ヒトラーがドイツ艦娘の拉致を決める少し前。
国家社会主語ドイツ労働者党副総統ルドルフ・ヘスと夕立は公園のベンチでボーっと座り込んでいた。
夏なので日の光がかんかんに照り、二人の顔には汗が浮かんでいた。下手をしたら、熱中症になりかねないがそんなことは気にしていない様子である。
夕立がヘスに語りかける。
「・・・ねぇおじさん」
「・・・何だい」
「なんだか暇っぽい」
「そうだね」
「これからどうするの」
「分からん。仕事さえ見つかればいいんだが」
そう。現在の彼らの一番の課題は仕事を見つけること。つまり彼らは今現在絶賛ニート生活謳歌中というわけなのである。
突然この未来によみがえったヘスと鎮守府から逃亡してきた時雨と夕立にとって早く生活の糧を見つけることは早急な課題であった。
一応少なくない現金を持ち出したがそれも底を尽きかけている。
が、仕事を得ようにも履歴書などないヘスや逃亡してきた時雨たちを雇う所があるとは思えない。
さて、どうしたものか・・・と二人がボーっとしていたところへ自販機へジュースを買いに行っていた時雨が二人のもとへ戻ってきた。
「はい、これおじさんと夕立の分」
「おお、ありがとう時雨ちゃん」
「ありがとうっぽい」
ヘスの隣に座りながら、時雨が話しかける。
「そういえば自販機に行く途中求人広告の看板を見たけど」
「?」
ヘスは時雨を見た。
「気になる広告を見たんだ。履歴書とか必要なし、やる気さえあれば雇いますだって・・・ホントかな?」
履歴書等が必要ないという求人。なんだか怪しい・・・が、職がなくて困っていた彼らにとっては興味深いものだった。
「・・・まあ、ちょっと見てみるか」
職にありつけるかもしれない僅かな可能性の話を聞いてヘスはとりあえずその広告を見てみることにした。
時雨の言っていた求人広告はすぐ近くにあった。
公園の門近くの掲示板の隅にその求人広告は貼られていた。
「・・・なになに?求む清掃員・・・」
その求人広告の内容とは要約するとこんな感じのものだった。
「求む清掃員。
資格、年齢、その他の制限一切なし。能力とやる気さえあれば誰でも歓迎いたします。(特に金髪碧眼のアーリア人は大歓迎です。ただしユダヤ人、てめーは駄目だ)履歴書とかそういうのはいりません。簡単な面接だけです。住み込みも可能です。
亜宇酒美津鎮守府」
求人広告を見つめていたヘスたちはしばらくの間沈黙していた。
そりゃそうだ、あうしゅびつ、なんて名前の鎮守府は聞いたことないしアーリア人歓迎、ユダヤ人はお断り、何より履歴書必要なしなんてどう見たって怪しい内容の求人広告だ。
「・・・大丈夫かなこの仕事。あうしゅびつ鎮守府なんて聞いたことないし・・・」
「ユダヤ人お断りっぽい」
「・・・どうするおじさん」
「・・・行こう。面接行こう!善は急げだ!」
「え!?決めるの早くない!?」
明らかに怪しい内容の求人広告にノリノリのヘスに戸惑う二人だったが、すでにヘスは走り出しており、時雨たちは彼についていくしかなかった。
「・・・それでとりあえず来てみたが」
三人の目の前には煉瓦造りの建物に巨大な工廠、そして港と海が広がっていた。
ここが鎮守府であることに間違いはないらしい(門に『夜戦と労働だけが自由への道』と書かれた標識があるのはこの際無視した)。
「・・・どうする?」
「もうここまで来たからには引き下がるわけにはいかんだろう」
「もうお金も底を着いてるっぽい」
「・・・そうだね」
もう所持金が底を着きかけ職に困っているこの有様だ。明らかにあの広告の内容は怪しかったがそれでも流浪人の自分たちを雇ってくれそうなのはここしかあるまい。
三人は腹を決めた。
「すみませーん、求人広告を見てやってきたんですが・・・」
扉をたたく時雨。
返事はすぐに帰ってきた。
「はーい、少々お待ちください・・・」
男性の声だ。ここの提督か、あるいは職員か。
しばらくの沈黙の後、扉が開いた。
目の前には黒服を着た地味な容姿のメガネの男が立っていた。
「どうも、初めまして御嬢さんがた私はこの鎮守府の提督の・・・うん?」
「どうもこんにちわ、この求人広告を見てやってきたんですが・・・うん?」
男とヘスが互いに挨拶を仕掛けて疑問の声を上げた。
どうやら二人とも互いの声が聞き覚えのあるものだったらしい。
すぐに互いの顔をじっと見つめた。
そして。
「・・・なんでお前がここにいるんだあああああああああああ!?」
「それはこっちのセリフじゃあああああああああああ!?」
絶叫が響いた。
「お、おじさん・・・!?」
「ちょっとびっくりしたっぽい」
「て、提督、何があったんですか!?」
突然の絶叫に驚く時雨たちと扉から顔をのぞかせたなぜか寝間着姿の艦娘を尻目に二人は互いの肩をつかみ取っ組み合った。
そして叫ぶ。
「どうしてお前が生きているんだ、ヘス!?」
「どうしてお前が提督やってんだヒムラー!?」
そう。ヘスたちの前に姿を現したこの黒服の男こそ、かの悪名高い親衛隊長官にして、そして何故か現代に蘇ってちゃっかり提督のポストについているハインリヒ・ヒムラーであった。