梅雨の季節がいつの間にか過ぎ、本格的に夏に突入した7月。
レンガ造りのゲルマニア鎮守府の屋根を雲一つない空の上で真っ白に光る太陽が照らしていた。
そして、そのゲルマニア鎮守府の主でありドイツ第三帝国総統でもあるアドルフ・ヒトラーはゲッベルスをはじめとする側近らとともに総統執務室でクーラーをガンガンにつけて遊び呆けていた。
「いえーい!!希ちゃん!のんたーん!!愛してるばんざーい!!」
ヒトラーは赤いはっぴに鉢巻をつけてライブライブ!のアニメを視聴しながら(二次元の)嫁に愛を叫んでいる。
「いえーい!にこちゃーん!僕のハートににこにこにー!!」
ゲッベルスもヒトラーと同じ格好で(二次元の)嫁に愛を叫んでいる。
その様子を見て、ヨードルがため息をついた。
「総統閣下、国家元首ともあろうお方がそんなことをされては見苦しすぎます」
「うるさい、お前にだけは言われたくはないわ、ハゲ!!」
よく見ればヨードルの手には3DSが握られている。彼もまた、執務室であの有名な恋愛ゲーム『ラブプラス』をプレイしていたのだ。
「なんだと、お前俺の嫁を馬鹿にするのか!!ゆるさねぇ!!」
ヒトラーはふん、とそっぽを向いて
「いいか、誰が何と言おうとな、二次元の世界で最高の女の子は東條希だ!!あのおっとりとした母性あふれる性格にスピリチュアルな雰囲気、顔、そして何より、おっぱいぷるーんぷるん!!デブネキとか言った奴はゲシュタポに通報するからな!!」
それを聞いてゲッベルスが反論する。
「総統、何を言いますか!ロリこそ正義!そしていつも私のハートを打ち抜く可憐なにこちゃんこそ理想だ!!」
「お前らいい加減にしろよ!国家元首や大臣が二次元を嫁にするオタクとか、ダサいし!!」
彼らのやり取りを聞いていたブルクドルフはPS4のコントローラー片手にMGSVをプレイしながらヒトラーに突っ込んだ。
スツーカのプラモデルを組み立てながらフェーゲラインも笑いながら言う。
「こんなんだからドイツは負けたんだよ。第三帝国ワロスww」
「青葉、総統のオタクっぷり見ちゃいまし」
「KO☆RO☆SU」
次の瞬間、執務室の机の上で待機していた武装妖精親衛隊員達の持つMP40やStG44の照準がフェーゲラインと青葉に向けられ室内に銃声が鳴り響いた。
「はい死んだ!!」
「なんで青葉もおおおおおおおお!?」
フェーゲラインと青葉が崩れ落ちるとともにピロリーン♪と音が響いた。
とまあ、こんな感じでヒトラーたちが外の暑さを忘れて室内でどんちゃん騒ぎをして楽しんでいたその時、突然執務室のドアが勢いよく開いた。
「いってれぼっ」
ドアノブが扉の近くに立って『ポケモンGO』をプレイしていたカイテルのちょうど股間のところに直撃してカイテルは壁に吹っ飛ばされ倒れこんだ。しばらくはしかばねのように反応がないだろう。
ドアを開けたのはヒトラーの秘書艦の一人である軽巡大淀だった。その顔には焦燥が浮かんでおり汗を流しながら息切れをしていた。
「総統、緊急事態です・・・って何やってるんですか?」
大淀はヒトラーに報告しようとして倒れこんでいるカイテルやフェーゲライン、青葉にボルマンと乱闘をしているブルクドルフにアニメを見ながら叫んでいるヒトラーとゲッベルスという執務室の状態に困惑した。
「いや、そのこれは・・・って、そんなことはどうでもいい!!一体何かあったのだ?そんなに慌てて」
「はい、数日前総統は第一航空戦隊に遠洋航海演習の指令を出しましたね?」
「そうだがそれが何か?」
「先ほど艦隊に随伴していた摩耶から緊急無電があり、赤城と加賀が突然深海棲艦による攻撃を受け大破し戦闘及び航行が不能な状態になったと」
「何だと!」
主力艦隊が攻撃を受けたと聞いてヒトラーは声を張り上げた。
部屋にいた全員が目を見開いて大淀をじっと見つめた。
「艦隊全体も大きな被害を受け帰港は不可能と判断し近くの島に退避したとのことです」
大淀の言葉は艦隊の主力が相当なダメージを被り鎮守府の戦力が低下したことを意味していた。
「どれくらいの被害を被ったんだ?どんな攻撃を?逃げ込んだ島の場所は?」
クレープスが大淀に食ってかかる。
「わ、分かりません。まだ暗号解読中でして・・・」
ヒトラー達はしばらくの間呆然としていたがすぐに指示を出した。
「すぐに緊急対策会議を開く。全ての将兵を作戦立案室に集めるのだーー今すぐに!!」
「了解!」
「Jawohl!(了解)」
執務室に声が響き渡り、ヒトラー達は対策を練るべくすぐに動き出した。
時間は約一時間ほどさかのぼる。
南太平洋上、沖ノ鳥島島よりもさらに南の海域
加賀達第一航空戦隊率いる第一艦隊が静かな海を航行していた。
「ったく、総統も人使いが荒いよなぁ。こんな南の島まで遠洋航海訓練しろだなんて」
高雄型重巡洋艦四番艦摩耶はヒトラーの人使いの荒い命令に文句を言っていた。
後方を航行している加賀が言った。
「総統はそれなりに指揮の才がありますが確かにたまに無茶なことを言いますね」
「まったく、たまに何考えてんだかわからないときあるよな。しかもおっぱい大好きだし」
「悪い人ではないけれど。けど私たちは艦娘。命令には従うだけよ。それに資源が少ないのに私たちを優先して訓練させてくれるということはそれだけ期待されているとも言えるんじゃない?」
「加賀さん、そろそろ折り返し地点です」
加賀の前方で対潜・対空警戒に当たっていた白雪が言った。
「・・・それにしても妙じゃないですか?」
「どうかしたの?」
「航行を始めてから少しも敵に遭遇したり攻撃を受けてませんよ?敵機や敵艦を目撃したり電探に反応はありましたけど本格的な攻撃は・・・」
そう、まだ情勢が不安定な南海に向けてずっと航行を受けているのに「はぐれ」と呼ばれる敵には遭遇したがしかし本格的な攻撃は一度も受けていない。
「・・・確かにそうね。赤城さんはどう思う?」
加賀は隣の赤城に聞いた。
「たぶん大丈夫だと思いますが・・・でも用心はしておいたほうがいいでしょうね」
「そうね。・・・あの時と同じことを繰り返さないためにも」
そう話をしていた時だった。
白雪が血相を変えた。
「・・・!1時の方向からスクリュー音!」
「話をしていたら早速来たわね・・・白雪、対潜戦闘はあなたに任せるわ」
「はい!深雪は1時の方向に向かって。初雪は9時の方向へ」
「了解!」
「・・・了解」
白雪の指示を受けて深雪と初雪がそれぞれの方向に敵潜水艦を迎撃するために向かう。
しばらくすると、遠目に海面から水柱が上がるのが見えた。
艦隊に安堵の空気が漂う。
「・・・なんとかなったわね」
「次があるかもしれません。気を付けないと」
そう言いながら加賀達が航行を続けようとした時だった。
次の瞬間、体に強い衝撃と激しい光に音を感じると同時に激しい爆発音とともに加賀のすぐ近くで爆発が起きた。水柱が加賀の体を包む。
「ーーっ!?加賀さん!?」
水しぶきを受けながら赤城が叫んだ。
水しぶきが消えるとともに服が破け負傷した加賀の姿が現れた。
「くっ・・・私は大丈夫よ。でもいったい何が」
次の瞬間、同じことが赤城に起きた。
会場に響く爆音。
「赤城さん!?」
「一体何が!?」
艦娘たちがたじろいでいると白雪が血相を変え叫んだ。
「3時と5時の方向からスクリュー・・・いえ、魚雷音が!もう近くに来ています!!急いで回避して!」
この時白雪は九三式水中聴音機を装備していたが、先ほどの爆発でしばらくの間海中が爆音で乱れてしまい、スクリュー音を即座に察知することができなかったのだ。
加賀と赤城は回避行動をとろうとしたが体が思うように動かない。
そうこうしている内に、敵の魚雷が加賀と赤城に着弾した。二人の体が水柱に包まれる。
水柱が消えるとそこにはぐったりとして海面に倒れこんでいる。加賀と赤城の姿があった。
「赤城さん、加賀さん!」
白雪はすぐに駆け寄り二人を揺さぶった。
しかし二人とも意識はなくよく見ると機関が停止して沈みかけている。魚雷が強力だったのかもしくは当たり所が悪かったらしい。
白雪はしばらくどうすればよいかわからなかったが、耳に敵潜水艦のスクリュー音が聞こえハッとすると深雪と初雪に迎撃を命じた。
その間に白雪は二人を抱きかかえようとする。
だが所詮は駆逐艦と正規空母。重くてなかなか上がらない。
「大丈夫か!?」
声が方向を見ると摩耶の姿があった。彼女も何者かに攻撃を受けたらしく服が破れ傷を負っている。
「手伝うぜ」
摩耶はそう言ってロープを引っ張り出すと加賀の体に取り付けた。曳航するつもりだ。
白雪もロープを取出し赤城の体に取り付ける。早くしなければ二人は沈んでしまう。
作業を終えて二人を曳航しようとした時、深雪と初雪から敵潜水艦を撃沈したという報告が入った。艦隊に戻るよう指示すると白雪は摩耶に聞いた。
「これからどうすれば?」
「分からねぇ。とりあえず敵の攻撃はやんだみたいだがあたしもこの通りぼろぼろだし赤城と加賀がこの様子じゃそう簡単には戻れないだろうな・・・」
と摩耶は考え込んでいたが、しばらくするとハッと何かに気付いたようだった。
「・・・そうだ。確かこの地点から南東20キロあたりに島があったはずだ。えーと、海図海図・・・あった!名前は書いてないけど確かにある!いったんそこに逃げ込んで様子を見よう」
摩耶の提案に白雪たちは頷いた。非常事態だ、この際仕方あるまい。
こうして、傷ついた艦隊はいったんの安全を求めて近くの島へと向かっていった。
それから数時間後
たどり着いた島で摩耶は暗号装置エニグマ改でのゲルマニア鎮守府への緊急無電を終えて通信装置を折りたたむと加賀と赤城の手当てをしている白雪たちのもとへ向かった。
砂浜にはヤシの木の木陰のもとで意識のないまま横たわっている赤城と加賀の姿があった。
「・・・二人の調子は?」
「だめです。機関も止まっているし意識もなくて目覚める気配も一向になくて・・・」
白雪が首を横に振った。
摩耶は腕を組んだ。
艦隊のリーダーである赤城と加賀は意識を失い目覚める気配が一向にない。
艦隊全体も相当なダメージを負ってまともに行動はできないだろう。
しかしこのまま島でじっとしているわけにもいかない。何か行動を起こさねば。
「あたしはちょっとこの島を見てくる。白雪、しばらく頼んだぜ」
そういって摩耶は島内の探索をすることにした。
「・・・どうすりゃいいかな」
道なき道をかき分け島のジャングルを進む摩耶。
だが特にこれと言って変わったところはなさそうで、ただの無人島のようだ。
引き返そうと思いふとそばを見ると何かが光った。
「?」
光を感じた方向へと摩耶は足を進めた。
葉をかき分けた先にあったものは、なぜこんなところにこんなものが、と疑問を誘うものであった。
「これは・・・紫電改?」
摩耶は呆然とした。
目の前にはすでにこの世には存在しないはずの旧日本軍の戦闘機、紫電改の姿があった。
ところどころ草木がはえているが識別マークもしっかりと装着してあり独特のシルエットに偽物には見えない。
「・・・なんでこんなもんが?」
摩耶が近寄ろうとした矢先、背後で大声が響いた。
「何だ、バカヤロウ!」
驚いて主砲を構えながら振り向くとそこには一人の茶色の飛行服を着た男が立っていた。
「誰だ、オメー!俺の愛機に触るんじゃねえ、バカヤロウコノヤロウ!!」
そういってその奇妙ななりをした男は少々日本人離れしている摩耶の顔をじっと見てさらに叫んだ。
「む!外人!さては鬼畜米英だなコノヤロウバカヤロウ!!」
それが菅野デストロイヤー直と艦娘の初接触であった。