東シナ海、一隻の輸送船が数隻の護衛艦や艦娘に護衛されながらフィリピンに向けて航海していた。
輸送船の積荷は約300人の一個中隊の兵士・艦娘である。
これから行われる反攻作戦に先立って彼らは先遣部隊、そして懲罰部隊として南方に送られるのだ。
輸送船内では懲罰部隊に編入されることになったフェーゲラインたちが食堂で食事をとっていた。
「ううう・・・よりにもよって懲罰部隊だなんて、取材も出来なくなるうえにあんまりですよ・・・」
スープ皿をつつきながら嘆く青葉。隣に座る曙も毒づく。
「ホント、あのクソ総統ったら支援も無しに一個中隊だけ送るなんてどうかしているわ!!私達を殺すつもりなの!?」
「諦めろ二人とも・・・懲罰部隊に送られたのはある意味仕方のないことかもしれんぞ・・・」
フェーゲラインが首を振った。
「あの件で相当な罰を覚悟していたが、銃殺されないだけ温情ものだと思うよ俺は・・・」
フェーゲラインの脳裏には先日の不祥事騒ぎが浮かんでいた(詳しくは59話を見よ)。朝気づけばベッドの中で青葉と曙と一緒に裸で寝ていたあの件である。あの一件以来青葉、曙と一線を越えた関係を持ったとの疑いをかけられ(本人は酔っていただけで越えていないと主張しているが艦娘の態度からするに怪しい)、フェーゲライン達は軍紀を乱すものとしてヒトラーから不評を買っていた。
そして下された処分が一定期間の懲罰部隊への編入であった。
もっとも、日ごろの彼らの態度からするに最初から懲罰部隊に編入されていてもおかしくなかったが。
「いや、疑いをかけられた以上編入は仕方ないだろうけどさ・・・でも本当に一線は越えていないよ・・・少女襲うほど俺は愚か者じゃないけど」
「・・・あの状況までなってまだ言いますか、それ?」
「総統もクソだけどあんたもクソね。私も何も覚えてないけど」
「クソ、ほんとに何も覚えていないんだが・・・」
頭を抱えるフェーゲライン。対して二人は頬を赤らめてそっぽを向いた。
関係の修復には時間がかかりそうだ。もっとも普段から添い寝をしたりしていた仲だからそれほどかかるまいが・・・
フェーゲラインはちらりと別のテーブルを見た。
別のテーブルには自分たちと同じく懲罰部隊に送られることになったヒムラーやヘスたちが座って食事をしていた。
恐らく自分たちと同じようなやり取りをしているのだろう。
フェーゲラインは残りのスープを一気にすすった。
「・・・懲罰部隊か。だが銃殺されないだけでも御の字かもしれんな・・・」
ヒムラーが黒パンをちぎりながら呟いた。
隣に座るヘスが頷く。
「ああ、戦場に送られる以上過酷であることに変わりはないだろうが・・・しかし生き残るチャンス、名誉挽回のチャンスは与えられたわけだ。しかし・・・」
ヘスはそう言って自身の目の前に座る二人の艦娘を見た。
「・・・なぜ君たちもついてきたんだ?ついてくる必要はないのに」
ヘスの目の前には駆逐艦娘の時雨と夕立がいた。彼女たちはヘスたちとは別に自ら志願して懲罰部隊に入ったのだ。
「だって・・・あの日おじさんに拾われて以来いろいろ助けられたからね。放っておけないよ・・・おじさん、悪い人には見えないし」
「あたしもおじさんと時雨ちゃんが心配で志願したっぽい」
ヘスは笑った。
「そうか・・・心配してくれてありがとう。その気持ちだけで十分だよ。ここから先は戦場だ。何も君達が行く必要は・・・」
時雨も笑う。
「大丈夫、僕は艦娘だよ。ちょっとらそこらのことで死んだりはしないさ。今度は僕が助ける番だ」
「そうだったね、じゃあ頼りにしてるよ・・・もっとも頼りになりそうにない奴もいるが・・・」
そう言ってヘスは隣を見た。隣にはシンナーを吸って目が虚ろになりトリップ状態になっているゲーリングと艦娘の千代田、千歳がいた。
「ああ~食事中に一発決めるって最高だぜ~」
「お姉~瑞雲が飛んでいるよ~あ、消えちゃった~」
「ああ・・・あたしの彩雲・・・彩雲・・・彩雲・・・」
ヘスはため息をついた。三人とも後で高速修復剤を飲めば元に戻れるからとすっかりシンナー中毒になってしまっている。最近ではモルヒネも始めたらしい。
この様子ではもうどうやっても止められはしまい。戦場で足手まといにならなけければいいのだが・・・
スープを完全に飲み干したヒムラーが言った。
「しかしいろんな奴が編入されてきているな、この懲罰部隊には。まさか君まで来るとは思わんかった」
ヒムラーの目線の先には以前ヒムラーたちの看守を務め、同人誌づくりのサポートをしていた親衛隊曹長ローフス・ミシュの姿があった。
「いやあ、長官たちと必要以上に関わりあっていたのがまずかったようで、編入されることに・・・」
「そうか・・・それは悪いことをしたな。この借りは必ず返すことにするよ。それにしてもいろんな人間がいるねこの懲罰部隊には」
ミシュは頷いた。
「はい。一般兵から艦娘に至るまでいろんな奴がいますよ。例えばあそこのSS少尉どのは毎晩食糧庫に忍び込んで食糧を盗んでいました。それからあそこのポニーテールの駆逐艦娘、秋雲というんですがあの子同人誌を書くのが趣味でしてね。この前総統とゲッベルス大臣のBLもののR18の同人誌書いてそれで総統と大臣の不評を買って送られてきたそうです。それからあそこの灰色の髪の毛をしたサイドテールの駆逐艦娘、霞というんですがすごいですよ。日夜総統や参謀達をクズだとクソだのウンコだの、挙句の果てには死ねだのと罵倒していてね。しかも本人の目の前でですよ。それでこれまた不評を買って態度の矯正にと送られてきたそうです」
どうやらこの懲罰部隊に送られてきた艦娘や兵士たちは一癖も二癖もありそうである。もっとも、そうでなければ懲罰部隊に送られることななかっただろうが・・・
ヒムラーは今後のことを心配しても仕方がない、今のうちに力をつけておこうと思いスープをおかわりすることにした。
輸送船内に設けられた士官用の船室の一つで懲罰部隊の指揮官、エルンスト・フォン・バウアー大尉は部隊員のリストを見ていた。
バウアーはこの世界に蘇る前はドイツ軍の精鋭の戦車部隊『黒騎士中隊』を率いて戦っていた。終戦直後のソ連軍との戦いで仲間の盾となって散ったのち、再びこの世界に蘇ったのだが、生前と同じように軍紀違反、命令違反を繰り返しついに懲罰部隊の指揮官の任に任ぜられることになったのである。
「どいつもこいつも一癖二癖もありそうだなおい?」
バウアーはリストの人物を見ながら言った。
隣に立つ副官のオットー・シュルツ准尉やクルツ・ウェーバーが頷く。
「まったく、不純異性行為を働いたSS中将様にSS長官、薬物中毒のデブッチョに同じくシンナー中毒の艦娘姉妹、毒舌屋の艦娘、同人作家の艦娘・・・そうそうたるメンバーばかりです。おもてなししようにもしきれませんよ」
「まったくだ、上もとんでもない奴らばかり連れてきたもんだ。死なないように使えるように教育してやるのが俺達の役目だが・・・まったく、先が思いやられる」
バウアーは一癖も二癖もある懲罰部隊の兵士たちをどう率いるか悩んでいた。
「支援も無しにわずか一個中隊だけで、か・・・まったく、いますぐ鎮守府に乗り込んで上層部の連中に俺のケツでもなめさせたいよ」
だが文句を言っても何も始まらない。
軍人である以上任務は果たさねばならない。
バウアーは今後について副官とさらに話し合った。
懲罰部隊『深海棲艦猟兵黒騎士中隊』を乗せた輸送船はそれぞれの思いを乗せながら静かに目的地に向かっていた。
懲罰部隊『深海棲艦猟兵黒騎士中隊』の主な隊員
エルンスト・フォン・バウアー(懲罰部隊指揮官。大尉。度重なる軍紀違反、命令違反による)
ハインリヒ・ヒムラー(元SS長官。終戦間際の裏切り行為による)
ルドルフ・ヘス(元副総統。戦時中のイギリス亡命事件による)
ヘルマン・ゲーリング(元国家元帥。終戦間際の裏切り行為および薬物中毒による)
ローフス・ミシュ(親衛隊曹長)
夕立(艦娘。志願)
時雨(艦娘。志願)
ヘルマン・フェーゲライン(SS中将。艦娘との不祥事による)
青葉(艦娘。フェーゲラインとの不祥事による)
曙(艦娘。理由は上に同じ)
千歳(艦娘。薬物中毒による)
千代田(艦娘。理由は上に同じ)
霞(艦娘。ヒトラーを目の前で罵倒するなど日ごろの態度による)
秋雲(艦娘。ヒトラーとゲッベルスのBLもののR18同人誌を作成したことによる)
その他312名の艦娘、一般兵が懲罰部隊に編入。