炎と爆発に包まれる深海棲艦の中継基地の中を青葉とフェーゲラインは必死で走り回っていた。
基地の偵察に来たはいいものの、運悪く野外で用を足そうとしたソ連兵に見つかってしまった。
その直後、深海棲艦やソ連兵や戦車が殺到し一気に攻撃を仕掛けてきた。
ジャングルの中や基地の遮蔽物の影を走り回りながら、青葉が20.3cm連装砲で深海棲艦や戦車を撃破し、フェーゲラインが手榴弾や突撃銃で突撃するソ連兵を倒しながら二人は何とか脱出しようとしたが、何しろ敵の数が多く、その上深海棲艦とソ連兵が巧みに連携しながら攻撃を仕掛けてくる。砲撃や歩兵による突撃をうまく使い分けながら退路を断っていくのだ。敵対しているはずの人類と深海棲艦がなぜ共同戦線を張っているのか考える暇もなく二人はすぐに追い詰められてしまった。
敵が基地の司令部にしていた、今は使われていない教会まで命からがら逃げ込んだ二人は教会のドアから隠れて応戦しながら悪態をついていた。
「うわーん!まだ青葉死にたくありません!!なんでこんなことになっちゃたんだよー!?早く鎮守府に帰りたいよー!!」
「畜生畜生畜生!よりにもよってなんで俺がこんな目に!さっさと手柄を立てて懲罰部隊から立ち去るつもりだったのに、中将の俺が何で・・・」
「フェーゲさんが青葉と曙を襲ってあんなことやこんなことをするからです!!」
「まだ根に持っていたのか!?あれは一応未遂のはずだぞ!?とにかく撃ちまくるんだ、俺達で必ず生き残ってやる!!こんな懲罰部隊で死ねるか!!お前だって鎮守府に帰ってまた新聞書きたいんだろう!?」
「そりゃ青葉だって死にたくないです!帰りたいです!総統のデイリー任務のほうがマシです!!でも敵の数が多すぎますよお!!」
言い合っているうちにフェーゲラインのStG44がついに弾切れを起こした。パンツァーファウストもM24棒付き手榴弾も無くなった。もうフェーゲラインの持っている武器はナイフだけだ。
「青葉、俺の武器はもうナイフだけだ。お前は?」
青葉も首を振った。
「私ももう弾薬がありません。偵察だから身軽にと砲弾を多く持って行かなかったのが裏目に・・・」
もはや戦う手段はほちょんど無くなった。
そうこうしている間にもT34中戦車がソ連兵たちに囲まれながら教会に近づいてきた。
もう駄目だろう。諦めるしかないのか。
「フェーゲさん・・・私達もう駄目みたいです・・・もう鎮守府の皆と会えないのかな・・・」
「クソっ、これじゃ犬死だ、どうすりゃいいんだ・・・」
青葉が諦めかけフェーゲラインが必死で足掻こうとし、T34の主砲の砲身がゆっくりとこちらを向いた瞬間、突如としてT34が爆発を起こし砲塔が吹き飛んだ。周囲にいたソ連兵や深海棲艦が吹き飛ばされる。
それを合図に教会の周囲に陣取っていた敵が次々と砲撃で吹き飛ばされていく。
「!?なんだ!?一体何が・・・」
突然の事態にフェーゲラインが教会の入り口から周囲を見渡すと、中継基地の道の中をゆっくりと進む一両のティーガーⅡと二両のパンターの姿があった。その周囲にはドイツ兵や艦娘たちがいる。懲罰部隊の仲間が基地での戦闘の音を聞きつけて駆けつけてきたのだ。
「青葉!戦友だ!戦友達が来たぞ!俺たちは助かったんだ!!」
「ええ!?」
青葉とフェーゲラインは教会の入り口からさっと駆け出すと戦車と仲間たちのもとへ駆け寄った。
二人は間一髪のところで助かったのだ。
そして戦いはこれからである。
バウアーはティーガーⅡに乗車しながら部隊の指揮を執っていた。
もともと敵部隊の規模はそれほど大きくない。T34が6、7両ほどにソ連兵と深海棲艦は一個中隊ほどか。多勢に無勢とはいえ青葉とフェーゲラインがかなり大暴れしてくれたおかげで敵も少なからず消耗しているようだった。
しかも二人を攻撃するために敵は戦車や深海棲艦といった戦力を教会前に集中していたため、自由に身動きがとりにくくなっている。そのうえこちらの存在に今気づいたばかりで少なからず混乱しているようだ。
完全にこちらの奇襲が成功した形だ。
攻撃をするなら今だ。
「まさかイワンと深海棲艦が手を組んでいたとはな。きついお仕置きが必要だ。戦車前進!T34と深海棲艦を片付けるぞ」
バウアーは戦車を前進させる。
敵も負けじと応戦する。
T34の主砲がティーガーⅡに発砲する。しかしティーガーⅡの正面装甲はあまりに分厚い。キュワン!と音を立ててT34の放った砲弾が弾かれる。同時にティーガーが発射。一撃でT34を爆発させた。
側面からもパンターが1両、艦娘たちとドイツ兵を引き連れて敵に向かって突撃してきた。二正面から奇襲され包囲され混乱しつつある敵。形勢は逆転しつつある。敵は統制の取れた行動を失いつつあった。
艦娘の装備する12.7㎝連装砲や20.3㎝連装砲が深海棲艦を撃破し、ティーガーやパンターの正確な砲撃がT34を次々と撃破し、ドイツ兵の機銃掃射がソ連兵の命を刈り取っていく。
だが敵も黙ってはいない。いつの間にか発艦させていたのか、2、3機ほどの深海棲艦の戦闘機がバウアーの乗車するティーガーⅡ目掛けて急降下してきた。
「大尉殿、上を!!」
ティーガーに乗車していたクルツが叫ぶ。
「!!」
とっさに車内に隠れるバウアー。
付近で60キロ爆弾が炸裂し同時に機銃掃射によって装甲がカンカンと音を立てる。 近くにいたドイツ兵と艦娘が負傷して倒れた。
別の艦娘が対空機銃を撃ちまくり敵戦闘機を次々と仕留める。
「大尉殿、お怪我は・・・」
「大丈夫だ、しかし今ので照準器と発射装置がいかれやがった・・・だが敵はあと2両だすぐに仕留めるぞ!」
バウアーは喉の通信機を使い仲間に呼びかける。
「黒騎士1より全車へ、黒騎士2と3は左のT34を狙え、俺は右のほうを狙う!」
照準器が壊れ使い物にならなくなったためクルツは主砲の閉鎖器を開け穴を覗き込んだ。直接照準するのだ。
「チョイ右!右だ!」
閉鎖器から覗き込んだ穴がT34を捉えた。素早く砲弾を装填。敵のT34の主砲もこちらを捉えた。
「情け無用、フォイア!」
バウアーが叫んだ。
クルツが非常スイッチを足で素早く踏む。主砲が発射される。同時にT34は砲塔を吹き飛ばしながら爆発した。
十数分後、敵戦車部隊は全滅し、ほかのソ連兵や深海棲艦も何人か脱走したのを除いて全滅した。
中継基地を制圧した懲罰部隊は早速基地内を捜索していた。
「はぁ・・・間一髪のところで助かりましたね」
「本当だ、助かったんだ俺たちは・・・」
青葉とフェーゲラインは間一髪のところで助かったという実感をかみしめながら瓦礫を掻き分けていた。
「それにしてもなんで深海棲艦はソ連兵と一緒にいたんでしょう・・・」
「分からん、そこらへんは捕虜でも捕まえていりゃ分かるだろうかみんな死んだか逃げてしまったからな・・・うん?なんだこの木箱は・・・」
フェーゲラインは厳重に鎖で縛られ鍵が掛けられた木箱を見つけた。そしてその木箱はあるマークが施されていた。
「おいおい、このマークは・・・」
それは丸を中心に三つの三角形が放射状に描かれたマーク・・・放射性物質や放射能があることを示す・・・俗にいう放射能マークだった。