総統が鎮守府に着任しました!   作:ジョニー一等陸佐

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48話 番外編3~白い死神は今日も練習~

 とても白い世界があった。

 見渡す限りの白い雪原。空も雲に覆われ、見渡す限り白一色に世界が支配されている。ただ数えるほどの針葉樹林や枯れた草がそれに抵抗しているに過ぎない。

 そしてその雪の上に一人の男が寝そべっていた。

 身長150センチほどの小柄な男は130センチほどもあるライフルを構え遠くを見つめていた。

 ライフルのアイアンサイトの先にはおよそ人とは程遠い姿の何かがいくつかいた。

 黒い硬質の殻に覆われたもの、半漁人のような姿をしたもの・・・これを見てこれが人と答える者はいないだろう。それどころか、これが男の、そして人類にとっての敵――深海棲艦――であることは誰の目にも明らかだった。

 「・・・」

 声は出さない。

 ただじっと、息を潜めチャンスをうかがう。適切な距離に来るまで構え続ける。

 深海棲艦をとらえ続ける。

 そして。

 一瞬、おそらく旗艦であろう深海棲艦が顔をこちらに向けたその瞬間、男はライフルの引き金を引いた。

 瞬間轟く銃声、一瞬の間をおいて男の目は深海棲艦が頭から血と脳漿をぶちまけて雪原に倒れ伏すのを確認した。

 それとほぼ同時にボルトを素早く操作、弾薬を装填し次の標的に照準、発砲を繰り返す。次々と深海棲艦が雪原を赤く染めていく。

 30秒もしないうちに上陸した深海棲艦の集団は全滅していた。

 敵の全滅を確認すると男は愛用のライフル、モシン・ナガンを構え直し傍らに置いてあったスキーに乗ると雪原を走り出し、どこかへ消えていった。

 男の名は、シモ・ヘイヘ。

 かつて冬戦争でソ連兵からおそれられ「白い死神」と呼ばれた彼もまた、現代によみがえり、深海棲艦との戦いに身を投じていた。

 

 

 

 深海棲艦は国を選ばず、世界の各地でその猛威を振るっていた。

 北欧とて例外ではない。バルト海を中心に、フィンランドをはじめ、スウェーデンやデンマークなど北欧諸国も深海棲艦と死闘を繰り広げていた。

 海上戦力が豊富とは言えない北欧ではフィンランドをはじめ、各国が深海棲艦の上陸を許しており、戦況が好転した現在でも深海棲艦の上陸阻止作戦や掃討作戦が繰り広げられていた。

 シモ・ヘイヘはまさにそのような状況の中よみがえった。

 まだ寒さが凍てつき雪が輝く冬の季節、あたり一面が雪で覆われる今日もシモ・ヘイヘはモシン・ナガン片手に深海棲艦の掃討を行っていた。

 「・・・」

 一言も発さずにヘイヘは雪の中を進んでいく。

 周りは見渡す限りの雪だ。なにもない。

 ふと、ヘイヘは立ち止まり、双眼鏡を構えた。

 ヘイヘのはるか前方には深海棲艦の戦艦がいた。周りにはおそらく支援の駆逐艦もいくつかいる。おそらく、わが軍の警戒をかいくぐり上陸した深海棲艦が国土を制圧するために攻撃準備を整えているのだろう。

 双眼鏡を下したヘイヘはモシン・ナガンに弾薬を装填した。

 彼の使うモシン・ナガンは特注品だ。

 当然のことながらライフル弾で艦船の装甲をぶち抜くのは不可能、子供でも分かることだ。

 もちろん、艦娘が使う弾薬を使えばそれも可能だが、しかし、すると今度は新たな問題が発生する。

 反動だ。砲弾の反動を生身の人間は絶えることはできない。

 かつて、深海棲艦との戦いで人類は艦娘用の弾薬を小型であることを利用して、歩兵用の兵器に転用しようとしたが失敗した。その理由はまさにその反動の抑制にあった。

 多額の研究費用を投じて、ついに歩兵でも扱える艦娘用の弾薬を打ち出すライフルの開発に成功したが、しかしコストがあまりにも高く、普通に艦娘を生産して戦わせるほうが効率的、ということになり結局すぐに廃れた。

 ヘイヘが使う特注のモシン・ナガンはまさにその唯一の試作品だ。

 おそらく、そのモシン・ナガンはヘイヘのために作られたのかもしれない。

 「・・・」

 ヘイヘは深海棲艦に接近すると地に伏せて、ライフルを構えた。

 レンズの逆光で気かれるのを嫌い、スコープは用いない。

 アイアンサイトだけで敵を捕らえる。

 狙うのは戦艦の弱点だ。

 装甲の薄い副砲を打ち、誘爆を狙う。

 照星で、深海棲艦の副砲をとらえ、照門で正確に照準する。

 敵は気づいていない。

 気を伺い、ただひたすら待つ。

 そして。

 ヘイヘは引き金を引いた。

 白い、静かな雪原に火薬の爆発音が響く。

 一瞬の間をおいて、深海棲艦の副砲に火花が散った。

 違和感を感じたのだろう、深海棲艦が副砲に目をやった次の瞬間、弾薬や燃料に誘爆、深海棲艦の体が大爆発を起こした。

 それと同時にヘイヘは周りにいたほかの深海棲艦を次々と狙撃した。

 ヘッドショット、またヘッドショット。

 雪原に血と脳漿の絵画を描いていく。

 30秒もしないうちに敵の深海棲艦群は全滅した。

 「・・・」

 勝利に対し、ヘイヘは何も言わない。彼にとってはやるべきことをやっただけに過ぎない。祖国のために戦ったに過ぎない。練習に過ぎない。深海棲艦は的に過ぎない。

 ヘイヘは戦果を確認するとスキーに乗り、またどこかへ雪原を進んでいった。

 今日もまた、ヘイヘはフィンランドの白い雪原で深海棲艦を狙撃する。

 

 

  

 


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