が図られています。幸い、我々同様この世に転生したドイツ兵や親衛隊員が実に大量に蘇っており、かき集めて何とか一個師団分の兵力を揃えられました。その他にも陸上自衛隊や米陸軍が集結しており陸上部隊の準備も全くぬかりありません」
「うむ、そうだったな。こちらには転生者という実に心強い味方がいるのだったな。しかもここ最近実に大量に現れる。だいぶ前に硫黄島や南西諸島を攻略した時も実に多くの転生したドイツ兵が潜んでいたし、ここ最近、我が鎮守府の砂浜に毎日のように多くのドイツ兵が打ち上げられているからな。おかげで我々もドイツ陸軍や武装SSの再建が容易に進むというものだ」
ヒトラーの言うとおりだった。
ヒトラーやゲッベルス達は鎮守府の砂浜に打ち上げられた状態でこの世に蘇ったが、ここ最近の攻勢作戦の準備時期になって鎮守府の砂浜に実に多くのドイツ将兵が打ち上げられるようになった。時として数百人単位で打ち上げられた時もあった。おかげでヒトラーは陸軍や親衛隊の再建を容易に行うことができた。もちろん、いくらなんでも都合がよすぎると疑う者もいた。当然だろう。今の時期になってそんなに大量に打ち上げられるなんて、まるで誰かが今が攻勢作戦の直前であることを誰かが知っているかのようではないか・・・
ボルマンが説明を続ける。
「本作戦の立案に携わったのはエーリッヒ・フォン・マンシュタイン元帥。作戦全体の指揮を執るのも彼です。グデーリアンやモーデル閣下も指揮に加わります。尚、本作戦は『バルバロッサ』の暗号名で呼ばれることになりました」
ヒトラーは頷いた。
「うむ、戦力も充実しつつあるうえにグデーリアンやモーデルや指揮を執るなら充分大丈夫だな。だがもう一つ気になることがある。『総統特秘666号』に関してはどうなっている?」
総統特秘666号。
『少佐』の吸血鬼部隊や石仮面などに関わるこの極秘命令の進行具合がヒトラーは気になっていた。
「・・・例の特秘命令ですが、正直作戦の開始時には間に合わないと。施設や資源が不足しているそうで・・・マックス少佐の吸血鬼戦闘団やシュトロハイム大佐の石仮面と柱の男の研究、エイルシュタットの魔女に関する研究・・・どれも遅れております。」
「まあ、仕方あるまい。今は帝国は存在していないのだ。むしろこの鎮守府や硫黄島の施設だけでよくやってくれていると言うべきだろう。しかし作戦がすぐそこまで迫ってきている。急がせるよう言ってくれ」
「分かりました。それと総統閣下、少し気になる情報が・・・」
「なんだ?」
ボルマンが先ほどより神妙そうな顔でヒトラーに言った。
「作戦に先んじてフィリピンに派遣した懲罰部隊『黒騎士中隊』からの報告ですが・・・敵中継基地を奇襲、壊滅させた際気になるものを発見したそうです?」
「なんだそれは?」
「・・・木箱です。放射能マークが印された。中にはウランが入っていました」
「ほう・・・」
敵がウランを持っている、つまり核兵器開発をしている可能性がある情報にヒトラーが興味深そうな反応をする。
もとより原爆はアインシュタインを始めとするユダヤ人の技術だ。反ユダヤ主義を標榜するヒトラーは核兵器に対し好印象を持っていなかったが、同時にそれがもたらす絶大な破壊力は大変魅力的であったのだ。
将校たちの反応は違った。
クレープスが眉を顰めてボルマンに言った。
「・・・敵が核兵器を所持もしくは開発している可能性があると?」
「・・・現在調査中です。発見されたウランは原爆をつくるのには足りない量でありましたが・・・とりあえずこちらに輸送させているところです」
「ボルマン」
ヒトラーが口を開いた。
「・・・この情報に関しては早急に調査が必要と考える。さらに情報収集に努めるように。それと・・・総統特秘666号に命令を追加する」
ヒトラーはにやりと笑った。
「核兵器の開発に関して可能かどうか調査せよ。可能であれば・・・早急に取り掛かるべし、とな」
「はっ」
こうして会議は終わった。
北方の海域、キスカ島。
その付近の深い深い海底に深海棲艦の拠点があった。
拠点の執務室で一人の禿げ頭に丸メガネの男が深海棲艦から報告を受けていた。
「・・・現在、我ガ部隊ハ戦力ノ充実化ヲ図ッテイルガ、11月マタハ12月ニハホボ完了スル見通シダ・・・」
「・・・陸上部隊と姫級の到着は?」
「同様ニ11月マタハ12月・・・遅クテモ来年1月ニハ」
「ハラショ。これでこの基地は強力な軍備を揃えたことになる」
男の名はラヴレンチー・ベリヤ。かつてソ連の秘密警察NKVDの長官を務め数多くの虐殺、粛清に携わったソ連のヒムラーとでもいうべき男。その男が、北方海域の深海棲艦の拠点の長として居座っていた。
「近く敵の南方への反攻作戦があると予想されている。その時ここは我々の反撃の拠点となる。我々の役割は非常に重要だ。引き続き戦力の強化に努めるように」
「了解」
「あと後でほっぽちゃんと遊びたいからここに連れてきてくr」
「断ル」
そう言って深海棲艦は変な玩具のようなものやカメラを持ってニヤニヤするベリヤの執務室を出て行った。
深海棲艦が外に出ると影の薄そうな男が立っていた。
「アア、マ・・・マ・・・」
「マレンコフだ。いい加減覚えてくれ・・・」
名前を言えない深海棲艦に影の薄い男、かつてソ連の最高権力者を務めたゲオルギー・マレンコフがため息をついた。
「マレンコフ、今日モベリヤガウチノホッポト遊ビタイト言ッテイタ。手ニハカメラト変ナ玩具ヲ持チナガラナ・・・コノ前モアイツホッポノ入浴写真ヲ盗撮シテイタ・・・アイツノロリコンハナントカナラナイノカ?」
マレ・・・マなんとかはため息をつきながら言った。
「アイツのロリコンぶりはどうにもならんよ・・・むしろあれでもだいぶましになった方さ・・・こっちに来る前は幼女を集めてフラワーゲームと称してあんなことやこんなことをしたんだからな、ありゃ鬼畜の所業だよ・・・あれでもだいぶ善人になった方だぜ・・・」
「マジカ・・・」
「とにかく、戦力の増強を続けてくれ・・・いずれこちらも動く日が来る」
「分カッタ・・・」
深海の底で起きていることはだれにも分からない・・・