29話の後書きでも公表しましたが、今度人気投票を行うことにしました。29話までに登場したキャラクターの中で好きにキャラ一人につき一票投票してください。二人まで投票できます。
投票する際は可能な限り、作者の活動報告「総統閣下の質問箱」に投票してください。お願いします。
午前0時。月明かりのない真っ暗な太平洋上を山城達救出部隊は休むことなく静かにしかし高速で航行していた。
出撃してから数日。敵の目を何とかかいくぐりあと少しで目的の島のたどりつくというところだった。
「今夜は月明かりがなくて助かりましたね」
不知火が言った。
明石がうなずく。
「今日は新月ですからね。作戦期間中は月明かりに照らされて見つかることはないでしょう」
「このまま島にたどり着ければいいけど・・・」
山城は不安そうに前を見た。
もともと自分は運のない不幸な艦娘だ。
この重要な作戦が失敗に終わらないか・・・と内心思うところもあった。
よりによってなんで自分が。まさか間に合わずに全滅しているのでは・・・敵に見つかって殲滅されるのでは・・・と考えかけて、すぐにやめた。
そんなことだから、いけないのだ。できると見込んだから総統が自分に声をかけたんだろう。そうだ、ポジティブに、ポジティブに考えよう・・・何より、扶桑姉さまが鎮守府に帰りを待っているのだ。失敗して沈むわけにはいかない。
山城は出撃直前の工廠での出来事を思い出した。
新型のタービン機関を取り付けてもらう際、自分にできるだろうか、と不安を漏らした自分に対し、技術部の部長である武装SSの大佐が機械の腕をウィンウィン鳴らしながら言っていた。
「我がナチスの科学力はァァァァァァァアアア世界一ィィィイイイイ!!できんことなどないィィィイイイイ!!そうだろう、ドク!」
「ええ!今回のタービン機関は私が特に力を入れ開発したものです。ああ、少佐殿がいればどれだけ感動したことだろうか・・・」
そうだ、ナチスの科学は世界一なのだ、できないことなどない、失敗するわけがない・・・
そう自分に言い聞かせ気を改めて入れなおして山城は暗い闇の中を航行していくのであった。
そのころ、ニチヤンネル島
深夜ということもあり本来なら、そこで漂流している加賀や摩耶たちは皆ぐっすりと就寝しているはずであった・・・のだが、実際には平気な顔してぐっすりと就寝している者と明らかに青い顔して寝不足なのが明らかなのに寝れない者に分かれていた。
原因は実に簡単である。
後者の人間であるファシスト党頭領ムッソリーニは同じく後者の人間であるローマに話しかけていた。
「・・・なあ」
「なん・・・でしょう・・・ドゥーチェ・・・」
「この島・・・おかしいと思わないか?」
「ドゥーチェも・・・そう、思いますか?」
「ああ・・・だって・・・」
ムッソリーニはジャングルのほうを見た。
次の瞬間、ジャングルからけたたましい音が島中に響き始めた。
「タピオカパン!タピオカパン!」「ビャアウマイ!ビャアウマイ!」「ヤラナイカ!ヤラナイカ!」「コナバナナ!コナバナナ!」「ヤロウオブクラッシャー!」
「・・・こんな野生動物の鳴き声があるか!?普通!?」
そう、このニチヤンネル島では夜になるとこのように島に生息する野生動物が喧しく鳴り響くのであった。
そしてこれがムッソリーニたちの快適な安眠を妨げていた。
「クッソー、早く救助はこねぇのかよ・・・」
摩耶がピクピク瞼を震わせながら言った。
「夜寝れねえから昼寝ようとしても暑くてジメジメしてとても寝られたもんじゃねぇ・・・こんちくしょう・・・」
「こいつらこんなに五月蠅いのによく寝られるよなぁ・・・」
ムッソリーニは呆れたように隣で眠る菅野やエヴァや初雪達を見た。彼らの寝顔は安らかなもので、野生動物の喧騒をまるで気にしていないようであった。
ムッソリーニは改めて、摩耶を見た。
「・・・御嬢さん、通信機器は本当に使えないのかね?」
「だからさっき言ったろ?使おうにもバッテリー切れに加えて海水につかってさらには菅野の乱暴な扱いでぶっ壊れちまったって・・・」
「・・・そうか」
ろくに寝れず、通信機も壊れて救助もそれほど望めそうにない。
「どうすっかな・・・」
ムッソリーニは砂浜に転がり、とりあえず何とか寝てみようと試みることにした・・・とその時。
「・・・ん?なんだありゃ?」
「どうしました、ドゥーチェ?」
ムッソリーニは何か違和感を覚え、夜空をじっと見つめた。
月のない、星だけが輝いている真っ暗闇の夜。その静かな闇夜の中で何か不思議な音が聞こえた。とても小さいが確かに聞こえる。自然には聞こえない、機械的な音・・・
ブブブブブ・・・
プロペラ音だ。
摩耶やローマも勘付いたようでムッソリーニと顔を合わせた。
摩耶は嫌な予感がした。もしや・・・
彼女はすぐに寝ている艦娘達や菅野らを起こしにかかった。
「なんだバカヤロウ・・・人が寝てんだぞコノヤロウバカヤロウ・・・」
「どうしたの、摩耶ちゃん・・・」
「いいから、早く起きてジャングルの中へ。ヤバいことなってかもしれねぇんだ、ほら聞こえるだろ」
菅野はしばらくはぁ?という顔をしたが、すぐに例のプロペラ音に気付いたのだろう、ほかに寝ている艦娘を抱きかかえるとジャングルの中へ隠れていき、他の人も続々と入っていった。
いまだ意識不明なままの加賀と赤城を抱え、摩耶もジャングルに隠れる。どうにかジャングルまで入ると、摩耶は空を見上げた。
プロペラ音は一層、大きくなりっており、島中に響いていた。野生動物の鳴き声もいつの間にか止み、プロペラ音だけが大きく鳴り響いていた。
次の瞬間、ぱっと真っ暗な夜空が光った。一瞬で昼になったのかと見まごうような光。だが白煙を引きながらゆっくりと降下していく火球を見てすぐに照明弾の光だとわかる。
摩耶は眼を見開いた。
そこには照明弾のオレンジ色の光に照らされながら、飛行する深海棲艦の航空機の姿があった。
「・・・偵察機か」
菅野がつぶやいた。
摩耶の脳裏に嫌な予感が奔った。
もしや・・・敵に捕捉されている?
摩耶はごくりと唾をのんだ。
ちょうどその頃、ニチヤンネル島から数十キロほど離れた海上では、深海棲艦の艦隊が加賀達空母部隊にとどめを刺そうとじっと身をひそめていた。
その中でヲ級はただじっと、夜空を見つめていた。
スターリンにとどめを刺すよう命じられ、調査の結果潜んでいる可能性が最も高いと考えられたニチヤンネル島に向かい、彼女は偵察機を飛ばしてじっと、その時を待っていた。
まだ何も報告はない。
だが、いると彼女は確信していた。
別に確証があるわけではない。が、彼女の感がそう告げていた。
ニヤリと嗤う。
これから起こることに彼女は嗤わずにはいられなかった。
殺せるのだ。手負いの空母を、嬲り殺しにできるのだ。
艦娘達が現れてから彼女たちによって散々負け戦を強いられてきたが今ようやくその復讐ができる。
そのことが彼女は楽しみだった。
彼女は嗤いながらただ夜空を見る。
これから何が起こるか、彼女たちはまだ知らない。