総統が鎮守府に着任しました!   作:ジョニー一等陸佐

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23話 硫黄島の戦い~書記長、動く~

 硫黄島。

 その主である泊地棲鬼はうっすらとした笑みを浮かべていた。

 「キタカ・・・」

 偵察機からの通信でこの島を奪取しようと艦娘達が迫ってきたことが分かった。

 だが無駄だ。

 この島には多くの空母に戦艦が存在し、島を固めている。

 そして装甲空母鬼自身も圧倒的な攻撃力と防御力を持っている。

 簡単には通させまい。

 なぶり殺しにしてやる。

 「シズメ・・・」

 にやりと笑いながら、泊地棲鬼は艦載機を飛ばした。

 その数500機。

 これだけならば、敵に痛手を負わせるのには十分だろうと判断し、彼らを見送った。

 彼女たちはどんな表情を見せるだろうーー

 そんなことを考えながら笑っていた泊地空母鬼の耳に、突然、ヒュルルルル・・・という音が聞こえてきた。

 なんだ?

 彼女がそう思った次の瞬間、硫黄島の陸地に巨大な爆発が起こり、地響きが起きた。

 爆炎と砂埃が舞う。

 「ナ・・・」

 砲撃をされた、ということを理解するとともに、ありえないと思った。

 いくらなんでも距離がありすぎる。

 敵艦隊とは少なくとも100キロ前後は離れているはず。とても艦砲が届く距離ではない。

 しかし、航空機にしては爆発の規模が大きすぎるし、第一敵の航空機隊はまだ接近していない。

 いったい何が。

 泊地棲鬼と装甲空母鬼がそう思っていると、さらにヒュルルル、と空気を切る音が聞こえ、次の瞬間彼女たちの体を衝撃と炎がつつんだ。

 

 硫黄島近海

 「ふう・・・なんて反動だ」

 大和型戦艦二番艦武蔵は艦搭載型に改造した三連装80㎝列車砲の射撃時の反動の大きさにまいっていた。

 「これは・・・耳がガンガンします」

 加賀が顔をしかめ頭をたたいた。

 事前に明石から、反動と発射時の音の大きさと閃光には気をつけろと注意され自身も気を引き締めていたがまさかここまでとは。肩や腰の骨が折れそうだ。

 痛みにわずかに顔をしかめていたところに、観測機からの通信が入る。

 「沿岸に停泊していた空母ヲ級を何隻か轟沈・・・か」

 笑みが浮かんだ。

 広範囲にわたり敵を一撃で粉砕する4.8トン榴弾。

 明石の改良によって通常の2倍、100キロ近くまで伸びた有効射程。

 (素晴らしい性能だ・・・総統・・・明石・・・感謝するぞ) 

 ヒトラーと明石の顔を思い浮かべながら武蔵は次弾を装填すると、観測機から送られてきたデータをもとに硫黄島にいるであろう敵に向かってさらに容赦ない4.8トン榴弾の雨を降らせた。

 

 ゲルマニア鎮守府、戦闘指揮所

 「旗艦より無電、作戦は順調硫黄島の沿岸の艦隊を次々と撃破しているようです!!」

 ヘッドホンを片手に大淀が後ろで硫黄島攻略の指揮をしていたヒトラーたちに報告する。

 テレビ画面には硫黄島が武蔵の艦砲射撃によって煙に包まれていくのがしっかりと確認できた。

 「うむ、武蔵の大改造は正解だったわけだ。素晴らしい・・・」

 ヒトラーは満足そうに頷く。

 「ううむ・・・4.8トン榴弾改の威力がここまでとは・・・」

 「はは、見ろ!敵がごみのようだ!!」

 某大佐のようなことを言いながらドイツ軍人たちがはしゃぐ。

 あまりの一方的な戦いにそれを指揮する自身も興奮を抑えられないようだ。

 「総統、加賀より入電、敵の航空機隊が迫ってきているようです!!数500!」

 ゲッベルスが顔をしかめる

 「攻撃が一足遅れたか・・・」

 「撤退しますか?」

 ボルマンも不安そうだ。

 だがヒトラーの顔に不安はなかった。

 「はは、取り越し苦労だ。この日に向けて、私は加賀や赤城達に猛演習をさせたのだ。あの加賀君のことだ、心配はあるまい。それに今回は防空のために空母を多めに編成させたし、烈風や80㎝列車砲用の三式弾も開発した。不安要素は何一つない」

 「お言葉を返すようですが」

 クレープスが言った。

 「慢心、ダメ、ゼッタイです。」

 「わかっている。だが彼女たちなら・・・」

 そう言ってヒトラーたちは再度、テレビ画面を見た。

 こうして、硫黄島攻略作戦は進んでいった。

 

 太平洋のどこかにある深海の海底

 元ソビエト社会主義共和国連邦書記長、ヨシフ・スターリンは深海棲艦達と会議を行っていた。

 「ヒトラーめ、とうとう硫黄島をもらいにきたか・・・戦況はどうなっている」

 「はっきり言って、こちらが不利な状況です。超遠距離からの艦砲射撃で沿岸の艦隊や鬼級が次々と大きなダメージを受けており・・・」

 「取り返されるのも時間の問題、というわけか?」

 「・・・はい」

 正直、報告を行っていた深海棲艦は内心びくびくしていた。

 何しろ彼女たちはまだ知らないがスターリンはかつて数十万、数百万の役人や軍人、反対派を躊躇なく粛清した男だ。

 何か失敗をすればこの男に殺されるのではないか、いや、もうすでに事態は悪いほうに向かっている。何をされるのかわからない。

 そう思っていた。

 が、スターリンは何も言うことなくただ笑っているだけだった。

 「・・・諸君。何もあわてることはないし、怯えることはない。君たちは何もミスをしていないのだからね」

 スターリンは立ち上がり、傍らにあったウォッカの瓶を開けて、グラスに次ぐ。

 「・・・今はこのままあの男の思うままにするのだ。ドイツは、彼は強かった。だがあの男は先の大戦であまりにも多くの敵を一度に敵に回しすぎた。進撃に次ぐ進撃は戦線の拡大、補給路の延長に味方の被害の増大を招き、敵の逆転を招き、そして奴は死んだ。今は待とうではないか。奴の自滅のチャンスをな。」

 それに、とスターリンはテーブルの上に置いてあるレポートをちらりと見た。

 そこには「極秘」とタイトルがあるだけで、内容はわからない。

 「・・・こちらにも策はある。プロシアのちょび髭を追い詰めるためのな」

そう言って、スターリンはウォッカをグイと飲んだ。

 「君たちも飲まないか?」

 スターリンは彼女たちに進めた。

 (さてアドルフ・ヒトラー・・・お前は復活して、与えられたチャンスをどう活かすか見せてもらうぞ)

 スターリンはにやりと笑い、さらにグラスにウォッカを継いだ。


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