いろいろ一悶着あってヒトラーと大淀が事務仕事を終えた矢先、突如鎮守府内にサイレンが鳴った。
突然の出来事にしかしヒトラーは冷静だった。
「・・・敵襲かね?」
「はい!総統、すぐに迎撃の命令を!」
ヒトラーは頷き、「ちょうどいい、私は艦娘の戦闘や深海凄艦がどういうものか見たことがない。こういうのは初めてだ。この目でしっかりと見させてもらおう」
「分かってます、提督・・・じゃなかった、総統のサポートが私の仕事ですから」
そういって大淀は執務室のドアを開けて出て行った。「ついてきてください」
戦闘指揮所に行くのだろうと判断したヒトラーはすぐに立ち上がり大淀の後をついていった。
戦闘指揮所は執務室のすぐ近くにある地下室にあった。
中はコンクリート造りで、殺風景でしかし堅固そうな作りだった。
通信機器やその他戦闘に関係のありそうな機具が所狭しと並んでいる。
大淀はしばらく何かの機械をいじっていたがすぐにヒトラーに向き直った。
「総統、敵は深海凄艦の駆逐艦1隻だけです。恐らく艦隊からはぐれてここに来たのでしょう」
「現在出撃可能なのは?」
「駆逐艦の叢雲だけですが・・・十分やれます。彼女、ベテランですし」
「よし、すぐに出撃させろ!」
このときサイレンが鳴った時点で叢雲は装備を装着してドッグで待機、あとは出撃命令を待つだけだった。
すぐにその時はやってきた。
出撃を意味する赤いランプが鳴りドッグの扉が開いていく。通信機具には敵の位置情報が届いていた。
叢雲はすぅ、と息を吸った。
「--出撃するわっ!」
機関が動き出し、彼女は敵の待つ海域へ向かった。
「大淀君、戦闘の様子を見ることはできないかね?」
「偵察機を飛ばしました。そこから映像を送ります」
目の前にあるモニターに光がともった。
ヒトラーの目に映ったのはまず、青い、波が立つ海。そして真ん中には黒い魚のようなものが写っていた。頭部がやけに巨大で、表面はまるで装甲におおわれているかのように金属光沢がある。何より、むき出しの歯が印象的だった。
「・・・これが・・・深海凄艦」
「そうです。これは駆逐イ級と呼ばれるもので、そして、人類の敵です」
ヒトラーの目には少なくともルックスだけでも邪悪なものに見えた。
「総統、来ました。」
映像に新たな被写体が写った。
それは艤装を身に着け、海上を走る叢雲だった。
その顔に恐怖は感じられない。余裕であることが一目でわかった。凛々しい少女の姿に思わずヒトラーは
「美しい・・・」
とつぶやいた。(誤解を防ぐために言っておくがヒトラーは決してロリコンではない。彼の興味、嗜好が胸部装甲にあることは後の話で明らかになろう)
イ級が口の中にある主砲を叢雲に向かって砲撃した。
しかし、砲弾は発射されてから目標に到着するまで時間がかかる。
叢雲はすぐに進路を変更しわずかな時間の後、近くに激しい音を立てながら水柱が立った。
その間にも叢雲は敵にかなり接近していた。
手にした12.7cm連装砲をイ級に向かって撃ち込んだ。同時に四連装魚雷も発射。
叢雲の放った砲弾はイ級に直撃。よろめいたところへ追い打ちをかけるように魚雷が直撃し次の瞬間イ級が爆発を起こした。
巨大な水柱が立ちしぶきがかかった。
水柱が消えた時にはそこにあったのは何かの残骸のみだった。
「総統、敵は轟沈!完全勝利です・・・総統?」
「これさえあれば・・・ベルリンの共産軍のみならず・・・スターリンに一泡吹かせてやれたのに・・・ブツブツ・・・」
大淀が振り向くと、ヒトラーは勝ったのに悔しそうな表情で何かつぶやいている。
ヒトラーから見れば、叢雲のような存在は喉から手が出るほど欲しい存在だ。これがあればソ連軍に対抗することができたかもしれないからだ。
「なにこれすごい。これくれ、ちょっとソ連滅ぼしてくる」
「どっかで聞いたことあるような気がしますけど・・・言っておきますけど艦娘の装備は普通の人間には扱えませんよ」
それを聞いてヒトラーは残念そうな顔をした。「そうか・・・」
「とにかく!完全勝利ですよ!早く迎えに行きましょう」
「それはもっともだ。英雄は祝福されるべきなのだから」
ヒトラーたちは港へと向かった。
叢雲が鎮守府に帰還した時、すでにそこには大淀とヒトラーが待っていた。
「よくやってくれた。素晴らしい戦いぶりだったよ。」
叢雲は胸を張った。
「あれくらい余裕よ。なに、不満なのっ!?」
突然彼女は声を張り上げて驚いた。
ヒトラーが突然彼女の手を握り握手し、ついでに頭を撫でたからである。
結構強めに、しっかりと。
「いや、不満など何一つない。だが君はまだ少女だ。無理をしないように。若者、特に子供は未来なのだから」
ヒトラーは微笑むと、そのまま執務室に向かって歩き出した。
叢雲少し顔を赤くしていた。突然握手と頭を撫でられて驚いたのと、少しうれしかったのと、ベテランなのに子ども扱いされて悔しかったこと(これが一番大きかった)諸々の理由で。
・・・しつこいようだが総統はロリコンではない。
昼食を済ませたのち、ヒトラーと大淀は工廠に向かった。開発と建造の説明をするためだ。
「総統、艦娘とその装備は燃料、ボーキサイト、鋼材、弾薬の4つに開発資材と呼ばれるものを組み合わせて行います。・・・錬金術みたいなものです」
大淀は開発資材を見せた。歯車の形をしており、クッキーのような大きさと質感だった。
目の前には巨大なコンテナのような箱が二つ並んでいる。
「どのように資材を入れて加工するのだ?」
「側面に穴がありますよね?そこに材料とこの資材を入れてください。そしたらあとは勝手にやってくれますから。」
便利なものだと思いながらヒトラーは資材を投入した。次の瞬間ゴトゴトと騒がしい音がしてコンテナが揺れた後、コンテナから手のひらほどの小人の少女が何人か表れてもう一つのコンテナと忙しそうに行き来を始めた。
思わず、言葉に詰まる。
小人というこの世に存在しないはずのものがいたからだ。
「彼女たちは妖精さんと呼ばれる存在です。建造、開発、修復・・・彼女たちなしでは戦うことはできません」
「・・・妖精?私は夢を見ているのか?」
「みんな最初はそう言いますね」
フフッと大淀は笑った。
約20分後
「建造が終了したようです」
大淀の言葉と同時にコンテナの扉が開いた。
もわっと煙が大量に噴き出してきた。そのなかにうっすらと人間のシルエットが確認できた。
煙が晴れた時、現れたのはセーラー服を着た黒い髪を肩まで伸ばした、寝癖のようにぴょんと飛び出ている髪の毛が印象的なこれまた美少女だった。(ヒトラーはこれをアホ毛というのだということを後に知ることになる)
「特型駆逐艦・・・綾波型の『潮』です。もう下がってよろしいでしょうか・・・」
潮と名乗った少女は少しおびえているようだった。
当然、普通の大人なら、心配はかけまいとするものだ。
「この鎮守府の司令を務めているアドルフ・ヒトラーだ。、潮君。そう、怖がる必要はない」
彼はそう言って、彼女の頭を撫でようとしてーー
「ひゃあっあまり・・・触らないで・・・ください」
安心するどころか怖がられた。少し目が潤んでいる。
「あの、総統・・・怖がってますけど・・・」
「畜生めぇーー!!!」
総統は会った初対面で怖がられたのがよほど悔しかったのであろう、思わず叫んだ。
結果としてこれはさらに潮を泣かせることになった。
総統と潮の最初の仕事は関係修復から始まった。
そのころ、叢雲は砂浜を散歩していた。
そしてあるものを見つけた。
それはぶっ倒れている人間だった。
男性のようで外国人の顔立ちをしている。顔は少し痩せこけている。
オールバックに黄土色の軍服のようなものを着ている。
蘇ったのはヒトラーだけではないようだ。
駆逐艦の中では潮が一番です。
そして最後の砂浜に倒れていた男性はいったい誰でしょうねぇ・・・