総統が鎮守府に着任しました!   作:ジョニー一等陸佐

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55話 死闘~戦闘潮流~

 シュトロハイムは焦っていた。

 脱走したヲ級が目の前にいるからだ。

 しかもただのヲ級ならともかく、とんでもない能力を持った(下手したらサンタナと同じパワーを持つ)吸血鬼化したヲ級だ。生半可な戦い方をしたら確実に負ける。

 (チクショーッ!!石仮面をつけただけでここまで強くなるとはっ!しかも脱走するなんてまさに予想外!実験してあわよくば戦力化しようと目論んでいたが、これでは逆にこちらが危険だっ・・・こんなものが脱走して本土に上陸でもしたら・・・考えただけでも恐ろしい・・・総統閣下に怒られるのは確実だが・・・何としてもこいつを処分せねばっ・・・しかしどうやって・・・万一に備え、艤装は外していたが・・・)

 「う、うわあああああ!!」

 シュトロハイムが素早く思考をめぐらす中、一人の親衛隊員が恐慌を起こしながらMP40をヲ級に向かって乱射した。

 銀製の9ミリパラベラム弾がヲ級の肉体に向かって音速の速さで飛びヲ級の肉体を切り裂く――はずだった。

 カンカンカンッ!と空しく弾き飛ばされる。

 弾がヲ級の周りにぱらぱらと落ちた。

 ヲ級はにやりと笑い、そのうちの一発を拾い上げて弾き飛ばした。

 弾き飛ばされた弾は親衛隊員の持っていたMP40の銃口に向かって飛翔し、MP40を暴発させる。

 「ぐああああああ!」

 持っていた短機関銃が暴発をおこし、親衛隊員は苦痛のあまりのた打ち回った。

 「う・・・撃つな!!下手に攻撃したら逆にこちらがやられるぞ!!」

 シュトロハイムは部下たちに手出しをしないよう指示を出した。

 「兵士は全員後ろへ下がれ!おい夕張、ここにいたら死ぬぞ!!お前も避難したほうがいい!!」

 「いらない!あなたたちの助けなんて受けないわ!艦娘である私がけりをつける!!」

 シュトロハイムに反発する夕張。

 (普通に考えたら大佐たちの自己責任だろうけど・・・万一こんなものが本土にまで上陸して暴れだしたら・・・それだけは避けなきゃ!一般兵や大佐じゃあてにならない、ここは私がなんとかしなきゃ・・・)

 「そこのヲ級!私が相手よ!私の大火力をなめてもらっちゃ困るわ!」

 ヲ級の顔が夕張を向いた。

 にやりと笑い、夕張に向かって走る。どうやら夕張を最初の相手にすることを決めたらしい。

 夕張は14センチ連装砲を発射した。

 室内だから下手に連射するわけにはいかないが、今撃ち込んでいるのは徹甲弾だからそんなに爆発を起こさずにダメージを与えられるだろう。

 もともとそれなりに威力のある砲だし、至近距離だ、結構なダメージを与えられるだろう――そう思っていたが、吸血鬼化したヲ級の身体能力は彼女の予想をはるかに超えていた。

 「!?」

 ヲ級の明るい瞳が光り、信じられない速度で回避行動をとる。

 当たるはずだった徹甲弾はあっという間によけられ、実験管を覆う防弾ガラスを貫通し、爆発した。

 ヲ級の顔が夕張のすぐ目の前に現れたと思ったら、次の瞬間、夕張の腹部に強い衝撃と痛みが走る。

 強力なパンチを受け、何メートルも吹き飛ばされ壁に叩きつけられる。

 「かっはぁっ!!」

 たまらず血反吐を吐く。

 目の前にはヲ級がこぶしの関節を鳴らしながらにやにや笑っていた。

 恐らくなぶり殺しにつもりだろう。

 こいつにはどうやっても敵わない――

 夕張は覚悟を決めた。

 ヲ級のこぶしが再び振り下ろされ、そして――

 「おい待てよ、お前の相手はこのシュトロハイムが最後だぞ?」

 夕張にとどめが刺されることはなかった。

 見れば、そこにはシュトロハイムがヲ級の腕をつかみ押さえている姿があった。

 黒金属製の義手が鈍く光っている。

 「・・・大佐?」

 「シュ・・・トロ・・・ハイム」

 ふん、とシュトロハイムが笑う。

 「全く無茶しやがって・・・どこかの誰かさんに・・・JOJOの奴に似ているな・・・最初から気づくかなかった俺もバカだったよ・・・よくよく考えたら、俺は吸血鬼とまともに渡り合えるだけの装備を持っていたんだからな・・・お前はそこで俺の戦いぶりを見ていな。・・・あとはせめてこのシュトロハイムに任せてもらおう」

 「フン!ニンゲンゴトキニナニガデキル!!」

 ヲ級があざけるように笑い、シュトロハイムを攻撃しようとした。

 「そうかい」

 シュトロハイムも不敵に笑うと、次の瞬間、ヲ級の腕をつかんでいた右腕はそのままに、左腕の関節が異様な角度で動き始め、ヲ級の手をつかんだ。

 「ナッ!?」

 「そしてぇぇぇぇぇぇ!!」

 シュトロハイムの鋼鉄製の左手がヲ級の掌の肉をむしり取った。

 ついでに、右手で、ヲ級の手首を引きちぎる。

 「ヌウウウウウウウウウッ!!」

 ヲ級は素早く後ろに飛び去った。引きちぎられた手首は再生しつつあったが、それでも驚きを隠せないようであった。(このときのシュトロハイムの指の力は5000㎏/cm²――サンタナのパワーの約5倍!)

 シュトロハイムは高笑いしながらナチス式敬礼をした。

 「ブァカ者がァアアアア!ナチスの科学は世界一チイイイイ!!サンタナのパワーを基準にイイイイイイイ・・・このシュトロハイムの腕の力は作られておるのだアアアア!!」

 そう。シュトロハイムはかつてサンタナもろとも木端微塵に自爆し一度死んだかに思われた。しかし、ナチスの高度な医療技術によってサイボーグとして復活し、人間をはるかに超える戦闘力を手に入れたのだった。当然、吸血鬼の強靭な肉体をむしり取ることは赤子の手をひねるより簡単。それどころかシュトロハイムは改造を受け、さらにパワーアップしていた。

 「そんな・・・信じられない・・・」

 ヲ級の手を引きちぎるほどのシュトロハイムの腕力に目を見開く夕張。

 シュトロハイムがサイボーグであること自体は知っていたが、まさかここまでの力があるとは予想外であった。

 シュトロハイムは床に落ちていた機関砲の空薬莢を拾うとそのまま握りつぶした。

 金属片があたりに飛び散る。

 「きさまの体を鳥の羽をむしるように1センチ四方の肉片にしてくれるわっ!」

 そのままつぶれた空薬莢を夕張に投げる。

 「あいてっ!?」

 「夕張、こんな体になった俺を気の毒だなんて思うなよ。俺の体はァァアアアアアアッ!!我がゲルマン民族の最高知能の結晶であり誇りであるゥゥゥ!つまりすべての人間を超えたのだァアアアアアアアアアアアア!!」

 次の瞬間、シュトロハイムの肉体にさらなる変化が生じた。

 シュトロハイムの腹筋から重機関銃のような物体が飛び出る。

 側面には弾帯でまとめられた無数の銀色に輝く銃弾が伸びていた。

 「くらえヲ級!1分間に1200発の対化物用徹甲弾を発射可能!艦娘用の砲弾を発射できるように改造した重機関砲だ!!一発一発の弾丸が貴様の体を削り取るのだ!!」

 「胴体も機械なのっ!?」

 驚く夕張。

 シュトロハイムの高笑いとともに轟音が鳴り響く。

 腹の重機関銃から次々と発射される無数の対化物用徹甲弾がヲ級に向かって飛翔する。

 連射をされてはヲ級とてすべてを避けきることはできない。

 決して少なくない数の弾丸がヲ級に命中する。ヲ級の肉体を切り裂いていく。しかし・・・

 「WRYYYYYYYYYY!!」

 ヲ級は何十発と飛来する銃弾を

 硬化させた拳で弾き飛ばす。跳弾が実験室あたり一面に飛び散り、周囲にいた研究員や兵士が次々と負傷していく。

 「ぬうう・・・銃弾を弾き飛ばすか・・・だが・・・」

 シュトロハイムはヲ級の様子を見た。

 ヲ級はそれほど大きなダメージは負っていないものの連射の勢いによって少しずつ後ずさりしていた。

 (よし、このまま後ろにいけば・・・そこにあるのは)

 シュトロハイムの脳裏に勝算が浮かぶ。

 その時、銃声が止まった。ついに弾切れを起こしたのだ。

 ヲ級がにやりと笑い、反撃の態勢をとろうとしたが、シュトロハイムは余裕のままだった。

 「これで勝ったつもりか?我がナチスの科学力はァァァァァァァアアア世界一ィィィイイイイ!!」

 「シュトロハイムの馬鹿!弾切れ起こしたのになに高慢な態度を・・・っ!?」

 シュトロハイムの余裕な様子に思わず苛立った夕張だったが、すぐにそれは驚きに変わった。

 「サンタナに関するデータはすべてぇぇぇぇぇ!!武器としてこのシュトロハイムの体に収まっておると言っただろうがぁぁぁぁぁぁ!!」

 シュトロハイムの右目から突然、奇妙な機械が飛び出したのだ。

 例えるなら、まるでレーザー発射装置のような・・・

 「くらえ!!紫外線照射装置作動っ!!」

 次の瞬間、協力な紫外線のレーザーがヲ級に向かって発射された。

 吸血鬼にとっての弱点は太陽光線(特に紫外線)である。

 吸血鬼化したヲ級とて例外ではないようで、紫外線の光線はそのままヲ級の体を貫いた。

 「グヌウウウウウウウ!!」

 苦痛のあまり一瞬怯むヲ級。

 シュトロハイムはその隙を見逃さなかった。素早く駆け出す。

 「貴様の後ろ・・・がら空きだぜ!!夕張、主砲を防弾ガラスに向かって発射しろ!!早く!!」

 「は・・・はい!!」

 夕張は14センチ連装砲を実験用の穴を覆っていた防弾ガラスに向かって撃ち込んだ。88ミリ高射砲の砲弾に耐える防弾ガラスもさすがに14センチには耐えられなかったようで大きなひびが入る。

 同時に、シュトロハイムはヲ級の体に強烈なパンチをお見舞いしていた。

 「死ねえええええ!!」

 殴ると同時に自身の義手を射出。パンチに勢いをつける。

 衝撃のあまりヲ級の体は義手ごと吹き飛ばされ防弾ガラスに叩き付けられる。

 ひびのはいっていたガラスが割れヲ級の体は実験用の穴の底に向かって落下していく。

 シュトロハイムが叫んだ。

 「今だ!!壁の紫外線照射装置を作動させろ!!」

 研究員があわてて制御盤の赤いスイッチを叩くように押す。

 同時に、実験管の壁に無数に取り付けられていた紫外線照射装置が作動。

 強力な紫外線光線がヲ級の肉体に集中して照射させられる。

 「WWWWWRRRRYYYYYYYYYYYYYYYYYYY!!!」

 実験室中にヲ級の断末魔が響く。

 紫外線に焼かれたヲ級の肉体が灰になっていく。

 そして断末魔が突如として途切れた。

 実験装置の中には灰のような粉が残っているだけだった。

 ヲ級の姿はどこにもなかった。それは勝利を意味していた。

 「はぁ・・・はぁ・・・勝った・・・勝ったぞ・・・勝ったぞおおおおお!!」

 シュトロハイムがヲ級を倒したことを確信し勝利の雄叫びを上げると、周囲も安堵したように歓声を上げたり床に座り込む。夕張もため息をつきながら床に座りこんだ。

 「・・・それにしても大佐がサイボーグだっていうのは知ってたけれど・・・あれはやりすぎじゃあ・・・おかげで助かったけど・・・」

 夕張はシュトロハイムのスペックとサイボーグぶりに呆れたように呟いた。しかしそのおかげで助かったのも事実である。

 とにもかくも彼らは助かったのだ。

 

 

 

 

 

 そのころゲルマニア鎮守府、総統執務室

 ヒトラーは総統秘書ボルマンから渡された資料を食い入るように見つめていた。

 「・・・ここに書かれていることは・・・この写真に写っているのは本当のことなのか?」

 「・・・は。確かに信用できるものであります」

 資料の内容は、ヒトラーがメキシコに派遣した石仮面の発掘調査隊からの報告書である。

 そこには石仮面に関する記述のほかに遺跡に残されていたあるものを写した写真があった。

 「信じられん・・・なぜ・・・なぜここに」

 その写真に写っていたものは。

 「なぜここに、ボリシェヴィキの証が、ソ連の国旗がある?」

 写真に写っていたのは遺跡に残されていたまだ真新しい血のように赤いソ連の国旗。

 そして石壁に掘られたレーニン万歳という文章。

 ヒトラーの最大の敵であるソ連の証がそこに写っていた。

 石仮面に興味を示していたのはヒトラーだけではなかったのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 どこかの深海の海底・・・そこで複数人の男たちと深海棲艦が会議をしていた。

 「それで・・・石仮面を手に入れることには成功したのだな?」

 リーダー格の男がソ連軍の将校の服を着た男に問う。

 「・・・は。石仮面そのものの奪取には成功しました。しかし・・・全てを採掘することはかないませんでした。その前に別の調査隊らしき集団が・・・おそらくファシスト共でしょうが、遺跡に接近するのを確認したため全ての石仮面の採掘を断念撤退したとのことです」

 「ファシスト共がか・・・まあ、予想されたことではあるな。奴らも吸血鬼のパワーに魅せられていたのだから」

 リーダー格の男――ソ連共産党書記長ヨシフ・スターリンは報告書を読み終わると机の上に置いた。

 「とにかく、計画を急ぎたまえ。近く敵の大反攻作戦があるとの話もあるからな。それに・・・」

 「・・・それに?」

 ソ連軍の軍服に身を包んだ屈強な体つきの男が疑問の表情をする。勲章や襟元の階級章から彼がソ連邦元帥であることがうかがえる。

 「・・・石仮面だけでは不十分だ。確実に勝利を得るためにはあれが・・・エイジャの赤石が必要だ」

 エイジャの赤石。

 それはかつて、究極生物になることを望んだとある男がその野望を叶えるために必要とした美しくも呪われた宝石。

 しかしそれは・・・

 「お言葉ですが同志、赤石がなくとも石仮面だけでも十分な戦力を生産できます。なにより、必要な大きさの、エイジャの赤石はすでに破壊されてしまったと聞いていますが・・・」

 「・・・いや、まだどこかにあるはずだ・・・究極に到達するためのエイジャの赤石が・・・スーパーエイジャが・・・」

 「・・・」

 「確かにお前の言うようにもうこの世には存在しないかもしれん。しかし勝利を確実にするためにも赤石が必要なのだ。何としても、赤石を探し出すのだ。この際手段は問わん。・・・期待しているぞ、ジューコフよ」

 「ダー。同志書記長」

 ソ連邦元帥ゲオルギー・ジューコフはスターリンに頷いた。

 スターリンは会議室の窓から外を眺めた。

 どこまでも暗い海中が広がっている。

 「・・・さて。プロシアのちょび髭がどう出てくるか・・・見ものだな」

 スターリンは楽しい夢を見ているかのような子供のように、かすかに笑った。


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