総統が鎮守府に着任しました!   作:ジョニー一等陸佐

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56話 エイジャの赤石~呪われた宝石~

 ゲルマニア鎮守府、休憩室。

 「・・・エイジャの赤石?」

 親衛隊中尉ヨーゼフ・メンゲレはコーヒーを片手に友人の言葉に耳を傾けていた。

 「ああ。少佐殿が言うには何でも石仮面が本来持つパワーを最大限に発揮させる非常に希少な鉱石らしい。過去、スイスやイタリアでそれを巡ってシュトロハイム大佐が死闘を繰り広げたというが・・・」

 吸血鬼軍団『最後の大隊』に所属する科学者、ドクはそう言ってコーヒーをすすった。血まみれの白衣は相変わらずのままで、妙にレンズの多い眼鏡が目立つ。

 「ああ、それなら私も聞いたことがある。それを使うと究極生物を作り上げることができるとな。正直私には信じられないのだが・・・」

 「まあ、現物が失われてしまったからな・・・そんなものがあれば我々の研究もはかどるのだがな・・・一科学者として一度は拝んでみたいものだ」

 メンゲレは熱いコーヒーに息を吹きかけながら友人と語る。

 「それはそうとして、話は別になるが総統閣下がメキシコに送った調査隊が石仮面を手に入れたんだろう?あれさえあればいくらでも、確実に吸血鬼を生産することができる。我々の研究もはかどるというものだ」

 「ああ!私も早く現物に触ってみたいものだ・・・我々の探究心がさらに満たされさらに深まることになる。これほどわくわくすることはない。少佐殿もさぞ満足しておられるだろう」

 「エイジャの赤石、究極生物・・・か。私としても研究してみたいものだな・・・」

 メンゲレはようやくちょうどいい温度になったコーヒーを一気に飲み干すと地下施設に戻っていった。

 

 

 そのころ、総統執務室では総統アドルフ・ヒトラーが親衛隊少佐モンティナ・マックスからの報告を聞いていたところであった。

 部屋にいるのはヒトラー、ゲッベルス、ボルマン、少佐の4人だけである。

 「・・・以上がメキシコの調査隊による石仮面捜索作戦の報告になります」

 ヒトラーは報告書を読みながら少佐に言った。

 「肝心の石仮面の入手に成功したは良いとして、まさかボリシェヴィキもこの石仮面を探しに来ていたとはな・・・」

 報告書の写真には遺跡に残された石仮面に、石壁に掘られたレーニン万歳という文章、そして赤いソ連国旗が写っていた。

 「ええ、私としてもこれは予想外でありました。スターリンや露助の連中が我々と同じように蘇ったのかもしれません。そうだとすればこれは非常に深刻な事態かと。深海棲艦と手を組んでいる可能性もありますし、こうして石仮面に興味を示している以上は奴らも吸血鬼を戦力化しようとしているかも・・・」

 少佐は首を振りながら考えられる脅威についてヒトラーに言った。

 しかしその表情はにやにやとしたままで、どこか楽しい夢を見ている子供のようにも感じられた。

 「・・・楽しそうだな、少佐。敵が増え登場人物が増えこれから起こる惨劇、闘争が楽しみでならないのかね?」

 ヒトラーの問いに少佐は笑って答える。

 「ええ、もちろんですとも総統閣下。これから見る夢がもっと激しい、もっと楽しいものになるかもしれないのですから。登場人物や物語の鍵は多いほうが良い。総統閣下は誰よりも私のどうしようもない人間性をご存じのはず。そしてその人間性ゆえに私を選んだはずです」

 少佐は目を細めた。その瞳にはまるで魔界の軍団長のような一介の少佐とは思えない深く暗い輝きがあった。

 対するヒトラーも彼の瞳をじっと見つめていたがやがて目を細め、頷いた。顔にわずかに笑みが浮かぶ。

 「・・・まったくそうだったな。君はそういう奴だった。まったく、君の眼を見ていると何も言えなくなる・・・ルーデルと同じだな」

 「しかし総統閣下、いずれにせよこれは重大な案件です。早急に何かしらの対策を立てるべきかと」

 少佐を見つめるヒトラーに宣伝相ゲッベルスが進言した。

 「そうだな。いずれにせよ対策が急務だ・・・しかし対策を立てるにも情報が少なすぎる。スコルツェニーやハイドリヒあたりに更なる情報収集を命じることにしよう。少佐、『最後の大隊』についてはどうなっている?」

 ヒトラーの問いに少佐が頷く。

 「大隊に関しては士気、練度ともに最高です。総統や私の命令があればどこへでも出撃するでしょうな」

 「うむ。抜かりなく準備をさせておくのだ。それともう一つ・・・少佐に命令したいことがある。・・・エイジャの赤石のことは知っているだろうな?」

 エイジャの赤石。

 その言葉に少佐だけでなくボルマン、ゲッベルスも反応する。

 最初に口を開いたのはボルマンだった。

 「エイジャの赤石・・・石仮面を完全なものにするために必要な宝石ですな。それがどうしたというのです?」

 「少佐にはこのエイジャの赤石・・・スーパーエイジャを探し出してもらいたいのだ」

 ヒトラーの言葉にボルマンがわずかに困惑した表情を見せる。

 「しかし・・・総統閣下、エイジャの赤石はカーズとの戦いで紛失しもはや現存するかどうかも不明なはずでは?赤石そのものは探せばありますが石仮面を完全なものにするには不十分なクズ石ばかり・・・」

 ボルマンの指摘ももっともである。もはやこの世にあるかどうかも分からぬものを探し出すことは不可能に近く、場合によっては無意味なものである。

 ゲッベルスもヒトラーに言った。

 「総統閣下、わざわざスーパーエイジャを探さなくても石仮面だけで十分強力な兵力を生産することは可能と思われす。赤石の捜索に無駄な労力を費やす必要はないかと思われますが・・・」

 「ゲッベルス君。君たちの言うことはもっともである。しかし考えてみたまえ。もしかすると敵も・・・ボリシェビキの連中も石仮面に興味を持っている以上、このスーパーエイジャを欲しがっているだろう。もちろん、ソ連の連中が蘇ったとか深海棲艦と手を結んでいたり、深海棲艦が我々と同じことを考えているとは限らない。まだそう決まったわけではない・・・しかし可能性がある以上先手を打つ必要がある。なにより」

 ヒトラーは椅子から立ち上がり窓に近づいた。

 すでに夕方になっており、空は赤色に輝いている。まるで赤石のような光だ。

 「エイジャの赤石を手に入れることは我々の勝利を確実にするために必要なことだ。何としても手に入れねばならぬ」

 「・・・」

 ヒトラーがそう言って夕方の空を見つめていると、執務室のドアをノックする音が響いた。

 「総統、至急の用事なのですが・・・入ってもよろしいでしょうか?」

 声の主は大淀だ。

 ちょうど極秘の話も終わったところである。

 ヒトラーは入室を許可した。

 部屋に入ってきた大淀の顔は緊張に包まれていた。

 手には極秘とかかれた命令書のようなものを携えている。

 「・・・総統、大本営からです。ついに例の作戦が・・・」

 そこには『南方海域に対する反攻作戦に関する作戦案』と書かれていた。

 大戦争が始まろうとしていた。

 

 

 

 




 番外編でこんな話をしてほしい、この人物を登場させてほしいというリクエストを承っております。
 リクエストがある方は作者の活動報告「総統閣下の質問箱」にどしどし投稿してください。
 それでは今回はこのあたりで。

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